取材記事

2024.06.25

Lock Icon 会員限定

【東京eスポーツフェスタ2024レポート】eスポーツをビジネスの視点で考える!3つのトークセッションレポート

2024年1月26日~28日に東京ビッグサイトで開催された「東京eスポーツフェスタ2024」。
イベント期間中には、eスポーツに関連するビジネスのトークセッションやセミナーが多数行われた。
この記事では、中でも注目度の高かった「ゲームメディアが見据えるeスポーツの未来と可能性」「ゲームとeスポーツの境界とは?企業のeスポーツビジネスへの参入」「AIアートバトルSOZO 新しい形のeスポーツ」の3イベントについてレポート。
3つのトークセッションから、eスポーツ産業が生み出す新しいムーブメントや、今後の動向などを見てみよう。

1.ゲームメディアが見据えるeスポーツの未来と可能性


2人のゲームメディア編集者が、今後のeスポーツ展望について持論を展開

登壇者:株式会社Lighthouse Studio シニアコンサルタント 野村裕貴 氏
株式会社ゲームエイト コンテンツ部 部長 鈴木 友也 氏

ゲーム攻略メディア「神ゲー攻略」の野村氏と「ゲームエイト」の鈴木氏。
eスポーツと連携の多いゲームメディアの編集者2名が、eスポーツの一般認知の拡大を捉え、今後どう発展していくのかを意見交換した。

1-1.ゲームメディアからeスポーツはどのように見られているのか?

ゲームメディア運営の立場からみた、eスポーツや関連業界について野村氏はこう語る。
「今日のような大規模なイベントが開催されている点や、今後オリンピックの種目に認められるかもしれない動きなどもある点から見ても、eスポーツは流行っているジャンルだと思うし、今後も発展していくだろう。」

ならば、eスポーツ業界がより発展し、一大社会ムーブメントになっていくために、ゲームメディア的にはこれからどういう戦略が必要なのだろうか。
鈴木氏はゲームメディアの現状には大きな課題があると分析。

「ゲームエイトはゲーム攻略メディアなので、アイテムのゲット方法や敵の倒し方など“誰もが理解でき、見ればそこで完結する情報”を提示している記事がほとんど。
しかし、eスポーツはゲームを攻略をしたうえでさらに技術やトレーニングが必要なものなので、ゲーム攻略メディアを見にくるユーザーのニーズとイマイチ噛み合っていない。
この問題点が、収益をあげるためにまず解決すべき課題になっている。」

合わせて野村氏も、メディアが取り上げにくい現状を憂う。

「eスポーツは現状、クエリ(検索キーワード)のボリュームがあまり大きくない。
しかし、メディアというのはPV数を稼いで、記事の中にある広告収益を得て利益を出すもの。
したがって、引っ掛かりやすいクエリが増えない限り、メディアとしては取り上げにくい状態だ。
今後さらに発展させていくためには、メディアが取り上げやすくなる工夫をすべきだろう。」

両者ともに、eスポーツをどのように取り上げどう盛り上げていくかは、各メディアで模索中の段階と分析した。

1-2.eスポーツをもっと身近に感じてもらうには?

現状、eスポーツは敷居の高いものだと感じる人が多い。活躍できるのはゲームが上手なトッププレーヤーのみで、ライトなゲームプレーヤー層は、それを見ることしか出来ないというのが懸念点のようだ。
ならば、ライトなゲームプレーヤーでも入りやすい土壌を作るにはどういう工夫が必要か、野村氏はこう考える。

「eスポーツといっても様々なジャンルがあるが、その垣根を撤廃する必要があると思う。
eスポーツのメインである「APEX」を始めとするFPS(ファーストパーソン・シューティング)系の市場は9位10位ぐらい。一方、「鉄拳」などの格闘系ゲームの市場は10位以下だ。

世界的に見たゲームの人気ジャンルといえば、ストラテジー系、RPG系、パズル系。こういった、市場が大きいジャンルで競技性のあるコンテンツをゲーム内に持たせることが重要と考える。

やったことがないジャンル、興味がないジャンルのゲームを新しく始めるのはなかなか難しいことだ。
もともとやっていたゲーム内に競技性のあるコンテンツが追加されるだけで、eスポーツに触れるきっかけになると思う。」

そもそもゲームを始めるきっかけがもっと気軽であれば、eスポーツの競技人口を増やすことができると鈴木氏は語る。

「“ゲームを買ってみたもののインストールの仕方が分からない”、“Wi-Fiって何?”というような問い合わせがあったりと、最近のゲームはある程度の知識がないと始めることすらできないものになっている。
そういったゲーム初心者の疑問を解消できるような記事も作っているので、ゲームメディアや攻略サイトを活用して、ゲームを始める楽しさを実感してほしい。」

1-3.ソーシャルゲームをeスポーツとして扱うのは可能?

野村氏、鈴木氏が関わっている「神ゲー攻略」「ゲームエイト」ともに、様々なゲームの攻略記事を取り扱っているが、ソーシャルゲームのeスポーツについてどう考えているのだろうか?
野村氏は自身の経験も踏まえてこう分析する。

「ソシャゲは課金要素が重要で、どれだけお金を使ったかでアカウントの強さに差が出てきてしまうので、競技化するのは難しいと思う。
だが、戦略次第で無課金・微課金でも勝てるケースがあるゲームも存在する。

最近だとコーエーテクモゲームスの『信長の野望』シリーズにて、50人対50人のチーム戦で、1時間かけて特殊なマップを攻略するというイベントが行われている。
このゲームのギルドリーダーをしたことがあるが、ユーザーとボイスチャットを繋げたり、戦略のためにパワーポイントで資料を作ったり、事前に打ち合わせをした結果、アカウントの強さ(課金額)に関わらず戦略次第で勝てたケースがあった。

大変な作業だったが、自身も大のゲーム好きなので、趣味の延長として楽しみながらプレイできた。」

野村氏の発言からは、ソーシャルゲームがeスポーツに発展する可能性は未知数ながら、不可能ではない、という期待が持てそうだ。

1-4.eスポーツ選手のセカンドキャリアについて

ゲームには、チームをまとめたり戦略を伝える楽しみがあるという話が出たが、どんなにゲームが上手くても教えたり解説するのは苦手という人もいる。
プロゲーマーのセカンドキャリアとしてコーチやストリーマーが挙げられるが、すべての選手に向いている職業というわけでもない。
第一線を退いた選手のセカンドキャリアについて、野村氏はこう考える。

「自身もプロゲーマーとして活動していた時期があったが、スポンサーが付かず金銭的にも厳しかったため、30手前ぐらいで続けられずに転職した。
そこで考えた仕事として、ゲームに関する記事なら書くことができると思い、ゲームメディアの道に進んでいったという経緯がある。
また、ゲームを知り尽くしているからこそ「何が面白いか」の判断も優れているため、ゲームの開発コンサルタントやゲームプランナーとしての仕事もするようになった。

リアルスポーツに比べたらeスポーツ選手のセカンドキャリアの職種の幅は広い。
選手自身も周りの大人たちも、職種の幅があることを知らないだけだから、自分たちのようなゲームをビジネスにしている側がプロ選手たちにもっと寄り添う必要があると思う。」

鈴木氏も、プロゲーマーのセカンドキャリアについて、大きな可能性を感じている。

「そもそもプロになれるほど何かに打ち込めるタイプの人なら、キャリアチェンジしても上手いことやっていけるもの。
ゲームエイトにもプロゲーマーとして活動しながら働いてるメンバーがいる。
大会の賞金だけで食べていくのは難しいので、2つのキャリアをクロスさせて両方で活躍するという賢いやり方だと思う。」

また、プロゲーマーになりたいと夢見ている人に対して、鈴木氏から以下のようなアドバイスがあった。

「セカンドキャリアをしっかり見据えた上でなら、プロゲーマーになる夢を応援したいと思っている。
ゲームを仕事にすることを、“嫌なことからの逃げ場にしない”ということが大切。
eスポーツに限ったことではないが、義務教育をしっかり受けて、社会人として生きていく力を付けたうえで、好きなことを仕事にするというのが重要だ。」

このトークセッションでは、今後のeスポーツ発展のために解決すべき、様々な課題があることが浮き彫りになった。
とはいえ、eスポーツがもたらすだろう高い将来性は、それを補ってあまりある。
eスポーツ業界の先行きは明るい、と思わせる前向きなセッションだったことは間違いない。

2.ゲームとeスポーツの境界とは?企業のeスポーツビジネスへの参入


元/現ゲーム会社の幹部2人が、ビジネスとしてのeスポーツ展開について語った

登壇者:株式会社HLD Lab 代表取締役/
一般社団法人デジタル田園都市国家構想応援団 専務理事 岡田 大士郎 氏
BLUE BEES株式会社 代表取締役 鈴木 良昭 氏

次は「ゲームとeスポーツの境界とは?企業のeスポーツビジネスへの参入」のセッションを見てみよう。
元スクウェア・エニックス米国法人社長の岡田氏と、eスポーツプロチーム「BLUE BEES」を運営する鈴木氏。元/現ゲーム会社の幹部2名が、企業がeスポーツビジネスに参入することについての見解を語る。

ゲーム産業の今後の発展や教育の場での活用など、解説は多岐にわたる。そこから見えてくる、今後のeスポーツやゲーム産業が担うべき未来とは、どんなものだろうか。

2-1.元/現ゲーム会社幹部が考えるeスポーツの定義とは?

そもそもeスポーツとは何なのか?その定義について岡田氏はこう語る。

「“スポーツ”という言葉が入っているため、『ストリートファイター』や『鉄拳』のようなファイティングゲームを想像する人が多いと思う。
しかし、多くの人たちと集い、コミュニティを作り、ワクワクする体験ができる、そんなデジタルのプラットフォームの総称がeスポーツだと考えている。
競技としてのゲームだけでなく、プロ選手やトッププレイヤーだけのものじゃない、選手を応援する活動なども含めてeスポーツと思うし、そうなっていってほしい。」

鈴木氏もeスポーツの定義について、疑問に思うところがあるという。

「定義的には“電子機器を使ったスポーツ”ということになると思うが、”電子機器って何?” ”ARやXRを使ったゲームはどう分類するの?”といった感じで、今後定義が曖昧になっていくものだ。あまり厳密に言葉の意味を考える必要はないだろう。」

両者ともeスポーツという言葉の定義が一人歩きしてるようだ、と語った。

2-2.ゲーム産業のさらなる発展のためにするべきこと

ゲーム産業がさらなる発展をするための新たな施策について、岡田氏は以下のことを実行しようと考えている。

「自分の活動に対して報酬がある、そんな仕組みができたら面白いなと考える。
例えば、Web3ゲーム(ブロックチェーン技術とゲームを融合したもの)として、プレイすればするほどポイントが貯まる仕組みだ。
また、eスポーツチームを応援するなどの活動によってポイントが貯まり、そのポイントを商品と交換できるようなシステムなど、楽しみながらやっている活動が価値に変わったら嬉しいはずだ。

他には、デジタルの世界で旅ができる機能なども実現させたい。
気軽に行けない場所や通常入れないような場所をゲームで巡れたら、地域の活性化に繋がると思う。」

今後を見据えて、日本のゲーム開発企業がやるべきことは何なのだろうか。鈴木氏はこう語る。

「ゲーム市場のマーケットをよく研究することが重要。
モバイルゲームでいえば、短期で集金をしてすぐにサービス終了になるようなものではなく、持続可能なゲームを作ることが大切。
実際いまeスポーツの種目となっているゲームは、息の長い作品がほとんどだ。」

2-3.勉強・教育にゲームを取り入れるということ

最近は、ゲームが勉強や教育のツールになっているケースがあり、多くの人たちにとってゲームが身近に感じられる機会が増えている。
教育版「桃太郎電鉄」や「マインクラフト」を使ったプログラミングなどが人気になりつつあるが、こういった流れを鈴木氏は肯定的に捉えている。

「海外の一部では子供のころからゲーミングPCに触れさせている家庭が多いと聞く。
ゲームをきっかけにして、子供のうちから自然とプログラミングを覚えたり、自身でアプリを作る経験をして、ネットとの親和性を高めているのだ。

子供のうちからPCを使う環境というのが、日本ではまだ一般化されていないため、自社でも3年ほど前から愛知県の教育委員会と連携して、eスポーツを使ったIT教育を広める活動を行っている。」

岡田氏も、日本のIT教育について憂いを感じているという。

「“理系人間を育てましょう”という方針が日本にはあるが、理系/文系と区分されているのは日本だけ。
子供の頃からPCゲームに触れているとプログラミングなどを勝手に覚えて、自然と理系人間ができあがるため、海外ではわざわざ理系人間を作ろうという考えがないのだ。」

ゲームによって、自分が興味のあることや得意なことが発見でき、社会生活で必要なスキルも育まれる。
そんな新たな価値観について岡田氏はこう分析する。

「ゲームをプレイすることでアートの感性が育ち、eスポーツで戦略や戦術を考える力が身に付き、他人と協力するという経験から日本語力、社会性、コミュニケーション力などが自然と身につくことは間違いないだろう。」

そして鈴木氏も、ゲームによって育まれる社会性について見解を述べた。

「eスポーツは他のスポーツと違い、チャットをしたり、マイクやヘッドフォンを使って対戦中にがっつりコミュニケーションを取ることができるのが特徴。
だからこそ冷静、温厚、ジェントルであることがチームやギルドをまとめるのに重要だ。
これは経営者や企業のリーダーとしても必要なスキルである。」

2-4.企業がeスポーツ業界に参入するには?

これからeスポーツ業界に参入したいと考えている企業や自治体は、まず何をするべきか?
そういった企業や自治体から相談を受けることが多いという鈴木氏が、実体験をもとに意見を述べた。

「一見eスポーツとの関わりがないような企業でも、工夫次第で取り入れることはできる。
大切なのはeスポーツについて理解を深めることと、社員をもっと知ること。
どういうことかというと、eスポーツ業界に参入してみたいと考えている経営者層ほどゲームやeスポーツに対する知識が少なく、若い社員のほうがeスポーツへの理解がある人が多いのだ。
経営者層の方が社員にゲームに関するアンケートをとって、その関心の高さに驚いているケースをたくさん見てきた。
どう取り入れたらいいか分からない企業は、まず社員同士のコミュニケーションツールとしてeスポーツを取り入れるのがオススメ。」

どんな企業でもeスポーツに関わることができるが、注意点もあると岡田氏は語る。

「eスポーツに参入する企業や自治体は、何のためにeスポーツをするのかを考えてからでないと、途中で手詰まりになってしまう。
プロチームを結成して選手を広告塔に起用しただけでは、結果が出ず採算もとれず、翌年にはチーム解散という結果になってしまうだろう。
参入することで何を実現させたいのかを考えることが大切だと思う。」

このトークセッションでは、eスポーツやゲームを各業界・教育現場で活用することの重要性について議論された。
ただ話題性がほしい、流行っているからなんとなく、そんな理由でeスポーツを取り入れることは良しとしない。
どんな成果が得られるのか、地域社会にどんな良い影響を与えられるのかを考えることが重要だと両者は語っている。

3.AIアートバトルSOZO 新しい形のeスポーツ


登壇者:株式会社海馬 代表取締役社長 北村勝利 氏

最後に「AIアートバトルSOZO 新しい形のeスポーツ」のビジネスセッションをご紹介する。

近年、急速に注目されているのがAI(人工知能)技術だ。
AIは、翻訳や医療など多くの産業で急速な発展をもたらしており、これからはさらに、生成AIが社会に浸透していくだろう。
そんな中で求められるのは、AIを活用するスキルだ。

AIをeスポーツ化、すなわち「競技化」することで、AIの学びを促進する仕組みを、生成AI研修の講師としても活動する北村氏が解説した。

3-1.ゲームの競技化を進める活動の原点とは

北村氏は、「解説や実況、配信などの“ショーアップ化”がゲームを競技化(=eスポーツ化)するにあたって重要なことだ」と語る。

解説や実況があれば詳しいルールを知らなくても楽しめるという風潮が、ラグビーを始めとするリアルスポーツでは当たり前になったが、eスポーツも同様だと考えたのだ。
この考え方に、北村氏の活動の原点がある。

北村氏は、ゲーム開発企業やeスポーツ関連の企業を設立するなど、30年以上にわたりIT関連の仕事を続けている。

モバイルゲームの開発を得意としていた同氏は、2013年頃にモバゲーのパチンコ・パチスロのソーシャルゲームをリリース。
当時、eスポーツの走りとも言えるランキングイベントが流行っていたこともあり、4200万ダウンロードを超えるヒット作となったという。

その後、2014年に賞金付きのゲーム競技アプリ 『ワンダーリーグ』をリリース。
バンダイナムコに『パックマン』のライセンスを借りて、アプリ内でパックマンの競技ランキングを開催し、デイリーイベントで優勝すると5000円の賞金が貰えるという仕組みを開発。
この頃はまだスマホでeスポーツをするという文化がない中で「モバイルeスポーツ」というものを立ち上げ話題となった。

その後も、プレステ版『Apex Legends』のリーグを作るなどゲームの競技化を積極的に行っていると北村氏は紹介し、その重要性を論じた。

3-2.競技化することで“学び”が楽しくなる

タイピングやブラインドタッチの競技、エクセルの活用技能を競うもの、サーバーを立てて最初にセキュリティホールを破った人が勝利するハッキング大会などが、数年前から流行りはじめている。
最近は綺麗なコーディングを作る速さを競う大会や、タブレットでデザインを描く速さを競う「LIMITS」という大会が人気で、YouTubeにある競技中の動画も注目を集めている。

あらゆることがeスポーツ化されている、と同氏は分析。

そんな流れを受け、北村氏は「“競うという概念を入れるだけで学びが楽しくなる”ということに着目した」と語った。

それを証明するように、北村氏は、ユンボの運転技術を競技化して大会をプロデュース。
建設業界へ若い人材を呼び込むツールとして注目を集めている。
エンタメ化、競技化は学びを促進するための手段であり、どの業界でも応用が効くということが実証されたのだ。

3-3.AIの歴史からみた生成系AIの発展

1960年代に人工知能という概念が登場し、AIの歴史はそこから研究を重ね続けている。
「生成AI市場は10年以内に180兆円に拡大すると言われており、今のうちからAI対策が必要だ」と北村氏は将来への見通しを語る。

いま一番馴染みのあるAIツール「ChatGPT」。
AIを使った自動会話システムで、質問すると、人間との対話に近い自然な文章が生成され、回答が返ってくるというもの。
サービス開始から約2か月で月間アクティブユーザー数が推定1億人を超えたという。

北村氏は、今年からChatGPTがエクセル、パワーポイント、ワード、メール機能などのアプリケーションとセットになって使えるようになることについて、「期待と懸念を感じている」と分析した。

例えばエクセルの場合、ウィンドウに「このグラフをもとに表を作って」と伝えるだけでAIが表を作ってくれるシステムで、今後は関数の知識が不要になる。
また、パワーポイントでも、「過去の議事録を読み込んで、それをもとに資料を作って」と伝えれば自動的にそれが完成するという。
ChatGPTを直接使うのではなく、それらのアプリケーションを間に挟んで使用することで、専門的なPCの知識も作成する時間も不要になり、仕事の効率化が見込めるという流れが起きているのだ。

「さらに、今後はエンドユーザーも気軽にAIを使えるような仕組みが増えていく」と、北村氏は予想する。

Googleの検索画面にはすでにAI機能が登場しており、2027年には過半数の人が日常的にスマホでAI検索を使うようになると言われている。
文字入力ではなく音声入力も可能となり、ユーザーは「日時」「人数」「場所」「予算」などを話すだけでレストランの検索から予約までが可能になるのだ。

よって、生成AIの登場で雇用やキャリア、サービスの定義が変わりつつある。
「AIを活用する人が、AIを使わない人の仕事を代行するという流れが生まれたことで、
新しい技術を学ぶか学ばないかの選択が迫られている」ことを、北村氏は懸念している。

3-4.「生成AI」をアートで体験する仕組みとは

AIは「文章」と「画像」と「音声」の大きく3つに分類されるが、そのなかで北村氏はアート・画像生成に注目し、活躍の場を広げている。その活動内容について、詳しく語った。

台湾で行われた「AIプロンプトアートファイト」は、出されたお題に対し、20分間でより速くクオリティの高い絵を作れるかを競う大会で、これがAIアートの競技化の始まりである。

北村氏はこの「AIプロンプトアートファイト」に倣い、今年1月から2月にかけて、AIアートバトル「#SOZOトーナメント」を初開催した。
これは、試合の直前に発表されるお題に対し、1対1の対戦者が制限時間内でAIアートを完成させるもの。
「作品クオリティ」「テーマの解釈」「発想の豊かさ」の3つが審査のポイントとなる。
オンラインでZOOMとMEETを使って全国から参加でき、日本一のAIアート選手を決定する大会だ。
春には第2回大会の開催も予定されている。

また、北村氏は「SOZO美術館」という日本最大のAIアートコミュニティも運営している。
これは、AIアートに興味のあるユーザーに対して定期的にテーマコンペを開催し、Xで絵を投稿してもらい、ハッシュタグを利用して拡散し、自身の絵を発表する機会を提供するというもの。
「絵の技術がなくても美術を楽しめて、誰でも参加できる仕組みになっているため、AIアートの練習の場として活用されている」と、同氏は自身の活動を語った。楽しみながら学ぶことは大きな可能性を秘めている、と言えるのだ。

3-5.生成AI競技化活動は格差をなくすための手段

北村氏が生成AIを競技化する活動をする目的は、「AIを多くの人に興味関心を持ってもらうためだ」と説明。

「知識を付け、今のうちからAI対策をすることで、デジタル格差やAI格差によって生まれる収入格差などをなくすことが、今後の日本には必要」と分析している。

しかし“プロンプト”など馴染みのない用語や知識をいきなり理解させるのは難しい。
そのため、生成AI教育にはAIアートを導入として体験させているのだという。

北村氏自身も講師として、就労支援施設にあるパソコンを使ったAIアート体験セミナーを行ったり、アプリ「Bing」を使って専門学校や教育機関に向けた生成AIカリキュラムを実施している。

ゲームの競技化やAIによる教育活動など、今後の業界を牽引するムーブメントを支える北村氏。
その話からは、次世代のテクノロジーを学び普及させた先にある、日本経済の更なる発展を予想できそうだ。

まとめ:eスポーツはビジネスへ高い将来性をもたらす

3つのトークセッションの登壇者たちはみな「eスポーツの未来は明るい」と明言していた。
高い将来性を感じられる前向きな言葉だ。

とはいえ、eスポーツの定義はまだ曖昧で、市場を盛り上げようと模索中の企業がほとんど。
eスポーツのさらなる発展には、広い分野での企業や自治体の参入が望まれる。
そのためのメディア戦略や、教育および普及活動がさらに重要になることだろう。

クリアすべき課題は多いが、今後の日本経済の発展には、eスポーツが大きな影響力を持つ可能性が感じとれる。
来年のeスポーツフェスタにも、さらに期待したいものだ。

Lock Icon

この記事は会員限定です

会員登録すると続きをお読みいただけます。