ビジネス基礎知識

2026.02.16

Lock Icon 会員限定

イタリア人の子育てと働き方とは?在住者がリアルな育児事情を解説

イタリアの人たちは、子育てと働き方をどのように両立しているのでしょうか。
文化も社会構造も異なる日本人から見たとき、イタリア人の子育てや仕事に対する姿勢や取り組み方は、驚くことも多いかもしれません。
この記事では、イタリア人の子育てや仕事の事情について在住者が解説。
家庭と仕事のバランスを上手にとれるイタリア人の姿は、育児とキャリアの両立に悩みを持つワーキングマザー(ワーママ)のヒントになるかもしれません。

1.子育てと仕事を両立しやすいイタリア人の働き方

イタリアの集落在住の筆者の周りにいるワーママから、仕事と家庭の両立についての悩みや問題を見聞きしたことは、筆者の経験だと数えるほどです。

一方で、日本の多くのワーママは、キャリアをあきらめて専業主婦になることを選んだり、仕事と育児に疲れ切ってメンタルの不調を起こしたりなど、仕事と子育ての問題に直面することも少なくありません。

イタリアのワーママが仕事と家庭の板挟みになって苦しむことが少ない理由は、どこにあるのでしょうか。
次からは、イタリアのワーママをとりまく家庭環境や労働事情からその理由を紐解いてみましょう。

1-1.ママを助けるイタリア人の家庭環境

イタリアのワーママが仕事と育児、家庭を天秤にかけることをしなくて済むのは、母親一人で育児の全てを抱え込むことが少ないことに理由があるのかもしれません。

両親だけでなく祖父母やおじおばも子供の面倒をみることは一般的で、学校の面談やPTAの集まりへ来られない両親の代わりに、家族の誰かが参加する家庭もよく見られます。
そのためか、両親の住む家に夫婦と子供が同居したり、両親の住む家の近隣に夫婦と子供が住んだりすることが、イタリアでは珍しくありません。

イタリアでは「育児の中心は母親」という認識が強い一方で、母親を助けるため家族の一員として自分も参加する、という意識も高いです。
間接的ではありますが、母親が子供の世話をしている間祖母は食事の支度をし父親はテーブルの用意をするなど、ママを助けるため自分にできることをやるという考えが根付いています。
遠距離に住んでいて家族の助けを得ることが難しい場合は、ベビーシッターを頼んだり仲の良い近所の人に子供を見てもらったりするのも、よくあることです。

このような習慣の背景には、イタリア人の家族との結びつきの強さがあります。生活は家族を中心にまわり、家族こそ一番大事にしなくてはならないという価値観を持つイタリア人は、子育てにも家族で参加します。
よって、子育てが一番大変な時期でもイタリア人ワーママが仕事を続けられる土壌があるのです。

ちなみに、普段から家族を愛している気持ちを「愛しているよ」「大好きだよ」という言葉で伝え合うだけではありません。
仕事の合間に両親や夫、妻に電話を何度もかけてたわいない話をしたり、子供を抱きしめながらお喋りに1時間近くかけたりなど、家族と密接なコミュニケーションをする人がほとんどです。

コラム:イタリア人パパの実像
イタリアでは、母親が出産したもしくは、養子や里親で子供を新しく迎え入れた両親には、子供が12歳に達するまで最大10ヶ月間の育児休暇が法律で認められています。
しかし、母親の育休取得率の高さに比べると父親の育休取得率は低いです。
一方、同じように法律で配偶者出産前後の男性育児休暇(10日間)が義務化されており、こちらの取得率の方が高い状況です。

この傾向からわかるのは、子供を迎え入れるという人生の大きなイベントに参加したいイタリア人パパの気持ちは強いものの、そのあとに続く育児については基本的にママ中心である、ということです。
母親にちやほやされ、家族の王子様のように育てられるイタリア人男性がほとんどだからか、家事や育児のノウハウを知らない人は実に多いです。
それでも、家族のために何かしようという強い気持ちを持つパパは多く、自分ができる範囲で家事や育児を手伝っています。

ちなみに筆者のイタリア人配偶者は、「⚪︎⚪︎をやって」と具体的に言わないと絶対やらないパパです。

1-2.家庭と両立可能なイタリアの労働環境

日本と比べると、イタリアの労働環境は家庭と両立しやすいです。
例えば、子供が病気になったときや家族の誰かに付き添う必要があるときなど、家庭の事情で急に休んだり途中で帰宅したりすることにも、たいていの職場は寛容です。
また、イタリア人は仕事が残っていても残業せず、残った仕事を持ち帰って家で済ませるということもしません。
きっちりと定時に退社して帰宅し、家族と時間を過ごすのが習慣化されています。

なぜなら、イタリア人ワーママに限らず、イタリアの人たちは家族と共に人生を楽しむため仕事をする、というスタンスの人が大半を占めるからです。
仕事が二の次、というほどではないにしろ、仕事より家庭を大事にする人は実に多いです。
子育てなど家庭の事情を優先することは、イタリア人の労働環境にとっては一般的なため、人事評価に直結することはあまりありません。
労働契約の内容によって休んだ分だけ給料が少なかったり、頻繁に休む場合は注意を受けたりすることはありますが、家族のために仕事を休むのは後ろ向きなことではないのです。

1-3.職場内のマタハラを厳しく取り締まるイタリア

日本同様にイタリアのワーママを悩ませることがあるのが、Mobbing(モビング)と呼ばれる職場内のマタハラです。

マタハラに対するイタリアの労働法は厳しく、妊娠・出産を控えた女性労働者を厚く保護しています。

【法律の一例】
・妊娠や出産に関わる事情を理由に解雇することは禁止
・妊娠や出産を理由とする労働者への不利益(降格、休暇取得妨害など)行為は禁止
・暗に退職を迫る行為(圧力やハラスメント)は禁止

違反行為が明らかになった場合、企業側には罰金や復職命令、損害賠償が下されます。
悪質な場合は企業閉鎖を命じられることがあるほど、法律は母性を保護し女性労働者の権利を保障しているのです。

しかし、法律による保護にも関わらずイタリアでマタハラが起こる理由の一つに、イタリア社会の深刻な人材不足があります。
コネがないと希望する仕事を探すことが難しく、仕事を求めて海外へ流出する人材が多い 中、多くの業界で人手不足が叫ばれています。
そのため、妊娠や出産を理由に時短勤務の女性や、業務量を減らす女性に対し、マタハラが起こるケースがあるのです。

マタハラの発生も、イタリア北部と南部では事情が異なります。
中でも、中小規模や家族経営の企業が多く、雇用が不安定で失業リスクが高いイタリア南部では、労働者の声をあげにくいためMobbingが深刻化しやすいと言われています。

トスカーナ州を含むイタリア中〜北部は労働組合の活動が盛んで、Mobbingに対する公的支援が充実。
そのためか、Mobbingで企業側と揉めたという話は、トスカーナ州在住の筆者の周りであまり聞かず、安心してワーママが働ける理由と言えるでしょう。

1-4.柔軟な働き方で子育てと仕事を両立

ちなみにトスカーナ州在住の筆者には、知り合いのイタリア人ワーママに9〜16時や9〜18時までなど、日本でいうフルタイムで働く人が意外と少ないです。
リモートワークが可能な職種の人は子供が通学している9〜16時までの7時間を使い在宅で仕事をするという人もいますが、こちらも少数派。

一方で、子供を保育施設や学校に送り出したあと午前中の3〜4時間の間だけ外で仕事をし、帰宅してから家事と育児をするという人はかなり多く、未就学児を持つワーママほど、上記の傾向は顕著です。

職種にもよりますが、子供が大きくなりあまり手がかからなくなったタイミングで、フルタイム勤務に切り替えたというワーママの話は、かなり見聞きします。
子育てを優先できる働き方をすることで、家庭と仕事の両立が可能なのです。

2.子育てをとりまくイタリア社会

日本と比べてイタリア社会は、ワーママが働きやすく子育てしやすい環境です。
その理由は、子育てに対する社会全体の意識の高さが大きく影響しているからなのかもしれません。
ここからは、イタリア社会全体の子育てに関する傾向についてご紹介します。

2-1.社会全体で子育てをする

街で子供をみかけると「可愛いね〜。お目目がとても綺麗」と話しかけるイタリア人はとても多いもの。
子供は愛すべき存在、社会全体で教え導くべきものという一般認識が当たり前になっているからかもしれません。
この認識を裏打ちするのが、イタリアの共和国憲法です。
親は子供を保護、養育及び教育する責任があり、親がその責任を果たせないときは法律により子供が保護されることが明記されているほどです。

一部の超高級レストランなど子供連れを断る場所もゼロではありませんが、イタリアは子供連れで外出したとき、子連れを理由に困ることが少ないです。
段差でベビーカーを押すのを通行人が手伝ってくれたり、パン屋でスタッフが子供におやつのパンを無料で渡したりするのは日常茶飯事のことです。
このことからは、社会全体で子供を育てるという意識が高いことがうかがえます。

2-2.他人の子供でも注意をする

子供が社会のルールに違反しそうなときに、他人の子供でも遠慮なく注意するのがイタリア社会では普通です。
例えば、美術館の展示品に触ろうとする子供を見知らぬ人が「触ってはダメ」と、はっきり注意することは普通のことです。
もし日本なら、多くの人は見て見ぬふりをするかもしれません。
しかしイタリアではそうではなく、守るべき社会のルールを全ての子供に教えることが優先されるのです。

筆者も子供を連れてイタリア国内を旅行中に、何度か上記のような経験があります。
現地のお店で子供にお菓子をくれたり、ホテルのスタッフにとても親切にしてもらったりする一方で、広場の銅像によじ登ろうとする子供を「危ないからダメよ」と止めてくれるマダムにも出会いました。

コラム:イタリアで人気のファミリースポット

ディズニーランドほど規模は大きくないですが、イタリアにも子供連れに支持されているファミリースポットがあります。
どの施設も街からかなり遠く車がないと行くのは難しいですが、子供を持つイタリア人なら一度は行くと言われているほど人気があります。

・Leolandia(ロンバルディア州)

画像出典:https://www.leolandia.it/

マーベルなど人気アメコミや映画、マンガとのコラボによるスペシャルイベントやアトラクションが大人気の、大型遊園地です。
テレビCMをほぼ毎時間流すことから、認知度はイタリアでも屈指。
子供が一度は行きたがるスポットの一つとして、広く知られています。

・Gardaland(ヴェネト州)

画像出典:https://www.gardaland.it/?_gl=1*14nhate*_up*MQ..*_gs*MQ..&gclid=Cj0KCQiAgvPKBhCxARIsAOlK_ErEQWSd3o84ULJaQNMUZY4zYjNqXWckc05YfEUNzY6tZD5cemLDPVAaAnH2EALw_wcB&gclsrc=aw.ds&gbraid=0AAAAADswXiVNvkMHEzXzMV6pLrxCD79Xh

LeolandiaについでテレビCMを見る機会が多いテーマパークです。
レゴランドと提携した夏のウォーターパークが、特に人気を博しています。
イタリアの未就学児に絶大な支持を得ているアニメ、PeppaPigのミニテーマパークがあることでも知られています。

・Cavallino Matto(トスカーナ州)

画像出典:https://www.cavallinomatto.it/

上記2つに比べると規模は小さいですが、トスカーナ州随一の遊園地として知られています。
未就学児向けの可愛らしいアトラクションから小学生以上の絶叫コースターまで、アトラクションの対象年齢が広いのが高ポイント。

3.イタリアの学校事情

イタリアも日本同様に、保育園、幼稚園、小学校、中学校、高等学校(高等専門学校)、大学、大学院までの教育機関があります
次からは、働くママの子育てにも大きく影響する、イタリアの学校事情について詳しく見てみましょう。

4-1.子供を保育園や幼稚園に預けて働く

イタリアの保育園は、生後3ヶ月〜3歳未満までの子供をあずけられます。
公立でも費用がかかりますが、私立に比べると保育料はかなり安く空きがあればすぐ入れるので、子供を預けて働くワーママに人気です。

日本の保育園のような別途有料での延長保育や病児保育などのサービスは、公立私立問わず、イタリアの保育園にはありません。
しかし保育園の開園時間は9時〜16時までの7時間と長いので、フルタイムで働く両親にとっても利用しやすくなっています。

子供が3歳になると、幼稚園への通園が始まります。
公立は学費が無料で、3〜6歳未満までの子供を保育園同様に9時〜16時までの7時間預けることができます。

幼稚園は義務教育ではありません。
しかし、入園率はほぼ100%に近いと言われています。
幼稚園でコミュニケーション能力を養うことや、読み書きをあらかじめ覚えさせたいという希望を持つ両親が多いことが、その理由です。

コラム:イタリアのPTA

イタリアにも、幼稚園からPTAの組織があります。
しかし、補助や雑務を多くまかされほぼ保護者全員が参加しなくてはならない、日本のようなPTA活動はしません。
イタリアのPTAは、各クラスの中で先生と両親の連絡役を決めるのみです。

また、日本のように、運動会や学芸会などのイベントを多く行う学校はほぼありません。
日本の一部の地域でみられるPTAのように、備品購入や登下校見守り、学校のイベント運営補助などの活動をすることはゼロに近いです。

学期が始まった直後の9月下旬に、連絡役を決定するための選挙が行われます。
最も得票数が多かった人が連絡役となり、先生と保護者との連絡事項をSNSで伝えたり、市の教育委員会や校長などをまじえた学校の運営会議に参加したりします。

医療関係など勤務時間が長いワーママほど、この選挙で得票してしまうことを恐れる傾向にあります。
選挙が近くなると「仕事のシフトの関係で連絡役は無理」とSNSで伝えるなどして、得票されないよう先手を打つワーママがいるほどです。

4-2.子供が小学校に上がるとフルタイムで働く

イタリアの義務教育の学校の種類は、下記の通りです。

【義務教育】
小学校(scuola primaria)/ 5年間
中学校(scuola secondaria di primo grado)/ 3年間
高校(scuola secondaria di secondo grado)/ 2年間(通学期間5年の内前半の2年のみ)

上記の10年間が義務教育期間です。
小学校でも1年生から9〜16時と長時間授業を行うため、長い通学時間の間にフルタイムで仕事をするというワーママは多いです。
後述しますが、多くのイタリア人ワーママがフルタイムに切り替える理由は、中学校以降の学費負担が増大することも一因でしょう。

ちなみに、高校は前半2年間のみが義務教育。
高校2年生で学業を修了し就職する人も珍しくありません。

コラム:中学校から始まる留年制度
日本では高校から留年制度がありますが、イタリアで留年制度が始まるのは中学校からです。
中学3年生の卒業時に筆記テストと両親同伴による口頭試問が行われ、この試験に合格しない場合は留年が決定し、翌年も中学3年生の学習内容を履修しなくてはなりません。
そのため、どこの両親もテストの時期はナーバスになりがち。
多くのワーママが仕事の休みをとって、子供のテストにつきそうほどです。

筆者も、合格・不合格の通知をもらうまでそわそわしているワーママの友人を街で見かけ、日本とは異なる事情に驚いたことがあります。

3.子育てにからむイタリアのお金の事情

イタリアで近年続く物価高騰は、子育てに絡むさまざまな分野にも及んでいます。
「政府の対策は場当たり的で効果が乏しい」などの批判も少なくないですが、イタリアのワーママが子育てを乗り切るには、国や自治体をはじめとするイタリア社会からの経済的な援助も欠かせません。

・出産前後
出産にかかる費用は、一部の特殊な検査を除くと妊婦健診や出産費用はすべて無料。
申請が必要ですが、出産直後にベビーボーナスとよばれる出産祝い金が政府や自治体から支給される制度もあります。
また、家庭の総収入額が規定にあてはまる場合は、毎月政府から子供のためのAssengno Unico(補助金)を別途受け取ることができます。
子供の医療費も基本的にすべて無料、予防接種も同様に全て無料で受けられます。

・幼少期から高校
子供の医療費無料や補助金受給の他に、教育費も無料です。
公立学校なら、幼稚園〜高校2年まで授業料がかかりません。
給食費やスクールバスなどの交通費がかかる場合はありますが、家庭の収入額によって額が決められるので、想定以上に家計が圧迫されるということも少なめです。

しかし、中学校以降は教科書代が家庭負担に。
採用する教科書の費用によっても異なりますが、2025年の中学校1年生教科書費用の全国平均は270〜320ユーロ(2025年12月現在のレートで49,642円〜58,835円)と、かなりの金額になります。

・高校から大学
高校3年〜大学卒業までは学費の支払いが必要ですが、こちらも上記同様で家庭の収入額によって学費が決定します。
高額になりがちな教科書代や交通費などは自費ですが、受験のために塾へ通うという習慣がなく、日本ほど教育費がかさむことは少ないです。
また、地元か地元近くの高校、大学に実家から通学する子供が大半で、進学に伴う生活費仕送りなどの費用負担もありません。

イタリア人の子育てと働き方から見える家庭とキャリア両立のヒント

イタリア人の子育て事情や働き方は、EU内で最低の出生率や労働者減少、物価高騰などの社会問題が背景にあると言えます。
家族全員、社会全体で子育てを支え合い、一番大変な時期を乗り切ろうとする姿勢は、日本社会と事情や文化が異なっていても大いに参考にできそうです。
例えば、家族皆で子育てに参加するといったことは、以前の日本にもかつて存在していた習慣ではないでしょうか。

イタリア流の子育てや働き方をすべて取り入れることは難しくても、見習えることがあるのは間違いありません。
日本のワーママの皆さんがもっと楽に仕事と家庭を両立できるよう、この記事をヒントにしてくださいね。

Lock Icon

この記事は会員限定です

会員登録すると続きをお読みいただけます。

働く親のリアル・トークVol.2(前編)

CTA-IMAGE


働く親のリアル・トークVol.2(前編)
ー完璧主義を手放す勇気ー



仕事も育児も全力でがんばりたい。
でも、すべてを完璧にこなそうとすると、息が詰まってしまう ——。
今回のBTHacks座談会は、そんな“がんばりすぎる自分”と戦ってきた、働く親たちのリアルな声をお届けします。
第2回のテーマは――「完璧主義を手放す勇気」。
日々の仕事、家庭、そして自分自身と向き合う中で、
どのように「ほどよい諦め」や「ゆるめる勇気」を持てるようになったのか。
にこちゃん編集長と、3人のゲストが本音で語り合いました。