今、「管理職は罰ゲームだ」という認識が今密かに広がっています。
その背景には、働き方改革やテレワークの普及、中途採用の増加など職場環境や企業文化の変化があると言われています。
中間管理職の悲哀や大変さを問う論調も多かった中で、集英社インターナショナルから発売された書籍『罰ゲーム化する管理職』は大きな反響を呼びました。
管理職が罰ゲームだと言われてしまうその理由とは何か、管理職として働く人たちはどうサバイブしていくべきなのか、一緒に考えてみましょう。
1.管理職の「罰ゲーム化」現象とは?
管理職が罰ゲームだと言われる理由には、様々な背景があります。
働き方の多様化や人手不足などにより、管理職が現場で抱える負荷は大きく、悩みも増えています。
まずは管理職がなぜ罰ゲームと言われてしまっているのか、その背景や「管理職の罰ゲーム化」という気づきを社会に与えた本についてご紹介します。
1-1.管理職が敬遠される背景
「管理職=罰ゲーム」という認識が広がる背景には、責任の増加やメンタル負担に対する報酬の少なさ、キャリアへの意識の変化などがあります。
例えば、近年、管理職は組織の成果だけでなく、部下の成長支援やメンタルケアも求められており、プレッシャーが大きくなる一方で、報酬や権限の面で十分に報われないと感じる人が増えています。
また、企業側もビジネスを取り巻く環境が激変し、人材不足に直面していることから「すでに今社内にある人材に頑張ってもらうしかない」という実情も、管理職への負荷が増大する背景にはあるのかもしれません。
加えて、高度経済成長期には「会社に人生を捧げ、バリバリと働いて出世する」ことがよしとされていましたが、今では転職が当たり前になり、自分のスキルや専門性を活かした仕事を求めるスペシャリスト志向や、ジョブ型雇用で働きたいと考える人も増えています。
このように、管理職が罰ゲームだと感じてしまう理由や背景には、一つではなく複雑な要因が絡みあっています。
後ほどもう少し詳しくお話ししますが、もし「自分もそうかもしれない」と感じた方は、本記事の後半にある管理職のサバイバル術も参考にしてみてください。
1-2.注目される書籍『罰ゲーム化する管理職』
集英社インターナショナルの『罰ゲーム化する管理職』では、管理職が抱える責任やプレッシャーに対する報酬の不均衡を指摘し、今の管理職が過酷な負担を強いられている現実を取り上げています。
さらに筆者が指摘しているのが、管理職の罰ゲーム化は放置してしまえばさらに、管理職にかかる負荷が膨らみ続ける構造です。
つまり、罰ゲーム化してしまっていることから目を背けたとしても、その問題は消えるばかりかどんどん大きくなってしまう可能性があるのです。
この書籍の問題提起を踏まえ、次からは「罰ゲーム化する管理職」の背景と、今後の管理職のあり方について掘り下げていきましょう。
2.管理職とは?職位による役割の違いと基本理解
管理職の罰ゲーム化についてより詳しくみていく前に、管理職とは一体どんなポジションなのかを少しだけ確認しておきましょう。
企業によって役職の名称や、管理職がどのポジションなのかが多少異なりますので、ここでは管理職が担う仕事の内容や役割を中心にご紹介します。
2-1.管理職やマネージャーとは何か?
会社組織において、管理職は一般的に経営者の意思や方針、会社の定めたルールなどを組織に浸透させ、うまくチームが機能するようにコントロールする役割を担っています。
情報の伝達や人事や人材育成、コンプライアンスの管理徹底、円滑に業務が回るように組織をつくったり戦略を考えたりすることなど、任されていることはたくさんあります。
2-2.管理職の役職(係長・課長・部長)ごとの役割と責任
企業や組織によっても多少の違いはありますが、管理職における役職ごとのマネジメント業務内容や目指すべきゴールは少しずつ異なります。
それぞれの立場でどんなことを任されているのか見てみましょう。
<係長(第一線の管理)>
管理職は係長の上のポジションである課長からと判断されることもありますが、役割という視点で見ると係長も管理職的な動きをしていることはよくあります。
主な係長の役割には次のようなものがあります。
・チームメンバーの業務管理やサポート
・業務の進捗確認などの調整業務
<課長(部門の管理)>
小さなチームがいくつか集まった部門全体を統括し、目標達成に向けて組織をコントロールしていくのが課長の仕事です。
経営者や上司からは、部門の管理目標が提示され、それを達成するためにどんな風に行動していくべきかを判断したり、係長から挙げられた第一線が抱える問題に対処することなども課長の役割です。主な役割は次のようなものがあるでしょう。
・部門管理目標のチームへの通達と達成のための戦略策定
・係長から挙げられた現場の問題への対処
・人材採用や現場の教育体制作り
<部長(戦略管理)>
部長職と言われる立場になると、部門全体の戦略策定や予算管理に加えて、他部門や上層部との連携なども求められます。
経営者の意思や会社の経営方針を部門全体に伝達していくことなども部長の役割です。
部長と言われる立場になると、係長や課長でになってきた役割に加えて、次のような仕事もやらなければいけません。
・部門全体の戦略策定
・予算案作成や予算管理
・他部門との連携
・上層部の意思を部門に伝える
・ハラスメント対策やリスク管理
管理職に求められる役割を改めて振り返ってみると、まさにたくさんの仕事や責任を負っていることがわかります。
今まで管理職に求められてきた仕事に加えて、近年はハラスメント対応やテレワークの普及に伴う、遠隔で働く部下の管理や業務把握など、任される仕事は雪だるま式に増えているのです。
3.なぜ管理職やマネージャーが「罰ゲーム」と感じられるのか?
改めて見てみると、大きな責任や業務負荷がかかっている管理職。
大変な一方で、やりがいと感じる人も多かった時代があったにもかかわらず、今なぜ、管理職やマネージャーという立場が罰ゲームと称されるほどネガティブに捉えられるようになってしまっているのでしょうか。
その要因を3つの視点から紐解いてみましょう。
3-1.増大するプレッシャーと責任
管理職に求められる役割は年々増加しています。
特に近年は、従業員のメンタルケアやチームメンバー一人ひとりの成長支援など、今までは必ずしも求められなかった新たな責務が増えている組織も増えています。
その結果、役職者にとって心理的・業務的な負担が重くなっていると言われています。
具体的に、どんな状況に陥っているのかよくある例について見てみましょう。
Aさんは、入社10年目の中堅社員。
広報部の企画販促課で営業支援に日々取り組んでいます。
抱える部下は10人とそれほど大所帯ではないが、若手やテレワークをする社員も多く、全員の業務進捗を把握するだけでも時間がかかる毎日。
さらに、時には非対面でコミュニケーションをしないといけないチームメンバーのパフォーマンスを引き上げつつ、効率的に目標を達成することに難しさを感じています。
人材育成のための1on1面談は各メンバーと毎月行うため、面談や会議だけで夕方になってしまうことも。
それにもかかわらず、部下には残業をさせられないので終わらない業務はAさんが巻き取って残業しながら仕事をすることも日常茶飯事になっています。
さらに業績達成のプレッシャーは、販促ツールの多様化によって増すばかり。
業務時間の長時間化や高ストレス状態が続いています。
Aさんのような状況に陥っている管理職は多く、管理職の罰ゲーム化と言われる状況が様々な企業で蔓延しています。
業務の負荷が増すことに加えて、忙しすぎることから自身の学びに時間を使えなかったり、そもそも仕事をする時間が長くなり心身ともに負担が増えたりと、管理職を取り巻く環境は過酷になりつつあります。
実際、パーソル総合研究所が実施した課長クラスの管理職2,000人を対象に実施した「中間管理職の就業負担に関する定量調査」では、働き方改革が進んでいると回答した企業ほど管理職が感じる負担が増えている、という皮肉な現場が浮き彫りになっています。
画像出典:パーソル研究所 「中間管理職の就業負担に関する定量調査」
この結果「誰も管理職に就きたがらない」という風潮を生み出していると言えるでしょう。
3-2.報酬と役職に伴う責任や業務量が見合わない
管理職への昇進が必ずしも収入増加や待遇改善につながらないケースが多く見られ、昇格が魅力的でなくなっていることも「罰ゲーム化」の一因です。
今まで、昇格は給与アップとセットであり、役職が上がるほどキャリアも向上すると考えられていました。
ところが、現在では企業の人件費削減の観点から、昇格しても給与がほとんど変わらない、もしくは少額の増加にとどまるケースが多くなってしまっています。
画像出典:産業能率大学 総合研究所「上場企業の課長に関する実態調査」より
産業能率大学 総合研究所が実施した「上場企業の課長に関する実態調査」では、調査に回答した人のうち”課長の給与は、残業代を加算した非管理職よりも高い水準にある”と感じている人はわずか37.6%。
というのも、管理職になり、法律上の「管理監督者」になると、労働基準法に定められた労働時間や休日規定は適用されなくなってしまいます。
そのため管理監督者になってしまえば残業代の支給がなくなり、給与アップがあったとしても給与水準がそれほど変わらないという事態に陥っている方も少なくない実態が、こうした調査からもわかります。
また、年功序列や定期昇進が廃止され、成果主義の傾向が強まる一方で、成果に応じた昇給が十分に実施されていない企業もあるのが実情です。
管理職になっても労働時間や責任、メンタル面でのプレッシャーが増える一方で報酬が上がらないケースが多くなれば、キャリア上での昇進が必ずしもメリットではないと感じる社員が増加します。
こうしたことから、管理職が「罰ゲーム」的な役職として捉えられる風潮につながっているのです。
3-3.変化する企業風土とリモートワークの影響
最近は、管理職やリーダー・マネジメント層に求められる姿勢として、対話や部下に対するサポーティブなリーダーシップが求められる社会に変化しています。
また、人事評価や部下の目標管理のための1on1面談が当たり前になるなど、管理職が部下のマネジメントに割く時間が増えています。
さらにリモートワークを取り入れた企業では、リモートワーク下でいかにチームが機能するかを考えるための采配も管理職に求められるようになります。
企業風土や働き方の変化にどう対応するかまで、考えなければいけない管理職やマネージャーですが、「うまくいってあたり前」という前提で変化や改革を求められるとなると、精神的な負担も大きくなってしまうのは当然とも言えるでしょう。
4. これからの管理職に求められる新しい価値観とは?
ここまで、管理職は大変だという情報ばかりをお伝えしてしまいましたが、管理職というポジションは必ずしもネガティブなことばかりではありません。
罰ゲーム化しているとはいえ、新たな価値観や捉え方、そして管理職自身の働き方改革により、明るい未来を作り出すこともできるでしょう。
管理職やマネージャーが罰ゲームだと感じることなく、前向きに仕事に取り組むためには、どんなマインドセットを働き手や会社がしていくべきなのでしょうか?
4-1.管理職に新しい魅力を生み出すことの重要性
これからの管理職は、単なる「マネジメント」を超え、組織内での調整力や社員のサポート役としての役割を果たす「ファシリテーター型リーダーシップ」を担うことが期待されています。
例えば、メンバー各自が最大限の力を発揮できるようサポートする「コーチ型リーダーシップ」や、部下の目標達成を支える「支援型リーダーシップ」などはその一例。
こうした新たな管理職のあり方をこれからのスタンダードとして捉えれば、部下を残業させないために終わらない仕事は巻き取らなければいけない……などといった、管理職が抱える負担も軽減できるかもしれません。
従来型管理職のイメージと、これからの管理職のイメージの違い
・指示型マネジメントから支援型リーダーシップへ
・コミュニケーションスタイルは一方向から双方向へ
・昇進から多様なキャリアパスへ(管理職がゴールではなく、スペシャリストなど個人の希望が反映できる組織に)
・管理職の評価基準が業績重視から成長や貢献重視へ
上の例のように、「管理職の新たな理想像」を企業側がきちんと考え、従業員に提示することで管理職が一層「目指したいポジション」へと変化するきっかけが生まれるはずです。
これからの管理職像を再定義することで、社員が自分のキャリアパスにおいて管理職になることを「挑戦」として捉え、長期的に企業成長にも貢献するような職場環境にできれば、管理職が罰ゲームであるという考え方も少しずつ変化していくのではないでしょうか。
4-2.管理職を経た先にあるキャリアパスの多様化
近年、キャリアパスは多様化し、「管理職」への昇進が必ずしも唯一のキャリアアップ手段でなくなっています。
これまでは、企業内での昇進=管理職への登用がキャリアパスの王道。
一方、これからは専門職のままで成長する「スペシャリスト」や、リーダーシップは発揮しつつもチームマネジメントを担わない「プロジェクトリーダー」といった役職の形も増えています。
こうした新しい選択肢を示す(働く側は、選択肢として考える)ことで「管理職=罰ゲーム」と言われる閉塞感が変化していくかもしれません。
一部の企業の中には、管理職とは別に「スペシャリスト」として高い技術力や専門知識を持つ人材がキャリアを積むためのコースが設けられています。
例えば損保ジャパン株式会社では、2022年度からデジタル技術やマーケティングなどの部門を担う人材を専門職としてジョブ型登用をスタート。
習熟度や担う仕事の専門性に応じて賃金も設定する、新たな人事制度を取り入れています。
これにより、優れた専門技術者が無理にマネジメント職を担うことなく昇給や昇格が実現可能に。
企業と社員の双方にとって効率的なキャリアプランのあり方になっています。
参考:日経新聞「損保ジャパン、専門職別にジョブ型導入 300人規模で」(2022年3月22日)
5.これからの管理職のサバイバル術
最後に、罰ゲーム化していると言われる管理職にいる立場の方々が、いかにこれから生き抜いていくべきなのか、そのヒントをご紹介します。
やらなければならないことに追われている管理職の皆さんが、少しでもメンタル面での負担が減るきっかけになれば幸いです。
5-1.メンタルマネジメント:自身と部下の健康を守る
管理職として自身と部下のストレスを管理し、心身の健康を維持することが重要です。
「自分さえ頑張ればいい」「全ては自分の責任」という考えを捨て、やらなければならないこと以外は「できればやる」というスタンスで捉えてみましょう。
管理職の理想は、部下からの急な相談やピンチの際にヘルプできるゆとりを持つこと。
業務量やスケジュールは8割程度に抑え、残りの2割は緊急時に備えたバッファーとして確保しておくことで、メンタル面での負担が軽減できます。
適切な休息や支援体制を整え、健康面でのサポートを行うことが今まで以上に大切になっているからこそ、頑張りすぎない勇気も必要です。
5-2.キャリアのリスクマネジメント:スキル向上と自己投資
環境変化に対応できるよう、自己研鑽に努めることも忘れないようにしましょう。
脳科学の視点からも、人は新しい学びによって脳内が活性化され、幸せホルモン・ドーパミンの分泌量が増えると言われています。
つまり、学びや自己投資は、自身の幸福度を高めることにも貢献しているのです。
管理職だからというモチベーションでスキルアップのための学びや自己投資をするのではなく、「管理職である自分のメンタルを守るため」という意識で、新たな知識やスキルを磨いてみましょう。
結果的に、自分自身のキャリアの柔軟性が確保でき、今後のリスクに備えていくこともできるでしょう。
5-3.リソースマネジメント:仕事を采配し人手不足に立ち向かう
少子高齢化や採用難などにより、人手不足という管理職を取り巻く環境はすぐには変わらないかもしれません。
だからこそ、自己防衛策として身につけたいのがリソースマネジメントです。
リソースマネジメントとは、組織やプロジェクトの目的を達成するために、利用可能なリソース(人材、時間、予算、設備など)を効率的かつ効果的に管理し、最適化する手法やプロセスを指します。
特に管理職にとっては、このスキルが成功の鍵となり得ます。
たとえば、リソースマネジメントにより業務の効率化や優先順位の明確化ができれば、無駄な作業や重複を減らせます。
その結果、心理的な負担が軽減され、ストレスや過労も防げるかもしれません。
また、チーム全体の業務負担を均等に調整することで、過剰な負荷による離職リスクも減少すれば、管理職にかかる負担は結果的に軽くなります。
自分一人だけでなくチームメンバー一人一人が持つ時間も俯瞰して、限られた時間の中で業務を回すためにリソースマネジメント(仕事の采配)をすることは、やるべき仕事が増え続けてきた管理職を守るサバイバル術にもつながるのです。
ぜひ、業務の細分化や部下に任せられる業務の可視化などにより、リソースマネジメントを始めてみてはいかがでしょうか?
「管理職とは罰ゲーム」と言われる時代をサバイブするためにできることはまだまだある!
罰ゲームと称されてしまうことが増えている管理職とは一体どんな立場なのか、改めて考え直してみると、今私たちを取り巻く環境の厳しさが浮き彫りになってきます。
だからこそ、管理職としてして今後生き残っていくためには、リソースマネジメントや自己研鑽を通じて負担軽減やキャリアリスクに備えることが鍵となります。
もちろん「管理職とあは罰ゲーム」と揶揄されている背景には、管理職にかかる責任や業務負担の増大、報酬の不均衡、企業風土の変化があります。
一方で、管理職は組織運営の中核を担う重要な役割であるのは間違いのないことです。
罰ゲームとして捉えるのではなく、ポジティブに管理職やマネージャーのあり方を模索するためにも、新たなリーダー像を考えなければいけない時代に突入しているのかもしれません。
この記事を読んでくださっている読者の皆様が、少しでも管理職を魅力ある挑戦と捉えられるようになり、明日からの仕事を頑張るヒントになりますように。