2025年度在日米国商工会議(ACCJ)会頭/
株式会社西武・プリンスホテルズワールドワイド
エグゼクティブ・リージョナル・ヴァイス・プレジデント・アメリカ 大隅ヴィクター氏
多くの成功するリーダーには、その人だけの「勝利の方程式」がある——
今回BTHacksが注目したのは、現在、株式会社西武・プリンスホテルズワールドワイドで活躍する大隅ヴィクター氏。
前編では、国籍の壁を越え、偶然をチャンスに変えてきた大隅ヴィクター氏のキャリアストーリーをお届けしました。
後編では、「Ace Hotel(エースホテル)」買収の裏にある戦略的な意図、
そしてすべてを楽しむ「Let’s have fun」という大隅氏の仕事の哲学を深く掘り下げます。
前編で語られた「寄り添う力」と「アピール力」が、どのようにホテルビジネスや観光戦略に活かされているのか——。
現代のビジネスパーソンに向けたヒントが詰まった内容です。
1.エースホテルのブランド力を取り入れ進化する西武プリンスホテルズ
Q.エースホテルの特徴について教えてください。
ーー大隅さん
エースホテルは、宿泊者だけでなく、地域の住民がロビーに集まるという点が最大の特徴です。
ロビーで知らない人同士が一緒にゲームをしたり、話したりしている光景は、日本ではあまり見られませんよね。
特にエースホテルブルックリンなどでは、近隣の人がコーヒーを飲みに立ち寄り、宿泊客と会話を楽しんでいるんです。
日本では宿泊客とそれ以外の人との差別化がされがちで、ホテル内でコミュニケーションが生まれにくい。
しかし、知らない人同士とのコミュニケーションを図ることは、前編で述べた日本人のアピール力と討論力のスキルを上げることにも繋がるのではないかと考えています。
Q.エースホテルが地元の人たちに受け入れられているのはなぜだと思いますか?
ーー大隅さん
その地域のカルチャーを尊重している点だと思います。
「エースホテルはアメリカのブランドなんだ!」と主張しすぎてしまうと、その土地の特色が出にくくなってしまい、地域の方に受け入れにくくなります。
例えば、ホテル業界では「ブランドスタンダード」が重要だと言われており、客室の冷蔵庫やテレビの大きさなどが決められています。
ブランドスタンダードを重視することは大切ですが、強調しすぎると、どの街のホテルも同じように見え、土地のカラーが出にくくなってしまいます。
ですから、「その土地の文化と共生」を重視するエースホテルらしさを失わず、地域に寄り添う。ときには引き際も大事なんです。
エースホテルのように柔軟性を持つことは、グローバル社会での成功に繋がると思いますよ。
Q.なぜ柔軟性が重要なのでしょうか?
ーー大隅さん
自分の考えを相手に押し付けても、成功には至らないと考えているからです。
グローバル社会で成功したいなら、日本を良く知り、日本人であることをアピールしつつ、日本人であることを忘れることが重要なんです。
例えば、お相撲さん。
お相撲さんは、土俵の硬さや状態によって踏ん張り方を変えているんです。
ビジネスも同様で、土俵、つまり国や地域に合わせた戦い方をしないと勝てないと思うんです。
Q. エースホテルを選んだポイント、そして西武プリンスホテルとエースホテルはどのような点でマッチしたのでしょうか?
ーー大隅さん
西武プリンスホテルは、家族代々で長期にわたってリピートしてくださるお客様が多い、信頼性の高いホテルです。対してエースホテルは、非常に強い世界観やカルチャーを有するライフスタイルブランドです。それぞれ異なるブランドではありますが、「地域と共生」を大切にするという共通の理念があるんです。今回未来に向かって共に歩むことになった決め手の1つは、この理念が一致していることだと思います。
私たちが目指すのは、この高品質なサービスをベースにした「独自性のあるブランド」の創出です。
エースホテルの「宿泊客だけでなく近隣住民もお茶を飲みに来るようなコミュニティ」という力を、プリンスホテルブランドにも取り入れたい。
日本人がもともと持っている「人に寄り添う力」と、海外の「地域コミュニティに開かれた空間」を融合させたいと考えました。
Q. エースホテルの日本における展開予定と、グローバル展開における考えを教えてください。
ーー大隅さん
エースホテルは、2027年に福岡・天神での開業が予定されており、福岡においても地域住民が遊びに来るようなホテルを目指しています。
ちなみに日本には、すでにエースホテル京都があり、こちらは現地の方も利用していて、ロビーで仕事をしている人もよく見かけます。
こういった風景も西武プリンスホテルの1つにしたいと思っています。
・芯を持ちつつ、相手や土地に合わせて“押し付けない”柔軟さを保つ。
・他者とのコミュニケーションが、自分自身をアップデートする最短ルート
2.ホスピタリティの秘訣「Let’s have fun」が信頼をリードする
Q.西武プリンスは今後、どのように進化すると予想されますか?
ーー大隅さん
お客様に対してしっかりしたサービスをすることで、お客様が戻ってきてくれる。
リピーターが増えることで収益が上がり、投資家へ還元できるというビジネスサイクルが生まれます。
また、前編で日本人に不足していると話したコミュニケーション力も、楽しむ姿勢から生まれます。
従業員が自ら楽しむことで自然な笑顔が生まれ、それがお客様の笑顔につながり、信頼という最強のビジネスサイクルを回していくのだと思います。
Q.ホスピタリティで大切なことは何でしょうか?
ーー大隅さん
ホテルの従業員とお客様との間に信頼関係を築くことではないでしょうか。
これは、ホスピタリティの原点だと思います。
ホテルでは、従業員が全サービスを通じてお客様とコミュニケーションをとり、信頼関係を構築できます。
それから、お客様に寄り添うこと。
お客様にお声がけするときは、相手の気持ちを考えて伝えると、うまく伝わります。
2.30年前のマンダリン・オリエンタル・バンコクというホテルの総支配人のエピソードがあります。
当時、バンコクのホテルには、ロビーの床に直接座ってしまう小さな子どもたちがいました。
その光景は、ほかのお客様とってあまり気持ちの良いものではないので、総支配人が子ども達に椅子に座ってもらうよう、促したんです。
単に「椅子に座りなさい」と伝えるのではなく、「君、可愛いね。でも、床に座っていると身体が冷えちゃうから、椅子に座ってね」と話しかけたら、素直に椅子に座ってくれました。
このように言い方によって、相手に与える印象は全く異なります。
相手がどう感じるだろうと考え、寄り添ったコミュニケーションが大事だと感じています。
Q.コミュニケーション力を上げるため、大隅さんが必要だと感じることは何でしょうか?
ーー大隅さん
私の仕事のベースにあるのは、「Let’s have fun」です。
アメリカではこの考えが浸透していますが、日本の社会は「仕事は仕事」とドライに考えがちだと感じます。
しかし、楽しんで仕事をすれば、それは必ずお客様にも伝わるはずです。
ホテルのリピーターは、お客様と従業員との間に信頼関係ができることで生まれます。
その信頼関係を得るために重要なのはコミュニケーションであり、ホスピタリティの原点は、従業員が笑顔でいること。
仕事を楽しむ姿勢が、お客様の笑顔を引き出す力となると思っています。
前編で触れた「Motion to Emotion」も同じ発想。
言葉だけに頼らず、楽しむムードやユーモアで場を温めることが最強のコミュニケーションツールになります。
ちなみに、西武グループの理念は「でかける人を、ほほえむ人へ」なんですが、英語ではどのように表現しようか議論になりました。
そこで、私は「『Smiles ahead』はどうだろう」と提案したところ、それが採用されました。
ホスピタリティにおいて、楽しむことと笑顔であることは同じだと考えていますから。
・どんな仕事にも楽しむポイントが必ずある。Let’s have funをいつも心に。
・笑顔はかならず人に伝わる。自分の笑顔が人の笑顔を呼ぶ。
3.日本の観光業界が抱える課題とは?
Q.ホテル業界に身を置く大隅さんから見た、日本の観光業界の課題とはなんでしょうか。
ーー大隅さん
海外へ行く日本人が減ってしまったという点です。
特に若い世代で、海外へ行かない理由として「面倒くさい」という心理的なハードルや、インターネットで「擬似体験で済む」と考える人がいるように思います。
私は、現地でもっと経験してみてほしい。
現地での経験は、オンラインの疑似体験では代替できない価値があります。
極端なことはしなくても良い。偶然に身を委ねて一歩を踏み出す野心を持ってみてほしい。
自分の目で世界を見た体験ほど、心に深く刺さるものはありませんからね。
Q.インバウンドは増加傾向にあります。ここから期待できそうな新しい可能性はあるでしょうか?
ーー大隅さん
今後は、観光客を大都市から地方都市へ分散化し、地方都市同士が手を取り合っていくことが重要なのではないでしょうか。
特に「姉妹都市交流」には大きな可能性があると思います。
例えば、かつて私が関わったデルタ航空のスカイウィッシュ・チャリティ・プログラムのように、学校の生徒たちが修学旅行で貯めたマイルを、経済的な理由で旅行できない姉妹都市の生徒が来日するために使うなど、観光にとどまらない交流が可能です。
「なんの目的もなくハワイに行きます」ではなく、「姉妹都市同士の交流を深めるために海外に行く」というように、旅にも目的や動機づけが重要になり、これが新しい市場を開拓する可能性を広げるのではないでしょうか。
・現地での経験に飛び込む勇気を持とう。
・旅にも目的と動機づけを。交流が市場を広げる。
4.世界で仕事をする人へのエール Let’s have fun!
Q.大隅さんが仕事をする上で大切にしていることを教えてください。
ーー大隅さん
1つ目、挑戦することを忘れない
今いる立場で挑戦できることを見つけることが重要です。
2つ目、楽しいことを見つける(Let’s have fun)
一つでも楽しいことを見つけて、楽しみながら仕事をします。
人との信頼関係を作ることや、週末に何をするか考える楽しみでも良いのです。
3つ目、信頼関係を作る
社内外で、自分が尊敬できる人を探し、泥臭い対話を重ねる。言葉の流暢さよりも、誠実さと継続性が信頼を生みます。
もし職場で楽しみを見つけるのが難しいのであれば、私は「外の世界を見てみる(転職)」という選択肢も否定しません。タイミングと縁があれば、その会社にまた戻ってくることもできるんです。
・チャレンジすることを忘れない
・Let’s have fun!の気持ちを持ち続ける
・タイミングと縁を大事にする
編集後記:カリスマが描く日本の未来予想図
「エースホテルの傘下への迎え入れ」これは、単なる経営戦略を超え、元戦闘機パイロットという異色の経歴を持つ大隅ヴィクター氏の「柔軟に受け入れ、自らの力に変える」哲学が、企業戦略レベルで体現されているのではないでしょうか。
エースホテルという独自のライフスタイルブランドとタッグを組むことで、海外の新しい感性や、地域文化を深く掘り起こす「色の取り入れ方」を学び、これらをグローバル展開の推進力としています。
この変化を力に変えるグローバルな視点と柔軟な発想は、私たち読者にも多くのことを教えてくれます。
そして、「Let’s have fun!」
未知の領域への挑戦を「大変な仕事」ではなく「楽しむべき機会」と捉え、そのプロセス自体を前向きなエネルギーに変える。
この精神こそが最強の武器となるに違いありません。
今回のインタビューを通して、私たちもまた、日常や仕事における変化を恐れず、「楽しむ力」を持って、キャリアを描いていける勇気をもらいました。
中学3年生のときに、家族とともにアメリカへ移住。
フロリダ工科大学航空経営学部操縦科にて理学士号を取得。
卒業後にアメリカ空軍に入隊。
戦闘機パイロットとして活躍した後除隊し、遊覧ヘリコプター操縦士として勤務。
大手グローバルホテルにて要職を歴任(ハイアット ホテル アンド リゾーツ、インターコンチネンタルホテルズグループ、マリオット・インターナショナル)
2019年にデルタ航空日本地区社長に就任、2025年6月に定年退職。
現在、西武・プリンスホテルズワールドワイド(エグゼクティブ・リージョナル・ヴァイス・プレジデント・アメリカ)
保有資格:アメリカ連邦航空局(FAA)認定事業用操縦士/認定飛行計器インストラクター((CFII)。







