「人事評価では何を話す?」「自分の努力はどのように評価へ反映される?」など、人事評価の仕組みがよくわからない人は少なくないでしょう。
上司から一方的な評価を伝えられるだけでは、部下は評価に納得できず、モチベーションの低下を招きやすくなります。
人事評価の準備からフォローまで丁寧に行えば、相互理解を深める有意義な時間に変わり、生産性アップや理想のキャリア形成を図ることが可能です。
この記事では、人事評価の目的や一般的な基準、評価する人とされる人の立場から面談を成功させるポイントを紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
1.人事評価の意義と目的
人事評価は、個人の評価のほか、会社の方針や目標に向けて、従業員にどんな役割を持ってほしいか伝える機会として重要です。
そのため、上司が部下へ伝達事項を話すことに終始してしまうことがあるかもしれません。
しかし、組織の方針や目標を伝えるだけでは、従業員個人の向上心やモチベーションの低下を招き、結果として生産性の低下や離職につながりやすくなります。
人事評価の面談を有意義な時間とするために、次のような目的意識を持って面談に臨みましょう。
1-1.人事考課と人員配置の伝達
人事評価は、従業員の能力や成果などを元にした人事考課に基づく、昇給や賞与、昇格、異動などの待遇を話すことが目的です。
また、部署や従業員一人一人に求められる職務や基準を伝えることにより、チームや組織全体の目標達成に向けて、方向性を一致させられます。
このとき、評価者は評価する相手の待遇を決めた理由などを、具体的な根拠を元に説明すると、相手が評価に納得しやすくなるだけでなく、次の目標も見出しやすくなります。
評価される人は、評価や待遇に納得できなければ、そのまま受け流すのではなく、どんな点に納得がいかないのか、認識の違いの原因を探ってみてください。
納得するまで意見交換すれば、認識や意見の相違を修正しやすくなるでしょう。
また、自分の仕事がどのように部署や組織に貢献できているのか、今後自分の仕事をどのように進めるべきかなど、評価者とすり合わせて確認するのもお忘れなく。
職場で進むべき方向を理解して業務を行えるようになり、待遇アップに近づきやすくなります。
1-2.組織の人材育成と個人のキャリア形成
人事評価では、評価者が一方的に評価を伝えるだけにとどまらず、従業員本人との意見交換を重視する場として捉えてみてください。
会社や仕事に対する本人の意識や意見を吸い上げ、組織運営に反映させられれば、従業員自身の組織に対するエンゲージメント向上や、組織力の強化を図ることができます。
評価を伝える側は、これまでの業務について、評価される側の評価できる点、改善すべき点を洗い出し、その結果を伝え、それについて双方で意見を交換しましょう。
公正な評価、かつパフォーマンスを発揮できそうな方向へ的確に誘導すれば、評価される側が組織のなかで成長するきっかけとなります。
評価される側は自分の仕事に対する客観的な評価を得て、今後、どのように弱点を補い、強みを活かしながら業務を進めるか、キャリア形成の道筋を決められます。
1-3.仕事へのモチベーション向上
適切な人事評価は、仕事へのモチベーションを向上させる絶好の機会となります。
そのために、評価者は、遂行する業務の大切さ、今後の取り組みを伝え、仕事を前向きに捉えられるように促す必要があります。
評価を受ける人は、評価の根拠を理解して、改善点を明らかにできれば、次回の目標へ向けてモチベーションを上げられます。
多くの従業員がモチベーションを上げて職務に取り組むことによって、結果的に組織全体の活性化にもつながるでしょう。
2.人事評価の仕組みと基準
人事評価の仕組みは、会社などの組織や職務ごとに異なります。
評価の頻度は、1ヶ月ごと、3ヶ月ごと、半年ごと、1年ごとなどとさまざま。
昨今では、上司から部下への人事評価だけでなく、同僚同士、部下から上司と、複数の評価を総合して評価を行うなど、評価方法が多様化しています。
評価の基準も業種や職種によって異なりますが、一般的に、次の3つの評価を元に作成することが多いです。
・業績評価
・能力評価
・情意評価
次に、この3つの評価基準について解説します。
2-1.数値で表す客観的な業績評価
業績評価は、期間中に達成した業績を元に評価するもので、成果評価や成績評価とも呼ばれます。
営業職や販売職の売上高や契約件数など、明確に表れる数値で客観的に評価するため、従業員は納得しやすいのが特徴です。
総務や一般事務など、数値化が難しい職種では、前期と書類作成の効率などを比較して数値化するといった方法があります。
2-2.業務への適性を見極める能力評価
能力評価では、業務を遂行するうえで従業員が必要な知識や能力を持っているか評価します。
企画力、コミュニケーション能力、トラブル対応力、判断力、指導力など、職種、役職によって異なります。
これには、取得した資格や業務への理解力も含まれます。
業務への適性が判断できるうえ、長期的なキャリア形成のきっかけになり得る評価です。
反面、数値に表れないことが多く、評価基準が曖昧だと、公正に評価が行われなくなり、従業員の不評を買いやすい点に注意が必要です。
組織で能力評価を設定する際には、能力評価の項目や基準を設定して、従業員に提示するのが理想的です。
評価者は、評価を決めた理由を具体的に挙げると、評価される側の理解を得られやすいでしょう。
【能力評価の例】
Aさんは、この半年で4本の企画を提出。
そのうち2本採用されて、イベントによる収益が予算◯◯円の5倍に達したおかげで、チーム全体の売上に貢献した。
秋のイベント当日にトラブルが発生した際には、プログラム変更などの対応で無事終えることができた。
【次へ向けての課題点】
クリアしたい課題としては、責任者の指示がなかったために、スタッフの業務分担ができなかったことだ。
次の半年は、事前に配置を決めるなど、当日スタッフへの指導力にも期待したい。
評価される側は、自分の能力、適性についてのフィードバックとアドバイスを得ることができます。
客観的なアドバイスを得た結果、仕事の幅が広がるきっかけをつかみ、自分の意外な能力を発見することもあるでしょう。
2-3.業務のプロセスを重視する情意評価
情意評価は、仕事に対する姿勢や勤務態度に対する評価です。
主に協調性、規律性、積極性、責任性を指します。
業務を遂行する際のプロセスを重視し、データや成果に表れない部分を見るため、多角的に評価できる機会となります。
評価者が情意評価を書くときには、評価の根拠を具体的に挙げて、なるべく客観的に書くように努めましょう。
【能力評価の例】
この半年で2本の企画を提出。
残念ながら今期、企画は採用されなかったが、◯◯イベント当日には、積極的に足の不自由なお客様や子連れを優先して誘導した。
トラブル時でも責任感を持ってお客様に丁寧に対応し、お客様アンケートでも高評価だった。
【次へ向けての課題点】
反面、責任者に相談せずに企画の提案作成をすることが散見された。
そのため周囲の理解を得るのに時間がかかり、企画の不採用につながっている。
次の6ヶ月は1本でも多く企画が通るように、協調性や規律を意識して、責任者と相談しながら企画の提案を進めていただきたい。
評価できる点と共に課題にすべき点と改善方法を示すことで、評価される側の意識改善につながります。
在宅勤務を採用する職場では、オフィスのように普段の勤務態度が見えないため、情意評価をつけにくいのが難点です。
評価者も評価される人も、次のように日頃からチャットや通話アプリ、ファイル共有システムなどITツールを利用してみましょう。
・業務の開始や終了時に、行う仕事の内容や進捗状況を報告
・働きぶりが伝わるように、成果だけではなく、業務を行ったときの工夫など、プロセスについて共有
・オンラインで週1回ミーティングを設定
・チャットの雑談用チャンネルなどで歓談
積極的にコミュニケーションをとることによって、人事評価に反映させやすくなります。
3.【評価する側】人事評価面談を成功させるポイント
すでに解説したように、人事評価の際に大事なのは、面談で評価を伝えるだけではありません。
被評価者と意見を交換したり、業務への意識や方向性をすり合わせたりすることが、人事評価の面談を組織力の強化や人材発掘、人材育成に活かすことができるのです。
職場では評価基準や評価の項目などの事前の周知のほか、評価を可視化できる人事評価システムやツールなどの導入をするのがおすすめです。
客観的な評価を図っていることが被面談者にもわかりやすく、評価の内容に納得しやすいでしょう。
次に、評価者が人事評価面談の準備からフォローまで、注意しておきたいポイントを見ていきましょう。
3-1.面談前〜評価内容を整理して今後の方針に結びつける〜
人事評価面談の前に、今期の目標のうち達成できたことや成長できたと思うこと、問題点、改善したい点など、評価対象者に自己評価の書類を作成してもらうのがおすすめです。
自己評価の内容と評価結果を比較することで、課題点や強みを見つけやすくなり、評価への理解度を深めることができます。
面談の内容に納得できれば、次からの業務にも取り組みやすくなるでしょう。
相手への評価内容を整理するのも大切なことです。
マイナス評価を伝える際には、評価する相手が前向きな気持ちで次回の目標に進めるように、問題点だけでなく、成長できた点、次に活かせる点も付け加えるようにします。
相手の質問内容をある程度想定して、答え方を考えておくほか、面談の進め方や話す順番などをある程度決めておくと、伝えたいことを網羅できて話しやすくなるでしょう。
時間内に全ての点を話し合えるように、時間配分を決めておくことをおすすめします。
【ポイント】
相手が人事評価を前向きに捉えられるように、マイナス評価とプラス評価をうまく組み合わせた話し方を考え、面談の段取りをつける
3-2.面談中〜相手の意見を聞いて課題を共有する〜
評価者だけが話す形式的な人事評価面談では、「評価される側は正当に評価をしてもらえない」「意見を聞いてもらえない」など、評価をネガティブに受け取られることもあります。
相手が答えやすいように、促す質問を投げかけながら、相手の意見を聞き、課題の共有を優先しましょう。
次の2種類の方法のように、相手が答えやすく、一方的な印象を与えない質問を心がけてみてください。
【拡大質問】
「はい」「いいえ」で答える質問ではなく、「WHAT(何)」「WHY(なぜ)」「How(どのように)」を用いて、自由な答え方ができる質問のこと。
例)目標を達成するために、どのように業務を進めれば良いと思うか。
【肯定質問】
否定形は使わず、肯定の言葉で質問すること。
例)今期に自分でどんな成長を実感できたか。
答えが出にくい場合は、課題や解決策を一緒に考えるようにしましょう。
相手が自分で答えを出したいタイプであれば、期間を設けて考えてもらうのも一つの方法です。
また、自己評価の書類がある場合は、自分や組織がまとめた評価の書類と自己評価を照らし合わせて、意識の相違があれば、なぜ違うのか、お互いどのようにすり合わせて改善できるか話し合うことが重要です。
面談の終わりには、評価する相手と次の目標を設定して、相手の仕事へのモチベーションを高められるように意識しましょう。
【ポイント】
相手の意見を引き出して課題や解決策について一緒に考え、仕事へのモチベーションを高める方向に持っていく
3-3.面談後〜フォローと継続的なサポートを心がける〜
人事評価では、面談が終わっても、次の年度に向けた準備は欠かせません。
面談で投げかけた課題や目標の実現、モチベーション維持に向けて、定期的に進捗報告とアドバイスなどをして、フォローを怠らないようにしましょう。
人事評価の面談時に、定期的な1on1や、チャットでの進捗報告など、フォローする方法を話し合っておくと、スムーズに取り組みやすいです。
面談時に初めてマイナス評価を指摘すると仕事へのモチベーションが下がってしまうので、業務の合間に軌道修正の助言をするなど、頻繁にコミュニケーションを取りましょう。
被評価者と意識的に信頼関係を築くことは、正しい評価を行う上でも重要です。
日頃から良好な関係を保っておくことが、次回以降の面談でも役に立つでしょう。
【ポイント】
定期的なコミュニケーションで信頼関係を築くとともに、モチベーション維持と目標達成のためのフォローを続ける
4.【評価される側】人事評価面談のポイントと注意点
人事評価の相手が、日頃あまり会話をしない上司などの場合、いきなり自己PRをするのに抵抗を感じる人は多いでしょう。
しかし、人事評価は、自分の仕事を理解してもらい、適正に評価してもらうために、自分の仕事のアピールをする良い機会だと考えてみてください。
自分の仕事を正当に評価されていないと諦める前に、人事評価を自分のレベルアップに利用するつもりでプレゼンテーション力を養うと、相手の受け取り方も変わるかもしれません。
4-1.面談前〜根拠を用いて自己評価をまとめておく〜
事前に人事評価の説明や自己評価の書類がある場合は、それに基づいて自分の評価をまとめておきましょう。
さらに、自己評価の書類とは別に、自分の成果を根拠や裏付けを用いて客観的に話せるように、伝えたいことをまとめておくことをおすすめします。
仕事の企画などと同様に、根拠や裏付けを用いたプレゼンテーションは、相手が納得しやすく効果的です。
【例】
仕事の効率を上げるために「倉庫の部品管理」を目標にした。
毎週30分間、倉庫整理とロケーション管理を行い、チームに部品の所在を共有したところ、期末には注文を受けてから部品の箱詰めまで毎回約10分間の時間短縮を実現できた。
さらに、今後のビジョンや希望を伝えるようにすると、ポジティブな評価につながります。
一方的に自分の希望を伝えるのではなく、客観的な自分の成果や能力と結びつけるようにアピール材料も探しておくと、相手を説得しやすいでしょう。
評価する側と同様に、想定される質問に対する答えも準備しておくと安心です。
【ポイント】
根拠や裏付けといったアピール材料を使って、これまでの成果と今後のビジョンなど、伝えたいことをまとめておく
4-2.面談中〜ディスカッションの場と心得て意見交換をする〜
人事評価の面談は、業務の進め方や組織や個人の展望について、じっくりと話せるチャンスです。
疑問点があれば、この機会を逃さずクリアにしましょう。
もし、人事評価の内容を聞いて評価者と認識が一致しなくても、次のようにさまざまな角度から解決策を探るようにしましょう。
・評価の基準や根拠、評価者の考えを尋ねる
・根拠や裏付けを用いて、評価されなかった自分の成果のプレゼンテーションをする
プレゼンテーション力がアップするうえ、業務に取り組むモチベーションも前向きになりそうです。
また、評価者に組織が向かう方向について確認し、お互いの認識が合っているのか確かめるのも大切です。
面談者と組織の方向性のすり合わせを行い、自分の業務の進め方を話し合うと、次の目標を定めやすく、待遇アップといった評価にもつながります。
【ポイント】
評価内容、組織と個人の方向性について意見交換をして、認識の違いを修正するとともに、今後の方向性まで疑問やしこりを残さないようにする
4-3.面談後〜フィードバックを分析して次回に活かす〜
話し合いの後は、フィードバックを分析して、次の人事評価に活かすようにしましょう。
次の人事評価面談で評価者と認識のずれがないように、頻繁に業務の進捗や疑問点など、わかりやすくポイントをまとめて情報の共有をすると効果的です。
1on1といった面談の機会があれば良いですが、定期的な面談がなくても、チャットやメールなど、評価者が目を通しやすい方法で進捗を積極的に伝えると、双方の認識の違いが少なくなります。
さらに、次の人事評価に活かせるように、具体例や数字を挙げて自分の成果をまとめる癖をつけておけば、あとで役に立つことでしょう。
【ポイント】
自分の成果を客観的に書き留める習慣をつけるとともに、評価者に業務進捗や疑問点の積極的な共有を心がける
人事評価を最大限に活用してお互いの理解を深めよう
人事評価の目的や一般的な基準をはじめ、評価する人とされる人の立場から面談を成功させるポイントを解説しました。
評価者からの説明だけになりやすい人事評価も、評価者と評価される側それぞれが目的や意義を理解して面談の機会を活かせば、意見交換の有意義な機会に変えることができます。
組織にとっては、従業員の意見を組織の運営に反映させることができ、従業員にとってはキャリアアップの方向性や目指す目標の設定などを叶えられる機会です。
自分の仕事や働き方をより良いものにしていくためのきっかけ作りになり得るのが、人事評価の面談と心得ましょう。
納得のいくまで意見を交わして、仕事のモチベーションアップに結びつけてください。