開会式でのフォトセッションより。左から一般社団法人メタバースジャパンの馬渕邦美共同代表理事、芸術家・VRアーティストのせきぐちあいみさん、声優の五十嵐裕美さん
2024年1月26〜28日、東京ビッグサイト南3・4ホールにて「TOKYO XR・メタバース&コンテンツビジネスワールド」が開催された。
XR・メタバースやコンテンツクリエイターが集うビジネスの祭典との副題が付けられたこのイベントは、初開催にもかかわらず、企業・個人とわず新しい取り組みに触れたい層が訪れて活況を呈した。
ビジネスステージおよびクリエイティブステージと名付けられた2つのステージでは前者が講演やディスカッション、後者はアーティストやDJによるライブパフォーマンスなどそれぞれ特長ある内容のプログラムが披露され、多くの来場者の注目を集めた。
3日間にわたるその模様をレポートする。
1.「XR・メタバース」が一般的になる日」を予感させるステージイベントの数々
3日間にわたる「TOKYO XR・メタバース&コンテンツビジネスワールド」には多くの聴衆が訪れ、活況を呈した
「TOKYO XR・メタバース&コンテンツビジネスワールド」は、東京都を中心に一般社団法人XRコンソーシアム、一般社団法人Metaverse Japan、東京商工会議所が構成し、XR・メタバース等産業展2024実行委員会が主催。
「XR・メタバースやコンテンツクリエイターが集うビジネスの祭典」との副題が銘打たれているとおり、単なるメタバースの紹介に留まらず、ビジネスサイドとクリエイター・クリエイティブサイドの両側面からXR・メタバースを来場者に向けて紹介しようという考えが随所に現れたイベントとなった。
1-1.ビジネスとクリエイティブがシームレスに融合した展示会
東京ビッグサイト南3・4ホールを一続きにして設営された広い会場には、 企業各社が手がけている大がかりなものから、個人クリエイターによるエッジの効いた取り組みまで、およそ170もの展示ブースが並んだ。
ビジネスとクリエイティブの融合によって、XR・メタバースの世界から生まれた新たなコンテンツを作ってそれらをビジネスサイドからしっかりとマネタイズに繋いでいけるようなシームレスな取り組みも随所で披露されていた。
【展示ブースの構成】
展示ブースはおおまかにビジネスサイドとクリエイティブサイドに分かれており
・「配信」
・「XR(AR/VR/MR)」
・「メタバース」
・「Web3 AI」
・「アニメ 映像」
・「ゲーム」
・「音楽」
・「体験ゾーン」
・「クリエーター」
・「関連事業」
・「メディアパートナー」
と分野ごとのカテゴリーにあわせて展示がなされた。
来場者の興味関心があるジャンルのブースを巡るだけで、知りたい情報がすぐにキャッチできるようにとの工夫がなされていた。
各展示ブースでは、初日から出展者と来場者の活発なやりとりが行われ、その中から新しいクリエイションの種やビジネスのヒントが生まれることも多かったようだ。
1-2.開会式には小池都知事もビデオメッセージで登場
1月26日のイベント初日の10時15分からクリエイティブステージで行われた「TOKYO XR・メタバース&コンテンツビジネスワールド開会式」では、まず小池百合子東京都知事のビデオメッセージが披露された。
開会式には、小池百合子東京都知事がビデオメッセージで登場した
小池都知事は
「XRやメタバースなど、デジタル空間を活用した新たなビジネスは、国内外にて市場の成長が見込まれ大きな可能性を感じます。
それぞれの強みを生かし、わくわくする製品、そしてサービスを生み出していくことがその鍵だと考えます。
このイベントでは最新の知見を得られるセミナーそしてデジタル空間の体験など、様々なビジネスチャンスを提供していきますので、ぜひ、世界的な競争を勝ち抜いてまいりましょう」
と参加者にエールを送った。
つづいて、一般社団法人Metaverse Japanの馬渕邦美共同代表理事が壇上に立ち
「XRによる革命というところを、我々としても世界に広げていきたい。東京都から、世界に向けてメタバースの世界を力強く発信したい」
と開会宣言。
オープニングイベントとして、この展示会全体のアンバサダーを務める芸術家・VRアーティストのせきぐちあいみさんと声優の五十嵐裕美さんがステージに登場。
「里の春山の春」という新見南吉による物語の朗読にあわせてVR上にライブで可愛らしい子鹿の絵を描く、というライブペインティングを披露した。
ライブペインティングをステージで披露するせきぐちあいみさん
両手に持ったコントローラーを駆使して見事な造形を空間上に描くせきぐちさんの妙技に、会場からは大きな拍手が送られた。
せきぐちさんが
「私達はメタバースそのものにも興味を持って取り組んでいますが、それはリアルな世界もより良くしていくため。
今のパフォーマンスもそうですが、リアルの素晴らしいものとXR・メタバースとを組み合わせて、より豊かな世界を作っていけたらと思います。
ぜひリアル開催だからこそできることをこの展示会でたくさん体験してください」
と語り、3日間にわたるイベントがスタートした。
1-3.メタバースのビジネス利用はここまで来ている! ビジネスステージにおける数々の発表
ビジネスステージでは、XR・メタバースのビジネス活用が急速に進んでいるという事例が次々と紹介され、多くの来場者の関心を集めていた。
初日に開催された「自治体におけるメタバースの可能性」というクロストークセッションでは、東京都渋谷区&新潟県三条市&沖縄県沖縄市の取り組みが紹介された。
その中で、いかに自治体の業務とXR・メタバースとの間に親和性があるかについて、実際の実用例も豊富に交えて紹介された。
「自治体におけるメタバース活用」トークセッションでの一コマ
各自治体の担当者は、今後のXR・メタバースの使い方次第では、職員の業務負担を大きく軽減させ、自治体業務を大きく変えられるメリットが期待できることを指摘。
今後の社会実装がますます進む予感たっぷりの活発なクロストークが披露され、おおいに来場者の関心を満たした。
また、ビジネスステージでは民間企業主体の取り組みによる、XR・メタバースの活用事例が披露された。
民間の活力がメタバースを推進・加速させているという事例を、来場者がしっかりと掴める構成となっていた。
「技術進歩によるアニメ業界とゲーム業界のコラボレーション」では、アニメーター個人の技術と制作意欲に依拠していた人的要因から、近年抱えている慢性的な人手不足が課題視された。
そのアニメ業界にXR・メタバースを導入することで、労働時間の軽減や属人的だった技術の継承といったビジネス面の課題を克服できた取り組みが紹介された。
例えば「医療xVRで命を救う可能性を広げる」のトークセッションでは、脳外科手術におけるVRマシーンを使った精密手術の手法が紹介された。
実際に患者さんの身体にメスを入れるのはVRマシーン側。
医師は空間に3Dで投影された内臓や血管のモデル上をバーチャル的に操作することで、繊細な技術を要した手術がより精密かつ迅速に行われるようになった、という事例だ。
技術活用がこれほど進んでいるのかと驚くとともに、さらなる医療とXR・メタバースの進化を期待せずにはいられない、非常に前向きな未来を感じさせるトークセッションとなっていた。
日本内視鏡学会による、XR等の手術活用に関する発表も行われた
1-4.コンテンツ盛りだくさんのクリエイティブサイド
XR・メタバースは、個人が斬新な発想で新しいコンテンツや作品を造りあげられるのも大きな魅力となっている世界。
この展示会は、XR・メタバースを舞台としたクリエイターがバーチャル空間を飛び出して、「リアルの場で自信作を披露する」ショーケースという側面もおおいにふくまれる展示会となった。
「バーチャルマーケット解説ツアー」での一コマ。会場ビジョンには遠方からアバターで参加したメンバーが登場し、賑やかにおしゃべりしながらバーチャル空間を探訪した。
たとえば、クリエイティブステージで初日に行われたセッション「メタバース初心者から玄人まで楽しめるVRワールド『バーチャルマーケット』解説ツアー!」では、非常に多くの中高校生や若きクリエイターから多くの支持を集めている「バーチャルマーケット」の世界が紹介された。
そこでは食品やアパレルなどリアルの大手企業も参画しながら、一つの大きな経済圏が出来上がってきていることが説明された。
メタバースの世界では、アバターを使うことで、女の子、スライム、獣人の執事など、「自分のなりたい存在」に変身しながら、バーチャル世界の体験や買い物を楽しめる。
これらが若年層を中心に絶大な指示を集めていることが紹介されると、来場者からは、面白い世界を目の当たりにし、より好奇心をかき立てられた様子がうかがえた。
音楽でも、クリエイターたちがリアルの世界であるこの展示会のステージで作品を発表する取り組みがみられた。
オーディオビジュアルイベント「Hyper geek」とのコラボレーションでは、参加者がクリエイティブステージにDJスタイルであがり、それぞれの音楽や映像作品を披露。
Hyper geekでは、音楽と映像をアーティストの感性によってコラボレーションさせた作品が次々と披露された
2.メタバースの「多様性ある世界観」を肌で感じられる展示会
各展示ブースでも工夫を凝らした展示がなされていた
2-1.個性にあふれた展示ブースの数々
展示ブースでも、柔軟な発想が生み出す着眼点がキラリと光る、個性あふれる内容が多かった。
■関係者が一丸となった一例
アニメ、映画、ゲーム等コンテンツ分野の起業家やスタートアップメンバーに利用しやすい家賃でオフィスを提供したり、常駐支援スタッフが入居者へのワンストップの経営支援等を実施したりする入居型創業支援施設、TCIC(東京コンテンツインキュベーションセンター)のブースでは、
「普段は業種も取り組みの方向性も違う入居メンバーたちが、ある意味、文化祭に向けて準備するかのように一つの方向を向いて展示ブース作りに携わってきた。
このイベント自体が、団結力を強固にするモチベーションとなった」(担当者)とこの展示会に向けて入居者が一丸となってきた経緯を語った。
■ターゲットにアプローチできた一例
バーチャルプロダクションスタジオで実際に撮影する様子などを展示し、来場者の注目を集めていたTELMIC Studio SOKAでは、
「特に会期が土日に入ってからは、家族連れや子どもたちの参加者が増えた。ファミリー層におおいに興味を持っていただき、3月に開催するスタジオの説明会にも多くの方をご案内できた」
と語る。
他にも、XR・メタバースに取り組んでいる企業のみならず、制作をサポートしたり、機材調達や運搬をサポートする業務やケータリング、デザインや展示企画提案を行う企業・個人も数多くブースを展示。
各参加者とも活気にあふれ、この展示会がビジネスのきっかけとなった点を評価していたようだ。
2-2.体験できるコンテンツでメタバースがより身近に
また来場者が実際に視覚のみならず五感を使ってXR・メタバースの世界を体感できる展示も好評で多くの来訪者を集めていた。
スマートフォン上に2機の飛行機の航跡が表示されたAIR RACE Xの画面。渋谷の街を模したモデルの上で飛行機がレースを行う様子をスマホで簡単に見ることもできる
たとえば東京都渋谷区の取り組みとして行われたのは、渋谷の上を2機の飛行機が飛び回る様子を、AR技術を使ってゴーグル型ビジョンやスマートフォンに写し出すという「エアレースX」。
この体験ブースでは、実際にスマホを掲げて飛行機の飛ぶ様子を楽しむ来場者の人だかりができていた。
AIR RACE X のブースでは多くの来訪者がスマホを掲げて、渋谷の街をモデルにしたジオラマの上を飛行機が飛ぶ様子に見入っていた
またバーチャルユーチューバーとリアルに話ができるHIKKYのブースでは、カメラ付き液晶モニターを首からさげたスタッフが会場を巡回。
モニター上に写されたVチューバーとリアルタイムで話ができるだけでなく、Vチューバー側からも来場者が見えるという仕組みで、Vチューバーの映るモニターと一緒に記念写真を撮る来場者も見られた。
自分のアバターを通して街に出かけて交流をするというコミュニケーションが成立しているのが興味深い展示だった。
実際に記者がVチューバーのみなさんとカメラ越しに会話した体験時の模様がこちら
2-3.XR・メタバース各ジャンルの最先端が可視化できたピッチイベント
今回が初めての開催となる「TOKYO XR・メタバース&コンテンツビジネスワールド」では、ビジネスとクリエイティブの両者あわせて、下記4部門のピッチイベント(コンテスト)が行われている。
・XR・メタバース部門
・音楽部門
・アニメ・キャラクター部門
・アバターデザイン部門
賞金と賞品を用意してのピッチイベントには、各出場者もそれぞれの分野のフロントランナーが集結。
最先端の技術やアイデアを競いあった。
アニメ・キャラクター部門のピッチイベントには、“中東で一番有名な日本人”鷹鳥屋明さんも審査員で登場
ピッチイベントでは、その分野の識者である審査員から多くの質問が飛んだ。
出場者とのやりとりの中で「これをこうすればビジネスに繋がる」「ここを改善するともっと良い作品になるのでは」といった前向きな話が多く聞かれた。
出場者も今後のビジネスやクリエイティブに活かせるヒントを多くつかんでいた様子だった。
壇上のピッチイベント出場者には審査員からの質問のみならず、ビジネス化へのヒントなどアイデア提供やディスカッションも行われ白熱していた
ピッチイベント出場者の多くは展示ブースにも出展しており、ピッチイベントで出場者の取り組みを知った来場者がブースを訪れ、そのまま商談に進むという相乗効果もあった模様だ。
2-4.メタバースならではの熱気!ビジネスとクリエイティブがシームレスに
「TOKYO XR・メタバース&コンテンツビジネスワールド」は、新しいテクノロジーという未開の世界を自分たちで切り拓いていこうという気概のある出展者・参加者が多い。
それもあって、会場中には前向きなベクトルが充満していた印象だった。
いわゆるビジネス展示会ではあまり見ることのない和服や民族衣装、カラフルで個性的な衣服等を身にまとった来場者が多かったのも、この展示会の特長の1つかも知れない。
まさにXR・メタバースの自由さと多様性にあふれた世界で、お互いがお互いの個性を認め合う世界をそのままリアルに持ってきたような雰囲気が会場にあふれていた。
3.参加した出展者の声
ここで実際に展示ブースに出展していた方々の生の声をお届けしよう。
【メタバース関連企業】
「実際の弊社サービス利用者と直接話ができて、とても良いフィードバックをもらえた。
例えば、利用者の方で学校の先生がいらして、お城など歴史上の建築物をメタバース上に作り授業で使っている、という話などをうかがえた。
グローバルなユーザーも多い中、まだまだ自社のサービスを知らない方も多くブースに来ていただけた。
弊社の取り組みは、メタバースの中でも一般の方々に身近なサービスだと思うので、認知度があがった手応えがある。
ビジネス関連の話も多くでき、ご縁が繋がった感がある」
【映像制作企業】
「みなさん同じように悩んでいらっしゃるんだなと、いう点が共有できた。
ふだん仕事をしていると出会えないような方と出会えたので、そこから新しいものを作っていくヒントにもなった。
ビジネスでアイデアや企画をどうお金に換えていくのか、具体的にはこれからという部分はあるが、技術はどんどん進歩していくので、最先端を行く人たちと出会える機会はとても貴重だった」
【個人出展者】
「思っていた以上に来場者の特性が多様だった。
家族連れや子どもたちも多くブースに来てくれて、ビジネスの展示会とは雰囲気も違って、お祭りのようなイベントだった」
【ステージに出演した出展者】
「こうやってリアルの場で、自分が手がけたコンテンツに対しての反応を直にいただけるのは、ストレートにやりがいに繋がります。
ファンの方々と直接交流もできて、自分の作品を楽しんでいただけている面も感じられて、パワーやエネルギーをもらえました。
クリエイター同士としての横の繋がりができたのも良かったです」
4.XR・メタバースの影響を受けた東京・日本のクリエイティブの可能性は無限大
クロージングイベントでは、せきぐちあいみさんが即興で見事な白龍の絵をVRコントローラーを使って描き、喝采を浴びていた
「多様性」という言葉そのもののような、お互いの個性を尊重しあいながら高めあっていこうという雰囲気にあふれていた「TOKYO XR・メタバース&コンテンツビジネスワールド」。
芸術家・VRアーティストのせきぐちあいみさんが、閉会式で総括として語ってくれた言葉
「メタバースは優しい世界」「誰にでもなりたい存在に変身できる世界」
が実感となって身に沁みてきた。
この2024年1月が初の開催だったが、「新しい何かをどんどん生み出せる」参加者たちが集まったことで、どういったものが飛び出すか分からないワクワク感があふれた展示会であったことは間違いない。
次回以降の開催にも期待が高まる。