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2023.03.13

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空港のSDGs達成の取り組みとは?関西3空港の事例と抱える課題

近年、SDGsを達成するためにESGに配慮した経営や施策を行う企業が増えてきました。空港もそのひとつで、SDGsに関するさまざまな取り組みがなされています。

また、ヨーロッパでは、二酸化炭素排出削減と地球温暖化防止のため、飛行機を利用しない人々が増えていると言われています。そこから見えてくるのは、空港に多くのSDGsの課題があるということです。

そこでこの記事では、関西3空港(関西国際空港、大阪国際空港、神戸空港)でなされている、SDGsに対する取り組みを紹介します。空港が抱える課題だけでなく、SDGs達成のため私たち一人一人ができるアクションのヒントを探してみてはいかがでしょうか。

1.環境問題に関するSDGsの課題・二酸化炭素排出量をゼロに

2050年までに、二酸化炭素排出量の実質ゼロを目指している関西3空港。

二酸化炭素排出量の削減は、SDGsの以下の目標を達成するものです。

・「7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに」
・「13.気候変動に具体的な対策を」

空港が排出する二酸化炭素量を減らすことは、ESGの「環境」に特化した経営方針と言えるでしょう。また、過剰に増加した二酸化炭素は地球温暖化の原因となっており、深刻な問題です。地球温暖化防止のためには、二酸化炭素の排出量を減らすことが重要です。

関西3空港では、環境問題解決に関するさまざまな取り組みを行っていますが、ここではその一部を紹介します。

<SDGsが掲げる17の目標とESG>
SDGsとは、貧困や格差、気候変動など世界のさまざまな課題を根本的に解決し、2030年までに持続可能でより良い世界を目指す国際目標のことです。地球環境や人権、経済、社会などさまざまな分野に関する17の目標と、それを達成するための具体的な169のターゲットから成り立ちます。

一方、ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の観点からなる経営のことです。ESGに特化した経営を行うことで、SDGsの目標達成に貢献できるでしょう。

参考:日本ユニセフ協会「SDGs17の目標」

1-1.再生可能エネルギーの活用

関西3空港では、再生可能なエネルギーを活用して二酸化炭素排出量削減に貢献しています。

再生可能エネルギーとは、太陽光や風力、地熱、水力、そしてバイオマスなどを活用したエネルギーで、二酸化炭素を排出しません。関西国際空港と大阪国際空港は、太陽光発電と水素によるエネルギーを生み出しています。

1-1-1.関西3空港で太陽光発電を導入


画像出典:「関西3空港でのSDGsへの取り組み」公式サイトより

関西3空港では、太陽光発電を導入しています。

例えば、関西国際空港には、「メガソーラー」と呼ばれる大規模な太陽光発電施設があり、成田空港A滑走路とならんで日本一長い滑走路がある人工島・2期島や第2ターミナルビル屋上にソーラーパネルが設置されています。

太陽光発電で作られた電気を活用することで、年間8,600トンの二酸化炭素削減が可能となります。これは、杉の木約60万本が1年かけて吸収する二酸化炭素量に相当するので、二酸化炭素排出量削減に大きく貢献していると言えるでしょう。

1-1-2.関西国際空港と大阪国際空港に水素ステーション設置


画像出典:「関西3空港でのSDGsへの取り組み」公式サイトより

関西国際空港と大阪国際空港には水素ステーションが整備されており、水素由来のエネルギーが生産されています。

生産された水素エネルギーは、燃料電池業務車両やバスに利用。関西国際空港の貨物上屋では水素で走る燃料電池フォークリフトが22台設置されています。

さらに、水素エネルギーを燃料とする航空機を日本で運行するために、エアバス社と連携し必要なインフラ整備を検討中です。この取り組みが成功すれば、日本ではじめて水素で航空機を飛ばせることになります。

ちなみに、神戸空港では民間企業による水素活用に関する調査中で、神戸空港の二酸化炭素削減に向けて実験を行う予定です。

参考:関西エアポート株式会社「エコエアポートについて学ぼう」

こちらの記事もチェック!
【モビリティ×SDGsシリーズVol.4】SDGsコンサルタント 針生氏登壇 有名ホテルや日系航空会社のSDGs・ESGの取り組みを解説!

2.省エネルギーと再生可能エネルギーを活用したSDGsに関する取組み

電気などのエネルギーを生み出すときに排出される二酸化炭素を削減するには、使用するエネルギーを減らすことも大切。また、省エネもSDGsの目標7と13を達成するのに有効です。

次からは、省エネに関する取り組みを紹介します。

2-1.関西国際空港でビルエネルギー管理システム「BEMS」導入

関西国際空港では、ビルエネルギー管理システム「BEMS」を導入。エネルギー使用量を可視化し、分析を行い、効率よくエネルギーが使われるよう最適化を図っています。

BEMSの導入は、機器の効率の良い運用だけでなく、トラブルの早期発見にも効果的です。
例えば、BEMSを用いてデータを分析したところ、エネルギー消費が最も大きかったのは第1ターミナルの空調機器でした。そこで、機器などを更新したところ、2018年の電気使用料を昨年度比1.6%削減できました。

大阪国際空港と神戸空港も2022年現在、BEMS導入に向けて準備を進めています。

参考:ニュースイッチ「他の空港のモデルケースになる!関西エアポートが進む温室効果ガス排出ゼロへの道」

2-2.高度な空調技術による空調エネルギー削減

関西国際空港は、第2ターミナルの省エネ空調システムの実証実験を実施。これは、環境省の委託業務で、神戸大学と共同して環境負荷を軽減しSDGsの目標達成に貢献しています。

センサーやカメラを用いて情報を計測するセンシング技術や、AIを活用した高度なAIスマート空調で、空調に使用するエネルギーを50%削減することが目的です。

参考:関西エアポート株式会社「産学連携による省エネ空調システムの実証試験」

2-3.飲食店の廃食用油をSAF原料として供給

2022年6月、関西3空港は日揮ホールディングス株式会社及び、株式会社レボインターナショナルと基本合意書を締結。これは、関西3空港内の飲食店から排出される廃食用油を、SAF製造事業向け原料として供給することが目的です。

SAFとはSustainable Aviation Fuel (持続可能な航空燃料)の略で、植物や廃油から作られる航空燃料です。従来の燃料と比べて二酸化炭素排出量を大幅に削減できるといわれており、国土交通省は2030年までに航空機の燃料使用料の10%をSAFに置き換えるという目標を掲げています。

この取り組みは、航空業界の世界的課題である二酸化炭素削減を背景としています。2025年に国内初のSAFの大規模商用生産を開始するため、基本合意書締結に至りました。

参考:関西エアポート株式会社「国内初となる持続可能な航空燃料」
環境省環境再生・資源循環局「持続可能な航空燃料(SAF)について」
国土交通省航空局「航空の脱炭素化推進に係る工程表」

2-4.空港内のゴミ排出量をカット


画像出典:「関西3空港でのSDGsへの取り組み」公式サイトより

ゴミを焼却するときには、大量の二酸化炭素が排出されてしまいます。そのため、ゴミを減らすことは二酸化炭素排出量削減につながると言えるでしょう。
関西3空港は、どのようなゴミ削減の取り組みをしているのでしょうか。

2-4-1.関西国際空港と大阪国際空港で生ゴミ焼却量を削減

関西国際空港と大阪国際空港の食堂に、燃やさずに生ゴミを処理できる機器を導入しました。
この生ゴミ処理機は、生ゴミを微生物の力によって生分解するもの。生ゴミを運ばずにその場で燃やすことなく処理できるため、二酸化炭素排出量を削減できるだけでなく、ごみ処理の労力も削減可能です。

この生ゴミ処理機は、今後、ターミナルビル内の飲食店やテナントにも導入する予定です。

参考:関西エアポート株式会社「関西国際空港・大阪国際空港・神戸空港 環境レポート2021」

2-4-2.関西3空港でプラスチックゴミの削減

製造過程や焼却時に大量の二酸化炭素を発生させるプラスチック。関西3空港では、プラスチックの使用とプラスチックゴミ削減のために、さまざまな対策を講じています。

例えば、ショッピングバッグは適切に管理された森林でできた製品や木材などに与えられるFSC認証のついた紙製のバッグを使用。飲食店で提供するストローやカップ、マドラー、カップホルダーはプラスチックではなく紙製または木製のものへと切り替えました。

「従業員ノーペットボトルデー」を設けたり、無料給水機を設置し、マイボトルに水を詰められるようにしたりして、ペットボトル飲料の購入を減らす対策にも取り組んでいます。

参考:関西エアポート株式会社「関西3空港でのSDGsへの取り組み」

2-4-3.関西国際空港では不用となったスーツケースをリユース

多くの外国人訪日観光客が利用する関西国際空港では、新しいスーツケースを購入し中身を詰めた後、古いスーツケースを空港に放置していくということが度々みられるようになりました。

これらのスーツケースは、まだ使えるものが多いため、関西国際空港ではスーツケースのリユースを開始。使わなくなったスーツケースやバッグを無料で引き取り、中古販売業者へ売却しています。

関西空港第1ターミナルビル国際線出発フロアの「手荷物一時預かりカウンター」で受け付けており、航空券とパスポートを提示し、所有権放棄同意書に署名をすれば、引き取ってもらえます。

参考:Sankei Biz「放置スーツケースを再利用 オリックス環境、関空で無料引き取り」

3.暮らしやすい街づくりでSDGs目標11達成に貢献

SDGsには「11.住み続けられるまちづくりを」という目標もあります。

空港周辺は騒音問題に悩まされることもあるため、この目標を達成するための取り組みは不可欠でしょう。そのため、関西3空港では、空港周辺が「くらしやすいまち」となるよう、ESGの「社会」の観点からさまざまな取り組みを行っています。

3-1.住宅や学校など防音工事の費用助成

航空機の騒音は、空港近隣に住む住民にとっては深刻な問題です。関西3空港の中では特に、大阪国際空港が騒音問題の解決に力を入れています。

大阪国際空港は市街化が進んだ地域にあるため、過去(1964年6月ジェット機乗り入れ開始)には、大阪国際空港の廃止などを求める訴訟や調停問題となったことがありました。
空港と周辺住民との共存のために、防音工事を行う場合は、費用のすべて、または一部を空港が負担しています。

国土交通省の告示によって、騒音レベルが75WECPNL以上と指定された第1種区域にある住宅や学校、病院で防音工事を行う場合は、騒防法第8条の2に基づいて費用を負担します。

参考:関西エアポート株式会社「大阪国際空港 環境対策事業」
関西国際空港「空港建設への合意形成」

3-2.関西国際空港と大阪国際空港が開催する出張授業・空港見学会


画像出典:「関西3空港でのSDGsへの取り組み」公式サイトより

関西国際空港と大阪国際空港は、空港周辺に住む子どもたちの空港や航空機への関心や理解を深めることを目的として、出張授業や空港見学会を開催しています。

例えば、夏休みに開催している「関西国際空港 親子環境ツアー」では、再生可能エネルギーの発電設備や環境への負荷を軽減したゴミの処理場などを見学するなどして、関西国際空港が実施している環境への取り組みを学べます。

その他、空港周辺10市に住む小・中学生とその保護者が参加可能な、機内食工場をはじめとした空港の施設を見学する「わくわく関空見学プラン」、航空機や化学消防車などを見学できる「滑走路ウォーク」など、子どもだけでなく大人も楽しめるイベントも。

子どもたちに学び体験する機会を提供することで、将来の航空業界を担う人材育成に繋がるかもしれません。

参考:関西エアポート株式会社「共生・共育 | 関西国際空港」 /
「KIX-ITAMI-KOBE イベントニュース」 /
「お知らせ一覧 | 関西国際空港」

4.地域に住む人々とのパートナーシップでSDGsの目標達成を目指す

SDGsで掲げられた目標を達成するためには、政府や自治体など公的機関や民間企業などと協力しあうことが大切です。実際に、SDGsでは「目標17. パートナーシップで目標を達成しよう」を掲げています。

最後に、目標17に加えて、

「目標5.ジェンダー平等を実現しよう」
「目標8.働きがいも経済成長も」
「目標10.人や国の不平等をなくそう」

にも該当する、関西3空港と地元の人たちと共同で行っている取り組みを紹介します。

日本では、東京に人口が集中しており、地方の人口減少が問題となっています。次から紹介する農業の活性化や雇用の創出は、地元民の県外への流出を防ぎ、人口減少問題の解決に繋がるでしょう。

4-1.関西国際空港による地元農業の活性化


画像出典:PRTIMES「【ホテル日航関西空港】泉佐野産(もん)を使用した新たなメニューを提供~酒粕と組み合わせて、コロナに負けない創作メニュー~」より

関西国際空港内にある「ホテル日航関西空港」は、地元・泉佐野市と連携して地元農家への支援を図っています。

松波キャベツや水ナス、泉州タマネギなど、泉佐野で採れる農産物を使用したメニューを考案し、ホテル内のレストランで提供しています。2022年には、大阪樟蔭女子大学の学生が、泉佐野産の農作物をアピールするために、同ホテルと連携してメニューを開発。同年2~3月の間にホテル内のレストラン「ザ・ブラッスリー」の土・日・祝の食べ放題メニューで提供されました。

この取り組みは、国内外から訪れる人々に地元食材の魅力を伝えられる、地元の農業が活性化するなどの多くのメリットが得られるでしょう。

参考:Digital PR Platform「【大阪樟蔭女子大学×泉佐野市×ホテル日航関西空港】女子大生が泉佐野産の松波キャベツを使った創作メニューを開発~ホテル日航関西空港内レストランでメニュー提供~」
PRTIMES「【ホテル日航関西空港】泉佐野産(もん)を使用した新たなメニューを提供~酒粕と組み合わせて、コロナに負けない創作メニュー~」

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4-2.関西3空港では地域の雇用機会創出に貢献

関西3空港内では、雇用機会創出に貢献しています。2017年度2018年度の調査によると、3空港合計で約500社、2万4000人が空港でのビジネスに携わっており、空港内の勤務者のうち約80%が地元地域に住んでいます。

2025年大阪・関西万博開催に伴い、空港利用客は増加する見込み。そのため、今後も雇用機会は増えることが予想されます。

参考:関西エアポート株式会社「パートナーシップ」

4-3.誰もが働きやすい環境づくり

年齢や性別、国籍が異なるさまざまな人々が勤務している関西3空港。多様な従業員それぞれが、能力を最大限発揮できるよう、さまざまな制度が設けられています。

【主な制度】
・障がい者雇用の法定雇用率達成
・女性管理職比率の引き上げ
・フレックスタイム制度コアタイム解除(育児、介護、通院などの事情がある方向け)
・テレワーク導入
・男女ともに育児休業取得の推奨
・外国人社員のサポート

個人の多様性を尊重し、従業員一人一人が働きやすい組織づくりに取り組んでいます。

参考:関西エアポート株式会社「共生・共育」

まとめ:関西3空港のSDGsの取り組みをヒントにビジネスを広げよう

関西3空港で実施されているSDGsに関する取組みは、多岐にわたります。その一つひとつをひも解いていくと、空港ではどのような課題を抱えているのかが見えてきます。

エネルギー生産やゴミ処理などによる二酸化炭素排出量削減は、地球温暖化防止対策ですし、地域の雇用創出や農業活性化の背景には、空港を支える地方の人口減少を食い止めたい、という思いがあるためでしょう。

世界や地域が抱える課題に対して、何か貢献をしたいという方にとっては、関西3空港の取り組みをヒントに、小さなことから始めてみてはいかがでしょうか。例えば、ゴミ削減のためにペットボトル飲料を購入しない、という小さなことから始めてみても良いでしょう。

続けていくうちに、新たなビジネスアイディアが湧いてくるかもしれません。

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