ビジネス基礎知識

2023.07.11

Lock Icon 会員限定

リスキリングとは?DX時代に必要な理由と導入方法を事例付きで解説

「リスキリング」という言葉が世界的に注目されています。
学ぶことは、社会人になっても続けなければなりません。
予想もつかない変化が急速に続いていく現代で、学び続けることは重要だといえるでしょう。

一方「リスキリング、聞いたことはあってもよくわからない」「意味は分かるが、どのように推進して良いかわからない」
という方も多いのではないでしょうか。そこでこの文章では、リスキリングの概要や注目される背景などについて解説。
リスキリングについての理解を深め、今後のビジネスの成長につなげていきましょう。

1.リスキリングとは

「リスキリングは新しい考え方で理解するのが難しい」という方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、「さらなる企業・社員の成長のための学び直し」という観点では、従来の企業活動でも実施されていたことです。
リスキリング 自体は、それほど難しいことではありません。
ここからは、リスキリングの概要や注目される背景について見ていきましょう。

1-1.リスキリングはDXで必要となるスキル・技術を社員に学ばせること

リスキリングとは、今後求められるスキルや技術を社員に学び、身に着けてもらうことを指します。
特に、デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するために重要となってくる取り組みです。
DXとは、企業がデジタル技術を活用し、業務プロセスや製品・サービスの改善、ビジネスモデルの変化を目指していくことを意味します。
DXの結果、競争優位性が高まり、さらなる成長が期待できるのです。

1-2.リスキリングが注目される背景

リスキリングが注目されている背景には、IT人材の不足が挙げられます。
前述のとおり、リスキリングの目的はDXの実現です。より多くの企業がDXを実現することで、さらなる成長が見込めます。
一方、DXに不可欠なIT人材は不足の傾向にあるようです。
経済産業省によると、2030年までIT人材の平均年齢は上昇を続けると予想されています。
また、IT人材の需要は高くなっていく一方で、2030年には40~80万人のIT人材の不足が懸念されるとのことです。
現在はもちろん、将来的にもIT人材の確保はどこの企業にとっても課題となります。
外部からの採用はますます難しくなることが予想されるため、既存社員にデジタルの知識や実践法について学んでもらう必要があるのです。

参考:経済産業省商務情報制作局情報処理振興課「参考資料(IT人材育成の状況などについて)」

1-3.リスキリングとリカレントの違いは教育機関で学び直すかどうか

リスキリングと似た言葉に「リカレント(recurrent)」というものがあります。
リカレントとは「循環する」「回帰性の」という意味があり、仕事を離れて大学などの教育機関で学び、職場に戻っていくことを指します。
「学ぶ」という意味ではリスキリングと同じですが、業務を担いながら学びを進めるリスキリングとは大きく意味が異なってきます。
また、リスキリングは企業側から社員に学ぶことを促していきます。
企業の戦略をもとに学びを進めていくという視点が入っており、実践に重きが置かれます。
一方、リカレントは「個人の学び」という意味合いが強いです。

1-4.日本でのリスキリングの現状

リスキリングが注目を受けたきっかけは、2020年に開かれた世界経済(ダボス)会議です。
「2030年までに10億人のリスキルを目指す」という宣言がなされ、世界的な注目を集めました。
すでにアメリカやフランス、インド、ブラジルなど各国の政府では、人材育成に関する政策を打ち出し始めています。
世界各国と比べると、日本の成人学習は後れを取っているようです。
経済協力開発機構(OECD)の成人学習に関する調査によると、日本の成人学習の「機会の柔軟性」の数値は0.1と、
OECD加盟国平均0.45を下回る結果でした。ほかに成人学習の「機会の包括性」「市場ニーズとの整合性」についても平均を下回っており、
社会人の学び直しが日本全体の課題となっていることがわかります。
そこで、岸田文雄首相は2020年10月の所信表明演説で、リスキリングなどの人的投資を強化すると明らかにしました。
合わせて、リスキリングのための講座創設や、助成金などに5年間で1兆円を投じると発表しています。
政府の後押しを受けて、国内のリスキリングがどのように広がりを見せるのか、注目されています。

2.リスキリングのメリット


世界的な注目を受け、日本でも取り組みが進んでいるリスキリング。
では、リスキリングを導入することで得られるメリットは何でしょうか。
ここでは、リスキリングのメリットを3つご紹介します。

2-1.業務の効率化につながる

リスキリングを実施し、デジタルに関する知識、技術を身に着けた社員が増えることで、DXに向けた新しい技術を導入することができます。
新技術を活用することで、業務の効率化につながるでしょう。
例えば、社内のデータや情報の共有について、紙で管理していたものをクラウド上で一元管理することで、共有しやすくなります。
そのほか、業務の自動化を実現することで期待できるのは、業務フローの改善です。
生産性向上に結びつき、企業の成長につながります。

2-2.新事業を創出しやすくなる

リスキリングにより社員が知識・技術をアップデートすることで、新しいアイデアが生まれやすくなります。
結果、企業の新しい核となるような新事業を生み出す可能性が高まるでしょう。
現代は変化するスピードが速く、予想もつかないことが起こりえます。
変化に対応するためには、企業自身も新しい事業を生み出しながら変化していく必要があるのです。
リスキリングは、変化に耐えうる力を企業にもたらすものであるといえます。

2-3.採用コストを抑えられる

リスキリングに取り組めば、社風についてよく理解している既存社員をIT人材に育てることができます。
結果、大きな採用コストをかけることなくIT人材を確保できるのです。
前述のとおり、IT人材は不足している傾向にあり、採用は今後ますます難しくなっていくことが予想されます。
中小企業の場合は、DXを実現するために新しい人材を採用しようとしても、厳しい状況となることでしょう。

「リスキリングについてもコストがかかってしまう」とお考えの方も多いかもしれません。
しかし、近年ではリスキリングに関する支援が充実し始めています。
厚生労働省で設けられている補助制度が「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」です。
「実訓練時間が10時間以上であること」「事業展開を行うにあたり、新たな分野で必要となる専門的な知識及び技能の習得をさせるための訓練」
であることなどの基本要件を満たせば、部外の行使への謝金・手当や施設・設備の借上費などが上限付きで助成されます。

そのほか、自治体レベルでリスキリングについての助成金制度を設けているのが、東京都や広島県です。
東京都は、リスキリングを外部に依頼するときの費用を一部助成する制度を設けています。
広島県では、県内の企業が上記の人材開発支援助成金を申請する際、申請業務を社会保険労務士などの外部に依頼する場合に、依頼費が一部助成されます。
今後は基礎自治体単位でも制度が充実していくでしょう。

参考:
人材開発支援助成金|厚生労働省
DXリスキリング助成金(中小企業人材スキルアップ支援事業) | 人材育成の支援 | TOKYOはたらくネット
令和5年度 人材開発支援助成金活用支援補助金について | 広島県

3.リスキリングを導入する5つのステップ


さまざまなメリットが得られるリスキリングですが、導入する場合は「どのようなスキルが必要か」
「どんなプログラムを実施するか」というように、戦略を立てながら進めなければなりません。
ここでは、導入時のステップについて見ていきます。

3-1.事業戦略をもとに習得すべきスキルを洗い出す

リスキリングはあくまで事業成長を実現するための手段です。
リスキリングによって何を実現するのか、事業戦略をもとに定めましょう。
具体的に、以下の2つを実施します。

1)今後の事業戦略と照らし合わせて必要なスキルを洗い出す
2)社員一人ひとりが持っているスキルを確認する

社員のスキルを確認する際は、改めて社員にアンケートを取るなどして、スキルに関するデータを取得するのも良い方法です。
アンケートではこれまでの業務経験について問い、そこからどんなスキルを取得したか推定していきましょう。
全社員が持っているスキルと今後の事業戦略で必要とされるスキルを比べてみて、ギャップのある部分がリスキリングの対象となります。

3-2.実施方法とプログラムを決める

スキルを洗い出した結果をもとに、リスキリングの実施方法とプログラムを策定します。
自社の人材を講師にできる場合、費用は小さく済みますが、難しい場合は外部への依頼を検討しましょう。
プログラムを決める際は、学習の量やレベルを考慮することが大切です。
学習量が多すぎたり難易度が高すぎる場合は、社員の学ぶ意欲を削いでしまう可能性もあるからです。
一方で、量が少なすぎたり簡単すぎたりしても、必要なスキルを取得することが難しくなります。
実施方法とプログラムを決める際、費用面はもちろん重要ですが、
「リスキリングの目的はなにか」という視点を持って選ぶようにしましょう。

3-3.学習の実施

実施方法とプログラムが決まった後は、学習を実施します。
実施の際は、社員それぞれの学習の進捗状況を把握しておきましょう。
場合によっては学習を促進することも重要です。

また、実施する時間についても予め、社員とすり合わせておく必要があります。
通常の業務時間内に行う場合は、業務に影響が出ることがあったり、就業時間外に実施する場合は、従業員の不満に繋がったりするためです。

3-4.リスキリングしたことを社員に実践してもらう

リスキリングしたことを、実際に社員に現場で実践してもらいます。
実践といっても、新しいスキルを使いこなすまでには、時間がかかるものです。
いきなり重要な場面で活用する必要はありません。
最初は、比較的負担の小さい現場で実践してもらうことを意識しましょう。

3-5.効果検証と改善

リスキリングしたことを実践した結果、業績にどのような影響が出たのか常に振り返りましょう。

どれだけのコストがかかり、どれだけの効果が出たのかという視点が重要です。
検証後はプログラムを続けていくのか、改善したうえで続けていくのか、または中断するのかといったことも検討し、改善に努めましょう。

4.リスキリングを導入する際に注意したいポイント

リスキリングを導入する際は、注意すべきポイントがあります。
注意点を見過ごしてしまうと、せっかくコストをかけてリスキリングを実施しても無駄になってしまう恐れもあります。
一つずつ見ていきましょう。

4-1.学んだことを実践できる場を用意する

学んだことを業務で実践しなければ、リスキリングの意味が薄らいでしまいます。
リスキリングを実施する際は、取得したスキルを実践できる場を用意しておきましょう。
また、導入する際にリスキリングの必要性について社員に伝えるとしても、実践する場がなければ必要性について実感できません。
結果、学びのモチベーション低下につながってしまいます。

4-2.社員の学びのモチベーションを維持する仕組みを作る

社員が学び続けられるよう、モチベーションを維持する仕組みを作りましょう。
例えば、リスキリングに積極的に取り組んでいる社員にインセンティブを与えるなど、金銭的な利点を用意するのも一つの手段です。
また、一人で学習するよりも、複数人で協力しながら進めるほうがモチベーション向上に結び付く場合もあります。
チームを作るなどして、社員同士で意識を高めあうのも良いでしょう。

4-3.社員の意見を聞く

リスキリングを導入する前や導入後に、社員の意見を聞くことは重要です。
「どんなスキルを取得したいか」「現在の学習方法やプログラムに改善点はないか」
など社員の意見を聞くことで、より良いリスキリングが実行できます。
導入の際は、経営層が主導で進めるケースも考えられます。
導入後は、定期的に社員アンケートを取るなどして、リスキリングに関する社員の意識を確認しつつ、組織全体で取り組みましょう。

4-4.学習の環境を整える

社内で学習の環境を整えることも重要です。
例えば、学習する時間を考えることも環境整備につながります。
就業時間外で学習するとなると、社員の負担が増えてしまい、継続的に学べない場合も考えられるでしょう。
なるべく就業時間内で学べるよう、周囲の協力体制や勤務の仕組みを整えましょう。
また、学習の進捗状況についてわかるような仕組みを作ることも重要です。
「学習はいまどれくらい進捗しているのか」「どんなスキルが身についているのか」など、
学習状況をどのように把握していくか、方法を検討しましょう。

5.リスキリングに注力する国内外事例


リスキリングに注力する国内外の事例について見ていきましょう。
国内については大企業のほか、中小企業の事例についてもご紹介。
海外事例では、リスキリングの一種である「アウトスキリング」についても触れながら見ていきます。

5-1. 全従業員にDX研修を実施している株式会社日立製作所

株式会社日立製作所では、全従業員16万人に独自のDX研修を実施しています。
同社は2019年に人材戦略を発表。その中で、「デジタル人材の強化」を掲げました。
同社のDX事業を引っ張っていくようなデジタル人材を、2021年度に3万人規模に強化することを打ち出しています。
具体的なプログラムは、グループの日立アカデミーと共同で策定。
独自の研修プログラムを開発し、デジタル関連研修コースを約100コース作りました。
同社が策定した学習ロードマップの4つのステップは、これからリスキリングを導入する企業にとっても参考になりそうです。

1. そもそも何か、なぜ必要かを知ろう
2. やりたいこと、やるべきことを見つけよう
3. 実行計画を立てよう
4. 実行するプロセス遂行力を身につけよう

同社の事例を見てみると、リスキリングの目的を明確にすることと戦略を立てること、そして全社員に学ばせる重要性が分かるでしょう。

5-2. 経営者主導でリスキリングを実施した隂山建設株式会社

福島県郡山市にある隂山建設株式会社は、建設現場でITを活用する「ICT施工」を業界に先駆けて導入しました。
社員のリスキリングに力を入れ、DXに成功した企業の好例として、注目を集めています。
具体的には、受注から竣工までの状況を可視化するアプリを独自に開発。現在では、外部への販売も進めています。
アプリの開発に当たってはグループ内で開発会社を立ち上げ、DXへの本気度を提示。
社長も含めた全社員がITに関する知識を学んでいき、社長もアプリ開発者に質問したり、勉強した内容を社員に伝えたりしました。
結果、若手のみならずベテランの社員までデジタル技術を受け入れたといいます。
経営者主導でリスキリングに対する本気度を示し、社員全員で取り組んでいくという中小企業においては参考となる事例です。

5-3. アウトスキリングに力を入れているAmazon

米Amazonはリスキリングの中でも、アウトスキリングに力を入れています。
アウトスキリングとは、解雇される可能性の高い社員に、新しいキャリアを形成してもらうべく実践するリスキリングです。
デジタル化で業務が効率化する一方、今まで人が担っていた分野もデジタル化され、大量の解雇者が出てしまう結果に。
このことが、アウトスキリングへ注目を集める背景になりました。
同社では、社外でキャリア形成を検討している配送センターの社員に対し、「キャリアチョイス」という取り組みを実施しています。
要件を満たせば、リスキリングに関する訓練の受講費について最大95%が支給されます。
講座はほとんどが同社施設の専用教室で行われ、WEB開発者やコンピューターサポートスペシャリストなどのIT分野のほか、
看護師やパラリーガルなど専門職についての講座も実施されています。
国内でのリスキリングは、社内で活用してもらうことが前提とされているケースがほとんどですが、
今後は同様の取り組みを始める企業も出てくるかもしれません。

まとめ:リスキリングで企業のDX化を進めよう

ここまでリスキリングの概要や導入のステップ、事例などについて見ていきました。
DXを進めていくためには、デジタル人材の確保が欠かせません。
リスキリングは、今後の日本経済成長のカギを握っているといえるのです。
リスキリングを導入する際は、今回ご紹介したステップと注意点を踏まえたうえで進めていきましょう。
リスキリングが目的となるのではなく、あくまで自社の成長のための手段とならなければなりません。
リスキリングで社員の成長を実現すると同時に、DXを進めて事業成長を実現していきましょう。

こちらの記事もチェック!
英語のスキルも活かして収入もアップ?海外出張の多い転職先
チームワークを高めるってどういうこと?チーム力を作る方法
オンライン・オフラインコミュニケーションの使い分けを徹底解説!

Lock Icon

この記事は会員限定です

会員登録すると続きをお読みいただけます。