取材記事

2024.11.14

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VRChatはビジネスを生み出せるのか!?VR上のアイドル・MilCrystaが語る魅力と可能性

近年ビジネスで注目を浴びているVR(バーチャルリアリティ)。
VRを導入し活用している企業が増えてきているものの、まだ実態を掴みきれていないという人も多いのではないでしょうか。
そこで、2024年1月末に行われた「TOKYO XR・メタバースコンテンツビジネスワールド」で
音楽部門1位を獲得したVR上のアイドルグループ「MilCrysta(ミルクリスタ)」にインタビュー。
BTHacks編集部も実際にソーシャルVR・VRChatに入り、MilCrystaのメンバー4人にVRの魅力とVRの可能性について話を伺いました。

#【MilCrystaとは】
まず、今回取材をした「MilCrysta」をご紹介します。
MilCrystaとは、VRChatで自分の分身となってくれる3Dモデルアバター・「ミルクRe」
(以下ミルクちゃんと呼称)の魅力を広めることを目的としたアイドルグループ。
VRChat上でさまざまなイベントを開催しています。

2024年1月には、クリエイターやテクノロジーの専門家が集まり交流する
「TOKYO XR・メタバース&コンテンツビジネスワールド」の
ピッチコンテスト・音楽部門で見事1位を獲得しました。

MilCrysta公式X:https://twitter.com/Mil_Crysta
【VRChatとは】
次は、MilCrystaの活動の場であるVRChatについての解説です。

VRChatとは、「ワールド」と呼ばれる仮想空間上でユーザー同士で交流するソーシャルVRのこと。
ユーザーが作った美しいワールドで写真を撮影する、VRChat上でゲームをするといった遊び方ができます。
ワールドを自作できるなどの自由度の高さもあって、近年注目を集めています。

VRChat公式サイト:https://hello.vrchat.com/
【話を伺ったメンバー】
MilCrystaメンバーはスタッフも含めると30人ほど。
そのなかから、次の4人にお話を伺いました。

・るみもこうさん
MilCrysta創設メンバーの一人
リーダーとしてグループを取りまとめる以外に、ほかのグループとのコラボ企画やイベント運営などを担当。

・あおまにあさん:
るみもこうさんの補佐役。
るみもこうさんの手が回らないところをサポートしている

・Istriaさん
アドバイザー、及びバーチャルライブの運営統括。
VRアイドルグループの運営ノウハウを確立しており、それをほかのグループに共有することも。

・七草くりむ
楽曲制作やワールドモデリングなどのクリエイティブを担当。

1.3Dモデル・ミルクちゃんユーザーを増やすべくアイドルグループ・MilCrystaを結成


(cap)同じ「ミルクちゃん」でも、ユーザー好みに髪型や洋服などを変えられ、個性を出せる。

3Dモデルのアイドルグループ・MilCrystaは、どのようなグループなのでしょうか。
MilCrysta結成の理由と活動内容を伺いました。

Q.MilCrystaを始めた理由を教えてください。
――るみもこうさん

「3Dモデルのミルクちゃんを使っているユーザーがもっと増えたらいいな」と思ったことが、MilCrystaを結成した理由です。

2023年1月に僕と友人の「Chippi2000」の二人でグループを立ち上げました。
その後、ミルクちゃん好きに「一緒に活動しないか」と声をかけたところ、Istriaとあおまにあを含め4人が共感してくれたんです。

本格的に活動を開始したのは、同年3月からですね。
一期生というかたちでTwitterでメンバーを募集したところ19人が集まりました。

だから、3月はMilCrystaにとって節目となる月なんです。
先日一周年アニバーサリーということでイベントを開催しました。

3Dモデルアバターとは?
3Dモデルアバターとは、立体的に作られたアバターのこと。
前や後ろなど一方方向だけでなく、あらゆる角度からキャラクターの姿を捉えられるうえ、複雑な動きや表情を再現できます。

ーーあおまにあさん
3Dモデルアバターは、ユーザーの動きがVR上に反映されるんですよ。
「ベースステーション」という人の動きを感知するセンサーを部屋に設置し、
そのなかでヘッドセットやコントローラーを付けて身体を動かすと、その通りにVR上のアバターが動いてくれるんです。

ーーるみもこうさん
ここにいる4人は別々の場所にいても、VR上では僕の隣にいるあおまにあの頭を撫でることもできるんですよ。

Q.MilCrystaではどのような活動を行っていますか。
ーーるみもこうさん

イベントを行っています。
主となるのが、「ダンス部」というイベントです。
ダンス部は大勢のミルクちゃんが音楽に合わせて踊って盛り上がろうというのが趣旨です。

ーーあおまにあさん
カフェを使ったファンミーティングや、おさんぽ部というのもあります。
VRChatにはいわゆる「映えスポット」があって、景色がきれいなスポットをおさんぽするんです。

一番人気なのが、飲み会ですね。
VRChat上に知り合いが少なくても自然とほかのユーザーと打ち解けられるので、参加しやすいんです。

VRChatならユーザーが同時に話せる
ーーあおまにあさん
Zoomなどのオンライン会議システムを使って談笑する場合、発言できるのは一人だけです。
でも、VRChatならみんなが同時に話せるので、誰かが話し終わるのを待たなくても済むんです。

ーーるみもこうさん
VRChat上で自分の近くにいるユーザーの声は大きく聞こえますが、遠くにいるユーザーの声は小さくなるんです。

2.VRChatの課題はデータの重さ


(cap)取材はMilCrystaがVRChat上で運営するカフェで実施。このカフェではファンミーティングを行うことも。

VRChatには「なかなかVRChatから抜けられない(るみもこうさん)」ほどの魅力がある一方で、遊べる人は限られてしまっているのが現状です。
その原因は、VRChatが抱える課題にありそうです。

Q.VRChatの魅力とは何だと思いますか?
ーー七草くりむさん

世界中どこからでもインターネット環境とパソコンがあれば参加できるところですね。
たとえば、現実世界でクラブイベントを開催したら、会場近郊に住んでいる人は行きやすいけれど、そうでない人は時間もお金もかかります。

一方、VRChatでイベントを行えば、どこからでも参加できるんです。

ーーIstriaさん

それに、VRだと機材や人の手配が必要ありません。
現実では機材を揃えられないなどの理由でできない表現も、VRなら表現可能です。
物理的な制約に縛られないのも、VRならではですよね。

Q.逆にVRChatの課題は何でしょうか。
ーーあおまにあさん

一定の基準を満たしたPCでないと、VRChatを快適に使えない点が課題だと思います。
たとえば、VRChatに限らず、PCゲームは「グラフィックボード」という画像処理を行うパーツがないとスムーズに動かないんです。
それから、VRChatはデータが重いので、PCにある程度のメモリ容量とCPUの性能が求められます。

VRChatがもう少し軽くなったら、もっと多くの人に使ってもらえると思いますね。

ーーるみもこうさん
確かにシステムが軽くなれば、VRChatをもっと楽しめそう。
VRChat上で開催するイベントには、ユーザーが80人入れるのですが、僕たちは上限60人にして、負荷を軽くしています。

イベントに80人入れたら、データが重くなって、ユーザーのPCがフリーズしてしまう恐れがあるためです。
VRChatがもう少し軽くなれば、もっと多くの人にライブに来てもらえるかもしれませんね。

Q.VRChatのデータが重くなるのはなぜでしょうか。
ーー七草くりむさん

アバターやワールドが最適化されないためです。
一般的なオンラインゲームはゲーム会社がモデルやステージを作り、
ユーザーにストレスを与えないように最適化してデータを軽くしているので、さほどPCに負荷を与えません。

一方で、VRChatでつくったアバターなどはユーザ自身が作り、最適化されていないので、どうしてもデータが重くなり、パソコンに負荷がかかってしまいます。
そのため、VRChatで遊ぶにはスペックの高いPCが必要なんです。

自分たちでアバターやワールドを作れるのはVRChatの大きな魅力なんですけどね…。

3.VRChatを使うことでビジネスの可能性が広がる


(cap)MilCrystaの可愛らしい世界観は、小学生女子も夢中になりそう。
「VRChatは世界が広がるから、自分に子どもがいたら、視力が落ちないように時間制限をしたうえでVRChatで遊ばせたい」とるみもこうさん。

MilCrystaは営利が目的ではないものの、VRChatはビジネスに使えるだろうという意見も。
ビジネスにおいてVRChatをどのように活用できるのでしょうか。

Q.VRChatでビジネスを展開させられると思いますか。
ーーIstriaさん

できると思います。
実際に、日産自動車がVRChatとパートナー契約を締結していて、VRChat上でさまざまなイベントを開催していますよ。

日産自動車によるVRChat上のイベント
日産自動車は2021年よりVRChat上にワールドをオープンしコミュニケーションの場として活用。
VRChat内でさまざまなイベントを開催しています。

たとえば、「日産アリアとめぐる環境ツアー」は、VRChat内でEV車に乗車し、温暖化に対して起こすべきアクションを参加者と一緒に考えます。

ーーIstriaさん
ただ、一般のユーザーがVRChat上で直接マネタイズをするのはまだ難しいです。
VRChat上で収益化できる「クリエイターエコノミー」という仕組みはあるのですが、現状ワールド制作のみでして。
とはいっても、外部でのアイテム販売であればビジネス参入の障壁は低いかと思います。

たとえば、ミルクちゃんのような3Dモデルは、ピクシブ株式会社が運営しているBOOTHというサイトで売買できます。

Q.3Dモデルアバター市場の規模はどの程度でしょうか。
ーーIstriaさん

ピクシブ株式会社がまとめた「BOOTH 3Dモデルカテゴリ取引白書2024」によると、
3Dモデルアバターの2023年の年間販売額は年間30億円ほどです(「BOOTH 3Dモデルカテゴリ取引白書2024」調査)。
近年、日本国内の3Dモデルアバター市場は盛り上がりを見せており、ここ4年間は毎年1.5倍ほど伸びているといわれています。

Q.3Dモデルアバター以外でビジネスになりそうな要素はありますか。
ーー七草くりむさん

楽曲制作がビジネスになるかもしれません。
僕はMilCrystaで使用する楽曲の制作を担当していて、TuneCoreというサービスを介して、SpotifyやApple Musicなどのサブスクで配信しているんです。


※楽曲のYouTube:https://music.youtube.com/watch?v=PpJ_ync9-Uk
(cap)七草くりむさん制作の楽曲「Re:Start」。メンバーからは「はじめて聴いたとき、衝撃を受けた。すごく作り込まれているし、楽しい気分になれる曲」と好評

ーー七草くりむさん
楽曲以外では、VRChat上で使える素材の販売もビジネスになりそうですね。
僕は、次の画像のようなVRChat上でチェキのような写真が撮影できる素材を作っています。


(cap)七草くりむさん(右)と一緒に写真を撮影してもらった筆者(左)
フレームの外で笑っているのはIstriaさん

ーー七草くりむさん
上記の画像でIstriaが持っているフレームの後ろ側に来てくれると、チェキで撮影したような写真が撮れるんです。
BOOTHでは、こういったデータ素材の販売もできますよ。

VRChat上でビジネスはできないけれど、VRChat以外のサイトやサービスを活用して、ビジネスとして発展させられると思います。

Q.VRChatに関するビジネスの発展は期待できそうですか。
ーIstriaさん

VRChatの利用者数はこれから伸びていくと思われるので、まだまだチャンスじゃないでしょうか。
先日、VRChatユーザーが1,000万を超えたと発表がありました。
日本人のユーザー数は全利用者のうち12%ほどで、アメリカに次いで世界2位です。

以前は9%と言われていたので、利用者数の増加ペースが上がってますね。

4.遊びながらスキルを身につけられるVRChat


(cap)VRChat上にはカメラもあり、現実世界と同じように撮影ができる。上記画像もVRChat上のカメラで撮影した

VRChatをビジネスに活用するには、専門的な知識やスキルが必要なのでしょうか。
実際にVRChatを活用しているMilCrystaメンバーの意見を伺ってみました。

Q.VRでビジネスをするには、どのようなスキルや知識が必要ですか
ーー七草くりむさん

3Dモデルアバターやワールドを作るスキルがあると良いと思います。
でも、VRChatで遊ぶことで、さわりの部分だけですがゲーム開発やクリエイティブに関するスキルや知識が身につきますよ。
VRChatは「クリエイター養成ゲーム」と呼ばれているんです。
Create,Share,Play(つくって、ユーザーにシェアして遊ぼう)」と、遊びながら学ぶことをVRChatも推奨していますね。

Q.VRChatでスキルを身につけるとしたら、どのようなことから始めるのがおすすめですか。
ーーIstriaさん

一番はじめやすいのが、自分の好きなアバターの服を作ることじゃないでしょうか。
パソコン上で粘土をこねるような感覚でアバターに着せる服を作れます。

VRChatに来るまでモデリングをやったことのない人が、チュートリアル動画を観て服の作り方を学んで、
実際に販売したら成功したというケースは割と聞きます。
学ぶ必要はあるけれど、パソコンさえあれば挑戦できます。

Q.VRChatで身につけたスキルを活かせたという実例はありますか。
ーーるみもこうさん

ありますよ。
VRChatで何らかのスキルが身についたことで就職が決まったという人は、少なくありません。

3Dモデルアバターなどを作る「3Dモデリング」をVRChatでやってみたら興味が湧いて、
ゲーム会社に就職したという人を知っています。
VRに精通している人材は企業に重宝されるようで、企業にスカウトされた人もいます。

Q.VRChatで得たスキルを活かせた経験があれば、教えてください。
ーーIstriaさん

VRChatを始めてから、自分のアバターにオリジナルの服を着せたくなってモデリングを始めたり、
ライブ演出を手掛けたりしていくうちに、いつの間にかVRに関する知識が身につきました。

その結果、フリーランスのVRアドバイザーとして生計を立てられるようになったんです。
最近は手がけている案件が増え、忙しくなりパンクしかけてますが、好きな事なので楽しいですね。

VRChatで遊ぶとスキルが身につくし、世界が広がるなと感じています。

5.多くのポテンシャルを秘めたVRChat業界を盛り上げるのが目標


(cap)「離れたところにいても、
目の前にユーザーがいるかのような感覚で交流できるのが面白い」とあおまにあさん

Q.今後、MilCrystaで行いたいことや目標があれば、教えてください。
ーー七草くりむさん

VRChatも一つの文化として成り立っていると思います。
でも、もっと多くの人にVRChatを使ってほしいので、VRChat市場をもっと盛り上げたいですね。

ーーあおまにあさん
今、MilCrystaの公式SNSのフォロワーが630人くらいなので、1,000人超えが目標。
僕らの活動を通じてミルクちゃんの魅力を感じて購入してくれた人も見受けられるし、
メンバーの仲の良さを評価してくれる人も多いんです。
やってよかったと思うことは多いですね。

ーーるみもこうさん
これからもVRChatで活動を続けていくつもりです。
僕は今は20歳を超えて社会人ですが、学生に戻った気分。
だから、VRChatでの活動のことを「永遠の放課後」と言っています。

同じアバターを好きな人同士で、一つのことをやるのがすごく楽しい。
これが僕がVRChatから抜け出せない理由です。

#MilCrystaプロフィール
2023年1月にるみもこう氏・Chippi2000氏によって創設。
1月後半にIstria氏、あおまにあ氏、ほか2名も加わり6人で活動開始。
3月にX(旧Twitter)でメンバー募集をし、19人でMilCrysta一期生として発表。
2024年3月に結成1周年を迎えた。

公式X:https://twitter.com/Mil_Crysta

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