合同会社Smart Ape 業務執行責任者 德 一輝氏
人事・研修・採用領域でビジネスゲームを開発・提供する合同会社Smart Ape。
業務執行責任者である德 一輝さんは、大学卒業後、外食ベンチャーやフィットネス業界などで新規事業・教育部門に関わってきました。
toCやtoBなど幅広い業界を経験するなかで人事研修の課題について感じるように。
合同会社Smart Apeの業務執行責任者として参画したのは2023年のことでした。
「元々吃音でコミュニケーション力が低かった」と話す德さんにとって、どのような経験がSmart Apeの生み出す「体験学習」サービスの設計思想に結びついたのでしょうか。
今回のインタビューを通じて、德さんが抱いてきた、これまでの研修の限界や、同社が提供するゲームの役割、中間管理職のリアルな悩み、そして「自律型人材」を育てるための仕掛けを伺いました。
1.入社1年目で飲食チェーンのエリアマネージャーに!Smart Ape創業の原点となる経験
Q. 現在のお取組について簡単に教えてください。
ーー德さん
合同会社Smart Apeで、研修ボードゲームを用いた研修・採用事業を立ち上げています。
対象は社会人に限らず学生にも広げ、研修や教育、採用などの人事領域をメインにサービスを展開しています。
Q. これまでのご経歴についてお聞かせください。
ーー德さん
1社目は飲食のベンチャーです。
地元は大阪ですが東京の会社に入りました。
もともと私は吃音があり、面接でも自己PRができず面接をなかなか通過することができないような状態だったのですが、現場で鍛えられて改善していきました。
最初はスタッフとして入社し、店長を経て、入社1年目の1月にエリアマネージャーになりました。
その後は、全社の品質管理・接客基準づくり、研修や採用制度の立ち上げも担当。
20代前半でノウハウがない状態から基準やステップの設計にチャレンジをさせてもらい、当初品質基準を超える店舗が3割以下だったものを9割以上まで引き上げるなどの成果が出ました。
Q. この時の経験が、研修ボードゲームを活用した研修を考えるきっかけにもなっているのでしょうか?
ーー德さん
その側面は大いにあります。
当時、主流だった座学中心の研修には違和感がありました。
「これやる意味あるのかな」「1ヶ月後には忘れているのではないか」と感じ、現場でスキルとして役に立っているのか分からないという思いが募っていました。
当時からワークショップという手法も存在していましたが、私の周囲の環境としては「研修といえばとりあえず座学」という状況であり、人事を任されつつも研修の方法自体に課題意識を持っていましたね。
2.創業のきっかけとなったのは「研修に意味があるのか」という疑問

Q. Smart Apeの研修ボードゲームにつながる「既存の研修では足りない」という思いはいつから抱いていましたか?
ーー德さん
新卒入社した会社で人事・研修制度の立ち上げを経験したときです。
会社として研修を整え、座学やロープレを増やし、研修体系らしきものを作ったのですが、当時現場の行動はほとんど変わりませんでした。
研修直後は「良い話でした!」「明日から頑張ります!」と盛り上がるのに、1ヶ月後に現場を見ると、以前と同じ課題でつまずいている。
つまり、学んだつもりにはなるけれど、行動が変わらない。
このギャップにずっと違和感がありました。
このときの違和感がSmart Apeで提供している研修ボードゲームの原点にあります。
Q.研修が「行動」に繋がらないこともあるということでしょうか?
ーー德さん
その通りです。
研修には定性的なものを学ぶ研修と、定量的なものを学ぶ研修、2つのタイプがあります。
定性的な研修とは、「仕事に向き合う姿勢」や「マネジメント方法」などといったもの、一方で定量的な研修とは、例えば販売手順や商品知識といったようなものが当てはまります。
座学が向いているのは、あくまでも定量的なものを学ぶ場合だと思います。
リーダーシップやマネジメントのような定性的なことは、「あるべき論」を学んでも、現場は想定外のことばかり起きるのが当たり前です。
結局学んでも教科書通りにいかないから、人は元のやり方に戻ってしまう。
よくある例が、接客研修で「お客様の話を傾聴しましょう」と学んでも、繁忙時にそんな余裕はないというギャップがありますよね。
ほかにもマネジメント研修で「褒めて伸ばす」と習っても、現場ではトラブル対応や数字のプレッシャーが先に来るなんてこともよくあるケースではないでしょうか。
座学では知識は入るのに、行動に落ちない。
ここに、従来の研修の限界があると感じました。
Q.確実に実践に活かせる研修というものは確かに難しい印象があります。
ーー德さん
私もそう思います。
特に座学は、知識として理解した気にはなりますが、実際の行動や習慣に落ちるまでのプロセスが抜けてしまうことが多いと感じています。
人事や研修に携わる中で、「人は“分かった”だけでは動かない」という事実が大きな壁として横たわっていることを痛感してきたんです。
そんななかでスキルや考え方を定着させるには、体験し、自分で気づき、自分で選択して行動する機会が必要なのではないかと考えるようになりました。
こうした「研修は本当に意味があるのか?」という疑問が、後にSmart Apeでの体験型の学びにつながっていきます。
3. 研修ボードゲームに着目した理由は「自律型人材」の育成に適しているから

Q. なぜ“体験学習”の手段としてボードゲームを選んだのでしょう?
ーー德さん
人事や教育に関わる中で、組織に共通する課題があると気づいたのがきっかけです。
その課題とは、多くの職場で、上司のキャパシティや力量に部下の成長スピードが左右されてしまうことです。
たとえば上司が忙しかったり余裕がなかったりすると、部下が育ち切らず、結果として組織全体の成長が止まってしまうことってよくあることですよね。
だからこそ、最近の人事のトレンドでもある、自律型人材に注目が集まっているのだと思います。
自律型人材とは、自分で考え、自分で動き、組織に貢献できる人材です。
組織の中でこうした人が増えることが、チーム全体の成長に欠かせないと考えるようになりました。
Q. 座学での研修と大きく違う点は?
ーー德さん
弊社の研修ボードゲーム『TEAM CLIP』は、座学のように「分かったつもり」で終わらないのが特徴です。
実際に体験から学び、自分ごととして捉え、行動につながるという仕組みを盛り込んだゲームは、自律型人材を育てる上で非常に相性が良いと感じています。
自律型人材を育てるためには、「やらされる研修」ではなく、自ら気づき、考え、選び、行動する学びが必要です。
研修ボードゲームには、体験を通じて学ぶため、腹落ちしやすいということや、失敗できる安全な環境で試行錯誤できる点に大きなメリットがあります。
失敗をしても自身や組織にリスクがない。そんな環境で自らの選択の結果を体験できるというのはとても大きいのではないでしょうか。
4.Smart Apeが打ち出す「失敗から学べる設計」とは

Q. ゲーム設計の思想はどのようなものでしょうか?
ーー德さん
そもそも身につけたいテーマや内容によって最適な学習方法は異なると考えています。
たとえば、手順や知識などの“定量的なスキル”は、座学やeラーニングが有効です。
一方で、リーダーシップ、マネジメント、組織風土といった“定性的な領域”は、正解が一つではありません。
だからこそ、体験学習が必要になります。
その手段として有効なのが、研修ボードゲームです。
研修ボードゲームで繰り広げられる出来事は、あくまでもゲーム上でしか起きていませんから、いくらでも失敗できます。
さらに、OJTより低コストな教育であること、現場に近い複雑性を再現できるといったさまざまなメリットがあります。
Smart Apeでは、ゲーム内に意図的に「典型的な失敗の罠」を仕込んでいるので、リアルでも経験しがちな失敗を体験でき、その体験をもとに現場転用できる仕組みを作っています。
Q. どのような気づきが起きるのでしょうか?
ーー德さん
たとえば、一つは指示が曖昧だと人が動けなくなるという気づきがあります。
目的や役割が不明確な状態は、いわば「夏休みの自由研究」状態。
何から手をつければいいかわからず、思考停止するメンバーが生まれやすくなります。
そこで大切になるのが、目標の分解と役割や責任、優先順位を明確化する『ピン打ち』という工程です。
Smart Apeのゲームに参加されている方を見ていると「自分の仕事だけに集中すると、チーム全体では非効率になる」ことに気づいてくださったり、「ゴールから逆算し、ボトルネックを特定して段取りできる人が1人いるだけで成果が跳ねあがる」と体感的に感じたりする方が結構たくさんいらっしゃいます。
こうした体験を通じて、参加者は自分の思考や行動のクセに気づき、次の行動を選べるようになるのです。
Q. 受講者・人事担当の反応についてもお聞かせください。
ーー德さん
「見たことがない研修だな」とか「導入したいので一緒に提案に来てほしい」という声を多くいただきます。
サービス導入をご検討いただいている企業様には無料体験会を実施することも多いのですが、そこからの受注率は6〜7割ほどです。※インタビュー時
研修終了後に参加者同士で飲み会を実施される企業様もいらっしゃいますが、半分以上の時間をゲームの攻略法や気づいた点などの話をして過ごされることもあるほど盛り上がります。
ゲームを通じて共通言語が生まれることで、現場のコミュニケーションが変わるのも特徴です。
例えば、ゲームの中で登場するアクションやルールを引き合いに出して、上司から部下に指導する場面も見受けられます。これはゲームを通して、ビジネスにおける本質や原理原則を共通の認識とすることができるからこそ発生する状況です。このようなマネジメント場面におけるコミュニケーションコストの改善にもつながるケースは少なくありません。
Q. 他の“レクリエーション研修”との違いはどこにあるのでしょうか?
ーー德さん
Smart Apeの研修は、楽しいだけで終わらせない設計になっています。
たとえばゲームの中では、意思決定や協働を参加者と一緒に体験し、その後に自分の思考や判断の傾向を客観的に振り返る機会があります。
そして、そこで得た気づきをもとに「次にどう行動すればより良い結果を生み出せるか」を考え、現場で試すところまでを見据えた流れを設計しています。
つまり、ゲームでの体験を通じて得た学びが、参加者自身の行動変化につながるよう構成されているわけです。
また、ファシリテーション品質に依存しすぎないよう、ルールや振り返りの構造を標準化し、私以外でも再現できるテキストを用意しています。
誰が実施しても、一定の学びが得られるようにというのは大切にしていますね。
Q. ターゲットと今後の展開についてもお聞かせください。
ーー德さん
まずは、中間管理職層に刺さるラインナップをさらに拡充していく予定です。
その先は、役職別だけでなく、職種に応じた体験設計にも広げていきたいと考えています。
また、学生向けの展開にも可能性を感じています。
長期インターンのような重さではなく、1日仕事体験の中で業界や業種の解像度を上げる『ゲーム体験の場』を提供してみるのも面白いですね。
5.仕事に関わる勉強を面白く、そして本質的に!

Q. 研修の未来をどう見ていますか?
ーー德さん
これまでの研修や教育施策などは企業間の中で共有されるようなものではなく、クローズドで人事担当者が持つ個々のノウハウ依存になりがちでした。
良い研修や教育施策であっても、社外に広がりづらく、自然拡散しにくい構造になっていると感じています。
だからこそ、もっともっと弊社の研修ボードゲームを広げていきたい。
そのためには、価値を感じてくださった人事の方からの声で「うちにも導入したい」「一緒に紹介に行きたい」と言っていただけることが、広がりの鍵になると考えています。
研修ボードゲームを用いた研修の提供者はまだ多くありません。
市場としては小さいかもしれませんが、なくすには惜しい教育装置です。
だからこそ、使命感を持って広げていきたいと思っています。
Q. 目指す姿を教えてください。
ーー德さん
「仕事に関わる勉強を面白く、そして本質的に」です。
楽しいから記憶に残る、 腹落ちするから行動や現場が変わるという良い循環を生み出していきたいですね。
そのためにも、プロダクトである研修ボードゲームを生み出すだけでなく、ファシリテーション・仕組みといった運用面にも力を入れていきたいと考えています。
「また受けたい」「受けてよかった」が現場の行動で証明される研修。
その文化を、Smart Apeから広げていきたいと思っています!
インタビューを終えて―編集後記―
飲食ベンチャーでの現場経験を通じて力をつけ、人事・研修の仕組みづくりにも挑戦し、「研修と実践の断絶」を痛感する――。
德さんのキャリアには、「研修とは何か」「人はどうすれば変わるのか」という問いが一貫して流れていました。
TEAM CLIPのビジネスゲーム型研修は、単に企業の成長や組織力の強化を目指すだけでなく、参加者一人ひとりが自分自身と向き合い、内省するきっかけを与えてくれます。
経験や失敗を安全な環境で体験できることで、自分の思考や行動のクセに気づき、これまで気づかなかった自分の強みや課題を発見することができます。
この「自分を見つめなおす」プロセスは、単なるスキルアップだけでなく、自己成長やキャリアの方向性を考える上でも大きな意味を持つ。
「楽しいから記憶に残り、腹落ちするから行動が変わる。
そのようなポジティブな循環が広がれば、組織も人も、もっと健全に成長していけるはずだ」
という德さんの言葉には、新たな研修のあり方や可能性を感じさせるものがありました。
研修の常識をアップデートし、「学びが人を動かす」未来へ。
これからのSmart Apeの挑戦に、目が離せません。
合同会社Smart Ape 業務執行責任者
ビジネスゲームを活用した研修・採用を展開。
社会人だけでなく学生向け施策も実施。
新卒で飲食ベンチャーに入社。
品質・接客の全社管理、人事制度・研修設計、採用(新卒/アルバイト)を担当。
その後フィットネス大手で新規事業・教育の担当を経て独立。
現職でボードゲーム/ビジネスゲームの企画・ファシリテーション・研修設計を担う。







