ビジネス基礎知識

2023.03.27

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“ただの観光“で終わらせないための海外視察指南

1.「日本企業とは会いたくないです」と言われてしまう現状

近年、多くの日本企業が海外展開を進めており、グローバルなビジネスの場で競争力を発揮することが求められています。また、シリコンバレーの勢いなどを学び自社の発展に活かそうと考える企業も多くなっています。そのため、特に新型コロナ前は、日本企業や自治体はシリコンバレーや深センなどの先進的な例を学ぶべく積極的な訪問を行っていました。

しかし、実際には、日本からの訪問者に対して企業からの評価が低い場合が多々あり、間に入って紹介した人などがとても辛い思いをすることがあります。海外企業側も非常に多忙な中、日程の調整やアポイントの取得など、準備には時間と手間をかけて調整しています。それにもかかわらず、以下のような痛烈なコメントを貰うことが多くなっているのです。

・多くの時間を使い情報を提供したが、何も返してくれなかった
・「検討します」という回答で、決断がされなかった
・大量に名刺交換したのに、誰からも連絡がこなかった
・メッセージアプリやビジネスチャットよりもメールでのやりとりが多いのでレスポンスが遅くなる
・誰が意思決定者か分からない。喋らない人が多い。
・そもそも現地の文化理解や英会話ができていなかった
・市場や訪問企業の事業について事前の知識が不足している

シリコンバレーや深センの企業も暇ではありません。わざわざ時間を作ったのだから何らかの見返りを期待しており、その先のビジネスチャンスを期待しています。
にもかかわらず、日本の視察団が観光気分で訪れると、日本企業に対する不信感につながってしまいます。
これらは、日本企業の体質によるところもあります。お隣の韓国企業などは即断即決型で非常に歓待されています。意思決定を即座にするので話が早いのです。

スタートアップ企業が欲しがるものは分かりやすく、端的には資金や売上、そしてそれにつながる人やモノや情報や案件です。たとえ、出資や事業上の関係構築に至らなくても、何らかのメリットを返すことが重要なのですが、それを理解せずに情報だけ欲しいと言うのは相手にとっては迷惑になってしまいます。

では、日本企業や日本の自治体が海外企業から“ただの観光客”と言われることなく、歓迎してもらうためには何をすればよいでしょうか。その知見を以下に記します。

2.企業視察を計画した段階でまずは気を付けるべきこと

2-1.目的の明確化

海外視察の目的を明確にすることが大切です。なぜ視察をするのか、何を学びたいのか、どのような成果を出したいのかを事前に明確にし、現地のエージェントなどに依頼すると良いでしょう。視察に来た日本人の多くは「現地に行くこと」が目的になりがちです。なんとなく「新しいことを知りたい」ではなく、「今回は2社の出資先を決めたい」など具体的な目的である必要があります。

2-2.前後の研修等も含めた予算確保

海外視察には多額の費用がかかる場合があります。事前に予算を確認し、必要な経費を含めた費用の見積もりを行い、費用対効果を検討することが重要です。その中には必ず前後の研修やフォローアップの時間と費用を加算してください。出発前に参加者に対してクリティカル・シンキング等の海外交渉の要諦などを理解させることが重要です。

2-3.事前準備

現地での交渉や商談に備えて、資料やプレゼンテーション資料を用意し、可能であれば事前にエージェントに共有しておくことが必要です。プレゼンテーションはその国の言語になっていること、きちんとストーリーが作られていることが重要です。間に入ったエージェントはあの手この手でアポ取りを成功させようとします。ですので、彼らが交渉しやすい武器を用意することが大切です。また、当然ながら現地でのビジネスマナーについての知識も必要です。

一方で、訪問先の適当な選定や過度のプランニングはおすすめしません。訪問先を適当に選定してしまうと、目的に合わない、または効果が得られないばかりか、相手にとって失礼になります。また、時間が埋められないと言って焦る必要はないです。空いた時間で次の訪問先の周辺を散歩すればより多くの情報が得られるでしょう。細かい計画を立てすぎると、現地での状況に合わせた柔軟な対応ができなくなるので注意が必要です。

3.企業視察に出発前に行うこと

3-1.アジェンダの確認

訪問先でのアジェンダを再確認し、目的に沿っているかどうかを検討します。また、現地でのスケジュール調整やアジェンダの変更が必要な場合は、早めに対応する必要があります。相手に対してこちらから何のオファーできるか、とってくれた時間に対して何の価値が返せるかは事前に考えておきましょう。

3-2.ビジネスマナーの確認

現地でのビジネスマナーについて再度確認し、言語や習慣、文化の違いについて学んでおきます。あらかじめ何か喜ぶようなお土産を用意しておくのも良いでしょう。

3-3.資料の準備

訪問先でのプレゼンテーション資料を準備しておきます。また、訪問先での交渉や商談に備えて、必要な情報を収集しておく必要があります。もし疑問点があったりすれば、あらかじめ先方に聞いてしまうのは失礼ではありません。

3-4.連絡手段の準備

相手がコミュニケーションをとりやすいであろうメッセンジャーアプリを準備し、現地語の名刺を作成しておきましょう。日本では未だに電話やEメールでのやりとりが多いですが、海外ではメッセンジャーアプリを使用することが主流です。そのため、交換しやすいアプリ(WeChatやWhatsAPP、Messengerなど)を事前に準備しておきましょう。

3-5.事前研修

特に海外でのビジネス経験がない人が行く場合には、必ず事前の研修を行うことをおすすめします。海外では日本の様な冗長な説明がなく、いきなり本題に切り込むことが正しいことがあります。また礼儀正しいのと相手との距離を詰めることは別です。日本人として最大限の礼儀を示すと、相手からは慇懃無礼に見えることがあります。その辺を理解する研修を是非企画してください。

4.視察中・打ち合わせ中にやるべきこと

4-1.その場での主体的意思の表示

オフィスや工場を見せてくれるのは信頼の証です。可能な限り多くの情報交換をしたうえで、その信頼に足る主体的な決定をその場でするようにしましょう。日本国内では何も約束せず「帰って上司に報告します」「一旦持ち帰ります」というやりとりがありますが、海外ではそのコミュニケーションは絶対やめましょう。なぜなら、彼らはあなた自身の意見を聞きたがっています。その場合の表現は「決定は持ち帰らなければいけないですが、僕は絶対に上司を説得してみせます」という主体的な表現が良いでしょう。

4-2.ネットワーキング

視察中には、視察先企業の社員や他の視察団メンバーと交流する機会があります。積極的に交流し、ビジネスの機会を広げるようにしましょう。海外で出会った人たちはその場で機会を作らなければもう二度と会うことはないかもしれません。しかし関係構築をすれば他では得られない人脈になる可能性があります。与えられた時間の中で必ず120%の自分を出し切るようにしましょう。自分を客観視し、今までにない自分を出しましょう。一方で、愛敬を必要以上にふりまく必要もありません。これはダメだと思ったら必要以上にお付き合いせずその場を離れても良いのが海外です。

4-3.Win-Winを意識する

相手から情報をもらったらそれに対する対価を必ず与えるようにしましょう。的外れでも、相手に対するダメ出しでも良いのです。相手はそれをもってもっと成長すれば良いですし、日本市場では無理だと分かればそれも価値なのです。必ずその場でフィードバックを返すこと、そしてそのフィードバックは相手に価値があるモノである必要があります。記者会見の様な一方的に情報を欲しがるような質問は避けましょう。これも日本の教育では教えていないことなので、必要ならば事前に訓練することが大切です。

4-4.名刺交換は不要

海外では、名刺交換はしなければいけないものではありません。逆に後で連絡しないのに名刺収集だけするのは止めましょう。それよりもSNSで繋がる方が重要です。その場で繋がり、その場を離れた瞬間にありがとうのメッセージをすれば、後日の慇懃な挨拶状よりよっぽど相手に近づくことができます。

5.視察が終わり、帰ってきたら

5-1.感想や印象の共有

視察後には、視察した社員や部署で感想や印象を共有し、幅広く報告会を行いましょう。それによって、視察の成果を共有し、今後のビジネスに活かすことができます。あなたが価値を感じなくても他に価値を感じる人がいるかもしれません。相手も可能性を広げてくれることを望んでいるはずです。

5-2.ネットワーキングの継続

視察先企業との関係を深めるために、視察後も積極的にネットワーキングを継続し、ビジネスチャットでフィードバックをし合いましょう。現地では時間が限られていたと思いますがフォローアップをすることで足りない情報を補うことができます。また、直接大人数の前では聞きづらかったこと(例えば、出資の希望金額など)もその後のコミュニケーションの中で聞くことができます。

5-3.1週間以内の行動変容

視察後1週間空いてしまうと日常の業務に埋もれてしまいます。必ず知識と興奮が熱いうちにアクションを行うこと。小さな行動変容でも良いので必ず自分で決めて動きを起こし、視察の成果を実践に反映し、知見をもとに、自社のビジネスや製品の改善点を見つけるようにしてください。そしてそれが実った際には、必ず思い出して相手にチャットでお礼を言い、もう一度会いに行きましょう。

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寄稿:デジタルカレッジKAGA

 

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