取材記事

2023.08.02

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内装ディスプレイ業界に新風を吹き込む船場の取り組み「エシカルとデジタル」

株式会社船場 DX本部 デジタルデザイン部 部長
大倉佑介氏

商業施設をはじめオフィスや教育、ヘルスケア、余暇施設等の様々な空間づくりにおいて、
調査・企画・デザイン・設計・施工・メンテナンスまでを一貫してサポートしている株式会社船場。

2021年にDX本部が設立され、 内装ディスプレイ業界でいち早くDX推進に取り組んでいる、
DX本部の大倉佑介(おおくらゆうすけ)氏に、DXに踏み切った背景や、取り組み内容を伺いました。
また、廃棄物の排出が多いという建設業界における、エシカルな取り組みについても語っていただきます。

1.20年変化のなかった内装ディスプレイ業界の課題をDXで解決

画像出展:株式会社船場公式サイト「Digital Design」

――貴社ではどのようなDXの取り組みをしているか、教えてください。
弊社では、テレワークや社内業務フローの電子化、案件情報のデータベース化などに積極的に取り組んできました。
私が担当している取り組みとしては空間デザインにおける設計や施工管理業務のデジタル化の推進です。

例えば、業界に先駆け2019年に設計業務にBIMを導入しました。
BIMとは、Building Information Modeling(ビルディングインフォメーションモデリング)の略で、
今後、建築・建設業界では主流になるであると言われているシステムです。

船場では、このBIMをDX戦略の中核としており、2024年までに社内の設計職70%がBIMを使いこなせるよう、教育や人材開発をしています。
そのために、船場独自のカリキュラムを開発し、eラーニングを導入するなどして、どこでもBIMを学べる環境を構築しました。

最近ではBIMデータを活用してバーチャルシミュレーションの活用に全社的に取り組んでいます。

――バーチャルシミュレーションとはどのようなものでしょうか?
バーチャルシュミュレーションとは、BIMデータを活用したフルCGのVRを活用した空間プレゼンテーション手法です。

今までは、竣工前は建物の設計図などの資料をもとに、完成された空間をイメージしなければなりませんでした。
しかし、そうしたイメージは人によって異なるため、空間デザインにおける打ち合わせに時間がかかったり、
認識の違いで手戻りが生じるなど、課題が多かったです。
バーチャルシミュレーションなら、完成する前の空間をリアルなフルCGで自由に確認できるため、
空間デザインにおける合意形成が円滑に進むようになりました。

――DX導入に至った理由を教えてください。
デジタル技術を活用して働き方を抜本的に変えることで、
生産性を向上させる新しいビジネスモデルの創出ができるのではないかと考え、DXに踏み切りました。

建設業界の付加価値労働生産性は20年間変化がなく、
・労働力と人材不足
・汎用が困難なビジネスモデル
という2つの問題を抱えています。

――変化がなかった業界をDXで変えようと考えたのはなぜですか。
今後、建設業界で深刻化が予想されている人材や労働時間不足への対策のためです。
詳しく説明すると、少子高齢化により労働人口が減少しており、建設業界もその影響を受けています。

また、2019年4月より「働き方改革関連法」が施行され、残業時間の上限が適用されました。
建設業など一部の業界には適用の猶予期間が与えられていましたが、2024年4月には、いよいよ残業時間の上限が適用されます。

1人あたりの残業時間が制限されれば、不足した労働時間を何かしらの方法で補う必要があるでしょう。
また、建築・内装業は単品受注生産ですので、毎回異なる空間デザインをしなければなりません。

定型化することが難しく、その分、一つの空間をデザインして創り上げるためには、人材も時間も要します。
人材や労働時間が不足する中、ハイクオリティなサービスを提供するには、業務の効率化が必要です。
Web会議システムやAI,BIMなどのデジタル技術を導入することで、
業務の効率化ができ、建設業界が抱える課題解決につながるがだろうと見ています。

2.2つのトランスフォームからなる船場のDX

――船場が考えるDXとはどのようなものでしょうか?
「働き方」と「考え方」の2つを軸にするものです。
DX本部の設立時に、「働き方と考え方をTransform(トランスフォーム)する」をスローガンにDX戦略を策定しました。

「働き方のトランスフォーム」においては、どこでも仕事ができる環境を構築しました。
そのために、オンラインミーティングのツールを導入するなど環境や社内ルールを整備。
どこでも働ける環境ができたので、現在でも東京の本社では、出社率30~40%ほどです。

実は、テレワーク導入については、新型コロナウイルスが流行する前から予定して準備を進めていたんです。
なぜなら、東京オリンピックによる交通規制で出社が難しくなることが予想できたためです。
社内でテレワーク環境構築をしたときにコロナ禍となり、予定を早めてテレワークなどを開始しました。

この取り組みが評価されまして、令和3年度の総務省のテレワーク先駆者100選、東京都の第1回TOKYOテレワークアワード大賞を受賞しました。

――もう一つの「考え方のトランスフォーム」とは、どのようなものでしょうか。
「考え方のトランスフォーム」では、今まで船場が培ってきた空間創造事業の知見やノウハウを駆使して、
空間に関わるあらゆる領域で空間創造のサービスを新規ビジネスとして展開したいと考えています。

システム開発やソリューションの導入などは、今後も、力を入れて取り組んでいきたいですね。
先ほど紹介した「バーチャルシミュレーション」のような、
デジタル技術やデータを活用したデジタルソリューションの企画や開発などを行っていく予定です。

3.小さな挑戦の積み重ねとコミュニケーションで生まれる新たなプロジェクト

――DXなど新事業を始めるときには、何が大切だと思いますか?
時代の変化に柔軟に対応していくために、新たなものに積極的にチャレンジしていくこと、
そして、その挑戦を次につなげるよう尽力することが重要だと思っています。

社内システムをデジタル化したときには、実際に成果があるのか効果測定を実施し、エビデンスを得るようにしていました。
せっかくデジタル化しても、効果が得られなければ無意味です。
どんなに小さな結果であっても着実に進めることで、次のチャンスにつながるのではないでしょうか。

――新事業に取り組むにあたって、意識していることはありますか?
常にどのようなことにチャレンジできるかを考え、小さなことでも挑戦してみることが大切です。
まずは、アイディアを出すことを意識しています。
もちろん、すべての提案が受け入れられるものではありません。
しかし、提案し、社内外で何度も意見交換をしていく中で、形となることもありました

弊社のDXも最初は小さなスタートでしたので、どんな小さな事でも挑戦していくというのは、船場の企業精神と一致しているかなと感じています。

4.ソリューションのアイディアが得られる雑談やプライベートな時間

▲DX本部 デジタルデザイン部 部長 大倉佑介氏(右)、
エシカルデザイン本部 ゼネラルマネージャー 柳澤武明氏(左) 
大倉氏は、柳澤氏とコミュニケーションを図ることで、案件創出においてシナジー効果が得られるという。2人で協業して、クライアントに対してプレゼンを行うことも。

――大倉さんご自身が業務を遂行するのに重要視していることを教えてください
二つありまして、一つはコミュニケーションを図ること、もう一つは常にアンテナを張っていることです。

私は、会社で「絡まれ役」なんですよ。社員に絡まれるために出社しています(笑)。
社員が私に相談をしに来てくれることが多いのですが、私もいろいろな社員に相談するなどして、コミュニケーションを取るようにしています。

設計業務のデジタル化に関するソリューションのアイディアが湧いたとき、
それを営業担当に相談して、クライアントに提案したりした結果、ビジネス化につながったことがあります。

また、仕事の相談だけでなく、会社のチームメンバーと雑談することも大切です。

――なぜ雑談が大切だと思いますか?
例えば、
「休日にいった施設の内装デザインが良かった」
「視聴した動画のこの箇所の表現がおもしろかった」
……など雑談だといろいろな情報がでてくるんです。

業務の延長での会話だと視野が凝り固まってしまうため、雑談の方が思いもよらない良い発想を得られることがあります。
人それぞれで視点が違うので、雑談をすると、自分が気付けなかったことや知らなかったことを発見できます。

――もう一つの「アンテナを張る」とはどのようなことでしょうか?
仕事以外の時間でも情報をキャッチアップしていくようにしています。
プライベートでも、お店などに行くとショッピングを楽しむのではなく、

・ポスター
・チラシ
・企画、PR

などを見て、「こういった表現や企画、考え方があるんだな」と視野を広げるようにしていますね。
そこで得たインスピレーションやアイディアがサービス化につながるかもしれませんから。

5.エシカルとデザインを主軸としたデザイン

画像出展:株式会社船場公式サイト「デジタルデザイン」

――今後の展望について教えてください。
「エシカル」と「デジタル」の二つの分野に注力していく予定です。

デジタルの分野では、2022年秋からメタバースソリューションに取り組んでいます。
BIM導入したときに、BIMを使って設計した3次元のデータをメタバースに活かし、バーチャルな空間をつくれないかと、思いついたためです。

――具体的にどのようなソリューションでしょうか?

例えば、リアルのお店を設計したデータを施工中にメタバース化して、
お店のオープン前にメタバースでバーチャルショップとしてお店を利用できるというようなサービスができないかと考えています。

今まで培ってきた空間デザインの技術・経験を活かしたデザイン性の高さや、
リアルに設計してきた知見を活かして、バーチャルな空間を作るというチャレンジをしたいと思っています。

船場のメタバースソリューションはコチラをチェック

――実施しているエシカルとはどのような取り組みでしょうか。
「つくる」だけでなく「つかう」や「すてる」という行為まで意識したエシカルデザインに取り組んでいます。

取り組みの一つに「Ethical Material(エシカルマテリアル)」というものがあります。
「エシカルマテリアル」は、船場独自の選定基準と視点で集めた、未来にやさしいマテリアルのことです。
約100社の建材・原材料メーカーから情報を収集し、使い終わった後のリサイクル方法や、再生資源の活用方法を研究する活動を行っています。

船場のオフィスでは、常時エシカルマテリアルを展示していますので、
弊社に訪れた皆様に、数100種類もの展示物一つひとつを手に取ってみていただけます。

また、2021年から毎年「エシカルデザインウィーク」という全社を挙げたイベントを実施しています。
業界の枠を超えた多くのパートナーとともに取り組んできたエシカルデザインの内容を発信し、
持続可能な循環の仕組みづくりに向けて、共に今後の在り方を考えるためのイベントです。

――エシカルの分野に注力する理由を教えてください。
内装業界はスクラップ&ビルドが主軸であるため、業界にさきがけてエシカルな発想で取り組むべきだと考えたためです。

建築業界では、短期間で大量の廃棄物が排出されています。
たった数年間の利用でも、テナントが変わったり、お店がリニューアルしたりすれば、その度に内装を変えなければいけません。
その度に廃棄物が生じ、その処理のために多くの二酸化炭素が排出されます。

そこで、船場は地球に負荷をかけない価値を提供すべきだと考えました。

船場が考える「エシカルデザイン」3つ

1.Ethical Material/素材から未来を再考する
約100社の建材・原材料メーカーから情報を集め、廃材のリサイクル方法や再生資源の活用を研究する活動。

2.re product/未活用資源の可能性を拓く
産業廃棄物など、一般的には価値あるものとみなされないモノを「未活用資源」とし、アップサイクル。

3.Zero Waste/資源を無駄にしない
廃棄物を計画的に管理してリユースやリサイクルを行うネットワーク構築。
資材の生産から消費、廃棄、そしてリユース・リサイクルまでを調達可能な仕組み作りをしている

6.DX成功は小さな挑戦を積み重ねた結果

▲大倉氏(右)と柳澤氏(左)の二人は、「未来にやさしい空間」をテーマにエシカルとデジタルで空間創造ソリューション提供している

――大倉さんの仕事の原動力は何でしょうか?
どんなに小さなことでも、挑戦したことや、提案したこと、取り組んできたことが世に出て形となることですね。

船場はBtoBの企業なので、一般的にはあまり知られていないかもしれません。
しかし、船場は、誰もが知っているようなお店や空間を手掛けてきました。
デザインしたお店などが竣工し、一般の方々に利用してもらったときには、やって良かったなと心から思います。

私たち船場が今まで小さなチャンスを積み重ねた結果、多くのDXの取り組みができたと思っています。
今後も、空間デザインを包括的にサポートする企業として、小さな挑戦を重ねて、
さまざまな取り組みをして事業を拡大していきたいと考えています。

大倉佑介さんプロフィール

船場入社後、海外ショッピングセンターの設計業務に従事。
2019年に設計業務デジタル化推進部門を立ち上げ、
現在はDX本部デジタルデザイン部部長として空間の設計・施工業務のデジタル化推進に取り組んでいる。
また、メタバースソリューション「Vterior™」のリリースなど
内装ディスプレイ業界におけるデジタルソリューションの企画開発等にも携わっている。

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