今回お話を伺ったのは、これまで出張リーダーとしてBTHacksのインタビューや対談に登場してくださった鷹鳥屋明(たかとりやあきら)さんです。
鷹鳥屋さんは一般企業でサラリーマンとして勤務する傍ら、日本企業と中東の間を行き来して現地におけるイベント、プロモーションのサポートをしています。鷹鳥屋さんの存在は現地で広く知られ、今ではSNSのフォロワーの9割が中東の方で埋め尽くされるまでになりました。
その活躍と地域貢献により「中東で有名な日本人」の1人となった鷹鳥屋さんが、2021年6月25日、満を持して著書『私はアラブの王様たちとどのように付き合っているのか? (星海社新書)』を出版。今回は本の出版に至った経緯や見どころ、現在のお仕事や中東におけるビジネス事情について、お話を伺いました。
1.著書は中東の文化や背景を知りたい人たちへの入門書
夜のドバイの町並み
——著書『私はアラブの王様たちとどのように付き合っているのか?』を出版するに至った経緯を教えてください。
出版社の方が私に興味を持ってくれたことがきっかけです。
2017年3月、サルマン・サウジアラビア王国国王陛下が「公式実務訪問賓客」として訪日したことをご存じでしょうか。この時期、私はサルマン国王陛下の訪日に関するコメントをするため、多くのメディアの取材を受けていました。
そのときに、メディアに対して私が受け答えしている姿を見た出版社の方が「この人はおもしろそうだな」と興味を抱いてくださり、私が執筆した過去記事も読んでくれました。そして、「本を出しませんか」と声をかけてくださったんです。
——著書はどのような内容なのでしょうか。
タイトルにある通り、私のアラブの王族たちとの付き合い方について、また、アラブ文化や王族に関して語った本です。
正直ライトノベルのタイトルみたいで新書にしてはくだけた表現だな、と思って真面目な表現にしたいなと思っていたのですが、分かりやすさ優先ということで出版社の方に押し切られました。
目次を読んでいただくと分かるのですが、「アラブの王族について」「アラブの財閥とともに」「アラブにおける日本文化」「日本人から見たアラブ文化」と、全ての章のタイトルに「アラブ」が入っています。
「中東はどんなところなんだろう」など、中東の人と関わってみたい、現地の文化を知りたい人の入門書として読んでもらえると思います。既に中東に関する知識がある人にも中東のオタク事情など違った側面を理解できる内容で楽しんでもらえると思います。
——どのような点を意識して執筆しましたか?
執筆するうえで意識したのは、日本人が持つ中東や現地の王族に対する固定観念をできる限り崩すことでした。例えば、「アラブの王族は皆、大金持ちで凄い人」とイメージしている方もいるかと思います。その固定概念を崩して彼らも普通の人ではあるというところをちゃんと書きたかったという想いがあります。
世の中には中東に関して政治や経済、宗教などについて書かれた本は多くあります。この本に関しては堅苦しい内容にせず、「産油国と非産油国の状況」と「中東のオタク文化」のように真面目な話と楽しい話を織り交ぜて執筆しました。中東の人たちの「個」をありのまま描いた、これまで書かれてきたジャンルとは別の切り口で中東を紹介できたと自負しています。
——著書では中東と日本の文化についても書かれているとのことですが、具体的に何を書かれたのでしょうか。
中東地域の人と日本人、各々の視点から見る文化について執筆しました。例えば中東にはある程度、日本文化が根付いているんですね。具体的には、アニメをはじめとするエンターテインメントやテレビ番組、食べものなどが好まれています。中東にも日本でいう「オタク文化」の浸透もそこそこあります。
食べものについては寿司やラーメンのような海外でメジャーな日本の食事ももちろん人気ではありますが、日本製の惣菜パンや『雪見だいふく』のようなもちアイスクリームなど敢えて「ニッチ」な食べものを紹介しています。中東の人たちの日本食に対する印象は、ありがたいことに悪くはないと言えます。
他のアラブ文化については、例えばアラブにおいてサッカーは国技であるとか、現地人との付き合い方とか、結婚式について書かせていただきました。
2.中東で日本のアニメが流行している!? 現地の「オタク」事情
2018年、ドバイで開催された中東圏最大級のコミック・アニメイベント「Middle East Filma&Comic Con」で日本のアニメキャラクターのコスプレをする女性
——著書で「オタク文化」について書かれていますが、中東では何が流行っているのでしょうか。
日本のアニメが流行しています。最近だと『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』が人気ですね。あとは1970年代頃に現地で放送されていた『UFOロボ グレンダイザー』『キャプテン翼』なども現地に根付いていると言えます。
私個人の印象としては、「宇宙から悪いやつがやってきて地球のピンチに、正義のロボットが登場して平和を取り戻す」というような、分かりやすいストーリーの作品が好まれていると思います。
——日本と中東における「オタク文化」において、違いを感じることはありますか。
日本では、男性が女性向けのアニメが好きなことを発信する人は多いと思いますが、中東の男性は言いづらそうな雰囲気ですね。中東では基本的に男性は「男性らしいモノ」、女性は「女性らしいモノ」を好みます。「かわいらしい作品は女性が観るものだ」と考えている男性が多い印象です。
——中東における「オタク事情」について印象に残っているエピソードはありますか。
富士見ファンタジア文庫の『スレイヤーズ』という小説はご存じでしょうか。1995年から2009年にかけてアニメ化され、5作品のアニメが制作されています。私は2期の『スレイヤーズNEXT』推しなのですが、とあるアラブの王族は3期の『スレイヤーズTRY』推し。王族の方と私で「こっちの方が良いんだ!」と言い合いになり、最終的につかみ合いの喧嘩になりました。かなり偉い王族の方と喧嘩をしたことが話題になってしまいお恥ずかしい限りです。
子どもの頃に観ていたアニメが中東で流行っていることで、王族と共通の話題が生まれたのは嬉しかったですね。世界に通用する作品を生み出してくれた日本のクリエイターの皆さまには感謝しています。
3.アフターコロナの海外出張は「神聖」なものとなる!(鷹鳥屋談)
コロナ禍前のアトランティスホテル(ドバイ)、出張時に現地のホテルのロビーで取引先と待ち合わせ
——「海外出張リーダー」としてコロナ禍の海外出張事情についてもお聞かせください。出張はできていますか?
私は自分自身を「海外出張リーダー」だと思っていないのですが…(笑) 残念ながら、海外出張はできていません。現地とのやり取りは、ほとんどオンラインで行っています。最後に出張をしたのはコロナ禍が本格化する直前の2020年2月です。
本当は、中東に関わる人間としてコロナ禍における中東の状況や現地の人たちがどのような生活を送っているか、実際に足を運んで自分の目で見たいとは考えています。しかし、現在も出張のタイミングを図っているのものの、なかなか厳しいのが実情です。今は、現地の状況は友人や取引先からの話や、ニュース、報道などで情報を集めています。
——今後、出張はどうなっていくとお考えでしょうか。
以前、出張リーダーの対談で「人と直接出会える海外出張は“聖なる出張”、素晴らしい価値のあるものになる」という話がありました。
コロナ禍を経て、直接人と会って何かをすることが貴重なものだと感じるようになりました。中東ビジネスでは、人脈を作ることがかなり重要です。今後は、直接会えない中で中東の人たちとのネットワークをどのように維持していくのかが課題だと考えています。ワクチン接腫が本格化することでコロナ禍の状況も変わるでしょう。
気軽に海外出張できる状況になるには時間がかかると思いますが、必ず、出張へ行ける日が来るはずです。コロナが落ち着いたら今までの鬱憤を解消するかのように、海外出張へ行くとは思います。
4.ワクチン接種にドバイ万博開催、中東に活気が戻ると信じて
2017年ドバイ。Middle East Filma&Comic Conにてマスク無しで移動するかつての様子
——中東においてコロナ禍前と後で変わった、もしくは変わるだろうと感じる部分はありますか。
実際に現地を見てはいないのですが、中東の人たちはコロナ禍前よりも明らかに消毒、手洗いを徹底するようになったと聞いています。コロナ禍前でも衛生管理をしていなかったわけではありませんが、以前よりも明らかに意識が高くなったのではないでしょうか。今後、中東において衛生面はより改善されていくと考えています。
世界中、どこへ行っても手洗いやうがいなど衛生管理は大事だと、私自身も改めて痛感しています。
——ビジネス面において、コロナの影響はありましたか?
ビジネス面では物流業界に大きな影響が出ており、人だけでなく物の移動が大変そうだと感じています。
また、ドバイやドーハ、カタールは国際会議や展示会を行う拠点なのですが、現在はイベント自体が開催されていない、もしくはオンラインでの開催になるため機能していません。現地の会場が使われなくなった点では、一部病床として提供された施設もありますが、間違いなく経済面に影響が出ているでしょう。
実際、東京五輪が2020年開催から1年延期になったことで、五輪後に行われるはずだったドバイ万博も延期になりました。本来は私もイベントの一部をお手伝いするはずでしたが、予定は全てキャンセルになりました。
——今後、中東の状況はどのように変わるとお考えでしょうか?
今は中東でもワクチンの接種率が上がってきています。また2021年7月には東京五輪が開幕しましたし、2021年10月にはドバイ万博が開催されます。徐々に中東にも活気は戻ってくると信じています。
5.コロナ禍は「災害」今を乗り切り活気のある毎日を取り戻そう
eスポーツ用のデスクを楽しむアラブの少年
——新型コロナウイルスが世界中で感染拡大する中、鷹鳥屋さんはその状況をどのように捉えていましたか?
実は、コロナ禍初期は新型コロナウイルスが流行している実感がありませんでした。ニュースで「感染者が何人」「日に日に増えています」と流れてくるものの、あまりピンときていなかったんです。しかし、日が経つにつれて自分の周りで「感染した」との声を聞くようになり、じわじわと身近なものとなってきた時に怖くなりました。海外の友人も多く感染したり、入院したりと身近に感じてきました。
中東では元々MERS(中東呼吸器症候群)というラクダ経由と言われる別の感染症もあったのですが存在が過去のものになりつつありますね。
——これから、どのような未来が待っていると思いますか。
私は、コロナ禍はひとつの災害だと考えています。きっと毎年あるインフルエンザ流行と合わせて新たにひとつ加わったような、そんな感じがします。にこれまでもそうであったように「コロナ禍」という災害を乗り切ることで、いつか、以前のように活気のある日々が戻ってくると思います。
——今後アフターコロナでは「中東で有名な日本人」としてどのように中東と関わっていこうとお考えですか。
ビフォーコロナもアフターコロナもで大きく変わることはありません。これまで通り、真面目に楽しく仕事をするだけです。
個人的には、現在はエンタテインメント関連の仕事をしているので、国内外問わずおもしろそうなコンテンツを発掘して、世界に広げることをしていきたいですね。最近はアニメだけでなく漫画制作の動きも世界中であるのでそこら辺もウオッチしていたりします。
6.本のPRとメッセージ
サウジアラビアと日本のコラボ映画の試写会に参加した鷹鳥屋さん
——最後になりましたが、著書のPRをどうぞ!
「王族」というカテゴリーは、現在の日本では馴染みが少ないと思います。しかし、中東において王族は歴史上の人ではなく実在する人たちです。自分で車も運転するし買い物にも行く、オタク気質のごく普通の人間です。
また、「中東の人=石油王やテロリスト」みたいなイメージを持っている人も多いかもしれません。しかし、実際はそうではないんです。外国人が日本人全員のことを「侍」と思っているような雑なステレオタイプのものです。
本書はこのような中東に対する固定観念から脱却し、日常生活やアニメの話、身近な話題から等身大の中東の人々の姿を知ってもらおうと考えて書いた本です。中東について知りたい方に手に取ってもらえたらうれしいです。
一般企業に勤務しながら「中東で有名な日本人」を名乗るサラリーマン。メーカー勤務時代、外務省のサウジアラビア青年交流団に選抜されて中東を訪問。この訪問をきっかけに中東に興味を持ち、SNSで現地の情報発信を始める。現在は日本と中東の橋渡しをするべく、コンサルティングや講演活動を行う。SNSのフォロサー数は、Twitterは約3万人、Instagramは約7万人。フォロワーの9割がアラブ系民族。
Twitter:https://twitter.com/Shams_Qamar_JP
Instagram:https://www.instagram.com/shams_qamar_jp/
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