取材記事

2019.12.23

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途上国を支援する女性起業家に迫る|出張成功の鍵は日本での蓄積にあり 【海外出張リーダー】Vol.8

「株式会社テーブルクロス」代表取締役 城宝薫さん(左)。東南アジアの都市部のみならず農村部へも足を運んで子供達を支援している

大学時代に「株式会社テーブルクロス」を設立し、社会貢献型グルメアプリ「テーブルクロス」を開発。主に同アプリ使った支援事業を行っており、途上国の子供達へ食の支援を続けている城宝薫(じょうほうかおる)さん。支援先の途上国へ自ら出張へ出向くことも多いとか。治安や衛生面などの不安が尽きない途上国への出張ですが、城宝さんは尻込みすることなくこなしています。
そんな城宝さんが途上国の海外出張で取り入れているコツには、明日からでも海外出張者が応用できるヒントがありそうです。

1. 途上国の支援という社会貢献をビジネスにする理由


「日本で成長し続けていれば、海外出張は怖くはないですよ」。言葉の端々から優しい人柄と芯の強さが滲み出ている城宝さん

――株式会社テーブルクロスについてお聞かせください。

2つのサービスを行っています。1つが「テーブルクロス」という国内向けのグルメアプリで、もう1つは、訪日外国人が日本のグルメツアーや和菓子作りの料理教室が体験できる「byFood.com(バイフードドットコム)」というサービスです。

どちらのサービスで予約が入っても、国内外の子供達に対して寄付をさせていただいています。これまでは、食に絞った支援をしていましたが、2019年11月からは子供達をあらゆる面から支援していこうということで活動範囲を広げました。

––寄付やボランティアという社会貢献の方法がある中、ビジネスにしようと思ったきっかけはありますか?

高校一年生の時に、アメリカのフロリダ州オーランドへ2週間行って、ある人から言われた「社会問題を解決するには、継続的な支援が必要。だから、継続的なしくみをつくることが必要だよ」という言葉が心に刺さりました。

それまでも、子供をとりまく環境には関心がありました。幼い頃に行ったインドネシアでストリートチルドレンを見たときは、自分がいかに幸せなのかと考えさせられたこともありました。

でも、アメリカのフロリダで聞いた言葉にハッとさせられたんです。社会問題は、数回の寄付で解決したら誰も困っていない。継続的に支援できるよう事業を立ち上げようと決心したんです。

––「テーブルクロス」のアプリの魅力や特徴を教えてください。

飲食店のオーナーさんも子供達も幸せになれるのがこのアプリの魅力だと思っています。
飲食店の広告費って高いんですね。でも、「テーブルクロス」は予約が成立すると、予約一人当たり180円の広告費を飲食店から弊社に支払っていただくシステムですので、広告費が抑えられるわけです。

そして、この広告費の一部を寄付金として途上国のNPO団体に送り、子供達の「給食費」に充ててもらっています。

2.東南アジアの出張は空港からの移動が大変


カンボジア・シェムリアップ州にある小学校を視察。図書館の開校式イベントでは、子供達と給食作り!(右端一番前列が城宝さん)

――どのような目的で支援先の途上国へ出張に行きますか?

関係者の方を支援先に視察へお連れすることが多いです。取引先の飲食店関係者の方やテーブルクロスの営業の代理店の方達と約10名のツアーで、私がアテンドしています。

関係者の皆さんの協力が現地でどう活かされているか、実際に見ることで身近に感じてもらいたいですし、ちゃんと食べ物が届いていることも見ていただきたくてお連れしています。

――具体的にどの国へお連れすることが多いですか?

ビジネスマンが全旅程4日間くらいで行ける国を考えていて、特にカンボジアが多いです。日本から寄付先の国に飛行機で移動するときは近いと感じるけれど、支援先に辿り着くまでが大変なんです。舗装されていないガタガタの道をバンで8時間くらいかけて移動します。

他にも、フィリピン、ミャンマー、バングラディッシュ、ケニア、マラウイ、南スーダンの子供達を支援していますが、所要期間1週間は必要になってしまうんです。そういったエリアへはビジネスマンのご案内は難しいですね。

――お客様のアテンド以外の目的で海外出張へ行くことはありますか?

今後はbyFood.comをグローバル展開したいと考えているので、海外の投資家を集いに行くことがありますね。投資家を集う時は、インドネシア、香港、シンガポール、中国へ出張に行きます。

例えば中国の大連では、日本のベンチャー起業家が集まり日本ベンチャーの流行りについて話す講演会に参加したことがあります。そこでも、100人くらいの銀行の所長さんなどのビジネスマンの前で支援を呼びかけさせていただきました。

――海外出張の頻度はどのくらいですか?

以前は2~3カ月に1回ペースというときがありましたが、海外出張の頻度は年々減ってきています。

でも、支援活動が減っているというわけではありません。というのも、投資家の方が日本へ来る機会が増えましたし、時代の流れとともにテレビ会議で効率的に済ませられることも多いからなんです。

もちろん、現地へ行かないとわからないこともあるので、その時は現場へ出向きます。
ここ一年で海外の取引者数は増えました。今後は、海外のカンファレンスやビジネスネットワーキングイベントへ参加していくつもりなので、海外へ行く頻度は高まりそうですね。


世界中の起業家、政治家、研究者が集まり、社会問題解決のためのカンファレンス等を行う「St.Gallen Symposium2019」(スイス)に参加

――国によってコミュニケーションで気をつけていることはありますか?

日本人に接する時と何も変わりません。国を基準に対応を変えることはなく、一個人、一個性を見て接しています。

システムやコンテンツ制作などの業務委託先である中国、アメリカ、オーストラリア、トルコとは頻繁にコミュニケーションを取っていますが、毎日リマインドしなくちゃいけない人もいれば、1週間に1回のミーティングだけですべてのフォローアップが終わる人もいます。

どう対応するのが良いかは、国籍ではなく、人によって異なるのだと思います。

3.治安の悪い国への出張のコツ|トラブルを未然に防ぐ方法


カンボジア・シェムリアップ州で小学校を視察。学校に併設された図書館の前で子供達と。

――途上国の治安面で気をつけていることはありますか?

治安は良くないですね。東南アジアではモノを盗られることがよくあります。
一人で現地へ向かうときは、基本的に夜に現地に到着する飛行機には乗りません。他の国にも当てはまりますが、女性が暗い街を一人で歩くのは危険だからです。

朝に到着する便でも午前3時や4時に到着する便はやめて、6時到着の便にする、途中にトランジットを挟むなどして、現地に到着する時間をポイントにして移動します。

――海外出張中にトラブルに遭わないよう気をつけていることはありますか?

取引先をお連れするときには、よく聞く被害内容を具体的にお伝えしています。

「トゥクトゥクに乗る時に横からバイクが来て荷物を盗られることがあるから、荷物はしっかり抱えて持ってくださいね」
「ホテルの部屋でも盗難があるので貴重品は金庫に入れるかスーツケースに入れて、カギをかけてくださいね」など。

お客様に何かあってからでは取り返しがつかないので、厳しい言い方ですが「モノを盗られる方が悪いという考え方で行動して欲しい」と説明しています。

――海外では盗難に遭う人が多いと聞きますね。

私は、盗まれるリスクが高いモノは持って行きません。

例えば財布は「ここにお金が入っていますよ」と言っているようなものなので、スリのターゲットになりやすいんです。実際、いつも持っている財布はカードがたくさん入っているので、現金だけ抜いて、ポーチなど他の入れ物で持ち歩きます。

――クレジットカードは持って行きますか?

カードは1枚持って行き、日本国内の空港で1回使うようにしています。私が持っているカードは、カード付帯の保険を申請するためには海外出張に行っている証明が必要です。そのために国内の空港でカードを使って飛行機に乗るようにしています。
(※保険申請条件はカード会社の規定によって異なります)

――現地の水が合わなくてお腹を壊しやすい人はどういったことに気を付けるといいでしょうか?

「私はお腹が強いんです」と言い切れない人には、屋台の食べ物は食べないように注意を促して、ちゃんとしたレストランへ行くことをおすすめしています。途上国の屋台では一週間油を変えないというのはよくある話なので。

シャワーを浴びただけでお腹を下してしまう人もいます。シャワー中に口を開けているだけでも、お腹が弱い人は下してしまうので、注意を呼びかけています。


視察ツアーでは、日本の取引先を有名観光スポットへお連れすることもあるそう。写真はカンボジアの世界遺産アンコールワット

――海外出張の空いた時間で観光することを「ブレジャー」というのですが、取引先の方にご案内しているブレジャースポットを教えてください。

例えば、カンボジアのナイトマーケットはおすすめです。日本の「ナチュラルバリュー」という貧困層の職業支援団体が運営するお店があって、お店では、現地の人が作ったバッグやお財布を販売しています。

ミャンマーやバングラディッシュでは「マイクロファイナンス」という金融サービスを提供する会社が増えています。
会社は貧困層向けにお金を貸します。利用者(貧困層)がそのお金を運用して得た利益から返済し、それを繰り返して貧困から脱出するという仕組みです。このようなマイクロファイナンスを実際に利用している現地の起業家にお話を聞きに行っています。

4.英語が苦手でも大丈夫! ポイントは会話を止めないこと


スイスで開催した「St.Gallen Symposium2019」での一コマ。城宝さんが着ている「みやこもん」の着物はたった3分で着られる!

――海外出張に不安を感じる1つの理由に英会話スキルが挙げられることをどう思いますか?

日本の仕事でしっかり知識を身に付けておけば、心配しなくていいと思います。というのも、海外出張だからといって、自分がイメージしている以外の英会話ってそこまで多くはないのが実際の現場なので。

日本の仕事で日々自分を磨いておけば、マーケティングでもファイナンスでも、英語で話されても何を話しているか大体はわかると思います。

英会話が得意じゃないから不安、という人もいるかもしれませんね。
例えば、私は海外慣れした帰国子女ではありませんし、英会話も決して得意ではありませんでした。以前は私がどんなに一生懸命英語で話しても、相手から何度も「えっ⁉ 何?(I’m sorry,What?)」と聞き返されていましたよ。

でも、そこは工夫しながら切りぬけてきました。

――その工夫とはどういったことですか?

一番大切なことは、英語で何を言えばいいかわからない時でも話をストップせずに続けられるかどうかです。

多くの人は、自分が言いたい単語が浮かばなくて会話がストップすることが心配なんだと思うんですよ。私も、本当に使いたい英単語がすぐ浮かばないことはよくあります。でも会話は止めません。他の英単語に置き換えれば済むじゃないですか。

例えば、「ライオン」を英語で何と言うかわからなくても「Like a cat」で伝えれば良いわけです。わからなければ「わからない」と聞き返すこともコミュニケーションになりますし、ジェスチャーだって使って良いんです。

――英単語がわからなくてもジェスチャーでも意思疎通が可能ですね。

アジア圏の途上国には、英語を喋れない人達がまだまだ沢山います。そこに出張となれば、コミュニケーションの大半がジェスチャーになることも珍しくありません。
会話を止めないこと、ジェスチャーを取り入れること。
ここを意識すれば、仮にお互いが英語を喋れなくてもコミュニケーションはとれると思いますよ。

――心配になりすぎる必要はないんですね。

まずは、海外出張という身近なきっかけに身を委ねて流れに任せてみるのもいいと思います。流れに合わせて動いているうちに自分に合った風が吹いてくることもあって、仕事の成功や現地との人脈といったチャンスが自然と「吹いてくる」ことも、きっとあると思います。

城宝さんおすすめの途上国出張の必需品

海外出張の荷造りはササっと済ませているという城宝さん。必要最低限のものだけ準備し、あとは現地調達で済ませているそうです。そんな城宝さんの必須アイテムをご紹介します。

1.短時間で手軽に着られる着物
出張先でのミーティングやカンファレンスに着物で参加することもある城宝さん。着物を着ていると現地の人に大変喜ばれコミュニケーションもどんどん進むので、英語が得意でなくても大丈夫。城宝さんは着付けの技術がなくても数分で簡単に着られる「みやこもん」や「着物JAPANちあきワールド」の着物を活用。

2.ウェットティッシュ
東南アジアでは、食器類がきちんと洗われておらずお腹を壊す原因になることもあるので、城宝さんは食事の前に飲食店のコップやお箸を拭くそう。このようなひと手間も出張中の体調管理には大切です!

3.おみやげにお茶漬けの素・インスタント味噌汁
日本のお菓子やお酒をおみやげに持って行くそうですが、現地の人に好評だったのが、お茶付けの素やインスタント味噌汁。「これは何!?」と驚かれることもあるそうです。

4.暑さ対策にバンダナ
城宝さんの海外出張先は暑い国が多いので、暑さ対策は必至。バンダナと氷を入れたクーラーボックスが重宝する。時折クーラーボックスの氷でバンダナを冷やし、それを首に巻いて暑さをしのぎます。

城宝薫さんプロフィール
株式会社テーブルクロス 代表取締役。社会貢献型グルメアプリ「テーブルクロス」とインバウンド型体験メディア「byFood.com」を通じ、途上国に住む子供達に食を中心にさまざまな支援を行っている。多数メディアに取り上げられ、日本国内のみならず海外からも注目を集める若手女性経営者。
公式HP:https://tablecross.com/

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