ウェビナーレポート

2022.04.07

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【モビリティ×SDGsシリーズ Vol 2】SDGs・ESGの「ソーシャル」「ガバナンス」を徹底解説!開催レポート

2021年12月に開催された「モビリティ×SDGsシリーズ Vol.1」。その第2弾としなる「モビリティ×SDGsシリーズ Vol.2 SDGs・ESGの『ソーシャル』『ガバナンス』を徹底解説!」が、2022年2月17日に開催されました。

前半はSDGsやESGの基礎知識的な内容で、後半はESGの視点から見たこれからのモビリティ・出張の在り方について切り込みます。海外出張の規制が解かれたときに、出張者や出張管理者がどう行動すべきか、ヒントとなるでしょう。

1.「モビリティ×SDGsシリーズ」について/BTHacks

まず、BTHacksより「モビリティ×SDGsシリーズ」について、紹介がありました。

本ウェビナーは、「モビリティ×SDGs」をテーマにシリーズで開催しており、今回は
Vol.2になります。Vol.1のおさらいを含みますので、初めて視聴する方でも理解しやすく、SDGsやEGSについて基礎から学べる内容です。

知っておきたいワード
≪SDGs≫
2015年9月の国連サミットにおいて採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals 、略してSDGs)」のこと。2030年までに、よりよい世界を目指すための国際目標。17のゴールと169のターゲットから成り立ちます。

≪ESG≫
企業の長期的な成長には、環境(Environment)、社会(Social)、統治・監視(Governance)の3つの観点が必要だという考え方から生まれたワード。また、この3つを考慮した投資のことを「ESG投資」といい、今後は一般的な投資手法になるであろうと、企業や投資家からの注目を集めています。

≪モビリティ(mobility)≫
本来は、「流動性」「移動性」「可動性」「動きやすさ」という意味の英単語。交通手段や移動手段、人の移動に関するワードとして、幅広い業界で使われています。本ウェビナーでは、出張や転勤、海外赴任など、業務に伴う移動という意味で使用しています。

目次

2.登壇者情報

株式会社AIトラベル COO 藤本 了甫氏
2007年、大学卒業後に入社した会社で未経験なが
ら経理部原価計算担当となる。その後、外資系・日系・スタートアップなどコーポレートを中心に業務改善をサポート。スタディプラス株式会社管理部部長を経て、2020年AIトラベルに参加。

株式会社トップレップ セールスマネージャー兼シニアコンサルタント 西ヶ花竜希氏
2015年、日本初となる「出張管理専門コンサルティング事業」立ち上げに参画。セールス兼コンサルタントとして、国内外企業の出張管理構築コンサルティングを推進。2020年現在は、特にWith/Afterコロナの出張管理構築に向けて、安全管理体制構築、DX移行、ESG調達など多方面で支援を展開中。

3.SDGs・ESGを理解するための基礎知識/株式会社AIトラベルCOO藤本了甫氏

SDGsという言葉を知っているけれど、きちんと理解していないという方は多いかもしれません。そのような方でもしっかり理解できるよう、株式会社AIトラベルCOO藤本了甫氏がSDGsについて解説しました。

「モビリティ×SDGsシリーズVol.1」の内容も含みますので、前回のウェビナーを視聴した方は、復習を兼ねてご覧ください。

3-1.社会課題を生み出した短期利益追求型ビジネス

SDGsを理解する上で必要なのが、今までの経済システムによって発生した世界的な社会課題です。

このスライドは、可視化された2007~2020年のグローバルリスクです。2007年から13年ごろまでは社会や経済に関するリスクが懸念され、世界的に大きな影響を及ぼすとされていました。

しかし、徐々に環境に関するリスクが増加し、近年では環境に関するリスクが大半を占めています。

グローバルリスクが環境に関する問題である理由は、今までの企業活動が短期利益追求するビジネスで、環境への配慮がなされていなかったためです。

短期利益追求型ビジネスとは、売上を増やし、コストを最小化すること。そのようなビジネスを続けることで、以下のような環境・社会課題が生まれました。

≪環境課題≫
森林伐採、温熱効果ガス排出などにより、資源枯渇・自然災害などが発生。その影響で、物流が断たれて、必要な人のもとに必要なモノがとどかない調達の不安定化が起こる可能性がある。

≪社会課題≫
低賃金、不安定雇用を続けることで、その地域の政情が不安定になり得る。その結果、国民の健康・文化・教育レベルが下がり、生産性の低下、消費者ベースの縮小に繋がる。

このように、短期利益追求型ビジネスは、環境や社会リスクを犠牲にしてきたビジネスだったと言えます。

現在、短期利益追求型ビジネスを続けることは、社会課題が多岐に渡って発生し、長期的な成長は不可能になるのではとされています。短期的に見ると、効率よくモノを生み出す短期利益追求型ビジネスは優れているように見えますが、長期的に見ると、企業活動の縮小化に繋がっていることがわかってきました。

3-2.企業が手を組み社会課題を解決するエコシステム

さまざまな社会問題を解決するために、企業は、短期利益追求型ビジネスから脱却し、社会課題を解決する戦略を立てなければなりません。

従来の戦略は「企業が一社生き残ればいい」という考えの「エゴシステム」でした。今後は、他社と手を取り合って成長する「エコシステム」に移行し、企業同士が一緒に社会問題を解決していく戦略が主流となるでしょう。

≪エゴシステム≫
従来のシステム。自社だけが勝てればいいという考え。
取引先と交渉してコストを下げ、競合に勝つことを重要視するシステム。

≪エコシステム≫
協調型のシステム。
取引先と大儀名分のもとに協議し、一緒に社会課題を解決する。

3-3.持続可能な資本主義「サーキュラー・エコノミー」

企業の戦略を移行するには、経済認識を変えることも大切です。経済認識は、以下のスライドのように4つに分類されます。

従来の資本主義は、「4」が示すように、環境・社会への影響を考慮しないものでした。そこで、環境・社会への影響を考慮します。しかし、考慮した結果、利益が減ってしまっては元も子もありません。

私たちが目指すべきは、「1」の持続可能な資本主義。社会の影響を考慮し、利益が増えるというものです。

持続可能な経済システムの重要なポイントは、次にご説明する「Circular economy(サーキュラー・エコノミー)」です。

サーキュラー・エコノミーは「採って、作って、使い・作り続ける」ことです。今までの経済システムとはどう違うのかを比べてみましょう。

・従来の経済システム:Linear economy(リニアエコノミー)
大量にモノを生産し、使用し終わったらゴミとして廃棄処理するシステム。ゴミ問題だけでなく、資源・エネルギーの枯渇、地球温暖化などのさまざまな環境問題を生み出した。

・一歩進んだ経済システム:Reuse economy(リユースエコノミー)
リニアエコノミーが生み出した環境問題を解決すべく生まれた経済システム。モノをリサイクルするが、中にはリサイクルできないモノがあり、廃棄物が出てしまう。

・持続可能な経済システム:Circular economy(サーキュラー・エコノミー)
モノを100%使いまわして循環させるため、ゴミを出さない。リニアエコノミーで発生した環境問題解決となるシステムと言える。

サーキュラー・エコノミーの原則は3つあります。

【サーキュラー・エコノミーの3原則】
1.廃棄物と汚染を生み出さないデザイン
2.製品と減量を使い続ける
3.自然システムを再生する

3-4.持続可能な世界を実現するためのSDGs

社会問題を解決し、より良い世界を実現するために生まれたのがSDGsです。

SDGsでは、持続可能な世界を実現するために17の目標を掲げており、国や環境によって注力する目標が異なります。

日本では、次の8つの目標を優先して実現していこうとしています。

≪日本の優先課題8つ≫
・人間
1.あらゆる人々の活躍の推進
2.健康・長寿の達成

・繁栄
3.成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
4.持続可能で強靭な国土と質の高いインフラの整備

・地球
5.省・再生可能エネルギー、気候変動対策、循環型社会
6.生物多様性、森林、海洋などの環境の保全

・平和
7.平和と安全・安心社会の実現

・パートナーシップ
8.SDGs実施推進の体制と手段

3-5.企業評価に取り入れられつつあるESG投資

SDGsと共にESGというワードも頻繁に耳にする方も多いのではないのでしょうか。「ESG」とは、SDGs同様に世界をより良くしていこうという目標のもとに生まれました。

Vol.1でもESGについてお話しいたしましたが、改めて解説いたします。

ESGとは、Environment(環境) Social(社会) Governance(企業統治)の3つの頭文字をとったもの。企業を評価するにあたって、環境・社会・企業統治の非財務情報も評価軸として取り入れるという、近年、広まってきている考え方です。

3-6.不安定な経済モデルからの脱却には「攻め」「守り」でアプローチ

では、改めて企業経営から見たSDGsとはどのようなものなのでしょうか?

まず、土台としてあるのが従来の短期利益追求型ビジネス持続の可能性です。本当に現状のままの経済モデルを続けてもよいのかという疑問が、土台になっています。

そんな不安定な経済モデルから脱却するには、次の「攻め」「守り」の視点が必要だと考えられています。

《攻めのSDGs》
SDGsを推進することによって事業機会創出可能となる(Society5.0など)

《守りのSDGs》
ルールを守ってSDGsを実施するよう監視する(EGS投資など)

※Society5.0:サイバー空間とフィジカル空間(現実空間)を融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会
参考:内閣府HP「Society5.0」

3-7.SDGsは持続可能な世界を実現する目標・ESGは企業活動プロセス

SDGsとESGは、内容が被っていると感じている方もいらっしゃるかもしれませんので、SDGsとESGの関係性を説明します。

まず、SDGsは目標。2030年までに持続可能な開発環境を整えるために達成すべき目標です。一方で、ESGは課題を解決するための企業活動プロセス。違いを簡単にいうと、ESGは「考え方や見方」、SDGsは「行動や目標」です。

3-8.EGSの「Social」とは人権に関する社会課題

ESGについて、もう少し切り込んでいきましょう。まず、EGSの「Social(ソーシャル)」とは何を指すかについてです。

Socialとは、「社会の」「社会的な」という意味の英単語ですが、ESGでは社会的課題を指します。上のスライドが示すように、社会的課題は、企業の活動が社会に及ぼす影響、人々の権利に関する問題が軸になっています。

3-9.ESGの「Governance」とは目標達成のために重要な監視・統治

次にESGの「Governance(ガバナンス)」についてご説明します。

Governanceは統治・管理・支配といった意味を持つように、SDGsの目標を達成するための監視、企業統治のことです。

目標達成のためなら何をしても良いというわけではありません。ルールに沿って目標を達成するためには企業統治が必要。最も大切な論点だと考えられています。

3-10.書籍を活用してSDGs・ESGの理解を深めよう

今回は、SDGsとESGを知る入口として説明させていただきましたが、興味を持っていただけましたら、ご自身で書籍を読んで調べてみるのも良いと思います。

私自身も、今回お話させていただくにあたり、さまざまな書籍を参考にしました。ご自身で調べて考えることで、SDGsとESGについて理解が深まると思っています。

4.ESGとモビリティの関係性/株式会社トップレップ セールスマネージャー兼シニアコンサルタント 西ヶ花竜希氏

次にESGとモビリティの関係性を、西ヶ花氏が解説しました。西ケ花氏がESGノソーシャル、ガバナンス、そしてモビリティの関係性を分析した結果、今後あるべきモビリティの姿が浮き彫りになりました。

4-1.密接な関係性にあるESGとモビリティ

まず、ESGとモビリティの関係性を整理しましょう。ESGは一般的になってきていますが、ESGとモビリティの関係性は、あまり知られていないのではないでしょうか。

次のスライドは、ESGとモビリティが密接な関係にあることを表しています。

例えば、図の上部「Environment(環境)」をご覧ください。
モビリティでは移動が伴いますので、飛行機や車などのCO2の排出量が関わってきます。「CO2排出量を軽減させる行動」とあるように、モビリティにおいても、環境に配慮した移動手段を選ぶことが大切ではないでしょうか。

図の左側「Social」は、モビリティに関わる人的な課題です。例えば、出張の渡航先が危険地域とされている場合はどういったリサーチや準備が必要なのかといった、リスク管理がESGと関係性が深いことを示しています。

そして「Governance」。藤本さんのお話にもあったように、監査する、統治するという部分もモビリティ分野では重要です。出張中の社員の動きを監視することで、出張管理を最適化できるでしょう。

4-2.モビリティにおける「Social(社会課題)」

次に、モビリティにおけるSocial・社会課題を見ていきたいと思います。

現在、コロナウイルスの影響で、多くの企業は出張規制状況から抜け出せていないでしょう。政府や関連省庁は、コロナウイルスや感染対策などさまざまな情報を発信しているものの、出張の在り方、再開や管理の方法などを決めるのは、企業に任せられているのが現状です。

出張での対策に日本国内共通のものはありません。そのため、出張における社員の安全確保には、企業主体の解決策構築が重要です。

企業が抱えているモビリティの課題は、次の内的要因と外的要因によるものがあると考えます。

内的要因:
・出張を規制しているとはいえ、業務上出張が必要
・出張者の健康配慮の高まり
・出張前の情報把握の絶対
・出張者の安全ニーズの高まり

外的要因:
・企業によってバラバラな感染症対策
・渡航地の刻一刻と変わる状況
・レビュテ―ションリスク(評判・風評リスク)管理
・国・社会からの安全対策要請

上記要因から、今後、重要となる企業主体の活動のポイントは次の2点となります。

1.企業としてのモビリティ(出張・赴任など)管理指針を再構築
2.出張者の安全情報を把握する体制の再構築

特に、出張者の安全を守るための情報把握は大切です。渡航先の情報、出入国の条件、渡航先の移動手段を把握しないで出張に行くのはあり得ないと思っています。

安全確保のための対策を講じている企業は以前より多いと思いますが、今一度見直してみても良いでしょう。

4-2-1.今後の出張管理は持続可能な仕組づくりがカギ
BeforeコロナとWithコロナの今の情勢は、明らかに変化しています。ですから、誰しもWith/Afterコロナでは出張の在り方が変わると感じているのではないでしょうか。

出張の在り方が変わるとはいえ、出張が足かせになってはいけないと思っています。どの企業においても、出張は企業が成長するもの、エンジンとなるものです。

そのため、持続可能な仕組みを作ることが必要です。

With/Afterコロナにおける、持続可能な仕組み作りに再構築するべき9つのポイントをお伝えします。

■ユーザー(出張者・主張手配者・出張承認者):ユーザーの方々の出張の前、中、後の行動変革が必要です。
ユーザーが再構築すべき点:
①出張前情報収集の仕組み
②ご自身の行動規範・出張の仕方改革
③自分たち自身もリテラシー強化が必要になる

■人事総務系:With/Afterコロナでは、出張者の安全・健康管理が必須です。
人事総務系が再構築すべき点:
④出張とWeb会議のすみわけ
Web会議が浸透してきていますが、出張とWeb会議をどのように使い分けるか明確にすると良いでしょう。会社として指針があると社員は、判断に迷わずに出張に行けるのではないかと思います。
⑤出張前、中、後のリスク管理
状況がどんどん変化する今、出張に行く前、行っている間、そして出張から戻ってきたときのリスク管理を見直すべきでしょう。
⑥モニタリングの仕組み
出張中の社員の安全や健康管理のためには、出張のモニタリングが必須です。

■調達系:最近、「サステナブル調達」というワードをよく耳にします。サステナブル調達とは、製品が消費者に届くまでのサプライチェーンにおいて、社会的配慮を行うことで持続可能な調達をするものです。
モビリティもサステナブル調達のように、環境や社会に配慮した手段を選ぶこともポイントです。
調達系が再構築すべき点:
⑦大量ボリュームに頼らない調達
コロナ禍の今、どの企業も出張が半減しています。今後、出張数は増えると予測されますが、Web会議などが浸透したため、Beforコロナと同じ頻度になるとは思えません。企業は、どのくらいの頻度で出張を行うべきか、再構築が必要です。
⑧環境・安全配慮に適した選定
環境に配慮した出張の移動手段の選定など、モビリティにおいても今後のビジネスにおいても外せない観点です。
⑨ユーザーガバナンス
出張の仕組を作って終わりではなく、ユーザー(出張者)が出張を行う中で、出張規定などのルールを守っていただく必要があります。そのためには、出張者の監視も重要です。

4-2-2.出張安全に関する課題と解決策

コロナ禍のこの2年間で企業から寄せられた出張の課題をもとに、解決策を探っていきましょう。
次のスライドにあるように、多くの企業が、出張の安全に関する管理が課題であると感じているようです。

例えば、安全情報の収集にあたって、漏れなく情報を確保できているか、情報収集の方法は適しているのか、問われています。

解決策としては、今一度、出張者が必要とする情報を洗い出して整理、情報取得方法の整備をして網羅性を高めると良いと思います。また、出張者が正確な安全情報を把握しているか確認する体制作りも必要です。

しかし、自社だけで全ての出張手配や管理の業務を行うには限界があります。そこで、BPOの導入を検討してみてはいかがでしょうか。専門的な企業の出張に関する業務の一部を痛くすることで、社内業務を減らせるだけでなく、専門性も高まります。

※BPO:ビジネス・プロセス・アウトソーシング、企業の業務プロセスを一括して外部に委託するアウトソーシング)

4-2-3.出張安全の対策に有効なのは準備方法の再構築

出張の安全対策の整備はどこに力を注ぐべきなのでしょうか?注力すべき点を探るために、出張前と出張中の不安要素を並べてみました。

【出張前の不安要素】
・出張者自身の新型コロナ感染症対策ができているか(移動前/移動中/渡航先)
・渡航先は、どのような新型コロナ感染症対策を講じているか
・渡航先の水際対策はなされているのか

特に、出入国の条件などは刻一刻と変わるため不安を感じる方は多いでしょう。

【出張中の不安要素】
・事故・病気
・災害・テロ
・感染対策変更への対応

上記の「感染対策変更への対応」は、新型コロナウイルスの影響で不安視されるようになりましたが、「事故・病気「事故・病気」「災害・テロ」は以前より発生を懸念されていました。

そのため、出張中の不安要素に関しては、既に緊急対応可能なサービスを導入したり、多くの企業が対策を講じたりしています。その一方で、出張前のリスクヘッジは手薄な印象です。

例えば

・渡航先の情報収集は出張者に任されている
・宿泊先や飛行機などの手配先が統一されていない
・自社ですべての出張手配対応を賄っている

このような従来の出張準備方法には次のような限界があります。

●ネットサーフィンでの情報収集の限界
●出張者の情報収集力・把握力の限界
●工数増大、ノウハウ強化・保持の限界

そのため、出張前段階での安全対策の再整備が要になってきているのは、モビリティが発生するどの企業にも言えるでしょう。

出張前の再整備をすることで、出張中の安全対策変更への対応も強化できますので、出張前の不安要素を解消する動きを見つめ直してほしいと思います。

4-3.モビリティにおける「Governance(統治・監視)」

続いて、モビリティをGovernance(統治・監視)の視点で見ていきましょう。

以下のスライドのように、出張管理と一言にいっても、さまざまな部門が関わっています。

例えば、出張規定管理やリスク管理体制の構築は総務・人事部が、出張費精算や管理は経理が担当しています。
このように、複数の部門にまたがって出張管理を行うことは、モビリティの一元管理がしにくく、時には非効率です。出張管理の効率化は課題と言えるでしょう。

4-3-1.日系企業では難しい出張手配の一元管理
ちなみに、外資系企業ではトラベルマネージャーが出張を一元管理しています。大きな企業になると、チームで管理することもあります。

出張を一元管理することで、効率良く状況の把握や管理が可能です。

しかし、日系企業でトラベルマネージャーが出張を一括管理していることは、ほぼありません。理由は、以下のような課題があるためです。

・トラベル分野に関する専門的な知識を要する人材確保・選定が難しい
・人事異動に伴うノウハウ管理が難しい
・人的コストがかかる
・海外法人や関連会社がある場合などは、旅費データや分析などの管理に手間がかかる

4-3-2.解決策は出張管理業務のアウトソーシング
トラベルマネージャーによる出張の一元管理が難しい企業は、BPOに加えてKPOも導入し、出張業務の一部を委託することで、課題解決に繋がります。

※KPO(Knowledge Process Outsourcing、知的業務委託)、情報の分析(データ分析、死旬提供)など知的業務処理を外部に委託すること。

KPOも導入することで、出張に関する専門知識や高度な分析結果に基づいた出張管理が実現するでしょう。

BPOとKPOを導入するときには、ポイントがあります。それは、外部に委託して終わりではなく、アウトソース元・アウトソース先が手を携えて実施していくことです。企業のカラーや会社のやり方などを知っているのは、アウトソース先ではなく、社員であるため。

両者ともに結託することで、BPO/KPOを導入した結果が有効となり、ガバナンス(監視)が向上します。

5.質疑応答

最後に、ウェビナー視聴者の方々より寄せられた質問を一部ピックアップ。藤本氏と西ケ花氏に解凍していただきました。

5-1.ESG投資とはよく聞きますが、投資するにあたり、今後は企業の財務状況だけでなく、環境問題や社会問題も考慮すべきということで合っていますか?

藤本:
世界中のトレンドとしては、財務状況だけで判断できないさまざまな情報で溢れています。そのため、いかに非財務情報を開示して、投資性があるかどうかという判断になっていくと思います。ですので、質問に関する回答は「あっています」です。

西ケ花:
ESGと投資が結び付けられて語られてしまうことが多いのですが、必ずしも投資に関するだけの言葉ではないと思っています。企業によって、環境・社会問題解決のために何をすべきかが重要ではないでしょうか。

5-2.環境・社会問題解決のために、投資家個人も考えや行動を変えるべきだと思いますか?

西ケ花
非常に難しい問題ですが、私個人的には変わらないといけないと思っています。

今はヨーロッパやアメリカなど海外の先進事例が入ってきており、それを見ていくと「日本は遅れている」と焦る部分もあるかもしれません。

しかし、私たち島国の日本では独自の方法で成長してきたという背景があります。SGDsやESG、モビリティも私たち日本人がどういったやり方でやるのかが重要だと思います。

藤本
西ケ花さんと同意見で、個人レベルでマインドを変えないといけないと思います。経済においてゲームチェンジが起きているので、今までの考え方は通用しません。

SDGsを一過性のトレンドにしてはいけません。SDGsの17の目標は、取り組みやすい課題も多くありますし、さまざまな活動も成されています。自分の興味ある分野から取り組んで行けば、それが積み重なって社会の変化が起こると信じています。

5-3.渡航安全管理が話題ですが、どんなところに注目している企業が多いでしょうか?

西ケ花
多くの企業は、以前から出張中に発生したトラブルなどへの対応を強化していました。しかし最近は、出張中より出張前の事前準備に注目している企業が増えてきていると思います。

中には、新型コロナウイルスを補償対象とする保険会社もありますね。

藤本
出張中の社員がどこにいるのか、どのような状況なのか、いかに素早く正確な情報をキャッチできるかに注目している企業が多いと思います。特に、治安が悪い、情勢が不安定といった危険な国に渡航する場合は、重要な要素でしょう。

ちなみに、私が所属しているAIトラベルでは、今どこに出張者がいるのかGoogleマップを通じてマップ上で見られるサービスを提供しています。

5-4.コロナ禍で移動や出張について、管理方法が変わった企業があると思うのですが、参考までに事例があれば教えてください

藤本
出張システムをデジタル化して情報を収集・分析し、ルール変更をしていこうとする企業が増えています。

出張管理方法を変えるためには、まずは情報が必要です。データが散らばっていては、何もできませんから、まずは情報をデジタル化して整理することに関心を持つ企業が増加していますね。

西ケ花
コロナ禍で情勢が変化したため、出張について指針を改めて出しなおしている企業も多いと思います。単純に出張が規制されるということだけでなく、どうしても出張が必要になった場合は、臨時的な対応を取っている企業がほとんどでしょう。

しかし、その臨時的な対応が恒常的な対応となりつつある企業が増えてきています。また、Withコロナがずっと続くと考え、ニューノーマルとして位置付けている企業もあります。

今後、出張が発生した後は、出張申請・承認の仕方、出張中の社員のモニタリング方法など管理の仕方が変化すると思います。出張者と管理側が密接に関わるような方法になるのではないでしょうか。

5-5.クレジットカードについている海外保険でも、コロナはカバーされますか?

西ケ花
カードによって異なりますが、コロナウイルスに対応している保険が付帯しているカードもあります。

しかし、注意点があります。コロナに限らず、カード付帯の保険は一般的に、海外旅行傷害保険よりも補償内容が手厚くないことが多いですし、中には出張中にカードを利用しないと保険が適用されないことがあります。

ですから、カード付帯の保険だけで十分と考えるのは、企業のモビリティにおいては不足感があると思いますね。

藤本
西ケ花さんがおっしゃったとおりで、同意見です

5-6.短期利益追求型ビジネスとは、具体的にどのようなビジネスが該当しますか?

藤本
「3-3.持続可能な資本主義 サーキュラー・エコノミー」で登場した「リニアエコノミー」が該当します。資材を仕入れ製品を作り、使い、役目が終わったら廃棄してしまうビジネスです。

日本の高度成長期のビジネスを見ていただくと分かりやすいかと思います。利益を追求するあまり、どんどん森林伐採などしたため、地球の生態系が崩れ、地球温暖化の原因となるといった問題が持ち上がりました。

6.Afterコロナのモビリティの課題解決のカギはESGにあり

新型コロナウイルス感染拡大が押さえられ、収束に向かっていると思った矢先に、変異株が現れるなどした過去2年間。現在も、先行きが見えにくく、手探りでモビリティを行っている企業が多いのではないでしょうか。

そんな不安定な情勢下で安全にモビリティを実施するヒントはESGにありました。ESGの「ソーシャル」と「ガバナンス」2つの視点でモビリティを分析することで、課題が抽出され、解決策を講じられます。

今後もしばらく不安定な状況が予想されます。安全な出張をするためにも、今一度、モビリティに関する体制や考え方を見直してみてはいかがでしょうか。

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