ビジネス基礎知識

2025.02.17

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アルムナイとはなにか?基礎知識とメリット・デメリットを詳しく解説

アルムナイとは、人事の分野において元従業員を指し、退職した元従業員を雇用する採用手段を「アルムナイ制度」といいます。
外資系企業では一般的な採用手段でしたが、近年はアルムナイ制度を導入する日系企業も増えてきているため、どのようなものか気になっている人は多いかもしれません。
この記事では、アルムナイ制度とはなにか、また、アルムナイ制度のメリット・デメリットを解説します。
さらにアルムナイ制度を導入している事例も紹介するので、アルムナイ制度の導入を検討している企業やアルムナイ制度を利用して元の職場に戻ろうと考えている人は参考になるでしょう。

1.アルムナイ制度とは退職した社員を再雇用すること


「アルムナイ(alumni)」とは、英語で「卒業生」「同窓生」を意味します。
人事では企業の退職者を指す言葉で、「アルムナイ制度」とは、退職した元従業員を再雇用する採用制度のことです。
 
退職者を再雇用する制度と聞くと、次のようなものをイメージする人は多いかもしれません。
 
・カムバック採用
・ジョブリターン制度
・出戻り制度
・再雇用制度
 
上記もアルムナイ制度同様に元従業員を再雇用する制度ですが、出産や育児、介護などのやむを得ない理由で離職した従業員を採用する場合が大半を占めます。
また、再雇用制度は一般的に、定年退職を迎える正社員に対して、契約社員など現状とは異なる雇用形態で契約し直すものです。
 
一方でアルムナイは退職者を企業の資本と考え、退職理由を問わず採用します。
よって、日系企業にとっては新しい採用制度といえるでしょう。

2.アルムナイ制度が注目されている理由


 
今までの日系企業は前述したカムバック採用や再雇用制度などを行っていたものの、アルムナイ制度は一般的ではありませんでした。
しかし、近年はアルムナイ制度を導入する企業が増えてきています。
 
その理由は、人材不足が深刻化している日本の労働市場にあります。
少子高齢化社会が進み、労働人口が減少しているのです。
その結果、売り手市場のため、企業が募集をしても応募がない、採用した社員がスキル不足といった採用ミスマッチが発生しています。
 
アルムナイ制度を導入すれば、すでに業務を遂行するに必要な知識やスキルを持っている元従業員を戦力として確保でき、人材不足の解消に有効です。
 

アルムナイ制度を導入している企業は約4割
株式会社マイナビが実施した「中途採用・転職活動の定点調査」によると、アルムナイを導入している企業は約40%ほど。
従業員を多く抱える企業ほどアルムナイ制度を導入しており、従業員数301名以上の企業の半数以上がアルムナイを実施しています。

アルムナイ制度導入の成功実績が積み上がれば、今後アルムナイ制度を取り入れる企業が増えるかもしれません。


画像出典:マイナビ キャリアリサーチLAB「2024年1月度 中途採用・転職活動の定点調査」

3.アルムナイ制度のメリット4つ


 
アルムナイ制度を導入すると、さまざまな利点が得られます。
たとえば、前述したように戦力を持つ元従業員を採用すれば、人材不足解消に効果的です。
また、採用や育成コスト削減にも繋がりますし、企業のイメージアップも叶うでしょう。
 
採用関連で何らかの課題を感じている場合、アルムナイ制度を導入することによって改善されるかもしれません。
 
この章では、アルムナイ制度を導入するメリットを4つ解説します。
 

3-1.即戦力を得られる

アルムナイ制度のメリットは、なんといっても再雇用した元従業員が即戦力となってくれる点です。
元従業員なら業務の経験があり知識もスキルも保有しているため、すぐに戦力として活躍が可能です。
 
再雇用された従業員にもメリットがあります。
離職後にほかの企業などで培ったスキルなどを発揮できれば、以前よりクオリティの高い仕事ができ、昇進や給与アップにつながる可能性も見込めるでしょう。
 

3-2.ミスマッチを防げる

アルムナイ制度は採用のミスマッチを防ぐために有効な手段です。
 
採用ミスマッチは以下の理由が原因といわれています。
 
・社内の文化や習慣、人間関係が合わない
・条件が思っていたより良くない
・業務内容に興味が持てない、モチベーションが上がらない
・従業員が求められる能力や経験を有していない
 
アルムナイ制度で元従業員を再雇用した場合、上記のミスマッチの原因となる事象が発生しにくくなります。
 
なぜなら、採用側は元従業員のスキルや経験、人柄などを把握しているので、適した業務を割り当てたり、適した部署やチームに配置したりすることが可能だからです。
スキル不足で生産性が落ちる、部署内の人間関係で悩んで退職してしまうといった事態を防げるでしょう。
 

3-3.採用・育成に関わるコスト削減ができる

アルムナイ制度を導入すると、採用や人材育成に関するコスト削減が容易です。
通常、求人をする際には採用媒体への掲載をしたり採用イベントに参加したりして、コストが発生します。
しかしアルムナイ制度を導入すれば、求人広告やイベント参加の費用を節約できます。
また、再入社した従業員に一から業務を教える必要がないので、育成コストがかかりません。
 

3-4.企業ブランディングに役立てられる

アルムナイ制度は企業ブランディングにも有効な手段です。
 
たとえば、アルムナイ制度を導入していることをアピールすれば、「元従業員が戻りたいと思えるような、魅力的な企業」というイメージを持ってもらえるかもしれません。
 
日本では、従業員が退職するとその企業との関係性はなくなってしまうことが一般的です。
しかし、元従業員と企業との関係性があることは、「人を大切にする企業だ」と外部に良い印象を与えられ、その結果、「この企業と取り引きがしたい」「この企業で働きたい」と思ってもらえる可能性も。
 

4.アルムナイ制度のリスク3つ

アルムナイ制度の導入にはメリットがありますが、リスクが伴います。
アルムナイ制度を導入する前には、次から紹介する3つのリスクも念頭に置くとよいでしょう。
リスクが生じうることを知っておけば、対策を講じられスムーズに導入でき、何らかの問題の発生を防げます。
 

4-1.離職者が増加するリスクがある

アルムナイ制度を導入すると、「戻りたくなったらアルムナイ制度で再雇用してもらおう」
と考え、退職しても復帰できる安心感が生まれやすくなります。
そのため、従業員が離職しやすくなるリスクが高まりかねません。
 
ですので、次のように社員のエンゲージメントを高めるなどの対策が必要です。
 
・福利厚生の見直し
・社内のコミュニケーションを活性化する
・適切な評価制度を整える
 
また「誰でも簡単に復職できる」と誤解を与えないよう、再雇用の際の条件を明確にし現在の従業員に提示するのも手です。
 

4-2.一部の従業員が抵抗を感じるリスクがある

アルムナイ制度は注目されているとはいえ、日本は古くから終身雇用が一般的で、「一度離職したら復帰しないものだ」と考える人は少なくありません。
また、長期間にわたって勤務しているのに「途中で退職した人と待遇が同じだと不公平だ」と、アルムナイ制度の導入に対して抵抗を感じている従業員は、エンゲージメントが低下してしまうかもしれません。
 
社内で元従業員の再雇用を受け入れてもらうために、アルムナイのメリットや意義を周知するのがおすすめです。
また、不公平だと感じさせないよう既存の従業員の待遇や評価を見直すとよいでしょう。
 

4-3.情報漏洩のリスクがある

アルムナイ制度の導入にあたって、アルムナイネットワークを構築する際は、情報漏洩に注意する必要があります。
元従業員という関係性があるため、うっかり社外秘の情報を伝えてしまうと、社内の重要な情報が外部に漏れてしまうことも。
 
情報発信や元従業員とコンタクトを取るときには、取り扱う情報に注意しましょう。
元従業員に伝えて良い情報と、そうでないものを明確にしておくと漏洩するリスクを減らせます。
 

5.アルムナイ制度導入のポイント3つ


 
アルムナイ制度は、導入したらすぐに再就職したいという元従業員が現れるというものではありません。
まずは、元従業員にアルムナイ制度を導入したことを知ってもらわなければなりません。
また、元従業員が復帰したいと思えるよう、環境を整備することも重要です。
 
アルムナイ制度は次から紹介するポイントをおさえれば、スムーズに導入できます。
一つずつ詳しくみてみましょう。

5-1.退職希望者と良好な関係を築く

企業と退職希望者とが良好な関係を築くことで、円満な退職が可能になります。
そうすれば、元従業員が復帰したいと考えたときでも再雇用へ繋がりやすくなるでしょう。

退職の際には、一見何の問題もなさそうに見えても、実は従業者が企業側に対して何らかの不満を持っている場合があります。
退職時に面談を行い、企業への不満や課題などを聞き出し、改善に取り組む姿勢をみせましょう。
不満があったとしても改善しようとする企業に対しては、再雇用されたいという気持ちが起こりやすくなります。
 

5-2.アルムナイネットワークを構築する

アルムナイネットワークとは、退職者で構成されるコミュニティのことです。
 
企業と退職者、または、退職者同士の交流が目的で、主に次のような情報発信が行われることが一般的です。
 
・退職者の近況の発信
・退職者同士の交流
・企業によるセミナーやイベントなどの情報発信
 
単なる退職者の交流だけではなく、元従業員にとっては再就職の情報を得る場となるよう、企業側はアルムナイネットワークで現在の職場の動向を発信するとよいでしょう。
退職者が元の職場の動向を把握できれば、元いた組織とのつながりが継続しているという安心感から、復帰したいと考える可能性が高まります。
 

5-3.多様な働き方を取り入れる

退職者のなかには、ライフステージが変化して家族の介護や育児などや配偶者の扶養に入っていることから、復帰したいけれど短時間しか働けないという人がいるかもしれません。
 
そこで、本人の希望があれば時短勤務制度やパート・アルバイトとして再雇用するといった、ライフスタイルの変化に合わせた働き方を制度化するなど柔軟な対応を行うのも有効です。
 
また、副業として働いてもらうというのも手。
外部の世界で培ったスキルを活かし、業務を客観的に見て改善策を提案してもらうなどアドバイザー的な役割を担ってもらえれば、より生産性が高まるでしょう。
 

6.アルムナイ制度導入の事例3つ


 
アルムナイ制度を導入したいけれど、具体例がわからず導入している自社をイメージできない、という方は実際に導入した企業を見てみましょう。
何らかのヒントが得られるかもしれません。
最後に、アルムナイ制度を導入し成功している企業の事例を3つ紹介します。

6-1.アルムナイが組織に新風を吹き込む【中外製薬株式会社】


画像出典:中外製薬公式サイト
 
大手薬品メーカー・中外製薬は2020年にアルムナイ制度を導入しました。
きっかけとなったのは、2019年に新たなミッション「ヘルスケア産業のトップイノベーターを目指す」を掲げたこと。
 
中外製薬は、このミッションを達成するためには多様なスキル・経験を持つ人の力も必要だと考えました。
一度離職して外部でさまざまな経験を積みスキルを磨いた人を呼び戻すことも、ミッション達成に有効だと考え、アルムナイ制度を導入したのです。
 
導入にあたってアルムナイネットワークを立ち上げたところ、多くの退職者が登録し、そのなかから再雇用された人も。
現在、アルムナイ制度で再雇用された従業員は、離職していたときに培ったスキルを発揮して活躍しています。
 
参考:https://app.official-alumni.com/register/chugai-pharm
 

6-2.コンテンツが充実の大規模アルムナイ・ネットワークを有する【アクセンチュア】


画像出典:アクセンチュア公式サイト
 
アクセンチュアは「ひとときでもアクセンチュアの“仲間”だった人は、いつまでも仲間であり続ける」と考え、元従業員との関係性を重要視しています。
 
アクセンチュアのアルムナイ・ネットワークは、約30万人以上もの元社員が登録している大規模なものです。
アルムナイ制度の求人情報をチェックできるほか、他社で活躍している社員のインタビュー記事や元従業員が発信するキャリアに関するブログを閲覧可能。
アルムナイ・ネットワークサイトのコンテンツは誰でも閲覧できるので、アルムナイ制度に興味がある人は一度サイトを訪問してみてはいかがでしょうか。
 
参考:https://www.accenture.com/jp-ja/careers/explore-careers/area-of-interest/alumni-careers
 

6-3.オンラインだけでなくリアルで交流を図る【日本郵政グループ】


画像出典:日本郵政公式サイト
 
以下から構成されているのが、日本郵政グループです。
 
・日本郵政株式会社
・日本郵便株式会社
・株式会社ゆうちょ銀行
・株式会社かんぽ生命保険
 
日本郵政グループは元従業員との交流をオンラインだけでなく、リアルで行っていることが特徴。
懇親会を実施して、既存の社員と元社員の交流を行っています。
 
このアルムナイネットワークを活用して、職場に復帰した社員がいるだけでなく、元いた会社ではなく日本郵政グループのほかの会社へ採用された事例も見られます。
 
アルムナイ採用された従業員は、
「離職中に他の企業で働いていたスキルが、今の業務で役立っている」
「すでに社内の雰囲気を知っているので、復帰後すぐに馴染めた」
と好評です。
 
参考:https://www.japanpost.jp/employment/alumni/

まとめ:アルムナイ制度とは企業の成長を促進する採用手段

アルムナイ制度は注目されている採用手段とはいっても、導入事例が多いとはいえません。
そのため、導入に二の足を踏んでいるケースも少なくないでしょう。
 
しかし、アルムナイ制度で元従業員を再雇用することには、多くのメリットがあります。
今後も深刻化するであろう人材不足の対策になるだけでなく、即戦力を得て企業のパフォーマンスがアップする可能性も。
対策を講じつつ、アルムナイ制度を上手に活用すれば企業イメージの向上にも役立つでしょう。
このように、企業が成長する可能性を持つアルムナイ制度を取り入れてみてはいかがでしょうか。

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