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2020.05.01

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空港の検疫に関する基礎知識【新型コロナへの各国対応から学ぶ】

世界で爆発的に流行した新型コロナウィルス感染症(以下、新型コロナ感染症)の水際対策により、国内外を問わず各地の空港で検疫が強化された事態は、記憶に新しいところです。
そこで、この記事では空港で行われる検疫とはどのようなものなのかをご紹介。新型コロナ感染症対策のためどのような措置が行われたのかを例に、2020年4月末時点の情報をもとに、各国で実際に行われた検疫の流れについても見ていきましょう。

1.海外空港での検疫の流れ

まずは、海外空港では検疫がどのような流れで行われているのかをご紹介します。

1-1.平常時の検疫体制

海外の空港でも、検疫のおよその流れは日本の空港とほぼ同じです。国によっては、検疫エリアに消毒用マットなどが敷かれていて、その上を歩くよう検疫官に指示されることがあります。
体調不良などがない場合は、渡航者は特別何かすることはありません。

1-2. 新型コロナ感染症流行後の検疫体制

台湾政府が就航する飛行機内で配っていた検疫に関する書面。2020年2月14日撮影

新型コロナ感染症の流行対策による検疫強化策として、入国前に健康状態の書面申告を必須にしている国が増えています。

入国時点での新型コロナウイルス感染の有無及び、滞在期間・滞在先の詳細を申告。国・地域によっては、滞在先での一定時間待機の承諾も求められます。

基本的に、これらの内容は書面で係官へ申告するのみ(申告書の提出)ですが、違反が判明した旅行者に重い罰則を課している国もあるので、行動には注意しましょう。

入国審査(パスポートチェック)前後に、検疫エリアが設けられており、ここで検疫官に申告書を提出します。

検疫強化対象国より到着し、自覚症状や体調不良を感じている場合は、この段階で検疫官に申告することが義務付けられています。

また、エリア内にサーモグラフィーがあり、検疫官がモニターで発熱している旅行者をチェック。自覚症状がない場合でも、サーモグラフィーに異常があれば呼び止められ、別室に行き事情聴取及び、医療機関への搬送などの措置が取られる流れです。

1-3.検疫後の流れ

検疫時、感染症検査を受けることになった場合の流れを、新型コロナ感染症を受けて各国が講じた対応を例に見てみましょう。
なお、検疫体制は各国の方針や感染症の流行状況等で異なります。渡航前に各国の最新情報もチェックしておきましょう。

《陽性の申告または検疫中に陽性が判明した場合》
強制入院等、行政機関の指示で医療措置が行われます。無症状または軽度症状の場合は、空港から自宅もしくは宿泊先に直行後、入国の翌日から起算して14日以上の待機が必須です。違反者には罰則がある国も。

《陰性の申告》
空港から自宅もしくは宿泊先に直行後、入国の翌日から起算して14日以上の待機が必須です。待機中に発症及び感染の疑いがある場合は、直ちに救急または最寄りの医療機関へ連絡し、指示を仰ぎましょう。

レオナルドダヴィンチ国際空港HP「イタリア入国に掛る申告書」
http://www.adr.it/documents/10157/18376181/Dichiarazione_ai_fini_dell_ingesso_in_italia_09_04_2020_%28it%29.pdf/4d65889b-51fa-4829-8c2d-d4b75cffee76

【コラム】渡航国の検疫体制・状況を確認する方法

予定していた海外出張先が、感染症の流行状況などにより「外国人は入国不可、もしくは制限適用」などの厳しい検疫ルールを新たに設けている場合もあります。
出発前に、以下にご紹介する、外務省HPで確認しておきましょう。

外務省HP
「新型コロナウイルス(日本からの渡航者・日本人に対する各国・地域の入国制限措置及び入国後の行動制限)」
https://www.anzen.mofa.go.jp/covid19/pdfhistory_world.html

例えば2020年4月時点で、韓国では次のような特別検疫措置を実施しています。

・全ての入国者に対し、健康診断書を添付した入国ビザ申請を義務化。
・韓国へ入国を希望する全ての旅行者に対し、特別入国手続きを実施。

加えて、検疫時には検温、健康状態質問書及び滞在時の住所及び電話番号を提出。さらに、新型コロナウィルス感染症陽性が判明した場合は隔離施設での待機が求められます。
陰性の場合でも、入国後14日間は自宅及び指定施設(有料)で待機を義務化。スマートフォンに「自己隔離者安全保護アプリ」をインストールし、待機中の自己診断結果を送信する必要があります。

参考:駐日本国大韓民国大使館「領事部からのお知らせ」
http://overseas.mofa.go.kr/jp-ja/brd/m_1068/view.do?seq=760619&srchFr=&srchTo=&srchWord=&srchTp=&multi_itm_seq=0&itm_seq_1=0&itm_seq_2=0&company_cd=&company_nm=&page=1

外務省HP以外でも、各国大使館および航空会社や旅行会社でも、随時情報をHP上で発信しているところもありますので、参考にしてみてくださいね。

ANA「新型コロナウイルス感染拡大に伴う各国の入国条件変更状況について」
https://www.ana.co.jp/ja/jp/inttour/info/news/200205.html

新型コロナウイルス感染症流行時に日本からの入国制限措置等をした国々

《アジア・太平洋地域》
中国:世界全域、香港:世界全域、マカオ:入国不可、韓国:世界全域、オーストラリア:入国不可、ニュージーランド:入国不可

《ヨーロッパ》
イギリス:世界全域、シェンゲン協定加盟国:2020年3月17日より30日間入国不可

《アフリカ》
エジプト:入国不可、チュニジア:入国不可、コートジボワール:入国不可、南アフリカ共和国:入国不可

《北米》
アメリカ:世界全域(14日以内に中国、イラン、シェンゲン協定加盟国、英国、アイルランドに渡航歴のある外国人は入国不可)カナダ:入国不可

《中南米》
ブラジル:入国不可、ペルー:入国不可、チリ:入国不可、アルゼンチン:入国不可

(2020年4月15日時点)

2.国内空港での検疫の流れ

ここからは、国際線が就航する日本国内の空港で講じられている検疫体制を、平常時と新型コロナウィルス感染症流行時の対応を例に見てみましょう。

2-1.平常時の検疫体制

入国審査(パスポートチェック)前後に、検疫エリアが設けられています。自覚症状や体調不良を感じている場合は、すぐに検疫官に申告することが推奨されています。
旅行者が検疫エリアを歩いて通過する間、エリア内のサーモグラフィーのモニターで発熱している旅行者を検疫官がチェックします。
自覚症状がない場合でも、サーモグラフィーに異常があれば呼び止められ、別室に行き事情聴取及び、医療機関への搬送などの措置が取られます。

2-2. 新型コロナ感染症流行時の検疫体制

まず、入国前に、所定の書類に記入します(機内で配られることが多い)。
空港に到着した後、検疫官の説明を受けしばらく機内で待機(数時間かかることも)し、降機後に検疫を受けます。
このとき、感染症危険レベルがどの程度の地域・国から帰国(もしくはトランジット)したかによって、検疫方法が変わります。

【コラム】感染症危険レベルとは?

海外渡航にあたり、新型コロナ感染症など、危険度の高い感染症に関して出される危険情報です。WHO・主要各国の対応・発生国及び地域の状況を総合的に判断して、4段階に分かれた危険レベルが出されています。

参考:外務省海外安全ホームページ「『感染症危険情報』とは?」https://www.anzen.mofa.go.jp/masters/kansen_risk.html

感染症危険レベル3地域から日本に帰国・トランジットする場合

PCR検査後、検疫官に質問票や申告書を提出します(検査から到着ロビーに出るまで、数時間かかる場合も)。
その後、検査結果判明(1〜2日)まで待機。この時点で症状がなく、“公共交通機関を使用せず”に自宅へ直行できる場合は自宅待機が可能です。この場合到着ロビーから係員が同行し、公共交通機関以外を利用しないことを確認後、自宅に向かう流れとなります。
自宅待機が難しい場合は、空港内スペースまたは検疫所指定の施設で待機することとなります。(検疫所指定以外の施設に移動することは不可)

参考:
YAHOO!ニュース「新型コロナによる海外からの入国拒否や検疫強化の中身は?日本人も帰国後に空港でPCR検査を実施」(2020年4月10日)
https://news.yahoo.co.jp/byline/toriumikotaro/20200410-00172342/
NHK政治マガジン「コロナで帰国、待っていたのは…」(2020年4月8日)
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/33241.html

感染症危険レベル2地域から日本に帰国・トランジットする場合

問診やPCR検査等は行いませんが、入国翌日から起算した14日間は検疫所指定の場所で待機します。自宅や自己手配した宿泊先で待機する場合は、公共交通機関を使用せずに直行できることが条件です。

【コラム】感染症レベル3に指定された国・地域

2020年4月時点で日本が「感染症レベル3」に指定した主な地域は下記の通りです。一例として参考にしてみてください。感染症レベル3になるかどうかは、その時々で新型コロナ感染症など感染症の流行状況によって変わります。外務省HPで最新の情報をチェックしておきましょう。

なお、以下の安全情報は、新型コロナ感染拡大時の情報です。通常時は世界全域に出ることは稀。
ただし、日本のニュースではあまり取り上げられない海外の世情も反映されていますので、必ず出張前に見るようにしましょう。

《アジア》
中国(香港・マカオ含む)、韓国、台湾、インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシア、トルコ、イスラエル、イラン

《太平洋地域》
オーストラリア、ニュージーランド

《ヨーロッパ》
ほぼ全域

《アフリカ》
エジプト、モロッコ、コンゴ民主共和国、コートジボワール

《北米》
アメリカ、カナダ

《中南米》
エクアドル、チリ、ボリビア、ブラジル

出典:外務省海外安全HP「全世界に対する感染症危険情報の発出」
https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pchazardspecificinfo_2020T084.html
(2020年4月15日確認)

参考:厚生労働省HP「水際対策の抜本的強化に関するQ&A」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/covid19_qa_kanrenkigyou_00001.html

2-3.検疫後の流れ

次からは、新型コロナ感染症の場合を例に、空港の検疫検査後の流れを見ていきましょう。新型コロナ感染症の場合、検査結果は空港で検疫官に提出した書類の連絡先(電話番号かEメールを書く欄がある)に連絡されます。

《陽性だった場合》
医療機関への連絡後、症状に応じて入院や治療を行います。一定の条件を満たしていれば、軽症者は自宅での療養が可能な場合もあります。

《陰性だった場合》
入国翌日から起算した14日間は検疫所指定の場所で待機します。自宅や自己手配した宿泊先で待機も可能ですが、空港から公共交通機関を使用せずに自宅へ直行できることが条件です。

参考:
厚生労働省HP「水際対策の抜本的強化に関するQ&A」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/covid19_qa_kanrenkigyou_00001.html#Q1-1
GemMed「新型コロナ陽性でも、軽症者・無症状者は『宿泊療養・自宅療養』の対象に-厚労省」
https://gemmed.ghc-j.com/?p=33280

【コラム:待機場所を自己手配するときのポイント】

新型コロナ感染症による検疫強化を受けて、日本では空港周辺の宿泊施設やレンタカーのリースは予約が殺到し、希望した日に利用できるとは限らない状況に。
感染症が流行している場合には、入国当日に慌てて宿泊施設やレンタカーを探しても見つからない……というリスクを避けるため、なるべく現地を出発する前に、宿泊施設やレンタカーを探しておきましょう。

参考:琉球新聞社「『帰国難民』自己負担60万円も 新型コロナ待機要請で 宿泊は軒並み予約拒否」(2020年3月26日)
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1096223.html

3. 検疫後に体調不良があったら覚えておきたいこと4つ

空港に着いたときは症状もなく、検疫での検査結果は陰性だったとしても帰宅後に体調不良になり「実は出張中に感染症にかかっていた」ことが判明するケースもあります。そんな場合、まず何をするべきなのでしょうか。

3-1.我慢しない

体調不良を感じたら、無理せず仕事を休み医師の診察を受けることが重要です。「仕事が忙しいから、あとで病院に行こう」と先延ばしにし、もしも症状が悪化してしまったら……。最悪命を落としてしまうかもしれません。
また、周りの人へ感染させる二次被害が出ることも。我慢や「大丈夫だろう」という過信が一番良くない結果をもたらす、と心得ましょう。

3-2.かかりつけ医に相談する

症状によっては、いきなり病院に行っても受け付けてもらえない場合があります。事前に電話し、症状や渡航先などを伝え、受診可能かどうか確認しましょう。

3-3.保健所に相談する

かかりつけ医などがいない場合は、各都道府県の保健所に相談できます。専門医や医療機関を紹介してもらえるので、なるべく自宅から近い場所を選んで受診すると良いでしょう。

3-4.感染症かもしれないと思ったら?

2020年4月末現在、新型コロナウイルス感染の疑いがある人の対応は、都道府県ごとに設置された「帰国者・接触者センター」が担っています。発熱などの症状がある場合には連絡してみましょう。

症状によってはすぐに「なるべく公共交通機関を使わずに医療機関受診」を指示されることがありますので、移動は自家用車などを使うのがオススメです。
こうした新型コロナ感染症の対応例は、他の感染症が疑われる場合にも参考にできるでしょう。

厚生労働省HP「新型コロナウィルス帰国者・接触者センター」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/covid19-kikokusyasessyokusya.html

参考:
朝日新聞デジタル「海外旅行後の体調不良は医師に相談を」(2017年4月2日)
https://www.asahi.com/articles/ASK416WMWK41UBQU00C.html

まとめ:正しい知識でスムーズな検疫を!

新型コロナ感染症の世界的流行に伴い、現在世界各国で厳しく検疫チェックを行っています。検疫は、その国の人や自然、資源を守るための制度と心得て、正しい知識の元に行動しましょう!

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