取材記事

2025.06.17

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外国人留学生が語る「日本で働くことへの10の不安」

「日本の大学を出れば、日本企業に就職できる」―本当にそれほど簡単なものでしょうか?
外国人留学生が日本の大学で学ぶことは、
日本企業への就職につながる「便利なルート」であり、収入やその他の福利厚生とともに、
日本でのキャリア成功へと直結すると言われています。
私も、日本の大学に所属していますが、外国人留学生にとって、卒業後の道は本当にそれほど簡単なものでしょうか?
 
本記事では、日本でのキャリア形成を目指す外国人留学生が抱く不安を、私の経験も踏まえて10個紹介します。

 

1. 言語の壁

私は日本に住む外国人留学生として、日本語も勉強しながら生活しています。
3年間の学習を経て、今では日本語で会話ができるようになり、日常生活はだいぶ楽になりました。
しかし、日本語だけで仕事をこなすには、さらなる語学力の向上が必要だと感じています。
私の友人の一人に東京の日本企業で勤務している外国人がいます。
彼女は日本語能力試験(JLPT)のN1を取得していますが、職場の同僚が彼女の前で
「外国人は日本語がネイティブのようには上手くならない」と話していたことにショックを受けたと言っていました。
その企業はベトナム市場への進出を目指しており、彼女の持つベトナムに関する文化、言語などの知識は大きな価値を持っていると思います。
言語力以上に伝えようとする姿勢や多様な視点が評価されるべきではないかと感じました。
 

2. 卒業後の就職活動

日本で就職活動を行う外国人留学生にとって、言語の壁はまるで氷山のように大きな障壁です。
就職説明会などでは、企業側は外国人留学生に対して高い日本語能力やビジネスマナーの理解を求めることが一般的です。
特に英語で授業を受けている外国人留学生にとって、これらの要件をすぐに満たすのは容易ではありません。
大学では、ビジネス日本語やマナーに関する短期講座なども開催されていますが、ここでも高い日本語能力が求められるという課題があります。
外国人留学生採用に積極的な企業は、たとえば就職イベントでサポート体制の紹介をするなど、もっとオープンな雰囲気を作ることで、留学生との橋渡しがより効果的になると感じます。
 

3. 上下関係と敬意

日本では、上下関係や年功序列が非常に重視され、それを厳守する文化があります。
上司の決定に対して、たとえ異議があっても意見を口にしないことが求められます。
このような一方向のトップダウン型のマネジメントは、社員を受け身にしてしまう可能性があります。
時間が経つにつれて、社員は「指示されたことだけをやる」ようになり、自主性や創造力が発揮されにくくなってしまうこともあるでしょう。
私が経験したベトナムと海外のパートナーとの二国間プロジェクトでは、不明な点があれば、いつでもマネージャーや他の同僚に対してオープンに議論したり、質問したりすることができました。

 

4. 意思決定のスピードと権限の違い

上下関係の影響を受けて、意思決定が管理職や上司に限られることが多く、その過程に時間がかかるのも特徴です。
たとえば、私が引っ越して新しい部屋に住み始めた時のことです。
初月の家賃は日割り計算が必要で、通常は1ヶ月を30日で割る計算です。
しかし、7月は31日あるため、31日で割るように計算してほしいとお願いして、不動産会社の担当者と一緒にカレンダーを確認しました。
その担当者は「上司に確認しないと、31日で割って良いか分かりません」と言い、結局返事が来るまで数日かかりました。
仮にベトナムでこのようなことが起こった場合、担当者が決定権を持っており、承認してもらうことなく報告することができます。
些細な事だと思われるかもしれませんが、小さな決定でも現場の担当者が自分で判断できないと、担当者の方は信頼されていないと感じるかもしれません。
また、上司が細かい判断に追われる一方で、部下はいつまでも指示を待たなければなりません。
役割と責任が適切に分担されれば、より効率的な運営が可能になるのではないかと感じます。
 

5.コミュニケーションスタイルの違い

日本では「空気を読む」ことが大切で、直接的に「ノー」と言うことは好まれません。
自分の本音を隠しながら会話の流れに合わせることが、礼儀正しさとされる場面が多くあります。
ある日、私の日本語の先生との会話で、私がベトナムに2週間帰省する予定を話すと、先生はとても興味を持ちました。
私は感謝の気持ちも込めて、先生にベトナムの名所や実家への訪問を提案し、一緒に航空券を調べるところまで話を進めていましたが、
実際に航空券の予約をした後、先生からは「家族の都合で今回は難しい」と断られてしまいました。
本当はどういう心境だったのか、私にはわかりませんが、相手を気遣ってあいまいな表現を使うことが多く、それが「本音と建前」を分かりにくくしています。
同じ状況がベトナムや他の国の文化圏で起こった場合、旅行に参加できるかどうかを最初から明確にして、曖昧さのあるコミュニケーションは避けます。
 

6. 時間の厳守

日本では、時間を守ることが非常に重視されており、「10分前行動」が基本とされています。
数年前、私の日本語の先生が私たち修士課程の学生を連れて、ハノイの日本企業を訪問する機会を設けてくれました。
その際、全員が時間通りに到着できるよう、先生は私たちに午前11時30分に集合し、昼食を取り、午後1時30分まで外で待機して、午後2時の会議に備えるよう指示しました。
結果として、21人の学生がそれぞれ2時間以上も外で待つことになり、それぞれの時間が無駄になってしまいました。
果たしてこれは本当に価値がある行動だったのか、あるいは過度なストレスと疲労を招いただけだったのか、自問してしまいます。
これまで予定時間の数時間前に到着するケースは、国際線のチェックインのときだけだったので、この経験は私にとっても他の人々にとっても非常に新鮮なものでした。
時間を守ることと、時間を柔軟に使うことのバランスが取れることが理想だと感じます。
 

ハノイにて日本企業と打ち合わせ後の筆者と他の学生たち
 

7. 完璧主義とストレス

日本企業では、仕事の完璧さが求められます。
細部までこだわる姿勢は、品質の向上に繋がります。
しかし、ミスが「学び」ではなく「失敗」と見なされる風潮は、職場の雰囲気をプレッシャーの強いものにしてしまいます。
完璧を目指しすぎる姿勢は、時に企業の発展を妨げる要因にもなりかねません。
一方で、ベトナムでは、細かいことにあまり時間をかけることは奨励されません。
その結果、後から間違いを訂正しなければならないこともあります。
 

8. 同僚との距離感

多くの外国人は、仕事後の時間は家族や親しい友人と過ごしたいと考える人も多いです。
ところが、日本では職場の同僚との飲み会などに参加しないことで、「会社の一員」としての印象が薄れ、疎外される可能性があります。
私自身、アルコールが苦手なため、もし参加できなかった場合、疎外されたらどうしよう、自分の気持ちを理解してもらえなかったらどうしよう、と不安を感じます。
時には同僚と外で過ごす時間が絆を深めることもあると思いますが、長い一日の仕事を終えた後には、家でゆっくりとシャワーを浴び、夕食を楽しみ、テレビを見ながらリラックスしたいと思うこともあります。
 

9. ワークライフバランス

日本では、残業が一般的です。
締め切り前など必要な時期の残業は理解できますが、上司が帰らないから帰れないという理由で残業するケースもあると聞きます。
他の文化圏では、気にせず定時に退社しても問題ありません。
自分の仕事は終わっていても、上司の指示が必要な場合、帰宅できずに家族との夕食の時間が失われることもあるでしょう。
その結果、帰宅した時には子どもはすでに寝ており、パートナーも待ちくたびれてしまっていることがあります。
多くの国では日本と同じように両親ともにフルタイムで働いていることが多いです。
日本で良いキャリアを維持しながら幸せな家庭を築くという選択肢が本当にあるのか、キャリアと家庭を両立することは可能なのか、悩む方も多いのではないでしょうか。
 

10. ビザや法的な問題

就労ビザやその他の法的な手続きは、外国人留学生にとって大きなハードルの一つです。
必要な時にどこで法的なアドバイスを受けられるかを知っておくことや、日本における自分の権利と義務について理解を深めることが、精神的な負担の軽減に繋がるでしょう。
信頼できる専門家とのつながりを持っておくことも大切です。
 

まとめ

日本企業への就職を考える外国人留学生が感じる不安はさまざまですが、日本企業で活躍している外国人の成功例を耳にすると、前向きな気持ちになります。
日本の大学で学ぶことは、日本社会や職場への適応に向けた第一歩になると思います。
また日本の忠誠心、正確さ、規律、プロフェッショナリズムに対する高い要求は、労働者に大きなプレッシャーを与えながらも、世界的な経済大国として台頭することに大きく貢献していると感じています。
一方で、私と同じように日本の文化や習慣によって、これからのキャリアに不安を感じている外国人留学生が少なくないのも事実だと思います。
このように、文化や制度、価値観などの違いを「壁」としてではなく、乗り越えるための「橋」として捉えていくことが大切です。
本記事が日本でのキャリアを考えている外国人留学生や、外国人と共に働く日本の方々の参考になれば幸いです。
 

ライタープロフィール
ド・テイ・ニン (Do Thi Nhinh)
ベトナム出身。
九州大学の大学院・地球社会統合科学部の博士課程に在籍中。ハノイ市にある日越大学の修士課程を修了。
専門は気候変動と開発で、博士課程に進学する前は、海外からの支援を受けて実施された気候変動や自然災害による被災地域への緊急支援に関する複数の研究プロジェクトにアシスタントとして従事。学部課程では、英語教師としての養成課程を修了。
将来は、気候変動の影響や自然資源の持続可能な管理、
また地域住民への支援活動に引き続き取り組みたい。
趣味は旅行で、時々楽器演奏も楽しんでいる。

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