取材記事

2024.07.02

Lock Icon 会員限定

【東京eスポーツフェスタ2024レポート】サウジアラビアのeスポーツから見る日本のeスポーツ市場の成長可能性

中東コーディネーター、鷹鳥屋 明氏

話し手:鷹鳥屋 明 氏(株式会社アカツキ IP事業本部/経営企画部勤務、筑波大学非常勤講師)

「日本とサウジアラビアで互いに10人ずつのメンバーを交換しあう」という外務省のプログラムの一員に選ばれたことがきっかけでサウジに派遣されたという鷹鳥屋氏。
現在はサウジ観光局の観光推進メンバーに選ばれるなど、“日本と中東の橋渡し役”として活躍している。

今回の東京eスポーツフェスタで開催されたビジネスセッション「サウジアラビアのeスポーツから見る日本のeスポーツ市場の成長可能性」では、中東コーディネーターの鷹鳥屋氏が登場。
首都リヤドで「eスポーツワールドカップ」の開催が決定するなど、eスポーツ大国になりつつあるサウジアラビア。中東のeスポーツ大国から見た、日本のeスポーツ市場の将来性について熱く語った。

1.サウジアラビアでeスポーツが注目される背景


中東のeスポーツ事情について熱く語る鷹鳥屋氏

サウジアラビアのイメージといえば「石油」が挙げられるが、現在同国の強みは石油だけではない。石油産業で潤った経済力を利用し、石油に依存しない次世代の産業開発に余念がないからだ。

中でもいま急成長を遂げているのがeスポーツ産業だ。
ならば、なぜ今サウジでeスポーツが注目されているのか?鷹鳥屋氏の解説から、その理由を探ってみた。

1-1.サウジアラビアのeスポーツ発展は若年層が支えている

サウジアラビアの人口は3200万人ほど。
現在は、35歳以下の若い世代が人口の60%を占めている。
1980年代頃から石油戦略をとるようになってから国が潤うようになり、子供の数が増え、最近は人口が伸び続けている。
サウジアラビアは今、可処分所得が多く、娯楽にお金を使えるような若年層がたくさんいる市場になっているのだ。
よって若い世代の娯楽として代表的な「ゲーム」をする人口自体が多く、eスポーツに興味がある人、プロを目指す人が増えるという一大ムーブメントが起きている。

1-2.サウジアラビアでのeスポーツブームのきっかけ


サウジアラビアでのeスポーツ隆盛は2018年eワールドカップがきっかけ

大きな転機になったのは2018年にロシアで開催されたサッカーワールドカップ、と鷹鳥屋氏は語る。
この開幕戦で、サウジアラビアは5対0でロシアに惨敗してしまった。
だが、同年にロンドンで開催されたFIFA主催2018eワールドカップで、18歳のサウジ人、MSドサリ選手が優勝。
同氏は翌年2019年にも3位に入賞しており、サウジにおけるeスポーツの第一人者となった。
彼は現在レッドブルに所属しており、プロ選手の育成に力を入れるため自身のチームを組織するなど、サウジのeスポーツの発展に貢献している。
サッカーワールドカップでは不甲斐ない結果だったが、eスポーツでは世界一を獲ったという事実がサウジ国民にとってポジティブなニュースとなり、eスポーツに注目が集まるようになった。

2.サウジアラビアにおけるエンタメ産業のトップランナーとは?


eスポーツ産業を今後の国内主力産業にすべく、サウジアラビアは政府をあげて後押ししている

急成長するサウジアラビアのエンタメやゲーム産業。
鷹鳥屋氏は、これらを牽引する企業と中心人物および日本との関わりについても解説した。ここからは、サウジアラビアのエンタメ業界最新動向について、同氏の論説を紹介しよう。

2-1.サウジのゲーム産業に欠かせない「Savvy Games」

Savvy Games Groupは、2022年に設立したサウジのゲーム業界でNo1の規模を誇る企業だ。ゲーム産業を同国の成長産業として発展させる目的で、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が事業を牽引している。
サウジアラビア政府公共投資基金(通称PIF)が100%出資する企業で、ブライアン・ワード氏をCEOにすえている。
アメリカのゲーム会社「Scopely」を49億ドルで買収したほか、eスポーツ運営会社「ESL」とeスポーツプラットフォーム「FACEIT」を10億5000万ドルで買収し「ESL FACEITグループ」を設立し、同社の傘下にしたことでも話題に。
ゲーム業界において過去最大規模の買収となり、サウジアラビアが世界的なゲームハブとして発展していくことへの期待が高まるニュースとなった。

2-2.サウジが日本のゲーム会社に投資する理由

現在PIFは任天堂の大株主となっており、買い増しを3回繰り返して、現在の保有比率は8.26%になっている。
その他、カプコンやコーエーテクモは約6%、ネクソンは約9%の株式を保有している。
SNKの株式は約96%を購入して買収に至っている。
日本のゲーム会社に投資をする狙いは、日本が生み出した人気ゲームのIP(知的財産権)を活用したイベントを開催することや、日本のゲーム開発のノウハウを学ぶためである。
サウジは現在、ゲーム開発者の教育にも力を入れているため、日本のゲーム会社を参考に教育プログラムを作っているとも言われている。
エンタメ産業を盛り上げて自国の発展と投資のためにSavvyGamesを活用しているのだ。

2-3.サウジのeスポーツ業界を牽引するファイサル王子

ファイサル・ビン・バンダル・ビン・スルタン王子は、eスポーツ関連の投資を進めたり、サウジをeスポーツの中心地にする計画を推進している中心人物。

また、「SASUKE」のアラビア語圏版や「風雲たけし城」のサウジアラビア版制作のため、ライセンスを取りに来日するなど、日本のエンタメ業界とも縁のある人物だ。

サウジがエンタメ事業に舵を切ることになったのをきっかけに、ファイサル王子は2017年にサウジアラビアeスポーツ連盟を立ち上げた。
現在はアラブeスポーツ連盟の会長、世界eスポーツ連盟の副会長も務めている。
自身もゲーム好きとして有名。

そんな彼が、サウジ国内にて世界最大級のeスポーツの祭典「Gamers8」を主催。
多額の賞金が出ることや、かつてない規模の大きさで話題となった。
サウジアラビア政府をあげて注力した結果、市場に影響するほどの注目を集めた同イベントについて、鷹鳥屋氏は次のように語る。

2-4.台風の目「Gamers8」とは?

Gamers8とは、サウジのリヤド市で開催された大型eスポーツの祭典。
2022年と2023年に行われ、来場者数は140万人、世界中で配信された動画の視聴回数は1億PVを超えている。
参加チームは61ヵ国以上にのぼり、113の国際チーム、合計391名のプロ選手が参加するなど、世界中のゲーム関連企業やプロゲーマー、ゲーム愛好者が熱狂する一大イベントとなった。

優勝賞金も世界トップレベルで、2022年の賞金総額は1500万ドル(約22億円)、2023年の賞金総額は4500万ドル(約67億円)だった。
日本人選手も「ストリートファイター6」で優勝し、40万ドルの賞金を獲得している。

世界のeスポーツ市場を大きく動かす台風の目として注目を浴びた同イベント。
2024年からは「eスポーツワールドカップ」としてアップグレードした開催内容になることが発表された。
サッカーワールドカップ同様に、今後のeスポーツ世界市場を牽引する巨大イベントになることは確実だろう、と鷹鳥屋氏は語る。

3.サウジアラビアにおける今後のeスポーツ産業の展開について


サウジアラビアが世界のエンタメ・eスポーツ業界の中心地になる日はそう遠くなさそうだ

ここからは、サウジアラビアのゲーム及びeスポーツ産業の今後の展開について紹介しよう。
桁違いともいえる巨額の資金を、エンタメ産業に投資するには理由がある。投資の裏側には、どんな意図があるのだろうか。

鷹鳥屋氏の解説から、サウジアラビアのeスポーツ産業戦略を紐解いてみよう。

3-1.首都リヤドで毎年eスポーツワールドカップを開催

ムハンマド皇太子殿下は、2024年夏から、首都リヤドで毎年「eスポーツワールドカップ」を開催することを発表した。
併せて、eスポーツ競技において、リヤドが世界のハブとなるプラットフォームを提供することを宣言。
また、大会運営組織として非営利団体「eスポーツワールドカップ財団」も設立した。

大会を通じて、国内経済の多角化や観光部門の成長を促す。
また、ゲーム関連や付随する産業の新規雇用などに繋げることを目的としている。

3-2.約2兆円の経済効果を見越したゲーム産業施策

サウジアラビアでは、石油や天然ガス以外の産業を発展させたいという思いから、ゲーム産業に多額の投資を計画している、と鷹鳥屋氏は分析している。

ファイサル王子は、GDPをあげるための施策として、2030年までに国内に250のゲーム会社を設立し、39000人の雇用を創出すると宣言。
これらの取り組みにより、GDPが1%=500億リヤル(約2兆円)引きあがる予定だという。

3-3.巨大エンタメ施設「Qiddiya」に注目

ここ最近、注目が集まっているプロジェクトとして、鷹鳥屋氏は建設中の巨大エンタメ施設についても解説した。

サウジアラビア三大ギガプロジェクトの一つである「Qiddiya(キッディーヤ)」。
同施設には、ゲーム&eスポーツの特区が作られることが宣言されており、約5300人が収容できるアリーナなどが建設される予定だ。

Qiddiyaはリヤド市の郊外で南西約40~50キロに位置する場所に建設される、エンターテイメント、スポーツ、文化の総合施設。
面積は334平方キロメートルで、リヤド市の面積よりも広く、街1つが丸々エンタメ施設になったと考えると想像しやすい。

地形を活かしたアウトドア/インドアスポーツ、ウォーターパーク、モータースポーツ、サファリなどの各種ゾーンから構成される。インドアスポーツゾーンにはもちろん、eスポーツを体験できるブースを設置。

Qiddiya完成後は、雇用の新設やゲーム・eスポーツ産業の発展に大きく貢献することだろう、と鷹鳥屋氏は見解を述べた。

3-4.サウジがなぜ日本のエンタメに注目しているのか?

サウジアラビアは日本のゲーム産業だけでなく、エンタメ全般に高い関心を持っているという。
一体なぜなのだろうか?鷹鳥屋氏は次のように見ている。

今のサウジの30~40代の年齢層は、若い頃ゲームやアニメなどの日本コンテンツに親しんだ世代。
政府や企業内の意思決定ポジションにいるのは、まさにこの年齢層なのだ。
彼らのアニメやゲームに対する受容性の高さが、日本のエンタメに注目する理由となっている。

こういった流れを受け、サウジで事業を展開している日系エンタメ企業も数多くある。
エイベックスは「アニメビレッジ」という日本のカルチャーを体験できるイベントを2022年と2023年に開催。
これはジェッダ市で毎年開かれる国民的イベント「ジェッダイベントカレンダー」内で行われた催しだ。
ジェッダイベントカレンダー自体は600万人を動員しており、アニメビレッジは入場制限がかかるほど入場希望者が多かった。

また、電通は「サウジアニメエキスポ」を2019年、2022年、2023年に首都リヤドで開催した。
ジェッダイベントカレンダーに対抗する形で行われた大規模イベント「リヤドシーズン」内で行われたこの催しは、昨年の来場者数が3万8000人にのぼる大盛況のイベントだったという。

今後もますます、サウジアラビアと日本のエンタメ業界交流が盛んになっていくことだろう。新しい産業の先駆者となって経済を盛り立てたい、というサウジアラビアの経済戦略は着々と実を結びつつあるようだ。

まとめ:eスポーツが深めるサウジと日本のつながり

eスポーツは、サウジの中で最も勢いがある産業の一つ。
そこに大きな影響を与えているのが、日本のゲーム産業だ。
2023年12月には、サウジアラビアeスポーツ連盟と日本eスポーツ連合で、人材育成、eスポーツ産業の成長促進を目的とした覚書が締結されるなど、サウジと日本の関係性はより深いものになっている。

サウジは、eスポーツ・ゲーム関連産業を単なる産業として捉えておらず、新たな事業の開拓、新規雇用の創出など高い将来性を見いだしている。
そこに、日本でもeスポーツやゲーム関連産業を盛り上げていくためのヒントやお手本がたくさん隠されているのではないだろうか。
鷹鳥屋氏が語った今回のトークセッションからは、知られざる国サウジアラビアの進取に富んだ一面を垣間見ることができた。
この国からは、まだまだ多くのことを学ぶことができそうだ。

eスポーツワールドカップを始めとするサウジのeスポーツ関連施策から、今後も目が離せない。

Lock Icon

この記事は会員限定です

会員登録すると続きをお読みいただけます。