アジアを飛び回る女性社長が大事にする現地目線のコミュニケーション戦略【海外出張リーダー】Vol.7

アジアを飛び回る女性社長が大事にする現地目線のコミュニケーション戦略【海外出張リーダー】Vol.7

株式会社 michil 代表取締役 吉川真実氏

アジア12ヵ国14拠点で、リサーチやコミュニケーションデザインをメインに企業をサポートしている株式会社michilの代表取締役の吉川真実さん。1年の半分近くを海外で過ごし、クライアントのサポートやローカルスタッフのマネジメントに走り回っています。本人曰く「渡り鳥みたいな生活」を送る吉川さんは、アジア諸国でどのように過ごしているのでしょうか。出張時に持っていくアイテムやハック術、ブレジャーの楽しみ方について伺いました。

1. フィールドリサーチでリアルな実態を調査


株式会社michil代表取締役の吉川さん。ミャンマーや中国をはじめ、アジア諸国12ヵ国を飛び回る生活を送る

——株式会社michilを立ち上げたきっかけについて教えてください。

前職で海外事業に携わっていたことが、アジアビジネスに足を踏み入れるきっかけとなりました。当時、アジア諸国で事業を行うさまざまな日系企業と関わりましたが、どの企業も現地の国民性、市場傾向などを数値・数量で表した「定量的データ」を必要としていました。そこで、もっと現地のリアルな実態を切り取った“生”のデータを提供できないかと考え、リサーチ会社として株式会社michilを立ち上げました。

——具体的にどのようにリサーチしているのでしょうか。

現地の人へのグループインタビューや、一般家庭で一定期間対象製品を使用していただきアンケートで評価を伺うホームユーステストなど、「フィールドリサーチ」によって集めたデータを多角的に分析して、必要な情報をクライアントと共有します。集めたデータから解析した重要なワードは“キーセンテンス”になりますので、マーケティングや広告に活かすようにアドバイスしています。

——どのような事例があるのでしょうか。

自動車メーカーや消費財業界、家電メーカーなど、幅広い業界・企業様から案件をいただいています。

例えば先日は、自動車メーカーからのご要望で「車内空間デザイン」に関するリサーチを5ヶ国で実施しました。車を保有する意味や存在意義を掘り下げて、移動手段という用途だけでなく、資産や富の象徴、趣味としてはどう捉えているのかなど、各国の消費者心理や価値観を詳らかにすることが目的です。
グループインタビューや複数名のモニターに数日同行して密着調査を行いました。

——日本と他のアジア各国とで車に対する価値観が違う背景には何がありますか?

アジア各国の主要都市は世界でワースト10位に入るほど深刻なレベルで渋滞がひどいです。また配車型ライドシェアサービスが日本よりも台頭しています。
そのため、個人で自動車を所有する目的や利用方法が、日本とアジア各国の市場とでは異なります。

日本では、車に複数名が乗るときは家族で利用するのが基本で、車内空間デザインも家族が乗ることを想定した発想が多いようです。
しかしアジアでは、配車型ライドシェアサービスの登録ドライバーがアプリ経由で頻繁に他人を乗せます。その上、ひどい渋滞で長時間車内にいなければならないことが多いのです。同乗者はずっとスマホを使い続けるので充電機能を求めますが、他人同士で乗っていると充電機能の取り合いになることもあります。

体験型フィールドリサーチを複数国で同時に実施することで、車に対する各国のカスタマーインサイトなどが明確になります。クライアントからは「国ごとの差異がハッキリした」との評価もいただけました。このようなお手伝いができるのはとても楽しいですね。

2. 文化や宗教を超えて生活者の「代弁者」でありたい


ミャンマーで実施したフィールドリサーチの様子。化粧品販売店で接客を体験

——他に行っている「コミュニケーションデザイン事業」とは、具体的には?

宗教や慣習の違いを踏まえてリサーチします。その上で、各エリアに住んでいる人、文化に傾倒している人に対して、クライアントの商品サービスの魅力をどう伝えれば良いかを考えて、単なるプロモーションではなく、どういうブランドコミュニケーションが最適かを提案しています。

アジア諸国は、インドネシアならイスラム教、タイやベトナムは仏教というように、国によって宗教が異なります。また、同じ国で同じ宗教を信仰していても、部族によって慣習が違うことは珍しくありません。

——どういった宗教習慣に配慮していますか?

例えばイスラム教において、女性は「ヒジャブ」などを巻き、婚姻・血縁関係にない男性の前で外すことはありません。例え仕事上の調査であっても、インドネシアのグループインタビューで、男性のリサーチャーが現地のムスリム女性に「髪を見せていただけますか?」と質問したら問題になってしまいます。また、女性の肌の露出を規制している国もあるので、日本で制作された広告を現地で転用すると大きな問題になることもあります。

法律上はもちろん、文化や宗教の違いを踏まえて、日本人スタッフは日系企業の、ローカルスタッフはローカルマーケットの代弁者となります。提案するブランドコミュニケーションは商品サービスのイメージを毀損しないか、本国側の意図が正しく伝わりそうかを事前確認して、クライアントの想いが的確に伝わるようにサポートをしています。

3. 東南アジア移動のポイントは履歴が残るアプリ


カンボジアの首都プノンペンの集合住宅。消費財メーカーのホームユーステストで訪問

——どのくらいの頻度で出張に行きますか。

弊社は12ヵ国、計14拠点それぞれに、ローカルパートナーやカントリーマネージャー、ローカルスタッフがいます。

ローカルスタッフのキャリア形成についての面談や案件ごとの進捗確認ミーティングなど、基本的に“渡り鳥”みたいな生活を送っています。1回の出張で2~3週間、平均3ヵ国程度、プロジェクトによっては8ヵ国回ることもあります。

——移動が多いと飛行機に乗る機会も増えますよね。工夫していることはありますか?

東南アジアの国同士は意外と近くて、日本で例えると東京と大阪間の移動という感覚でフライトできます。だから、例えば航空会社のマイルなどを利用すれば7000円弱でLCCのビジネスクラスに乗れるんですよ。ビジネスクラスやファーストクラスはハードルが高いと感じますが、アジア諸国内の移動にはLCCのビジネスクラスは良いですね。

——現地での移動はどうしていますか?

現地の移動は「Grab」「Gojek」などの乗車の履歴が残るライドシェア系アプリを使います。流しのタクシーは防犯面で不安がありますし、「ぼったくり」に遭う可能性もゼロではありません。また、経費精算のためにも領収証が欲しいのですが、現地のタクシーはレシートを出す機能を積んでいないことも多く、クレジットカードだとスキミングのリスクもあります。


日本とアジア諸国の文化の違いについて語る吉川さん

——現地で取引する上で意識していることは何ですか?

日本の「当たり前」が通用しないことです。

例えば、日本の商習慣では支払い規定は基本的に前納品、その後請求書が来て代金を支払うのが普通の流れですよね。しかし、アジアの場合は前金制が多く、中でも中国では、代金を支払った後に仕事を始めるという認識があります。

このため私達は「信頼関係を構築するまでは前金と後金で分けてほしい」と交渉するなど、商流の違いから求められるリスクマネジメントは日々意識しています。予め「こうして欲しい」と明確に言語化して伝えないと、逆に相手から「何で言わないの?」と突っ込まれてしまいますね。

4. 出張でブレジャーを楽しむのは当たり前


吉川さんが愛用しているランニングアイテム一式。左から「ザ・ノース・フェイス」のウエストバッグ、「Zoff SPORTS(ゾフ スポーツ)」のサングラス、「PUMA」シューズ

——出張にプライベートな時間を組み合わせる「ブレジャー」をどう思われますか?

先にも述べましたが、私達は「その国で生活している人の代弁者になるべき」との想いで業務に取り組んでいます。

弊社では、「Cultural Intelligence」(カルチュラル・インテリジェンス)を大事にしています。クライアントのご要望を叶えるべく、「文化、宗教、慣習の多様性がおもしろい」という姿勢をベースに、現地での最適なリサーチ手法や広告PRをご提案していきます。そのためには、「Cultural Intelligence」を高く持っていることが大変重要だと考えているのです。

「自分が見てきた国の魅力をどれだけ多くの人に的確に伝えられるか」
これが社員のモチベーションであって欲しいので、出張でブレジャーを楽しむのは当たり前だと捉えています。

——どのようにブレジャーを楽しんでいますか?

現地では、治安面を考えて社用車や配車型ライドシェアサービスで移動することが多いので、歩かない生活になりがちです。動かないと身体の代謝が落ちてしまうので、早朝ランニングをしています。どの国にも日本でいう皇居のような大きな公園があるので、そこで朝から走っています。

夜は危険な場所も、エリアによっては朝5~6時くらいなら太陽が昇っていれば大丈夫な場合もあって、例えば中国は、太極拳のような朝活(朝の始業前の時間を趣味などに使うこと)をしている人が多い場所を走るように心がけています。

5. 東南アジアにおけるおしゃれ&美容事情


ミャンマー・ヤンゴンのシュエダゴン・パゴダにて民族衣装のロンジーを着て撮影

——文化面で印象的だった出来事は何でしたか?

ミャンマー・ヤンゴンのシュエダゴン・パゴダという寺院は金閣寺みたいにキラキラしていて驚きました。
ミャンマーの仏教徒の方はシュエダゴン・パゴダに1日朝と夜の2回お参りに行くのですが、中にはお弁当を持ってきて、お祈り後に寺院内の広場で食べる家族もいます。まるでピクニックみたいですよ。
日本人の場合、寺院は参拝や観光が目的というケースが多いと思いますが、アジア諸国では寺院も1つのコミュニティなんです。

こういった実体験ができるので、コミュニティデザインを考えるためにも、現地の人達の空気感を得られる場所に行くようにしています。その際、現地の民族衣装で行くのが好きです。

——民族衣装を購入するのですか?

基本的には作ります。市場に布屋があるのですが、店内では針子さんが作業していて、採寸して数時間後には完成品を受け取れます。全身で13ヵ所、多いと25ヵ所測って、身体にぴったりに作ってくれるんですよ。

女性らしい身体のラインの見せ方は国ごとに違います。例えば、日本人は胸を強調したS字ライン。ボン・キュッ・ボンがカービーで女性らしいという概念が強い印象ですが、ミャンマーやインドだとお尻のラインを強調します。

このため、採寸する部位が国によって違います。例えば、ベトナムでは腰からお尻のラインを強調するため、胸部は緩めに、ウエストはギュッと絞るように採寸するんですよ。体型をきれいに見せるために、各国の針子さんはその国ならではの流行を追求しているようです。

——現地のオシャレや美容事情について教えてください。

現地は乾燥していて髪がバサバサになりがちなので、ヘアオイルは必須です。日本の椿油のように、その国の気候や生活環境に合わせたオイルがあるので、ヘアオイルは現地で購入しています。基礎化粧品は肌との相性があるため、基本的には日本から持っていきます。愛用品はキールズです。シートパックは日本でも韓国製を使うことがあるので、1枚20円弱の韓国製品を空港内で30枚ほどまとめ買いすることもあります。

現地には女性スタッフが多いので、現地の美容情報も入りやすいですね。免税で「SK-II」の美白パックを大人買いして、ローカルスタッフに配ることもありますよ

6. 日本から持っていくものを教えて!


吉川さんが海外出張に持っていくアイテム。左上から時計回りに、加湿器、変換プラグ、サプリメント、入浴剤

——海外出張に持っていくアイテムを教えてください。

○加湿器 YO-KO「FOGRING」
水を入れたコップに浮かべて使う、浮き輪のような形の加湿器です。東南アジアの外は高温多湿でも、室内は「ドライ冷房」が効くと乾燥します。ホテルではシャワールームのドアを開けて加湿しますが、それでも間に合わないので加湿器を持っていきます。

○入浴剤 SABON、バスクリン(個包装タイプ)
冷房が効きすぎたホテルで体を冷やさないために、バスタブのある部屋に泊まって湯船に浸かるようにしています。入浴剤選びのポイントは1個ずつ使い切るアソートタイプにすること。現地は硬水で臭いが気になるので香りも大事です。


お土産に持っていくお菓子の詰め合わせやおちょこ一式(右上)と風呂敷(下)

——日本からお土産を持っていくことはありますか?

クライアントと初めてお会いする時は必ず持っていきます。

○おちょこ 「能作」
日本の鉛や硯で有名な食器メーカー。現地で日本酒は販売されていても、おちょこやぐい呑みはあまり売られていないので、器は日本から、ぐい呑みを持参します。

○風呂敷
ちょっとしたお心づけを渡したい時に風呂敷は便利です。かさばらないので、出張の都度5~10枚は持っていきます。結び方を教えると喜ばれるなど話のネタにも使えますし、額装して飾っている人もいるんですよ。

7. セルフマネジメント次第で出張はブレジャーになる


セルフマネジメントをしっかりすることで「出張はブレジャーになる」と吉川さん

——最後に、吉川さんが海外出張へ行く際に意識していることは何でしょうか?

防犯や食べ物の対策など自分のことは自分で管理するセルフマネジメントの徹底です。

プライベート旅行の時は、体調を崩しても自分主導で自由にスケジューリングできますが、出張は遊びではないのでそうはいきません。アポイントメントが最優先されますから、気ままに予定変更するわけにはいきませんし、予定通り進めるためにも治安や食べ物を含めたセルフマネジメントが重要です。

セルフマネジメントがしっかりできていれば、仕事の合間も楽しみ方ひとつでブレジャーになります。海外で学べることはたくさんあるので、セルフマネジメントを徹底し、出張とブレジャー両方を満喫しながら知見を広めたいですね。

吉川真実さんプロフィール
株式会社 michil 代表取締役。株式会社リクルートを経て、現在は「株式会社 michil」のトップとしてアジア地域12ヵ国14拠点(香港/インド/カンボジア/タイ/マレーシア/中国/インドネシア/韓国/フィリピン/シンガポール/ミャンマー/ベトナム/台湾)で、リサーチ事業やコミュニケーションデザイン事業をメインに企業のグローバルビジネスをサポートしている。学生時代はバックパックや留学経験があり、自身でも「海外への親和性は高いほうだ」と語る。1年の半分近くを海外で過ごし、本人曰く「渡り鳥みたいな生活」を送っている。

構成・編集:石島聡子(リベルタ)、取材・文・撮影:宅野美穂(リベルタ)
※出張先画像等は取材協力者提供

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