GDP世界2位を誇る経済大国の中国。新たなビジネスチャンスは大いにあることから、中国で起業しようと考えている方もいるでしょう。
2022年の「ゼロコロナ政策」で、一度は経済衰退が危ぶまれましたが、現在も経済成長率は上昇傾向にあります。
しかし、起業するには何から始めたら良いかわからない方は多いかもしれません。
そこで、中国で起業する方法や必要なビザ、会社設立の手続きを紹介します。
起業するまでの流れや必要書類が把握できるので、起業に向けてすべきことが見えてくるでしょう。
1.中国で起業する方法3つ
最初に、中国で日本人を含めた外国人が起業するにはどのような方法があるかを見てみましょう。
起業する手段は複数ありますが、それぞれ起業する条件やメリットやデメリット、必要な手続きなどが異なります。
外国人が中国で起業する方法の代表的なものは、以下の3つです。
1.GEO(Global Employment Outsourcing)
2.外商投資企業
・独資企業
・合弁企業
3.外資パートナーシップ企業
・ジェネラルパーナーシップ
・リミテッドパートナーシップ
制限のある支店と駐在員事務所
上記以外に、中国国内に支店や駐在員事務所を設置する方法もあります。
しかし、以下の理由から現実的ではありません。
・支店
法律上では海外の企業が中国国内に支店を設立することは可能。
しかし、現状は、金融機関しか支店の設立を認められていないようです。
よって、金融機関以外の企業が中国国内に支店を作るのは難しいと言われています。
・駐在員事務所
駐在員事務所はコストをおさえて設立できる点がメリットです。
しかし、あらゆる営業活動が禁止されていますので、市場調査を実施する場合に限り、
駐在員事務所を設立するケースが多いようです。
次からは、それぞれの方法や特徴、メリットデメリットを詳しく説明します。
2.スモールスタートするならGEO
GEOとは、Global Employment Outsourcingの略で、海外雇用代行を意味します。
中国で事業をスモールスタートしたいときにおすすめの方法です。
中国のGEOに自社の事業を行う人材雇用代行を依頼しますが、雇用する人材の選定や業務の指示などは自社が担います。
そのため、現地法人を持ちませんが、実質的には現地法人がある場合と同様の事業活動が可能となります。
【GEO会社が担う内容】
給与計算・社会保障・人事労務業務など
【進出する企業が担う内容】
雇用する人材の選定と決定、報酬体系の決定、業務の指示や報告など
GEOで事業を開始し、事業拡大の目途が立てば現地法人へ移行するのも手です。
GEOで雇用した人材と交渉して、現地法人に移籍してもらえれば、現地法人設立後もスムーズに事業活動ができるでしょう。
【メリット】
煩雑な会社設立の手間が不要のため、事業開始に必要な時間とコストをおさえられることが最大のメリットです。
また、短期間で事業を展開できるのも特長です。
現地法人設立の場合、数ヵ月から半年ほど時間を要すると言われていますが、
GEOなら依頼してから最短10日ほどで事業を始められます。
【デメリット】
依頼したGEO会社との相性が悪い場合、スムーズに事業をスタートできない可能性があります。
よって信頼できるGEO会社を見つけることが事業成功のカギとなります。
中国で良いビジネスパートナーを見つける方法
中国ではGEO会社を含め、良いビジネスパートナーを見つけるには、人脈がモノを言います。
できれば、起業前にしばらく中国に滞在するなどして、現地の中国人と信頼関係を深めておくのがおすすめ。
中国人は関係性が構築され、相手を友人だと考えるようになると、家族と同じように大切に扱ってくれます。
信頼関係が出来上がっている相手なら、良いGEO会社やビジネスを助けてくれそうな人物、企業などを紹介してくれるでしょう。
仕事で関わる企業や人物とも、ビジネス上だけの関係に留めておかず、
食事に行くなど関係を深めておくと、何かとサポートしてもらえます。
3.本格的に起業するなら外商投資企業(現地法人設立)
すでに日本で起業しており、中国に進出するという場合は、「外商投資起業」という方法があります。
外商投資企業とは、日本でいう現地法人のこと。
設立するには、会社の登記など多くの手続きが必要ですが、中国に腰を据えて事業活動ができます。
外商投資企業には「独資企業」と「合弁企業」の2種類があります。
それぞれの特徴を見てみましょう。
3-1.外資100%の独資企業
「独資企業」とは、中国から見て出資の100%が外国側の企業です。
以前は、日系企業が中国進出する場合は合弁企業が一般的でしたが、近年では独資企業が増えてきました。
特に取引先が日系企業の場合は、独資企業で会社を設立する場合が多いようです。
【メリット】
100%出資のため、あらゆる点で主導権を握れます。
経営方針などを自由に決定できますし、従業員の待遇や利益の分配なども独自で決められます。
【デメリット】
設立する際のインフラ整備や運営管理など、会社の設立から経営まで全てを自社だけの力で行わなければなりません。
また、現地企業や人のサポートがないと、中国国内の事業拡大や販路拡張が難しいケースがあります。
中国企業と取引をしたいときには、苦労を強いられるかもしれません。
3-2.会社を共同設立する合弁企業
合弁企業は、中国の出資者と日本の出資者が共同経営するものです。
以前は、合弁企業への中国側の出資比率25%以上という制限がありました。
しかし、国外の企業が出資する外商投資企業に適用される「外商投資法」が2020年1月に施行され、制限がなくなりました。
よって、以前に比べて出資者となってもらえる可能性が高いでしょう。
【メリット】
中国側の労働力や販路、労働力のほか、人脈やノウハウを活用でき、ビジネスがスムーズに進みます。
独資企業に比べて、比較的少ない資本金で起業できるのもメリット。
【デメリット】
中国側との方向性の相違によって、営業が停滞する場合があります。
また、日本と中国の商習慣の違いによって、意見が対立することも。
場合によっては、片方の意向を無視した経営が継続されてしまうといったこともあるでしょう。
4.中国に人脈があるなら外資パートナーシップ
外資パートナーシップ企業とは、外国企業(日本企業)・外国人(日本人)を含む2社以上の出資者によって経営するものです。
以下の組み合わせのうち、どちらも可能です。
・外国企業と外国人(個人)
・外国企業または個人と中国企業または個人
前述した3-2の合弁企業との違いは、個人でも出資者になれることです。
中国でパートナーが見つかれば、日本で起業せずとも中国で会社を興せるでしょう。
【メリット】
外資パートナーシップのメリットは、出資方法が柔軟であることです。
例えば、海外企業は役務によって出資できますし、中国人個人が出資者として参加するといった方法も可能です。
【デメリット】
外資パートナーシップによる起業は、実例が少なく、課税に関してまだまだ不透明な部分があります。
そのため、設立する場所の税務局で、課税に対する具体的な確認をしておきましょう。
また、外資パートナーシップは原則として、上場を目的としているため、設立にあたって条件が厳しいと言われています。
最低1者(経営者、代表企業等)が会社の債務に対して無限責任を負うため、倒産時のリスクが大きく、
外資パートナーシップで起業するのを控えるという方も見られます。
外資パートナーシップには以下2つの形式があります。
債務に対する責任が異なるので、慎重に決定しましょう。
4-1.ジェネラルパートナーシップ(中国語:外商投資普通合伙企業)
出資者すべてが会社の債務に対して無限責任を負います。
無限責任とは、会社が倒産したときに、会社の債務に対して負債総額の全額を支払う責任を負うことです。
会社がすべての債権を払いきれない場合は、無限責任を負うものが弁済しなければなりません。
ジェネラルパートナーシップで起業を検討している方は、こういったリスクがあることを念頭に置きましょう。
4-2.リミテッドパートナーシップ(中国語:外商投資有限合伙企業)
無限責任出資者と有限責任出資者で構成されます。
最低1者が会社の債務に対して無限責任を負わなければなりません。
有限責任とは、会社が倒産したときに会社の債権者に対して責任を負いますが、出資額を限度とします。
会社が倒産したときに出資したお金は消えてしまいますが、それ以上は責任を負う必要はありません。
5.起業に必要なZビザ(就労ビザ)の取得
日本人が観光や商用、親族知人を訪問する目的で渡航する場合、滞在日数が15日以内ならビザは必要ありません。
しかし、中国で起業するなら就労ビザの一つ「Zビザ」の取得が必要です。
高いスキルを持つ人材が取得可能なRビザ
Zビザの有効期限は1年ですが、2018年3月より、外国ハイレベル人材の基準条件を満たす外国人なら、
有効期限が5~10年の「Rビザ」を取得できることになりました。
基準条件は適時変更されますが、国家の経済や社会発展に必要であり、
至急必要または不足している以下のような人材が対象です。
【Rビザ対象となりうる人材例】
・科学者または科学技術のリーダー的人材
・国際企業家
・ある分野のスペシャリスト・高技能保持者
…など
参考 :JETRO 「国家外国専家局 外交部 公安部:「外国人材ビザ制度実施弁法」印刷・公布に関する通知(外専発[2017]218号)(一部抜粋)」
ただしZビザを取得すれば良いのではなく、「外国人就業許可証」と「居住証」の発行も必要です。
また、Zビザは会社が従業員に対して発行するため、会社設立前には発行できません。
よって、次の方法で取得します。
5-1.設立した企業が中国でする手続き
1.「中華人民共和国外国人就業許可証書(就業許可証書)」の発行申請を行います。
【必要書類】
以下の書類を管轄地の人力資源・社会保障行政部門に提出して申請します。
・外国人の雇用就職申込書
・赴任予定者の履歴証明
・同企業と赴任予定者との雇用意向書
・外国人を雇用する理由書、本人の資格証明書
・受け入れ企業の営業許可証、批准証書、定款など、法律や法規で規定する書類
・就業予定の外国人が該当する業務に従事する資格証明
上記に加えて、地方によっては健康診断書の提出も必要
2.就業許可証を受領したら、管轄地の対外経済貿易部門などの授権機関に「査証発行許可通知書」を申請します。
3.就業許可証と査証発行許可通知書の原本を日本へ送付します。
取得した査証発行許可通知書および外国人就業許可証書の原本を日本の派遣元企業に送付します。
5-2.渡航予定者が日本でする手続き
中国大使館、または領事館でZビザを申請します。
【必要書類】
・中国から送付された査証発行許可通知書および就業許可証書の原本とコピー
・パスポート
・顔写真(横3cm×縦4cm)
場合によっては、面談を求められる場合があります。
5-3.渡航後30日以内にビザ受給者がする手続き
ここで取得したZビザは、一時入国用のビザで入国から30日で失効してしまいます。
そのため、渡航後30日以内に以下の手続きを行いましょう。
1.外国人就業証発給の申請
中国に入国してから、設立した企業と労働契約を締結して管轄地の人力資源・社会保障行政部門に「外国人就業証」の発給を申請しましょう。
【必要書類】
・外国人就業許可証書
・パスポート
・雇用契約の写し
・外国人就業登記表
・写真
・健康診断(就業許可証書の申請時に健康診断を受けている場合は不要)
2.外国人居留証明書の申請
最後に、「外国人居留証明書」の申請をします。
設立した企業がある省または地方人民政府公安機関出入境管理機構へ、以下の書類を提出します。
【必要書類】
・外国人居留申請書
・パスポート
・健康診断書
・外国人就業証
・写真
・設立した企業の営業許可書
・指紋など生体認証情報
中国で行う手続きには、高いレベルの中国語スキルが必要ですから、翻訳者を付けることをおすすめします。
また、中国ビザの申請や取得代行サービスを提供している企業に依頼する人も多いです。
参考:JETRO「就業・就労ビザの種類とその取得方法:中国」
6.起業の手続きの手順と必要な書類
会社設立も、Zビザなどの取得同様に、高度な中国語スキルが必要な上、手続きが煩雑です。
そのため、自社または個人で行うのは難しいかもしれません。
また、起業する手順は業種や地域によって異なります。
そのため、以下へ依頼することがほとんどです。
・会社設立代行業者
・会計事務所
・日系コンサル会社
とはいえ、大まかな流れを知っておいて損はありません。
次から、会社設立の手順を簡単にまとめました。尚、GEOではこれらの手続きが不要です。
6-1.会社設立に必要な書類
会社の設立で必要な書類は、現地法人とパートナーシップ企業で異なります。
【現地法人の場合】
・起業登記(届出)申請書
・中国語の章程(定款)
※章停には董事に就任する人物の署名が必要
・董事に就任する人物の戸籍謄本(中国に居住していない場合は、日本にある中国在外公館認証が必要)
・パスポート(董事に就任する人物全員)
・本店所在地
【パートナーシップ企業の場合】
・パートナーシップ企業登記(届出)申請書
・全パートナーの主体資格証明
・全パートナーの署名がなされたパートナー契約書
・全パートナーによる、各パートナーの出資引受払込証明・出資払込への確認書 ・主要住所の合法使用証明書
※以下も必要となるケースもあります
・パートナーの職業資格証明書
6-2.中国で起業する手順
実際に現地へ赴いて行う手続きが多いため、事前に充分な準備をしておきましょう。
6-2-1.商号予約
地方工商行政管理局から、使用したい会社名(商号)の承認を受けます。
設立する企業が小規模の場合は、設立する地方の地名を入れなければならないというルールがあります。
また、業態がわかるような名前であることが慣例です。
例)上海BTHacks飲食有限公司
6-2-2.董事の選任
董事(とうじ)とは、日本での取締役に該当します。
中国にいるパートナーを董事に専任するか、前述した会社設立代行会社やコンサル会社に依頼するなどの手があります。
6-2-3.法人設立のための章程(定款)作成
ほとんどの場合、会社設立代行業者や会計事務所・日系コンサル会社などがフォーマットを用意してくれます。
その場合は、以下を記入します。
・社名
・本店所在地
・業務内容
・資本金額
・投資者投資比率
・投資者(発起人)の氏名・住所・職業・引受株式数
……など
※投資者(発起人)董事に就任するには、日本の戸籍謄本に、日本国内にある中国在外公館の認証が必要です。
6-2-4.会社登記申請(会社設立)
地方政府にて外資会社の最終的な確認をし、その後、工商行政管理局(日本でいう法務局)にて登記申請をします。
6-2-5.労働許可証・Zビザの申請
5章を参照
6-2-6.第1回董事会の開催
会社設立の後、董事会(取締役会)を開催し、以下の決定や専任を行います。
・董事長
・総経理(日本での代表取締役社長)
・会計士の選任
※会計士は、公認会計士の資格が必要
※上記の決定や専任は書面でも認められています。
6-2-7.銀行口座の開設・資本金資金の送金
設立した会社の法人口座を開設し、そのあと、資本金を送金します。
尚、資本金銀行口座と事業銀行口座を区別しなければなりません。
【法人口座開設時に必要な書類】
・経営許可証(副本)とその写し
・法人印
・財務印
・会計担当者の身分証明書
※法人印と財務印は、公安局(日本でいう警察庁)にて作成します。
まとめ:中国で起業することで広がる新たなビジネスチャンス!
中国は人口が14億人以上もおり、日本と比べて遥かに大きな市場が広がっています。
多くの日系企業が中国進出を果たし、中国で起業した人も多いですが、まだまだ参入する余地はありそうです。
中国で起業することに興味がある方は、まずは中国で生活してみるのも手です。
現地の人たちと仲良くなれば人脈ができるだけでなく、現地のニーズを把握でき、起業するときや事業を行うときに役立つでしょう。
また、起業する手段を見ていただくとわかるように、中国で会社を設立するには、現地の方々のサポートが不可欠です。
この記事を読んで起業するには、時間も労力もかかると感じた方も多いでしょう。
しかし、日本とは異なる考えや価値観を持つ中国人には、思わぬ商品やサービスが受け入れられるかもしれません。
ビジネスをする上でも、非常に興味深い市場と言えるでしょう。