イグジットとは、スタートアップやベンチャー企業などが資金を調達するために行う戦略です。
起業家または起業を目指す人であれば、将来的に事業拡大や新規事業立ち上げの際の資金調達のための手法として知っておくと良いでしょう。
また、経営不振に陥ったときの事業再生のための取り組みとしても、イグジットは有益です。
この記事では、イグジットの基礎知識とイグジットの一種であるIPOとM&A、そして成功事例を紹介します。
1.イグジットとは
イグジットとは、企業の経営者や創業者、出資者が保有する株式を売却することで、投資した資金を回収し、利益を得ることを指します。
投資した事業から離脱するため、英語で「出口」「出る」を表す「イグジット(Exit)」が名前の由来です。
投資した資金を回収することを「収穫」になぞらえ、「ハーベスティング(Harvesting/収穫)」とも呼ばれています。
主にスタートアップやベンチャー企業が株式を売却したり、株式公開をしたりして利益を得て、
事業拡大や新規事業の立ち上げ、企業再生などに活用しています。
また、後継者がいない企業がイグジットの一種であるM&A(事業譲渡)で、
事業全体や企業を他社に売却し、事業を継続する場合もあります。
イグジットの手法はさまざまで、大きく分けて主に以下の2つです。
①IPO:上場
②M&A:企業の合併・買収
上記のイグジットの種類については、次章から詳しく解説します。
2.イグジットの種類・IPO(新規公開株式)
IPOとは「Initial Public Offering」の略で、
日本語では「新規公開株式」または「新規上場株式」と呼ばれています。
まだ上場していない企業が、株式を証券取引所に上場させ、投資家に株式を購入してもらう手法です。
株式市場から資金を集めることが可能になり、企業はその資金を事業規模の拡大や新たな事業を始めるための資金として活用します。
2-1.IPOのメリット
IPOのメリットは、多額の資金調達が期待できる点です。
例えば、市場のニーズに合ったサービスや製品を提供している、技術力が高いといった企業は、
投資家に注目されやすいので、株価が高騰し多くの利益を得られる可能性があります。
経営者が企業の株式の半数以上を保有していれば、自分の方針や意思などを経営に反映しやすいので、
経営に携われるというメリットもあります。
また、上場すれば、企業の知名度や信頼度が向上するので、IPOは資金調達以外にも、人材確保や取引先開拓の際に有利になるでしょう。
このようにIPOは資金を調達できるばかりか、企業が成長する可能性が広がるのです。
2-2.IPOのデメリット
IPOは株式市場に上場するにあたって、多くの準備が必要です。
株主に対して報告書の提出や決算公告、監査を受けその結果の報告が義務付けられるため、時間もコストもかかります。
また、上場する際に法令違反や不祥事の有無が確認されるため、コンプライアンスの強化もしなければならないでしょう。
よって、IPOするには数ヶ月から数年にわたって上場に備えなければならず、すぐに資金を得たいときには不向きです。
どのような企業も上場できるものではありません。
新規上場の際には、次のような一定の基準を満たすことが必須です。
例)上場に必要な条件・東証のグロース市場(スタートアップなど向け市場)の場合
株主数:150人以上
流通株式数:1千単位以上
流通株式時価総額:5億円以上
流通株式比率:25%以上
さらに上場の際には審査があり、次のような項目をチェックされます。
・企業内容・リスク情報などの開示の適切性
・企業経営の健全性
・事業計画の合理性
など
また、経営権は残せるものの、株主からのプレッシャーによって経営の自由度が低下するリスクもあります。
2-3.IPOが向いている企業
IPOは経営者が自社株を保有できるので、経営権を残したい場合に向いています。
しかし前述したように、どのような企業でもIPOが可能なわけではありません。
次のような企業であれば、IPOを視野に入れても良いでしょう。
・成長力がある
・安定した収益基盤を持っている
・市場である程度の認知度がある
・内部統制が整備されている
スイングバイIPOとは、大手企業の子会社となり、企業として成長したのち独立し、上場する新しい手法です。
探査機が惑星の重力を利用して再加速し、遠くまで進むことを表す「スイング」が語源となっています。
一時的に大手企業の傘下に入ることで大企業のリソースを活用して急成長できる可能性があり、近年注目を集めています。
3.イグジットの種類・M&A(合併・買収)
もうひとつのイグジットはM&A(合併・買収)です。
「Mergers(合併)」と「Acquisitions(買収)」の頭文字を取ってM&Aと呼ばれています。
合併とは複数の企業を一つに統合することを意味し、買収は他の企業を買い取って子会社化することです。
買収とはいいますが、イグジットする企業は自社を他社に売却する立場なので、買い取った企業の子会社になります。
3-1.M&Aのメリット
M&AはIPOと比較すると得られる金額が少なくなりがちですが、比較的短期間で実施できます。
そのため、迅速に資金を調達したい企業がM&Aを選択することが多いです。
また、複数の企業が統合することによって、技術や知識、顧客が増加する、
市場が広がるなどといった効果が得られるので、企業の成長も大いに期待できます。
3-2.M&Aのデメリット
M&Aは、経営権を失う、または影響力が小さくなるリスクがあります。
売却側に発言権があっても、最終的な意思決定は買収側企業が行うことが一般的であるからです。
売却側企業は、買収側企業の経営方針に従わなければならないというケースも多々あります。
また、M&A直後は異なる企業文化が入り交じることで、社員間で意見の相違が生じ、
一部の社員がストレスを感じたり、トラブルが発生したりすることも。
場合によっては、業務効率や生産性が低下するかもしれません。
よって、M&Aでイグジットを行うなら、買収・合併の事実や今後の経営方針を社員に共有しておく、
経営者と社員とで面談をするなどして、社員の不安解消を図ることが重要です。
社内調整だけでなく、取引先など関係のある会社のケアも必要です。
取引先の企業は、
「M&A後は、会社間の関係が変化するのか」
「売上に影響するのか」
「担当者や窓口は変わるのか」
などと、不安に感じるかもしれません。
よって、M&Aの際には取引先へのフォローも抜かりなく行うことで、良い関係性を保てるでしょう。
3-3.M&Aが向いている企業
M&Aは、成長が頭打ちになってしまった企業が選択することが多いです。
また、次のような企業もM&Aに向いています。
・安定したビジネスモデルを保有している
・特定の技術がある
買収側企業にとって、売却側企業のビジネスモデルや技術が魅力的であれば、高額での買収が実現するでしょう。
未上場の企業が大企業に自社を売却した後に、IPOを目指すのが二段階イグジットです。
次のように2段階にわけてイグジットを行うため、この名がつきました。
・1段階目
M&Aによるイグジットで、自社株式の半数以上を大企業に売却します。
大企業のリソースを活用して、事業を拡大します。
・2段階目
M&Aによって拡大・成長した事業を株式市場で公開し、利益を獲得します。
上場を視野にいれることを前提にM&Aで自社を売却するため、高い価格での買収が期待できるばかりか、
大企業のサポートを受けられるためIPOの成功率が高いというメリットがあります。
スイングバイIPO同様に、関心を寄せる人が増えてきている戦略です。
4.イグジットの動向
日本ではイグジットをする際、IPOを選択する企業が大半を占めています。
株式市場への上場をすると認知度や信頼度が高まることから、株式公開を目標に設定している企業が多いためです。
また、認知度・信頼度が向上することによって、安定した成長が見込めることも影響しているでしょう。
しかし近年は、シナジー効果を期待してM&Aでイグジットをする企業が増加傾向にあります。
M&Aを行えば、売却で得た利益で新事業への投資が可能となるばかりか、財務基盤を安定させられるためです。
また、買収側企業の人材などのリソースも活用できます。
一方、買い手側は、スタートアップが持つ知識や技術、斬新なアイデアを吸収でき、事業拡大が可能となります。
このように、売り手側・買い手側の両者にメリットがあることから、M&Aを選択する企業が増えてきているのです。
また、少子高齢化による人材不足や経営層の高齢化によって、
事業継続に不安を抱える企業も事業継承のために、M&Aを選択するケースも見られます。
5.イグジットの成功事例4つ
次からは、イグジットの成功事例を紹介します。
どれも、イグジットによって資金調達が実現しただけでなく、事業の拡大が叶い、話題となった事例です。
イグジットを検討する際には参考になるでしょう。
5-1.日本初のスイングバイIPO事例・株式会社ソラコム
株式会社ソラコムは、SIMやIoTデバイス、通信回線を可視化する機能を持つソフトウェアなどを提供している企業です。
日本ではじめてスイングバイIPOを行ったことから、話題となりました。
2017年にKDDIグループの傘下となり、KDDIの支援をうけて事業を拡大し、その後2024年に東証グロース市場への上場を果たしました。
公式サイト:https://soracom.jp/
5-2.時代の流れに乗ってM&Aを成功させた株式会社Nagisa
株式会社Nagisaは、漫画アプリ「マンガZERO」を展開するスタートアップです。
Nagisaは時流に乗ってM&Aで資金を得ただけでなく、新たな市場機会の創出に成功しました。
NagisaがM&Aで自社を株式会社メディアドゥへ売却したのは、2020年。
売却価格は非公開ですが、当時、新型コロナウイルスの影響で外出が規制されており、
漫画アプリの需要が高まっていたため、高値で売却できたと言われています。
さらに、メディアドゥが持つ出版業界ネットワークと統合されたことにより、新たなユーザー層の獲得に成功しました。
公式サイト:https://nagisa-inc.jp/
5-3.海外の事例:M&Aで巨額の資金を得たSlack Technology社
Slack Technology社は、ビジネスチャットツールのSlackを開発し、運営しているアメリカのユニコーン企業です。
ユニコーン企業とは、企業評価額10億ドル以上の企業のことで、アメリカ・シリコンバレーでは頻繁にイグジットを行う企業が多いです。
そのなかでも、2021年にSlackTechnology社がSalesforceに買収されたことが注目を浴びました。
売却価格は、なんと約277億ドル。
多額の資金を得られただけでなく、Salceforceと連携したことで、Slackはビジネスチャットツールとしての地位をより強化できました。
現在では、Slackは全世界150カ国以上で利用されており、1,200万以上ものアクティブユーザーがいます。
公式サイト:https://slack.com/intl/ja-jp/about
5-4.海外の事例:赤字企業ながら上場に踏み切り成功したServiceTitan
ServiceTitanは、アメリカに移住したアルメニア人のエンジニア2人によって創業されたスタートアップ。
配管や空調、電気などの住宅設備の修理を行う在宅サービス事業者をサポートするプラットフォームを提供しています。
2024年にナスダックに上場し、6億2,500万ドルの調達に成功。
ServiceTitanは赤字企業で投資家から評価されにくい恐れがありましたが、
当時のアメリカの金利低下を好機ととらえ、上場へと踏み切り資金調達が実現しました。
公式サイト:https://www.servicetitan.com/
まとめ:イグジットとは資金調達だけでなく企業の成長をもたらす戦略
イグジットは、単に資金調達のための戦略にとどまらず、企業の成長を後押ししてくれるものです。
留意点をおさえて適切に行えば、組織として大きく飛躍できるでしょう。
また、事例で紹介したようにイグジットが成功したことによって、注目を集め、認知度が高まるケースも。
そうすれば、より多くの人に投資してもらえる、新たな取引先を獲得できるといった相乗効果も期待できます。
今すぐにイグジットをせずとも、基礎知識だけでも知っておけば、
将来の事業拡大などに備えてIPOまたはM&Aの準備を進めておくことが可能です。
そのためにも、この記事を役立ててください。