取材記事

2022.03.25

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思いついたら即行動!英語力ゼロでも成し遂げた海外起業【海外出張リーダーVo.17】

株式会社Sakura Television Network 代表 関川正義氏

海外移住はもとより、海外旅行が一般的ではなかった1970年代は、今とは異なり、海外に関する情報も少なかった時代です。今回お話を伺った関川正義(まさよし)さんは、1971年に単身オーストラリア、そしてニュージーランドへ渡航しました。

渡航当時は英語を話せず、現地の情報など何もない状況だったにも関わらず、持前の行動力であらゆる職を経て映像系の会社を設立。現在は、オーストラリアとニュージーランドで日本の観光地情報やエンターテインメント、ニュースなどさまざまな番組を無料で視聴できる「SAKURA TV」を配信しています。

英語でのコミュニケーションに悩む方や海外でビジネスをしたい方にとって、関川さんの半生は勇気をもらえるでしょう。

1.行動力が強み!必死に掴んだチャンス

現在のシドニー客船桟橋。1972年にここから船でニュージーランドに向かった。人脈がなく言葉もわからない海外で生きるために、どんな仕事でも一心不乱に働いた

―なぜニュージーランドに移住したのでしょうか?
理由は二つあります。

一つは、日本人がいない地域に長期間、住んでみたかったんです。今でこそ、ニュージーランドやオーストラリアに移住した日本人は多くいらっしゃいますが、当時は、全くと言っていいほどニュージーランドに日本人はいなかったんです。

もう一つの理由は、海外がどんなところかこの目で確かめるためです。「海外ってどんな草が生えているんだろう」「海外って道路にゴミが落ちているのかな?」「白人って本当にいるのかな?」という疑問を常に持っていて、ずっと知りたいと思っていました。

―周囲の反対はありませんでしたか?
反対や心配はされましたね。高校を卒業して、ある大企業に勤務していたのですが、ほとんどの従業員が大学を出ている方でした。高卒では入れない企業なのだから退職するのはもったいない、と恩師に反対されたんです。

「そんなところに行ったら殺されるぞ」と心配する声もありました。1970年代はニュージーランドの情報がほとんどなかったので、人食い人種がいる国だと思い込んでいた方も少なくありませんでした。

―周囲に反対や心配をされても渡航した理由を教えていただけますか?
海外に行くと決め、それを実行したまでです。海外へ行くというのは子どものころからの夢でしたし、こうと決めたらまっすぐ進む性格ですから。

幸い、両親は他人に迷惑を掛けず、健康でさえいれば良いと理解してくれました。就職して2年目の冬のボーナスをもらった時点で退職し、船で9日間ほどかけてオーストラリアへ、その後、ニュージーランドに渡りました。

―初めて海外に行って、どう感じましたか?
実は、到着してからの数ヶ月、どう過ごしていたのか覚えていないんです。頭が真っ白な状態。覚えているのは、生活するためには何でもやったこと。皿洗いやお土産屋の店員など、さまざまな仕事をして生計を立てていました。

ニュージーランドで何かを形にするまでは日本に帰らないと決めていたので、とにかく必死でしたね。

―どのような経緯でSAKURA TVを開局したのでしょうか。
映像専門の知識はなかったのですが、ある日本写真家協会の方から相談を受けたことが始まりですね。私が当時働いていたオークランドのお土産屋さんにたまたま立ち寄った方が、美しい景色を撮影するために写真家を絶景ポイントへ案内するコーディネーターを探していたんです。

そこで、私がコーディネートしようと手を挙げたんです。撮影の知識はありませんでしたが、風景が美しく魅力的な場所を知っていましたし、良い仕事になるんじゃないかと思い、お引き受けしました。

その後、多くの映像関連の方が日本から南太平洋、オーストラリア、南太平洋、そしてニュージーランドへ撮影に訪れるようになったんですよ。身体がいくつあっても足りないくらい忙しかったですね。そんなときに、SAKURA TVの開局を思いつきました。

―なぜSAKURA TVを開局しようと思ったのでしょうか?
現地の方々に日本を見せたいと思ったからです。撮影した各国の風景を日本の方々に見せているけれど、現地の方たちに日本を見せたらおもしろいんじゃないかと思いつきました。

SAKURA TV開局前には、「World TV Limited」という中国系の放送局も設立しています。こちらは、ニュージーランドに移住したアジア系の人たちが自分たちの国のテレビを見たいという声をキャッチして開局したんですよ。NHKをはじめ、中国、香港、台湾、韓国の放送局が協力してくださいました。

思いついたことはすぐに行動に移しますね。自分で良いと思ったことはすぐに行動に移し、実現するためにひたすら取り組むことを大切にしているんです。

2.日本人はもっと英語力に自信を持つべき

2021年6月17日ニュージーランド警察主催・アジア系メディア総合討論会にて。参加者の国籍によって発言力に差が出たことが興味深い。関川さんは後列右から2番目

―日本人が海外でビジネスをするには、最低限どの程度の英語力が必要だと思いますか?
中学・高校で習うレベルの英語力で十分だと思っています。アメリカの元大統領のスピーチをよく聞いてみてください。専門的な単語を除けば、簡単な英語しか使っていないんです。日本の中学校で習うレベルの英語だけで、世界を感動させるスピーチができるんですよ。

私は、日本人はもっと自分の英語力に自信を持っていいと思うんですよね。正しい英語を話せなくても、通じますから。

以前、私の会社でスタッフを募集したことがありました。応募条件の一つに挙げていたのが「日本語を話せること」。中国系の方が応募してくださいましたが、彼はカタコトの日本語しか話せなかったんです。それでも、チャンスをモノにしようと挑戦して応募してきたのです。

でも、英語が得意ではない日本人だったら、条件が「英語必須」の求人には応募しないんじゃないかな。日本人も、もう少しアグレッシブになったほうが良いかもしれません。

―英語が得意でない方が、英語でコミュニケーションを図るときのコツを教えていただけますか?
ポイントは2つあります。

1. 間違った英語でも相手の目を見て話すこと
日本人は相手の目を見て話す人が少ないですね。英語をうまく話せないプレッシャーが原因かもしれません。欧米人は話すときには相手の目を見るのがマナーだと教育されていますから、目をみて話すことが大切です。

2. 無条件に何でも「Yes」とは言わないこと
会話がわかってもわからなくてもYesと言うのはNGです。「Yes」は、同意したとみなされてしまいますよ。話の内容が聞き取れなくても、わかったふりをしなくても大丈夫。「もう一度言ってください」と聞けばいいんです。

関川さん流・海外出張でリラックスする方法2つ

2012年8月タイ出張の合間にアユタヤ遺跡でブレジャー。タイ人の日本コンテンツ人気度市場調査のため。左側が関川さん

1.出張では現地を感じて溶け込む
海外に行ったら、その国の雰囲気を感じて溶け込むことを楽しむという関川さん。
たとえばホテルに到着したら、まずテレビを見て現地の状況を肌で感じるそうです。また、服をあえて持っていかず、現地の人が着ているような服を購入。出張に持っていく荷物が減るというメリットもありますね。

≪現地に溶け込めなかった失敗談≫
東南アジアでの海外出張で、商談にスーツでキメて行ったら、現地の方に笑われてしまったそう。日本人は、スーツをキッチリ着こなして商談に行くのがスタンダードですが、東南アジアの方は、ビジネスシーンでもTシャツ&短パンは当たり前なのだとか。

2.海外出張ではホテルに戻って体力温存
緊張を強いられたり、予定が詰まったりしがちな海外出張では、体力温存が大切。関川さんは一人の時間を作って休憩しているそうです。アポイントの合間にカフェなどで休むのではなく、10分でもホテルに戻れる時間があればホテルに戻り、シャワーを浴びるなどしてリフレッシュしています。

≪ホテルに戻る時間を作る方法≫
・スムーズにホテルに移動できるように、あらかじめ地図でアポイントメント場所とホテルのルートや移動時間をチェックしておく。
・ハードスケジュールにならないようアポイントメントを詰め込まない。

3.外国人と関係を築くコツは人そのものを見ること

2019年7月、3日間で10万人もの来場者があったニュージーランド最大のフード・ショーをSAKURA TVで紹介。アジア系食品メーカーの参加も目立った。写真左はプロのバリスタの方、右は関川さん

―ニュージーランドでビジネスを成功させるコツは何でしょうか?
現地の外国人の方と信頼関係を築くことです。

ニュージーランドは移民が多く、さまざまな国の方が暮らしており、それぞれが異なる文化や習慣、考え方を持っています。信頼関係を築くには、「この人は〇〇人だから、こういう性質だ」と人種で相手を見るのではなく、その人そのものを見ることがとても大切です。

それから、相手を思いやる気持ちを持つことです。

日本のビジネスマンの多くは、現地の取引相手と意思疎通をする前に、自分たちの要望を伝えてしまいがちです。ニュージーランドの人たちはビジネスの話をしたいだけではなく、交流したい、もてなしたいと思っていることも多いんですよ。単に要望を伝えるのではなく、相手がどんな人なのか、どう思っているのかを知ろうという気持ちを見せるだけで、信頼関係を築けるのではないでしょうか。

―多国籍国家のニュージーランドでビジネスをする上で、気を付けるべき点はありますか?
相手の方の風習を尊重することだと思います。特に、宗教関係はデリケートなことですので、注意した方がいいですね。

先日、あるミーティングに出席しました。そのとき、何人かの中東系の方たちが席を立ち、他の部屋でお祈りをするということがあったんです。ミーティング中でもお祈りを欠かさないという姿勢を見て、私は尊敬の念を抱きました。

ニュージーランドに限らず、海外へ行くときはその国の宗教について調べておくと良いと思いますよ。ニュージーランドには、世界中からあらゆる国の人たちが集まっているため、世界の文化が凝縮していると言えるでしょう。

とはいえ、母国とまったく同じ生活は難しいため、ある程度の理解とあきらめも必要です。永住権を持っている方は、ニュージーランドでの生活については柔軟性がありますね。

4.SAKURA TVの役割は日本とニュージーランドの架け橋

2020年2月にオークランドで開催されたJapan Day 2020では、さまざまな日本の文化が紹介され来場者3万人を超えた。写真は好評だった茶道体験で、SAKURA TVでも様子がうかがえる

―長年海外にいると、日本はどのように見えますか?
日本は観光資源世界一ですね!さまざまな国を訪れましたが、日本ほど自然や歴史的な遺跡、伝統文化など多種多様な観光資源が揃っている国は、他にありません。県をまたいだだけで郷土料理も変わりますしね。

ですから、日本に関する情報などをSAKURA TVでもっと放送し、日本のすばらしさを世界に伝えたいんです。

―具体的に、どのような内容を放送しようと考えていますか?
二つ考えておりまして、一つは、東南アジア、米欧からみた日本について放送することです。新型コロナ感染症が落ち着いたら、東南アジア、米欧の人たちに日本をどう思うかインタビューをして、映像化しようと計画しています。ニュージーランドやオーストラリアの方たちは、日本に行ってニセコでスキーしたい、ラーメン食べたいとか言う方が多いのですが、他国の方がどう思っているのか聞いてみると、おもしろいんじゃないかと。

もう一つは、もっとオーストラリアやニュージーランドと日本を繋げる番組を放送していくつもりです。放送局としてできることを広げたいですね。 たとえば、日本政府の出先機関などがオーストラリアやニュージーランドで日本文化関連のイベントや展示会を行うときは、私たちSAKURA TVが、まず開催を宣伝し、開会式や展示品を取材し、パッケージ化して放送しようと考えています。

日本をニュージーランドやオーストラリアに紹介している理由は、日本とニュージーランド、オーストラリアは、もっと関係を深めるべきだと思っているからです。

―なぜ、関係を深めるべきだと思いますか?
先代が築き上げた歴史を引き継いでほしいという思いがあります。
日本は1952年にニュージーランドと、1955年にオーストラリアと外交関係を樹立しました。植民地支配や先住民との軋轢、二度の世界大戦など、困難な歴史を乗り越えて、友好な関係を築き上げたんです。

現在、ニュージーランドもオーストラリアも日本との姉妹都市関係(日本・豪州108市町村、日本・NZ41市町村)があり、それを利用した民間交流や経済交流、留学交流、修学旅行、ホームステイ体験交流などが行われ、観光客の相互往来もあります。

ちなみに、アジア・パシフィックで、完全な民主国家で政治が安定していて、尚且つ日本に友好的なのは、ニュージーランドとオーストラリアだけなんですよ。

ニュージーランド、オーストラリア、そして日本の国民同士がさらに友好な関係を築けるよう、私は個人としてSAKURA TVを通じてお手伝いができればと願っています。これからも、日本のプロモーション映像を“Bread and Butter(パンとバター/生きて行くうえで最低限なくてはならないものという意味)” として、両国が友好な関係を築いていけるよう貢献していきたいですね。

本取材は、2022年1月28日にオンラインにて実施

関川さんから見たオンライン・オフラインMTGの魅力

オンラインで取材を実施したところ、関川さんより、
・オンラインで話をすると背筋が伸びる
・頭をフル回転するため、良い意味で緊張感がある

など、オンライン取材のメリットについて感想をいただきました。

一方で、オフラインでの取材や会議の良さについては、
・リラックスした雰囲気で話せる
・ビジネストークだけでなく雑談もでき、関係性を構築しやすい

と感じているそうです。

オンライン会議がすっかり定着した今、状況に合わせてオンライン・オフライン使い分ける工夫が必要になるでしょう。

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Sakura TVが豪州・NZ対象に日本の文化広報に貢献している事に対し、日本国総領事館賞を受賞。

関川正義(せきかわ まさよし)さんプロフィール
通称:Masa
新潟県出身。1971年オーストラリアへ、1972年ニュージーランドへ単身渡航。
1980 年Cubic Film設立。ニュージーランド、オーストラリア、南太洋地区にて観光業や映像制作に従事。
1999 年中国系放送局World TV Limited設立。中国・韓国・日本はNHK総合含む合計6チャンネル24時間放送を開始、現在は地上波2チャンネル、ならびにAMとFMラジオ局を運営。
2004年Sakura Television Network Limited設立。映像制作、日本国内民放各局の番組制作、イベント運営等など活動、2014年NHK World放送開始、現在はジャパンコンテンツ4チャンネル放送サービス(YouTubeアフィリエイト含む)を行い、両国民に対し日本への訪日観光 PR に専念すると共に両国間の相互理解促進に努めている。

SAKURA TV公式サイト:https://www.sakuratv.com/
SAKURA TV公式YouTubeサイト:https://www.youtube.com/channel/UC8HCj8iZnLFftKdvCU4fDrw

※出張先画像等は取材協力者提供

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