大人の職業体験から見えた自分の進路
私は長年、大手電機メーカーのシステムエンジニアとして勤務してきました。
安定した就労環境と収入は得られましたが、入社当初の仕事へのやりがいはだんだんと薄れていきました。
定年退職が目前に迫るにつれ、これからの人生をどう歩んでいけばよいのか、漠然とした不安を抱えるようになっていました。
そんな折、社内で大人の職業体験プログラムへの公募があり、私は思い切って申し込みました。
これまでの延長線上にない職種に触れることで、新たな視点や気づきが得られるのではないかと期待を抱きました。
職業体験では占い師とマッサージ師の2職種を選択しました。
占い師への興味は、単調で機械的な業務からかけ離れた、人間味あふれる仕事に関心を持つようになったことが理由です。
一方のマッサージ師は、人と直接関わりを持ちながらも独自の価値を提供できる仕事に魅力を感じたためです。
占い師から学んだ「オリジナリティを発揮する大切さ」
最初の職業体験は、都内の閑静な住宅街にあるルビー先生という女性の占い館でした。
ルビー先生は昔は専業主婦でしたが、中年になってから運命的な出会いがあり、占い師の道を歩み始めたそうです。
遠く離れた土地から人々が世話になるために訪れていました。
ルビー先生は単に占いの結果を伝えるだけでなく、お客様一人ひとりの心情や状況を汲み取り、
分かりやすく的確なアドバイスを心を込めて行っていました。
難解な占術の世界を独自の言葉で噛み砕き、愚痴を聞いたり励ましの言葉をかけたりと、
人生の指針を示す仕事そのものだと感じました。
この経験から、仕事において自分なりの解釈を加え、オリジナリティを発揮することの大切さを学びました。
与えられた情報や知識をただ伝えるのではなく、受け手に合わせて加工し、わかりやすく伝達する工夫が重要だと気づかされました。
単に仕事をこなすだけでなく、自分の個性や温かみを発揮しながら人々に寄り添えるのであれば、それはとてもやりがいのあるものだと実感しました。
ルビー先生の姿勢からは、「仕事とは自分の価値観を反映させるもの」という強いメッセージを感じ取りました。
長年システムエンジニアとして働く中で、どこか自分らしさを発揮できずにいたことに気づかされた瞬間でした。
マッサージで味わった「自分らしさを発揮する喜び」
次の職業体験は、銀座の老舗マッサージ店での施術見学でした。
実際の施術までは至りませんでしたが、師匠から教わった知識やテクニックに自分なりの解釈を加えながら、
唯一無二の手付けを確立していく過程を間近で見ることができました。
同行した若手マッサージ師の方が「自分の道を手に入れた。これが仕事への喜びの源泉です」と語ったのが印象的でした。
確かに従来の仕事では、そういった自分なりの価値観や個性を発揮する機会はほとんどありませんでした。
主にはシステムを構築する作業工程でしたので、新しいものを生み出すよりは既存のものに従うことが求められていました。
しかしマッサージ体験から、自分の視点を大切にし、オリジナリティを発揮できる仕事こそがやりがいのある仕事だと実感しました。
オリジナリティとは必ずしも起業や個人開業を指すわけではありません。
会社組織の枠内でも、自分なりの工夫や個性を発揮できる仲間と環境があれば、十分やりがいのある仕事ができそうです。
マッサージ師の方々から感じたのは「仕事とは自分らしさを発揮する行為そのもの」という揺るぎない信念でした。
自分の個性を仕事に反映させることで、人生をより豊かに彩ることができるのだと教えられた気がします。
【これからの人生で重視したい2つの価値観】
2つの職業体験を通して、私はこれからの人生で大切にしたい2つの価値観を見つけることができました。
1つ目は、共感力や想像力を持って人々に寄り添う意識です。
単に与えられた仕事をこなすのではなく、相手の考えや気持ちを理解し、思いに寄り添える視点が重要です。
人の役に立ち、喜びを提供する仕事をしたいと思うようになりました。
2つ目は、仕事の過程で自分なりの価値を生み出し、発信し続ける姿勢です。
単に既存のものを踏襲するのではなく、常にオリジナリティを発揮し、
新しい視点や工夫を加えていくことで仕事へのやりがいと喜びを感じられるはずです。
長年の会社員生活の中で、自営業については敬遠してきました。
しかし今回、自分なりの価値を提供できる仕事に就けるのであれば、自営業も視野に入れてみようという気持ちに変わりました。
これらの価値観は意識の片隅にしかありませんでした。
しかし今回の体験を通じて、改めてこの2点の重要性に気づくことができました。
定年後はこの学びを活かし、単なる人生の延長線上にとどまらない新しい道を切り拓いてみたいと考えています。
大人の職業体験は、私に新たな生き方の指針を示してくれました。
占い師やマッサージ師の姿を通して「仕事とは自分らしさを発揮するもの」だと教えられたからです。
長年染みついた価値観を変えるのは容易ではありません。
でも、人生100年時代を前に、自分なりの生き方を模索し続けることは避けては通れない課題のように感じています。
定年後の人生を、自分らしく、豊かに彩るために。
大人の職業体験で得た気づきを胸に、新たな一歩を踏み出したいと思います。