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2023.10.25

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イタリアのSDGs取り組みとは?環境改善策の背景や具体例も紹介

SDGsの達成期限2030年まで、あと数年を残すのみとなりました。

そんな中、2023年に行われた国連関連機関による調査「SDGs達成度国別ランキング」で、上位をヨーロッパの国が占める中、イタリアは24位という結果でした。

他のヨーロッパ諸国と比べると遅れているように見えるイタリア。しかし、イタリアでもさまざまな取り組みが行われています。

この記事では、イタリアで行われているSDGs取り組みやその背景、SDGsに関連したイタリアの国内事情などを詳しく解説します。

1.イタリアで行われているSDGsの取り組み例

パンデミックで、国内経済に大打撃を受けたイタリア。
EUは復興基金としてイタリアへ1,915億ユーロの補助金支給を決定しました。
補助金の使途は主に、SDGs達成のための目標を軸に計画されています。
ここからは、イタリア国内でどのようにSDGsの取り組みが行われているか見ていきましょう。

1-1.進むモビリティシェアリング

イタリアでは自転車が注目され、自動車などを貸し出すモビリティシェアリングが増えてきています。
ガソリンや軽油など、高騰する化石燃料をなるべく使わず、CO2を排出しないサステナブルな移動手段として、都市部を中心に進んでいます。

モビリティシェアリングに注目が集まったのは、2000年に環境省がカーシェアリング支援制度を開始したことがきっかけです。
各事業者に補助金を助成したことにより、車や自転車のモビリティシェアリングが都市部を中心に拡大しました。
スマホで手軽に予約、支払いができる便利さも相まって、利用者数は増加の傾向にあります。

大気汚染が原因で、コロッセオやトレヴィの泉を始めとする歴史的建造物への汚損被害が深刻なローマでは、
2024年までにディーゼル車の乗り入れが禁止されることになりました。
市内の大規模な交通規制を見据えて、ローマ市内でも多くのモビリティシェアリング事業者が進出しています。

参考:
ローマ市がディーゼル車にダメ出しする理由 2024年までに中心部への乗り入れを全面禁止
A New Era of Car-Sharing | SHARE NOW

1-2.教育カリキュラムにSDGsを追加

2020年、イタリア政府は世界で初めて、SDGsを学ぶカリキュラムを学校教育に取り入れる法律を施行しました。
小学校〜高校までの学齢期の子供を対象に、年間最低33時間以上の履修を義務付けています。

同様に、学齢期の子供のためのユニークな取り組みとして注目されたのが、
WWFイタリアによる街の緑化コンテスト「CONTEST URBAN NATURE」です。
都市部に暮らす子供たちが、街の緑化プロジェクトを企画。
企画をコンテストに応募し、実際に実行するこころみです。

参考:
Educazione ambientale: i nostri progetti nelle scuole | WWF Italia

コラム:イタリアの環境問題への取り組みは幼稚園でも始まっている

画像:筆者撮影。
リサイクルについて学ぶ授業がイタリアの幼稚園で行われた。
写真は授業で使用した絵本『すてきなリサイクル』と、食べ終わったアイスの棒を使ったスマートフォンラック。

自治体によっては、幼稚園から環境保護やリサイクルに関する授業を行っています。
筆者が住むイタリア・トスカーナ州北部の自治体では、2022年に清掃局の特別講師「ERSU先生」を招き、
幼稚園でリサイクルについての授業を行いました。以前、ゴミをその辺に放置することがあった子供も、
リサイクルについて学んだあとはゴミ箱にきちんと捨てているようです。

1-3.プラスチック商品の削減

海洋を汚染するマイクロプラスチック問題を受けて、2011年から始まったのが、スーパーの袋に関する規制です。
プラスチック製に代わり、生分解性の袋か紙袋を使用することが定められました。

2018年のG7シャルルボワ・サミットで採択された「海洋プラスチック憲章」にイタリアも署名したことを皮切りに、国内でプラスチック製品の削減が叫ばれるようになりました。
同年、イタリア政府はスクラブ洗浄料、歯磨き粉など主に化粧品原料へ用いられている、マイクロプラスチックの使用を禁じています。
メーカーは、マイクロプラスチックの代替として、アーモンドやくるみの殻を粉砕した原料を用いた商品を販売することを求められました。
また、生分解性の低い素材として、政府は綿棒に用いられるプラスチックも問題視。
同様に製造・販売が禁じられてからは、紙素材の綿棒が市場の主流になっています。

さらに、2021年にEU議会で議決された、プラスチック製カトラリー類の使用禁止法案を受けて、
2022年には、皿やコップなどのプラスチック製カトラリー類の製造も禁止されました。
現在は、生分解する紙製や竹粉製のものが市販されています。

参考:
海洋プラスチック憲章(JEAN 全文仮和訳)
【国際】G7シャルルボワ・サミット、海洋プラスチック憲章発表。日本と米国は署名せず | Sustainable Japan
プラスチック製ストロー使用禁止 | 経営コンサルティング会社の株式会社マイティータンク|経済産業省認定の経営革新等支援機関|証券アナリスト、中小企業診断士が中小企業の問題解決をサポート
プラスチックを取り巻く国内外の状況
日本人のプラごみ廃棄量は世界2位。世界の「脱プラスチック」の動き | 日本財団ジャーナル

2.イタリアのSDGs取り組みの背景にある社会問題


環境汚染や食料廃棄など、抜本的な対策を行わないまま放置されてきた様々な問題の解決が、イタリアでは急務となっています。
SDGs目標達成のために動き出したイタリア社会の裏側には、どんな問題があるのでしょうか。
ここからは、イタリアが抱える社会問題について解説します。

2-1.都市部で深刻化する大気汚染問題

日本自動車工業会の調査によると、イタリア国民の2020年度自動車保有率は世界3位です。
山岳地帯が多く公共交通網の整備が難しい事情もあり、1.3人あたり1台と高い保有率になっています。

そういった習慣化されている車の利用が、70年代から続く深刻な大気汚染の一因となっていると問題視されてきました。
特に深刻な汚染が報告されているのはミラノ、トリノなどの北イタリア都市部を中心に、
フィレンツェ、ローマ、ナポリなどイタリア半島内の大都市圏が挙げられます。

参考:
世界生産・販売・保有・普及率・輸出 | JAMA – 一般社団法人日本自動車工業会
宇宙からでもくっきり、イタリア北部の大気汚染

2-2.溢れるゴミ問題

イギリスのリスク分析会社、Verisk Maplecroftの調査では、2019年の世界ゴミ排出量のワーストランキングで、イタリアは13位にランクインしました。
ゴミ排出の規制が厳しくなるEU諸国内では、ドイツ・フランスに続く3位という結果です。

ゴミの排出量が多い理由は、ゴミ処理をめぐる複雑な利権問題に加え、ゴミ処理場を建設するのが難しい事情も相まって、回収や処理が遅れる状況が続いているからです。
ミラノ、ローマ、フィレンツェ、ナポリなど、人口や観光客が集中する大都市では、観光客が落としていくゴミの量も膨大。
観光シーズンとなる春〜夏にかけて捨てられるゴミに対し、処理が追いつかない状況で、自治体の財政を圧迫する頭の痛い問題となっています。

参考:
US Tops List Of Countries Fuelling The Mounting Waste Crisis | Maplecroft
食料廃棄問題への取り組みが進むミラノにて、ゼロ・ウエイストの店めぐり – NewSphere | Signpost
世界の国々のごみ問題への対応とは?

2-3.海洋汚染問題

イタリアをはじめとする地中海沿岸諸国では、4000~5000人を収容可能な大型客船による地中海クルーズ観光が盛んです。
クルーズ船の航行中に起こる大波で周辺海域の施設が破損したり、海洋へ投棄される汚染物質が問題視されています。

そんな中に起きたのが、2012年の豪華客船コスタ・コンコルディア号座礁事故でした。
座礁した海域は、地中海でも屈指の規模の海洋保護区です。座礁船からの重油流出による海洋汚染被害、沿岸漁業への影響が危ぶまれる中、船を所有する運行会社は汚染防止対策のため、400億円を投じて重油回収を行ったと報道されています。

さらに2019年、イタリア環境保護研究所はイタリア沿岸海域の汚染状況レポートを発表しました。「国土沿岸の地中海海域に投棄される海洋ゴミの70%以上がイタリアから排出され、そのうちの75%はプラスチック製品で占められている」という衝撃的な調査結果の元に、海洋汚染が深刻な社会問題として認識されています。

参考:
海洋汚染が深刻なイタリアで、コロナ「ロックダウン後」に起こった意外な変化(佐藤 まどか) | 現代ビジネス
Mediterraneo, un mare di plastica. Il rapporto ISPRA – Gift
伊座礁船引揚げ開始、海草の再生が課題 | ナショナル ジオグラフィック日本版サイト
Out of the plastic trap. Saving the Mediterranean from plastic pollution
Italia, il Paese europeo con più inquinamento da navi da crociera – la Repubblica

2-4.フードロス問題

「食」をテーマにした2015年ミラノEXPOをきっかけにして、イタリアでもフードロスに注目が集まるようになりました。

イタリアのフードロス監視団体「食料における国際ゴミ観測所」の調査によると、
イタリア国内の食品廃棄は、2022年で約90億ユーロ(約1兆4200億円)、2023年では約64億ユーロ(約1兆220億円)にのぼります。

週に1度、大量に「まとめ買い」をする人が多いイタリア。上記の調査では、
廃棄率が高い食品として最も問題になっているのが果物です。
次いで、サラダに使われる葉物野菜やイタリア料理に欠かせないニンニクと玉ねぎが、廃棄野菜になりがちだと指摘されています。

参考:
Spreco alimentare, gli italiani sono sempre più virtuosi.
Il “caso Italia” 2023: vale oltre 9 miliardi € lo spreco di cibo in Italia. La nuova indagine Waste Watcher racconta anche i consumi degli italiani.

コラム:フードロスに対応したイタリアの「廃棄規制法」
困った人に積極的に手を差し伸べる、カトリックに基づいた宗教的価値観が文化の根底に流れているイタリアでは、
「食品寄付」制度が古くから根付いています。
しかし以前は、賞味期限をすぎた食品を寄付することが禁じられていました。

そこで政府は、ミラノEXPO後の2016年より「廃棄規制法」を施行。大幅に規制を緩和した結果、
個人のみならず法人からの食品寄付に、手続きの簡略化や税金の優遇が適用されることになりました。

3.SDGsに力を入れるイタリア企業5選

イタリアの産業界でも、SDGsの取り組みをメインにしてビジネスを展開する企業が増えてきました。
ここからは、食品メーカーやアパレルなど、各業界で注目される取り組みを行う企業をご紹介します。

3-1.世界中に植樹して環境負荷を低減 【ツリーダム】


画像出典:Treedom: Progetti, Dipendenti e Clientiより

フィレンツェ発の「ツリーダム」は、「地球緑化」をモットーに立ち上げられた世界中に植樹するためのプラットフォーム企業です。

CO2削減や緑化などの環境対策だけでなく、育てた木を木材として利用したり、
その果実を売買に充てたりすることで、地元の労働環境改善や経済発展に寄与する仕組みが話題を呼んでいます。
全てインターネットで植樹が完結でき、一般の人も法人でも、簡単にSDGsに貢献できる取り組みとして人気です。

植樹は同社のホームページから行えます。
植樹する国、植樹する木の種類を選び、植樹1本につき10,90ユーロ〜/月、で料金を払うサブスクリプション形式です。
決済完了後、購入した木が現地の農家によって植樹され、植樹場所や成長の様子がツリーダムのページで確認できるようになっています。

参考:
EU復興基金の投資計画、SDGsとも連関、気候変動に重点(イタリア) | 欧州で先行するSDGs達成に寄与する政策と経営 – 特集
Scegli l’abbonamento che fa per te su Treedom

3-2.世界初のサステナビリティボンドを発行 【Enel】


画像出典:Azienda | Enel.itより

電力でイタリア最大手のEnelは、ローマに本社を置く世界有数のエネルギー供給企業です。
同社は、SDGsの目標達成度に応じて、金利が変動する仕組みのサステナビリティボンド(債権)を世界で初めて発行し、注目を集めました。

また、風力や太陽光などによる、クリーンエネルギー供給事業にも注力しています。
2022年現在、総エネルギー生産量中、風力発電などによるクリーンエネルギー比率を40%までに押し上げました。
他にも、自動車産業と連携し、電動自動車の開発や普及を支援。これに伴い、イタリア全土へのEV充電器設置を推進しています。

参考:
【イタリア】エネル、サステナビリティ・リンク・ボンドで680億円、同ローンで1250億円調達
欧州の電力大手エネル、電動モビリティーへ積極投資 – 日本経済新聞
サステナビリティ・リンク債とは?仕組みと他のESG債との違い

3-3. ワイン副産物がエネルギー源に 【Caviro】


画像出典:Bioenergia e compostより

CAVIROは、イタリア最大手のワインメーカーで、イタリア全土のワイン生産量のうち10%は、同社の製品です。

CAVIROでは、主力商品のワイン生産過程で排出される、ブドウの残滓や廃棄用副産物などの再利用事業を展開。
ブドウ由来の天然色素やエタノール抽出、残滓をバイオマスエネルギー源として販売しています。

同社全体の2023年売上約580億円のうち、上記の再利用事業売上額は約200億円(全体の35%)に達し、売上高の重要な位置を占めています。

参考:
世界屈指の循環型経済モデルを確立したイタリアNo.1ワイナリー、カヴィロ ――サントリー ワイン事業サステナビリティ活動方針説明会②
Economia Circolare e Sostenibilità certificata | Caviro

3-4. イタリア発!海を守る繊維エコニール 【AQUAFIL】


画像出典:Azienda Leader dal 1965 | Gruppo Aquafilより

AQUAFILはイタリアの繊維メーカーで、80年代の創業から、再生素材に着目し化学繊維を開発しています。
中でも非常に注目を集めているのが、同社が開発したエコニールというリサイクルナイロンです。
日本でも、取り扱う企業が出始めています。

エコニールは、古い魚網や絨毯を原材料として使用しています。
特に、海洋汚染が深刻なイタリアの海を守るため、注力しているのは魚網の回収です。
イタリア全土の漁業関係者から回収するだけでなく
、専用のダイバーを使って海底から回収したものも利用し、海洋環境の改善に取り組んでいます。

こうした取り組みが評価され、PRADAやGUCCI、ARMANIなど、
世界的に有名なアパレルブランドもこの繊維に着目し、サステナビリティな商品を作り出しています。

参考:
Azienda Leader dal 1965 | Gruppo Aquafil
Prada Re-Nylon
【公式】株式会社ウィード|伊Aquafil S.p.A.とMOUを締結 ~サステナブルな作業用手袋を拡充~
ナイロン循環リサイクルに関するAquafil社への資本参画について
KANEMASA サスティナブル素材の”エコニール”を使用したアイテムを2022年秋冬シーズンより展開

3-5. 動物性素材不使用のジャケット 【SAVE THE DUCK】


画像出典:Save The Duckより

動物、環境、人に配慮した製品作りを掲げ、ミラノで創業されたアパレルメーカーが「SAVE THE DUCK」です。

これまで、イタリアのアパレル業界では防寒用ダウンジャケットに水鳥の羽が多く使われてきました。
動物愛護と環境保全の観点から、同社は羽毛に替わるオリジナル素材を開発。
主力商品のジャケットは、リサイクルペットボトルから作られた原料を元に作られています。

長期使用への耐久性、家庭で洗濯可能な手入れの簡単さが受け入れられ、若い世代を中心としてイタリアで人気を集めています。
また、イタリア企業として初の、Bコープ認証(公益性が非常に高い企業に対して与えられる、アメリカ発祥の国際認証制度)を受けました。

参考:
Save The Duck
羽毛は使いません 注目集めるサステナブル・ファッションとは | NHK・SDGs 未来へ17アクション
世界標準「B Corp」を知っていますか アジアで広がる「良い会社」認証:朝日新聞GLOBE+

コラム:国産コオロギ粉はイタリアSDGs達成のカギになり得るか?

画像出典:Italian Cricket Farmより

気候変動や環境悪化による食糧危機に備えるべく、EUではコオロギ粉入りの食品を販売することを段階的に許可しました。
畜産物や海産物に比べてCO2排出量が少なく、少量の飼料で養殖可能など、SDGs達成のためのメリットが多いと言われています。

そんな中、イタリアで注目が集まったのはトリノにある「イタリアンクリケットファーム」社。
自社で養殖した国産コオロギを、粉末にして販売している会社です。

コオロギ粉の味は「ヘーゼルナッツのような香ばしい味」「高いタンパク質含有量でヘルシー」という評価を得ています。
一方で、食に保守的なイタリア人のほとんどが「受け入れがたい」と拒否反応を示している、という報道もありました。

さらに、コオロギ粉は1kgあたり70~80ユーロと高価で、これを原料とする食品も決して求めやすい価格とは言えないため、
国内での消費は今ひとつ、進展しない状態です。

参考:
https://news.nissyoku.co.jp/column/suzuki20230613
https://foodculture.tiscali.it/ritratti/articoli/chi-e-chef-murdocco-e-perche-tutti-insultano-pane-e-grissini-con-grilli/

まとめ:イタリアのSDGs取り組みにはビジネスのヒントがある

イタリアのSDGs取り組みは、他のEU諸国と比べると一見、進捗が遅いように見えるかもしれません。
しかし、物事にじっくり時間をかけて取り組み、地域や人に浸透させてから次世代へ伝える、というプロセスを重要視するお国柄も関わっています。

また、サステナビリティボンドや繊維など、イタリアから世界初のSDGs取り組みが始まっているものもあります。
社会問題を解決したいという動機が、大きなビジネスを生み出す種になった好例と言えます。

ビジネスの視点からも注目してみると、SDGs達成に貢献できる製品作りのヒントが掴めることでしょう。

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