ウェビナーレポート

2022.09.13

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【モビリティ×SDGsシリーズVol.4】SDGsコンサルタント 針生氏登壇 有名ホテルや日系航空会社のSDGs・ESGの取り組みを解説!

「モビリティ×SDGsシリーズ Vo.4  DGs専門家 針生氏登壇 有名ホテルや日系航空会社のSDGs・ESGの取り組みを解説!」ウェビナーが2022年6月23日に開催されました。

旅行業界や観光業界のSDGsへの取り組みについてお話していただいた今回のウェビナー。SDGsに対する日本人の関心について説明していただいたほか、消費者や社会がどう変化していくかを予測していただきました。そのため、会社経営や商品企画などに携わっている方にとっては、戦略を練る際にヒントとなる内容です。具体的な導入事例の紹介もありますので、サステナビリティに興味はあるけれど、どのように行動を起こしたらよいのかわからないという方にも参考になるでしょう。

目次

登壇者情報

Sustineri株式会社 代表取締役 針生 洋介
大学院で気候変動政策を研究後、シンクタンクにてカーボン・オフセットなど気候変動関連政策の運用や普及啓発等に従事。
その後コンサルティング会社で企業の温室効果ガス算定やESG・サステナビリティ関連の支援業務に従事。2021年にSustineri株式会社を設立。

株式会社トップレップ セールスマネージャー兼シニアコンサルタント 西ヶ花 竜希
2015年 日本初となる「出張管理専門コンサルティング事業」立ち上げに参画。
セールス兼コンサルタントとして、国内外企業の出張管理構築コンサルティングを推進。
2018年 株式会社コンカー主催、App Center Partner Award受賞。
以降は伸長する国内外企業の出張コストプランニング、DX移行、出張管理BPOを中心に展開。
2020年からは、特にwith/afterコロナの出張管理構築に向けて、安全管理体制構築、DX移行、ESG調達など、多方面で支援を展開中。

株式会社AIトラベル COO 藤本 了甫
2007年、大学卒業後に製造業に未経験で経理部原価計算担当になる。
その後、外資系・日系・スタートアップでコーポレートを中心に業務改善を行ってきた。
スタディプラス株式会社管理部部長を経て、2020年AIトラベルにジョイン。

1.旅行 × SDGs に関する消費者の意識 Sustineri株式会社 代表取締役 針生 洋介氏

欧米の消費者は日本人消費者と比べてSDGsに関する意識が高いと言われています。実際に、どの程度高いのか、また日本の消費者がSDGsに対してどれほど関心があるのかを数値で示して解説します。

1-1.消費者のSDGsに対する意識(日本 vs 海外)

まず、日本と欧米のSDGsに関する意識の違いを見てみましょう。このスライドは、日本、スウェーデンそしてドイツ3カ国の消費者のSDGsに対する意識を調査した結果です。

SDGsは非常に重要だと考える日本人は約20%ですが、スウェーデンとドイツは30%程の人々がSDGsは非常に重要だと考えています。また、日常生活においてSDGsを意識した行動は、日本4.3%に対して、スウェーデンとドイツは約12%という結果になりました。

もちろん、日本にもSDGsが大切だと考える人や実践している人はいらっしゃいます。しかし、その割合は他2ヵ国に比べてまだまだ少ないですね。

スウェーデン・ドイツはヨーロッパの中でもSDGsに対する意識が高い国でして、それらの国々に比べると、日本はSDGsや環境に関する考え方が3~5年ほど遅れているようですね。とはいえ、数年ほど経過すれば、現在よりもSDGsへの注目が集まり、スウェーデンやドイツと同じくらい意識が高まると思われます。

1-2.旅行中のSDGsに関わる行動の実施状況(日本 vs 海外)

では、SDGsへの関心や意識が高いスウェーデンとドイツの消費者が、旅行中にどのような行動をしているか見てみましょう。次のスライドの青い枠で囲った部分が、多くの旅行者が環境に配慮して実施していることです。

・歯ブラシ、ブラシ、化粧品はなるべく持参する
・連泊時にシーツやタオルなどの取り替えや部屋掃除を辞退
・スリッパやパジャマはなるべく持参する

……など、なるべくホテルのリソースを使わない旅行者が増えてきています。日本でこのような取り組みをしている旅行者は、まだ少ないようです。しかし、3~5年後にSDGsへの関心が高まることにより、スウェーデン・ドイツの旅行者と同じような行動を取る日本人旅行者が増えるだろうと予想しています。

1-3.SDGsを重視したツアーや旅行商品・サービスの購入意向

SDGsに対する意識は、商品購入の意向にも現れています。次の表は、SDGsを重視したツアー・旅行商品が、SDGsを重視しない商品よりも価格が高くても購入したいかを調査した結果です。

意識調査の結果を見ると、価格が高くても、カーボンオフセットや再生可能エネルギーの活用をしているツアーや旅行商品を選びたい方が多いようです。

商品の価格が10%以上高くても購入したいと考えている方が36%、5%以上高くても購入したいという方は66%いらっしゃいました。

1-4.「サステナブル・トラベル」に関する調査結果(日本)

では、日本人消費者は、環境に配慮した旅行「サステナブル・トラベル」について、どう考えているのでしょう。ホテル予約サイトを運営する旅行代理店「Booking.com」が実施したサステナブル・トラベルに関する調査結果を紹介します。

【サステナブル・トラベルに関する調査結果】
・「旅行において、サステナビリティが非常に重要だ」と回答した方は82%
・「サステナブルな旅は自身にとって重要である」と回答した方は73%
・「旅先で『より環境に優しい交通手段を利用したい』」と回答した方は65%

日本においてもサスティナビリティへの意識や配慮が高まっていると言えます。そのため、観光・旅行業の方は、消費者の興味や関心に即したサステナブルな取り組みを行うと良いのではないでしょうか。

2.旅行業界のSDGsに対する取組状況

旅行業界はどの程度、SDGsに取り組んでいるのか見てみましょう。

2-1.業種別SDGsへの取組状況

このスライドは、日本の企業がSDGsに取り組んでいるか否かを業種別に調査した結果です。

この調査によると、旅行業でSDGsに取り組んでいる企業は16%と他の業界よりも少な目です。そのため旅行業の企業は、SDGsに取り組むことで他の企業との差別化を測るチャンスではないかと思います。

2-2.観光産業がSDGsに取り組む効果

観光産業がSDGsに取り組むことで、どのような効果が得られるのか気になるかと思います。アンケート調査から見ていきましょう。

観光産業がSDGsに取り組むことで「ブランド力」「経営方針」そして、「認知度」が向上すると回答した企業の割合は、他の業種と大きな差は見られませんでした。
一方、「売上」「収益」「取引先」が増加すると回答した企業は、他の業界よりも上回りました。

この結果から、観光業はSDGsに取り組むことで、経営面に直接的な効果が見込めると思われます。

3.SDGsに対する取り組み事例(ホテル)

3-1.企業経営にとってのSDGsとは?

企業経営にとってのSDGsにはさまざまな考え方があると思いますが、私が考える企業経営にとってのSDGsは次の2つです。

・企業と世界をつなぐ「共通言語」
・将来における「リスク」と「機会」を探すためのツール」

①企業と世界をつなぐ「共通言語」
私は、企業と利害関係にある取引先や企業、お客様、従業員といったすべての方々が、SDGsに取り組むべきだと考えています。SDGsとは、2030年までに持続可能なより良い世界を目指す国際目標で、全ての方が関連する目標だからです。

そのため、SDGsは全てのステークホルダーと共通する言語となり得るのではないでしょうか。

②将来における「リスク」と「機会」を探すためのツール
温熱効果ガスの排出など、解決すべき社会課題に対して問題を引き起こす側になるのは、企業経営にとって重大なリスクとなり得ます。そのため、SDGsは何がリスクかを探るツールとなるでしょう。

逆に言うと、課題を解決するためのチャンスを探すツールにもなります。

3-2.【導入事例】ホテルニューオータニの取り組み

宿泊業界では、ホテルニューオータニがサステナブルな取り組みをしています。導入事例を詳しく見ていきましょう。

ホテルニューオータニは、もともと循環型社会を実現するべく環境対策に積極的に取り組んできました。2015年にSDGsが開始され、その後ニューオータニは「サステナビリティ・コミットメント」を策定、持続可能なおもてなしを目指しています。

次からは、サステナビリティ・コミットメントの内容を一部紹介します。

3-2-1.【取り組み1】カーボンニュートラル都市ガス(CNL)の導入

まず紹介したいのは、環境に配慮した「カーボンニュートラル都市ガス(CNL)」の導入です。

ニューオータニのような大きなホテルは、莫大なエネルギーを消費します。以前より、ニューオータニは、コージェネレーションシステムという電気を発電しながら、発電で生じた熱を回収し、有効活用していました。2020年10月からは、コージェネレーションシステムに「カーボンニュートラル都市ガス(CNL)」を導入。ホテル業界では初の取り組みです。

カーボンニュートラル都市ガス(CNL)とは、削減しきれなかった二酸化炭素などの温熱効果ガスを森林保護活動などに資金を提供して相殺する事です。天然ガスを採掘して利用し燃焼するまでに、多くの二酸化炭素が発生してしまいます。しかし、森林保護に資金を回せば、木々が育ち、排出された二酸化炭素を吸収してくれるため、排出量が実質ゼロになるというものです。

それにより、5年間で約35,000トンのCO2を削減できる見込みです。35,000トンはホテルニューオータニが1年間で排出するガスの量ですから、20%のガス排出量削減となるでしょう。

ニューオータニは、2021年に設立した「カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス」に参画しており、カーボンニュートラル社会の実現のイニシアチブを取っています。

参考:カーボンニュートラルLNG「カーボンニュートラルについて」

3-2-2.【取り組み2】食品ロス実質ゼロを叶える「コンポストプラント」

次に紹介するのは、コンポストプラントです。ニューオータニには37のレストランと33の宴会所があり、1日約5トンの生ごみが発生しています。ニューオータニのような大型ホテルなどは、かなり大量の食べ残しや生ごみが発生するのです。

それらの食品残渣や生ごみを有機たい肥に変えるため、1999年に「コンポストプラント」を導入しました。出来上がった有機たい肥は、契約農家に買い取ってもらい、そこで作られた野菜や穀物をニューオータニが仕入れ、メニューに使用しています。

ホテルで出たゴミを再利用し、サービスとして提供するすばらしい循環型の仕組みだと思いますね。

3-2-3.【取り組み3】廃棄物ゼロのサステナブルカクテル

バーやそこで提供されるカクテルは、廃棄物とは関連性がないと思われるかもしれません。しかし、ニューオータニのバーには、廃棄物を利用したたい肥で作られた果物を使用したカクテルがあるんです。

朝食でフルーツジュースなどを提供するために、大量の果物の皮などが廃棄されており、それらを再利用する取り組みを行っています。
例えば、果物の皮を発酵させて作ったシロップを使用したサステナブルカクテルなどです。

3-2-4.【取り組み4】無農薬の玄米飼料で育てた鶏から生まれた『玄米卵』

お客様がより安全な食事を楽しめる取り組みもしています。それは、農家と共同で開発をした「玄米卵」です。

無農薬の玄米飼料で育てた鶏が産んだ卵で、残留農薬などの心配がありません。ホテルで提供しているスイーツや朝ごはんには、この玄米卵を使用しています。

3-2-5.【取り組み5】“健康・環境配慮”の「ZENB」使用メニュー

健康だけでなく環境にも配慮した食材も使用したメニューを提供しています。その食材とは、ミツカングループのブランド「ZENB JAPAN」。

ZENB JAPANは、本来は捨ててしまう食物の皮や芯を使用したパスタやソースを作っています。これらを使用し、おいしいだけでなく健康や環境に配慮した「ZENBコラボメニュー」を開発しました。

3-2-6.【取り組み6】植物由来『大豆ミート』&『豆乳シリーズ』

最近は、牛肉の代わりに大豆から植物性たんぱく質を抽出してつくられる大豆ミートが出始めており、ニューオータニでも大豆ミートを使用したメニュー開発がされています。

牛肉などが問題になっているのは、地球温暖化の原因となっている温室効果ガスのうち、全世界の約14パーセントが畜産業から排出されているためです。特に牛肉を育てたり食品として加工する際に排出される温室効果ガスが多いと言われています。

他にも、植物由来バターや豆乳クリームを用いたスイーツやメニューを提供し、サステナブルなメニューとしてPRしています。

3-2-7.ホテルニューオータニの取り組みのポイント

ここで、ニューオータニの取り組みのポイントについてまとめます。取り組みは大きくわけて、「環境や社会に対してインパクトが大きい取り組み」と「新たな価値の提案(持続可能なおもてなし)」の二つです。

①環境や社会に対してインパクトが大きい取り組み
事業に対してインパクトが大きく環境負荷が低い取り組みです。
例えば、カーボンニュートラルガス、循環型リサイクルシステム、エネルギー効果が高い空調システム……などが該当します。これらは、取り組みの王道で、環境負荷の低減のコスト削減が見込めるでしょう。

ちなみに、カーボンニュートラルガスを導入したことで、実はコストが増加しました。しかし、それ以外はコスト削減が見込めます。

②新たな価値の提案(持続可能なおもてなし)
ひとつひとつの取り組みに大きなインパクトはありませんが、環境負荷の低減とブランド価値の向上が満たせる取り組みです。企業価値を上げる上では重要な施策であると言えるでしょう。

これらの取り組みは様々なメディアなどで取り上げられているので、PR効果は非常に高いと思われます。

4.SDGsに対する取組事例(航空会社)

次に航空会社の取り組み状況を見ていきましょう。紹介するのは、SDGs達成にむけた取り組みを積極的に行っている日本航空(JAL)です。

4-1.日本航空のサステナビリティへの取り組み

日本航空はESG(環境/Environment・社会/Social・ガバナンス/Governance)推進においてKPI(重要業績評価指標、ゴール達成までのプロセスの進捗を測る指標)を設けて、目標達成に向けて次の7つの取り組みに力を入れています。

1.省燃費可能な飛行機の導入
2.CO2排出量が少ない運航
3.CO2排出量を削減できる代替航空燃料SAFの導入
4.使い捨てプラスチック製品の削減
5.環境や社会に優しい製品の採用
6.地域活性化活動
7.CO2排出量を相殺できるJALカーボンオフセット

一つずつ見ていきましょう。

4-1-1.【取り組み1】省燃費機材への更新|省燃費可能な飛行機の導入

飛行機はフライトの際に大量のCO2を排出してしまいます。そのため、CO2の削減はJALだけでなく、航空業界全体において重要な課題です。

従来の飛行機に比べてCO2の排出量が少ないエアバスA350、ボーイング787を導入しました。それにより、CO2を15〜25%削減できると言われています。

省燃費な飛行機の割合を2025年までに86%に引き上げるべく、2021年~2025年の間に約8,500億円を投資する計画を立てています。

4-1-2.【取り組み2】CO2排出量が少ない運航 “JAL Green Operations”

飛行機は、運航の仕方によってCO2の排出量が変わります。そこで、JALはCO2排出量が少ない運航を実施。

例えば、
・燃料消費が少ない飛行計画を立てる
・定期的な内部洗浄を実施する
・貨物輸送の際に軽量コンテナを使用する
・機内で使用する水の量を減らすなどして、適正な量を搭載する

などです。

さらに、機内誌を減らすこともCO2削減に効果があり、このような一見小さな取り組みもJALは実施しています。

その結果、2019年は年間15.7万トンのCO2削減が実現しました。

4-1-3.【取り組み3】CO2排出量を削減できるSAF(代替航空燃料)の開発促進と利用

航空業界全体で取り組んでいるCO2削減方法の一つに、SAF(Sustainable aviation fuel/サフ)という代替航空燃料の利用があります。

SAFとは持続可能な燃料で、藻類などから作られたバイオマス燃料のこと。従来の化石燃料に比べて、CO2排出量が少ない燃料です。

SAFが占める燃料の割合はまだまだ少ないのが現状ですが、JALは2030年までには全燃料の10%をSAFが占めるよう計画を立てています。また、SDGs実現のために技術開発の推進・技術革新を行うNEDOを始め、さまざまな企業と協力して日本生まれのSAFを作る計画も進めています。

4-1-4.【取り組み4】使い捨てプラスチック製品の削減

資源枯渇の原因や海洋汚染に繋がるといわれている石油由来のプラスチック。JALは、このプラスチック製品の使用を2025年までに廃止し、航空や空港などで使用する製品の素材を天然素材や循環型素材に変えていく計画を立てています。

4-1-5.【取り組み5】環境に優しい製品の採用|原材料から確かなものを使いたい 

JALでは、製品を採用する際は環境や社会に優しい製品を積極的に選択しています。

その基準となるのが、世界的に認証を受けた製品であることです。

例えば、社会・経済・環境を強化する手法で作られた製品が認証されるレインフォレスト・アライアンスや水産資源や環境に配慮した漁業でとられたMSCなどが挙げられます。

4-1-6.【取り組み6】地域活性化への取り組み

JALは地域も重要な領域だと捉え、地域活性化の取り組み「JALふるさとプロジェクト」を実施しています。

JALふるさとプロジェクトとは、客室乗務員で構成された「JALふるさとアンバサダー」の活動のこと。その地域出身で土地に思い入れのある客室乗務員が選出され、新たな旅・移住スタイルの創出や提供をしています。

例を挙げると、ワーケーションや出張先で休暇を取るブリージャー、2拠点移住などのツアーなどです。

4-1-7.【取り組み7】オフセットできるしくみを提供|JALカーボンオフセット

フライトは、どうしてもCO2が排出されてしまいます。そのCO2を森林などで吸収や削減して相殺する仕組み「JALカーボンオフセット」を提供しています。

次からは、カーボン・オフセットについて説明していきましょう。

5.カーボン・オフセットについて

5-1.カーボン・オフセットとは

カーボン・オフセットとは、排出したCO2を相殺する仕組みです。

企業活動や日常生活で、どうしてもCO2など温室効果ガスは発生してしまいます。そこでまずは、温室効果ガスを削減する努力を個人で行いますが、それでも削減しきれない排出を他の場所でCO2を削減・吸収するプロジェクトに資金提供をして、温室効果ガスを排出した分を森の木々などに吸収してもらうといったもの。つまり、プラスマイナスゼロにするのです。

これは、環境省や国連も推奨しており、世界的に注目されています。

5-2.CO2を削減・吸収するプロジェクトとは?

CO2を削減・吸収するプロジェクトには、次のようなものがあります。

例えば、

・森林管理:植林や間伐をすることにより、森林が吸収するCO2を増やす取り組み
・太陽光/風力発電:発電するときにCO2を排出しないため、CO2排出量の削減につながる
・バイオマス燃料:従来廃棄していた木材を活用してエネルギーを生み出す方法。木材は燃やすときにCO2を排出するが、木は育つときにCO2を吸収するためCO2削減に繋がる。

などがあります。

このように削減されたCO2は、国や公的機関が「クレジット」として認証し、CO2を削減した価値として販売されています。

参考:J-クレジット制度

5-3.なぜカーボン・オフセットなのか?

なぜカーボン・オフセットが注目されているのか、メリットを見るとわかるでしょう。

【カーボン・オフセットまでのステップ】
まず、カーボン・オフセットを実施するまでのステップは次の通りです。
1.CO2排出量を把握し、CO2の排出量を削減する努力をする
2.削減しきれなかった分をオフセット(埋め合わせ・相殺)する

【メリット】
CO2を削減できなかった分をオフセットすることで、以下のようなメリットが得られます。

・排出量を実質ゼロにできる:省エネではゼロにすることが難しいが、カーボンオフセットならゼロにできる
・他の削減手段よりも費用対効果が高い:省エネでは初期費用や削減費用が高額になるケースがある
・即効性がある
・地域活性化・地方創生に貢献できる
例:森林の多くは地方にある。そこから削減したクレジットを購入することにより、地域にお金が落ち、地域活性化につながる

このように、CO2削減に留まらず、コスト削減や社会への貢献など多くのメリットがあるので、ぜひ導入していただきたい取り組みです。

5-4.カーボン・オフセットを取り入れた取組事例(ホテル日航新潟)

カーボン・オフセットを導入しているホテル日航新潟の事例を紹介します。

ホテル日航新潟の運営会社であるホテル朱鷺メッセ株式会社は、地域密着型のホテルを経営しており、地域の資源を生かし、地域の魅力を伝え、地域活性化を目指している企業です。

【取り組み例】
ホテルと宿泊者が一体となった地域貢献の取り組みを実施しており、宿泊の際にカーボン・オフセットを実施するプランがあります。この内容は、1泊1部屋につき宿泊者300円、ホテル325円を負担し、森林整備などを行っている佐渡の「トキの森プロジェクト」に寄付するというもの。

このようなプロジェクトからクレジットを購入することで、排出したCO2を相殺できます。トキが生息可能な森林形態づくりや、(保護された)トキの野生復帰に貢献することにもなるでしょう。

5-5.カーボン・オフセットを取り入れた出張・宿泊のススメ

私は、カーボン・オフセットを取り入れた出張や宿泊は、手軽に実施できるSDGs対策だと考えています。
例えば、次のようなメリットがあります。

スライドでも示しているように

・カーボン・オフセットを行うと、カーボン・フリーな出張や旅行を実現できる
・地元のクレジット(排出した価値)を使用することで、地域の問題解決・市域活性化に貢献できる
・地元の企業・自治体と協力することで、共感を生む取り組みを実施できる
・企業イメ―ジの向上

などなど、多くの利点がありますので、他のSDGsの取り組みとともに導入を検討してほしいですね。

6.パネルディスカッション

ここからは、パネルディスカッション。西ケ花氏と藤本氏にも参加していただきました。

6-1.SDGsコンサルを依頼してくる企業の特徴は?

藤本氏:
SDGsのコンサルを依頼する企業の特徴や依頼するきっかけ、動機があれば、教えてください。

私も含め、参加者の方々は、企業イメージを高めるためにサステナブルな取り組みをしなければならないのは理解していますが、何から始めたらよいのかわからない方が多いと思うんです。そのため、SDGsコンサルを依頼するとき、どのようなケースで相談してくる方が多いのかを知りたいです。

針生氏:
何から手を付けたらよいのかわからないという相談は多いですね。同時に、取り組みテーマを指定して相談を受けるケースも多々あります。

相談に至るきっかけはさまざまですが、例えば、

・金融や取引先からサスティナビリティの取り組みを求められ、急遽取り組みを開始するため
・経営者の方が、競合他社が取り組みを行ったことでニュースになったり、経営者の集まりでSDGSなどの情報が入ったりして、取り組みを進めようと決定したため
・最近増えてきたのは、取引先(特に大企業)からSDGsに関する取り組みのアンケートを求められ、自社でもはじめなければならないと考えたため

……などがあります。

藤本氏:中小企業の場合、SDGsに関する取り組みを実施しないと大企業から契約や取引を切られてしまうケースはありませんか?

針生氏:日本ではそういったケースはないと思われます。しかし、海外ではあり得るでしょう。

あからさまに契約を切るのではなく、SDGsに取り組んでいる企業との契約にシフトしていくことは、行われているようです。今後、日本の大企業でもそのようなケースが増えてくる可能性はあると思いますね。

6-2.海外の状況や、日本企業の先進事例を踏まえ、確実視される未来予想図とは?

西ケ花氏:
海外の状況日本の先進事例は、取り組みの種類は数多くありますが、その中で、確実に日本に定着するものはあると思いますか?確実な未来予想図を聞かせてください。

針生氏:
将来のことを予測するのは難しいですね……。とはいえ、将来を確実に予想できる分野はあると思っています。

例えば、少子高齢化、気候変動問題などは、過去の調査結果やトレンドを見るとある程度は予測できるでしょう。特に気候変動分野は研究によって、今後、確実に問題が深刻になることが分かっています。

それに伴い、企業や国として対策に取り組まなければならないのは確実です。日本が設定した目標を達成「2050年までにカーボンニュートラル、2030年までに40~60%CO2削減」をするために、国が経団連等に対して業界ごとのルール・目標を設定を求めることが予想されます。目標を設定した上で、経団連に加盟している企業に対して目標が下りてくるのではないでしょうか。

例えば、東証プライム市場に上場している企業は、気候変動に対するリスクとCO2排出量を開示するTCFD対応が、努力義務として求められるようになりましたね。今後もこのようなケースは増えてくると思います。

人口動態に関連したSDGsの取り組みは実施していた方が良いと思います。少子高齢化は必ず訪れますので。

参考:JIJI.COM 「気候変動リスク開示へ プライム企業、戸惑いも―東証再編」

7.質疑応答

7-1.カーボン・オフセットは、個人で取り組むものでしょうか?もしくは、企業で取り組むものですか?

カーボン・オフセットは、個人で取り組むものでしょうか?もしくは、企業で取り組むものですか?エコ活動のように教育やメディアによる取り組みなどが必要だと思いますか?

回答:針生氏
個人と企業の双方で取り組むものだと思いますが、海外の事例を見ると、企業の負担でカーボン・オフセットをするケースが増えてきています。

例を挙げると、Eコマースで商品を配送する際にどうしてもCO2が排出されてしまいます。それを企業の負担でカーボン・オフセットしています。

一方で、ユーザーにカーボンオフセットの負担をしてもらうケースもあります。
飛行機などで移動する際のカーボンオフセットは、企業側負担にするとコストがかかってしまうため、追加で料金をお支払いしていただき、ユーザー負担してもらうという方法です。

この方法は日本ではJALが実施していますね。

カーボン・オフセットは、まだ一般的に知られていない上、複雑な仕組みなので、消費者に対して普及啓発などが必要だと思います。

日本においては、カーボン・オフセットの取り組みが広まっていませんが、海外では若者を中心に認知度が高まっているんです。外の方に、日本におけるカーボン・オフセットの認知度の低さに驚かれることがありますね。とはいえ、今後日本においても、カーボン・オフセットは普及していくでしょう。

7-2.サステナブルな取り組みは、何から始めたら良いのかわかりません。実際にSDGsのコンサルを依頼する場合、どのようなフェーズから相談したらよいでしょうか?

回答:針生氏
何もわからないという状態からご相談すれば、コンサルはアドバイスはできるでしょう。依頼した企業の現状を分析した上で、コンサルから必要な手段を提案してもらえるはずです。

目的の選定もしてくれますよ。どこをゴールとするか決まっていないケースが多いので、一緒に策定していくイメージになると思います。

7-3.中小企業のため、SDGsを導入するハードルが高いです。どのようなことから始めればよいでしょうか?

回答:針生氏
まずは、できることから始めるだけで良いと思います。
宿泊業なら、お客様にシーツを変える回数を減らすようお願いしたり、使い捨てのアメニティを減らすなど小さな取り組みからはじめてみてはどうでしょうか。

環境対策はコストがかかるというイメージがあるかもしれません。しかし、最近は環境対策をした方が、コスト削減になるものもあるんですよ。そのようなものを調べて、取り組んでみることをおすすめします。

藤本氏:
ある企業が複合機のトナーをリサイクルトナーに変えたそうです。このような活動から始めても良いと思いますね。

7-4.企業としてSDGsに取り組んでいることをうまくアピールする打ち出し方やポイントがあれば教えてください。

回答:針生氏
取り組んでいても上手くアピールできていない企業が多く、もったいないと思います。PRする際に、消費者や社会に対してどのようなメリットがあるかを打ち出すと共感を得られるのではないでしょうか。

7-5.気候変動の危機とオフセットはどのように関係しますか?どのような取り組みがどんな効果を生み出しているのか知りたいです。

回答:針生氏
全国地球温暖化防止推進センターという気候変動について普及啓発をしている団体のHPをご覧いただくと良いですね。

HPでは、以下のようなさまざまなデータがあります。
・日常生活でどのくらいのCO2が排出しているか
・どういった行為でCO2が排出されるか

参考になると思いますので、ぜひご覧ください。

西ケ花氏:
一番わかりやすいのが、オフセットクレジットの一覧をみることです。

すべての取り組みが認められるのではなく、検査機関を通った上でオフセットクレジット商材として成り立っています。オフセットクレジットの一覧を見ると、取り組みに対する効果がわかるでしょう。

オフセットする際は、地方創生など、馴染みの深い地域を選ぶと良いのではないでしょうか。馴染みがある場所なので、その地域にどれだけの効果があったのかが分かりやすいと思います。

参考:
Jクレジット制度「認証一覧」
カーボン・オフセットに用いたクレジット一覧表

7-6.旅行会社の方は、今度どのように(SDGs)に取り組みますか?旅行での移動は炭素を増やす活動になると思い、経営活動をすることと効果は反比例になると感じています。

回答:針生氏
確かに移動することによって環境負荷は出てしまいます。そこで、できるだけ環境負荷が少ないものを選ぶ、旅行先で環境負荷を減らす…といったことがポイントになるでしょう。

サステナブルな商品を提供し、提供している企業もそれをPRするとより良いです。

藤本氏:
移動は、必要な経済活動のひとつなので、それを止めるのは難しいですね。最小限の環境負荷で効率を最大化することは、今後のすべての経営活動のベースとなるでしょう。

費用対効果をいかに上げるかをポイントに、サスティナブルな取り組みをしてくると思うので、その流れに注目していただきたいと思います。

まとめ:SDGs達成のため小さな行動をおこしてみよう

「SDGs」とは、持続可能な開発目標のこと。SDGs達成のために何か貢献したいけれど、どのような行動をしたらよいのかわからないという方は多いかもしれません。

しかし、針生氏のお話を聞くと、ちょっとした行動がSDGs達成に繋がることが見えてくるのではないでしょうか。例えば、出張では環境に配慮したホテルを利用したり、CO2排出量が少ないフライトを選んだりできますし、ホテルの使い捨てアメニティを使用せず、自分で持ち込むこともできます。

ほんの少しのことでも、まずは行動を起こしてみてください。一人一人の思考や行動が変われば、やがてスウェーデンやドイツと同様にサステナブルに対する関心が高まり、SDGs達成となるでしょう。

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