取材記事

2020.04.20

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北米に移住した女性リーダーが異文化で得たビジネススタイルを語る!【海外出張リーダー】Vol.12

株式会社グローバルステージ 代表取締役&CEO 大洲早生李氏

大洲早生李さんは株式会社グローバルステージを経営し、世界35カ国以上で市場調査をはじめとするマーケティングサービスを提供。3児を育てた経験から、特に母親目線が生きる教育や食関連企業の国内外マーケティングもサポートしています。2019年に家族とともに北米へ移住し、仕事と子育てを両立する大洲さん。ビジネスマン・ウーマンに向けて、現地で活躍する女性リーダーの視点から北米出張のアドバイスをいただきました。

1.海外進出を目指す日本企業のために現地を徹底調査


日本以外に北米に拠点を置き、海外で事業を展開する日本企業をサポートしている

−−株式会社グローバルステージの事業内容について教えてください。

株式会社グローバルステージを2011年に創業しました。教育と食、消費財を扱う会社をメインに、海外進出もしくは海外での事業拡大を目指す日本企業のマーケティングをサポート。最近では、化粧品メーカーの北米事業の進出支援を実施しました。

マーケティングの中でも、特に「調査」に重点を置いています。

国やエリアの違い、扱う商材が違えば、当然、マーケティングの内容もそれぞれ異なります。企業が海外市場に進出する際、進出先の国の誰をターゲットにして、どのような戦略でプロモーションを行うのか、さまざまな調査方法でデータを集めて戦略の企画・立案をします。

−−調査はどのように行うのですか?

基本は、
・対象者とインタビュアーが1対1で話す「デプスインタビュー」
・複数の対象者を集めて話を聞く「グループインタビュー」
・対象者を指定の会場へ集めて製品を試してもらい感想を聞く「会場調査」
の3つを行っています。

実際に現地へ足を運ぶこともあれば、オンラインで実施するケースもあります。調査の方法は、取引先のニーズや予算に応じて私たちで提案します。

−−集めたデータはどのように活かされるのでしょうか?

「この商品はこういうビジネスモデルで売るべきだろう」「パッケージデザインはこうしよう」など、事業の戦略を提案するための材料に使います。あとは、キャッチコピーやボディコピーなどの「広告コピー」。サービスにしてもモノにしても「広告コピーをどうするか」という問題が非常に大切です。

海外で事業展開をするためにコピーを考えようとすると、言語の違いが問題となります。現地の人は「この言葉はおかしい」と気付いた瞬間にその商品やサービスには見向きもしません。調査をしていても、ターゲット層の人達から「このコピーはおかしいよね」と指摘を受けることがあります。そこで指摘された部分を直せるかどうかが鍵ですね。

2.会議は目的と進め方を明確にして無駄な時間は作らない


大洲さんの仕事アイテム。時計回りにiPhone、MacBook(とマウス)、AppleWatch。アップル製品を愛用

−−アメリカで現地企業と会議をする際、意識していることはなんでしょうか?

会議の目的と、次に何をするか、「ネクストステップ」を自分の中で整理して臨むことです。

現地企業は必ずと言っていいほど、会議の最後に次のアクションを明確にしようとします。自分で決められないからといって、「一度持ち帰ります」というのはNG。時間の無駄と思われます。目的と流れを明確にしないまま会議に臨んで心象を悪くしてしまうのは、海外出張や取引に慣れていない人に多い失敗なのではないかと感じます。

−−ネクストステップが明確だからこそ、効率よく仕事を進められるということですね。

そうなのだと思います。「持ち帰らない」ためには、決裁者を連れて行くのも必須です。日本企業の場合、決裁権がない人でも会議に参加するケースが多いですよね。現地企業との会議において、決裁者がいない状態で参加することは最もしてはいけないことだと考えています。

効率を考えると、会議のメンバー構成も大事です。

日本のある企業が、決裁者を含む40人で会議に出席したという話をシリコンバレーに本社がある大手テック企業の役員から聞いたことがあります。例え会議に決裁者がいても、総勢40人もいると誰に何を話したらいいか戸惑いますよね。その役員から「40人も参加するのは非効率の象徴」と冗談めいて指摘され、私も気をつけようと思いました。

−−決裁者は、時間を効率的に無駄なく使うためには必須なんですね。

日本人は自分の時間が取られることに理解がある気質だと思いますが、特にベイエリアのビジネスパーソンは皆、ものすごく時間単価にシビアです。「これだけ私を拘束するなら、これだけの時間単価を支払ってください」と言われます。会議にしても取引にしても、それに自分の時間を費やす価値があるかどうかを現地の人は常に見極めています。

−−なぜ現地の人は時間単価に厳しいのでしょうか?

特にシリコンバレーは生活水準が全米で最も高いエリア。物価が高い場所で生活していかなくてはならないわけですから、現地の人も必死ですよね。

また、日本企業によくある「視察」も時間の無駄だとされてしまうんです。シリコンバレーの人からすると、「視察」は厳しく言うと時間の無駄になりかねません。このため、私も日本企業から視察を希望されたら「何か理由付けをしてほしい」と伝えています。理由付けをせずに、ただ目的もなく訪問するだけでは信用をなくしてしまいますから。

3.多様性がある海外生活は育児にも活きてくる


大洲さんの3人の子どもたち

−−海外移住を決めた理由について教えてください。

前職に勤めている時に海外赴任をしたい気持ちがあったのですが、妊娠・出産で叶わなかったんです。それで、いつか自分の会社を立ち上げて海外へ拠点を置こうと考えていました。

後は、子供の教育ですね。多様性があり、英語で話す環境で育てたかったんですよ。

−−お子さまたちは海外生活に不便を感じていますか?

感じていないですね。小5の双子、下が小3と、3人います。引っ込み思案な性格というわけではないので、現地で友達をつくることも苦ではないようですし、ホームシックにもかかっていません。

ただ、これは子供の性格によると思います。駐在員としてアメリカに来た方のお子さんは英語を話せなくて不安がっていたと聞きました。

−−海外で仕事と子育てを両立するために意識していることはありますか?

実は、仕事と子育ての両立ができているとは思っていません。クライアントとの案件で仕事が立て込むと、子育てどころではなくなってしまうのが内情です。

子供たちが身の回りのことは自分でできるようになっていることに救われています。私が出張で日本に来る時も、子供たちは自分で弁当を詰めて学校に行っています。何でも自分でできる子に育ってくれた様子を見ると、今までの蓄積が活きているなと感じます。

4.日中は乾燥対策とUVケアが必須


冬でも常に持ち歩く日焼け止め(左)とUVカットの手袋(右、冬用)。冬もUVケアは必須

−−お住まいのエリアについてお聞かせください。

私が住んでいるのはシリコンバレーの名称で知られるカリフォルニア州サンノゼ市で、サンフランシスコから南下して50キロ、車で1時間ほどかかる場所です。

サンフランシスコとサンノゼを同じエリアと見ている人が多いかもしれませんが、全く気候が異なります。サンフランシスコは北側なので寒く、対してサンノゼは南側なので暑いんです。季節によりますが、サンノゼで過ごしている時の服装でサンフランシスコに行くと寒くて仕方がありません。夏でも夜は羽織物が必要です。サンノゼも夜は寒いので羽織物があると良いですね。

−−日中の過ごしやすさはどうですか?

サンフランシスコもサンノゼも日中は暑いですよ。現地では、UV対策は必須ですね。特に、紫外線の強さは半端ありません。

私は絶対に日焼けしたくないので、日焼け止めやUVカットウェア、日傘などで徹底防備しています。日焼け止めは、現地でNeutrogena®(ニュートロジーナ)の「Sensitive Skin Sunscreen Lotion Broad Spectrum SPF 60+」を購入して使用しています。日本から持っていった日焼け止めでは太刀打ちできませんでした。

−−現地で過ごす上で気を付けたほうが良いことはありますか?

乾燥対策ですね。サンノゼでは、3月くらいに雨季が終わり、4月から11月まで一切雨が降りません。湿度は低く、カラカラです。渡米してから目元が乾燥しがちで、ワセリンで保湿しても痒くなってしまうほどです。それでも、諦めずにひたすら保湿しています。

基本的には、現地で売っている保湿剤を使っています。現地の商品はテクスチャーがかなりしっかりしています。それでも、乾燥が酷い日は痒みが出ることもあります。それだけ現地は乾燥しているんですよね。

人によるとは思いますが、短期出張であれば、日本から普段使っている化粧品を持っていってもギリギリ乗り切れると思います。長期間滞在するのであれば、保湿剤は現地で調達したほうがベターですね。アメリカ人は自然派思考の人も多いので、ココナッツオイルなどの天然オイルで保湿対策をする人もいますよ。

5.北米で移動するときに気をつけていること


北米で生活する上での注意点についてお話くださる大洲さん。失敗から学ぶこともあるという

−−貴重品の扱い方や防犯対策など、現地を移動する時のコツはありますか?

基本的にはUberで良いと思います。ラッシュの時間帯は道路が混み合って進まないこともありますので、その時はサンフランシスコ市内であれば地下鉄を使うと良いですね。

貴重品はホテルのセキュリティBOXに入れるのが確実です。ただし、企業によっては建物に入る際にパスポートが必要なケースもあります。どうしても持ち歩く必要がある時は、体に密着するタイプのバッグに入れて抱えるように持つようにしてください。

−−持ち物は必要最低限である方が良さそうですね。

もちろん最低限にこしたことはありませんが、スマホの充電器は携帯した方が良いです。

以前、Uberを呼ぼうとしたらスマホの充電が切れてしまっていたんです。厄介なことに、充電器も持っていませんでした。ベイエリアは日本と違ってあちこちにコンビニやスーパーがあるわけではありません。仕方なく最寄りのスーパーまで30分近く歩き、充電器を購入してUberを呼ぶことができました。

これを私の中で「シリコンバレーでUber呼べない事件」と呼んでいて、この「事件」からは必ず充電器を持ち歩くようにしています。

−−現地で使う頻度の高いアプリやサービスはありますか?

「Apple Pay」です。基本的に支払いは全てキャッシュレスです。スマートペイメントを使えば現金を持ち歩かなくて済むので安心ですね。向こうはスマートペイメントがたくさんあるので、自分に合ったものを使ってみてはいかがでしょうか。私はiPhoneを使っているので「Apple Pay」ですが、Androidユーザーであれば「Google Pay」も良いと思います。

【スマートペイメントとは】
企業と個人の間で電子決済による商取引を行うこと。特に、手動で振り込む段階を踏まない自動的なものを指す。
具体的には、クレジットカード、電子マネー、QR・バーコード決済などのキャッシュレス決済が認知されている。

6.北米におけるブレジャーの楽しみ方


大洲さんが訪れたスポットのひとつ「ハーフムーンベイ」。砂浜で寛ぐ人や家族で散歩する人々の姿が見える

−−北米におけるブレジャーの楽しみ方を教えてください。

海沿いを歩くハイキングスポット、牧草地、森林浴ができるところなど、いろいろあるので、ブレジャーで行ってみるのも良いと思います。

私は、その時の気分に合わせて異なるハイキングスポットへ行きます。日に焼けたくなければ「ビッグベイスンレッドウッズ州立公園」、寒くても良いときは海沿いも歩きます。

−−おすすめの海辺はありますか?

カーメル・バイ・ザ・シー」です。白い砂浜が広がっていて、「ペブルビーチ」という名門ゴルフコースがあります。高級住宅街で町並みもキレイで、ダウンタウンも雰囲気が良い。海辺に近いレストランでいただくシーフードが絶品ですね。寒いので羽織物は必須です。

サンフランシスコで開催される航空ショー「サンフランシスコ・フリートウィーク」もおすすめです。アメリカ軍のアクロバット飛行チーム「ブルーエンジェルス」が編隊を組んで飛び回ります。すごい迫力なので、航空ショーの開催とタイミングが合えば、ぜひ見てみてください。

7.海外ビジネスを楽しむなら、まずは相手を知る

−−今後の御社についてビジョンはありますか?

将来的には、世界の中高生を対象としたグローバル教育を「EdTech(エドテック)」で展開したいと考えています。「エドテックは「Education×Technolog(教育×テクノロジー)」の造語で、具体的には、「ハンズオン(体験学習)」と「オンライン学習」を中心とした「ブレンデッドラーニング」を提供するのが目標です。

−−最後に、海外ビジネスを楽しむための秘訣をお願いします。

海外におけるビジネスの基本は「郷に入れば郷に従え」です。日本流を持ち込まず、その国のスタイルに合わせることが成功の秘訣だと考えています。

出張する国に関係なく、まずは相手の国を知り、背景を知り、文化を学ぶことから始めるといいでしょう。相手を知ってから取引や交渉を進めることで、新たなプロモーションやマーケティングを仕掛けるチャンスが広がると思います。その上で日本の良さを活かすことができたらベストですね。

【追加取材】新型コロナ感染症の拡大を受けて|危機管理意識は常に重要

新型コロナウィルス感染症拡大の問題で、世界各国で入国制限や国境封鎖の動きがある中、大洲さんが住むアメリカでも次々と国境封鎖の措置を取る動きが出始めました。編集部は米国にいる大洲さんに追加取材。海外ビジネスに携わる立場として、今回の世界的な危機的事態への対応や留意点についてお聞きしました。

――新型コロナ感染症のニュースが増え始めた1月以降、特に注意を払っていたことは?
一番気がかりだったのは飛行機の移動。日本と米国、両方のニュースは常にチェック。リスクがあると判断した2月下旬のタイミングで、取引先などへは渡航ができなくなる可能性を伝えました。

3月の日本国内の感染状況悪化を受けて、当面の間は海外出張や50キロ超の国内出張の禁止を決めたことを各所に伝えています。

――世界レベルで危機的事態に陥ったときに重要なことは?
新型コロナ感染症の問題に限らず常に大切なことは、危機管理の徹底。まずは事実の確認、そして対策の決定、実行、最後にレビュー、このサイクルで解決していきます。人種差別や暴動リスクなど、文化の違いによるリスクにも注意が必要です。

大洲さんは、危機的な最中における日本の良さについても次のようにコメントをくださいました。
「今回の危機的な状況における親子の過ごし方について、日本ワーキングママ協会(大洲さん代表)のネットワークをはじめ、役立つ情報の交換が自然と生まれていました。日本には支え合い精神があるようにも思えます」

危機的事態であっても、事実を冷静に分析しつつ、各国の文化や国民性にも目を向ける。海外ビジネスをこなすには、広い視野を持った危機管理意識が求められることを考えさせられる「海外出張リーダー」の言葉でした。

大洲早生李さんプロフィール
大学卒業後、ITコンサルタント、宣伝、広報/IR、フリーランスを経て2011年にマーケティング・コンサルティング会社 株式会社グローバルステージを創業。2013年9月、一般社団法人日本ワーキングママ協会を設立。2015年3月より海外市場調査・マーケティング事業としてグローバルママ研究所を設立。世界35ヵ国以上で、企業の海外進出をサポートする調査・マーケティングサービスを展開。2019年北米に移住。3人の子供を育てながらビジネスでも活躍するワーキングママ。

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