大手広告代理店からDMM.comに転職し、今はDMM.Africaケニア支社の責任者として活躍する松﨑冬華さん。2017年7月からケニアに駐在し、ケニアと日本の間で美容製品や中古携帯、ケニアワインの輸出入販売を行っています。現地で活躍する中で行動の根底にあるのは「日本人としての誇り」だそうです。現地に深く入り込んで生活する松﨑さんに、リアルな体験に基づいたアフリカビジネスや現地文化との関わり方について伺いました。
1.日本とアフリカにおけるビジネスの相違点
普段はケニアに常駐している松﨑さん。現地では中古携帯をはじめとする輸出入販売事業に携わる
——まずはお仕事について。アフリカでビジネスをしようと思った理由は何でしょうか。
アフリカへ行く度に感じた「リープフロッグ現象」にあります。
「リープフロッグ」とは、新興国において途中の段階を踏むことなく最先端の技術にたどり着いてしまうこと。アフリカの場合、水道や電気、固定電話は普及しきっていないにもかかわらず、携帯電話はみんな持っているんです。携帯電話の普及率は80%を超えると言われており、今では複数持ち歩く人も増えてきています。
そんな「リープフロッグ」を間近で見られるアフリカがおもしろいと思って、ビジネスをしたいと思うようになりました。
現地の携帯ショップへ中古スマホを輸入販売。アフリカでは2台持ちする人もいるほどのスマホの需要が増えている
——実際に現地の会社と取引をして、何を感じましたか?
日本と比べると、アフリカでの取引はシビアだと感じています。日本では、一度取引をすると「次もお願いします」のような義理人情みたいなものがありますよね。しかし、現地では今月は弊社から商品を購入いただいても、翌月別の会社がより安い商品を提案してきたら遠慮なく乗り換えてしまうんです。
でも、視点を変えると、そこを逆手に取ることができます。
私たちのような「新参者」でも、既存の企業よりもクオリティや値段などで勝てる部分があれば、乗り換えてもらえるチャンスがあるのです。
——取引先から信頼を得るために工夫していることはありますか?
身なりや礼儀は勿論、時間にルーズな国だからこそ、商談のアポ時間や納期をきちんと守ることは意識しています。「日本人」という意味での信頼度は想像以上に高いです。というのも、ケニアの車は8割以上が日本の中古車ですし、トヨタもSONYも有名です。ケニアの人たちの中で、日本人の仕事に対する信頼が厚いからこそ、日本製の商品が普及しているのだと考えています。
その信頼度の高さを私たちも引き継いでいく必要があります。クオリティと価格で勝負し、その上で「日本人である」という付加価値がつけば怖いものはないと考えています。
2.責任者として現地スタッフとの関わり方
ケニアで共に働くスタッフたち
——DMM.Kenyaのスタッフは何人で、コミュニケーションは何語を使っていますか?
私以外に現地のスタッフが6人います。そのうち4人が女性で2人が男性。スタッフとはご飯に一緒に行ったり、従業員の子供含め週末に会ったりし、コミュニケーションを図っています。
ケニアでは公用語の英語とスワヒリ語があります。スワヒリ語は発音が日本語と似ているので、覚えやすいんですよ。その他に「部族語」があります。例えば、マサイ族ならマサイ族語、キクユ族ならキクユ族語。私は、スワヒリ語は勉強していますが、部族語になると40以上も部族があるので覚えきれないですね。
——責任者としてコミュニケーションで気を付けていることはありますか?
社内のスタッフは意識的に異なる部族を採用して、皆、スワヒリ語で話すようにしています。これは、私も含めてお互いの知らない言語で会話をされることを防ぐためです。相手の言葉が理解できなければ仕事に差し支えてしまい、円滑にコミュニケーションを図ることはできませんから。
——現地において文化の違いを感じることはありますか?
日本にも勿論あると思いますが、アフリカでは生きるための手段としての「ウソ」をよくつくことがあることを学びました。例えば会社を立ち上げた当初、採用したスタッフが、それまで勤務していた会社を辞めていなくて「掛け持ち状態」だったことがありました。本人に聞くと「前の会社では働いていない」と言うので、前の会社に行って確認するとまだ在籍中と言われたのです。
そのスタッフもシングルマザーだったため、生活のために嘘をついてしまったのだと思いますし、同時に自分の管理の甘さを痛感しました。
——嘘をつくにも何かしら理由があるわけですね。
そうですね。会社としては結果的に解雇の形を取りましたが、嘘をついた背景を考えると人間性を否定はしません。それからは、同様の事態が起きないように、メッセンジャーアプリ「WhatsApp」アプリのライブロケーション機能を使い、従業員がどこにいるか逐一把握するようにしています。「WhatsApp」は、世界中で使える無料のメッセンジャーアプリで、「LINE」のように位置情報や写真などの共有、グループチャットなどに使えます。
現地では想定外の事態に見舞われることがありますが、「想定外」の事が起きた場合は毎回原因を追求し改善し、可能な限りの事を「想定内」にできるよう日々学んでおります。
3.ケニアワイン「Leleshwa」との出会い
誕生までに20年、オーナーの熱意が込められたケニア生まれのロゼワイン
——御社では2018年からケニア産ワインブランド「Leleshwa(レレシュワ)」を独占輸入販売しています。その経緯について教えてください。
DMM.comの同僚に日本在住のケニア人がいまして、ケニアワインがあると教えてもらったんです。日本人が「ケニア」と聞くとマサイ族やサファリのイメージがあるかもしれませんが、それらとは違うケニアのイメージを作れたら良いなと考えて、日本での販売を決めました。
——「Leleshwa(レレシュワ)」は、どのようなワインなのですか?
白・ロゼ・スウィートの3種3アイテムをオンラインショップやワインショップ、レストランで販売しています。
ケニアは季節の温度変化が少ないのでぶどうを育てるのに適した国ではないとされていました。しかし、現地のオーナーが「ケニアのワインを作りたい」と考えて、ぶどうの苗をケニアの土地で育て始めたのだそうです。季節の温度差は少ないけど、標高が高い分、朝晩の気温差は大きい。この条件を利用して「ぶどうを育てられそうだ」となったようです。
多くの女性の手によって作られたワイン「Leleshwa」
——オーナーさんの熱意が込められたワインなのですね。
10年かけてぶどうを育てられるようになり、さらに10年かけてワインを作れるようになった。誕生まで20年かかっているワインなんですよ。
ぶどう畑の管理者は男性ですが、ワインを作っている醸造家さんは女性なんです。女性の醸造家は珍しいです。また、最近はぶどうは機械で摘むことが多いのですが、「Leleshwa(レレシュワ)」のぶどうは全て手摘みなんです。ぶどうを摘んでいるのも多くは村の女性が手伝っており、多くの女性の手で作られたワインです。
4.気軽にブレジャーを楽しめるアフリカ
アフリカのブレジャー事情について松﨑さんは笑顔を交えて話してくれた
——アフリカの魅力はどんなところにあると思われますか?
アフリカは、良くも悪くも「カオス」なんです。町を歩いていると、アフリカの混沌とした「カオス感」を目の当たりにすることがあります。そもそも私がアフリカに興味を持ったきっかけはこの「カオス」との遭遇だったんですよ。
——ケニア以外の場所へ出張することはありますか?
アフリカも50ヶ国以上ありますので、リサーチを目的に短いときで3〜4日、長いときで3週間ほど出張することがあります。例えば今までは、エチオピア、ルワンダ、タンザニア、ガーナに行きました。空いた時間で出張先を回ることもあります。
——ケニアでは、出張の合間を使ってレジャーを満喫する「ブレジャー」をどのようにして過ごせそうですか?
私が住んでいるケニアの首都ナイロビには車で30分から1時間圏内に国立公園があり、気軽に動物を見に行けます。また、同圏内に7施設ほどのゴルフ場があります。現地のキャディーさんは一人一人付いてくれますし、日本よりもカジュアルに楽しめるため、一人で回ることもあります。他にも乗馬をしたり、ヨガをしたり、ロッククライミングの施設もあります。十分、ブレジャーを楽しむことはできると思います。
ただし、標高約2000メートルとあって常に高地トレーニングをしているような状態なので、運動するとすぐに疲れてしまうんですよ。
5.現地女性のオシャレへのこだわり
「ネイルプリンター」を導入したサロンで実際に使用している様子
——御社で輸入販売している「ネイルプリンター」の需要はどのように見ていますか?
アフリカの女性は美容にすごく興味を持っていて、ネイルやメイクにも気を配っています。弊社の社員も月収2~3万円のうち5000円くらいを美容に使うんですよ。
日本では、手で爪に模様を描くネイルアートが主流ですが、現地の人は細かい作業があまり得意ではありません。「ネイルプリンター」なら、デザインを選ぶだけでネイルアートができます。現地のヘアサロンやネイルサロンで導入してくれているところもあり、十分に需要はあると考えています。
——サロンは何件くらいあるのですか?
統計は取れていないのですが、ナイロビ市内だけでも弊社は500以上のサロンに営業に行っております。ケニアの女性は、多い人だと週に2、3回美容院に行って髪型を変えています。髪を編み込むのに5、6時間かかるのですが、その間、サロンスタッフとお喋りしながらセットしているんです。
アフリカの女性はヘアスタイルのセットに何時間もかける
——現地の女性に対して、女性目線を取り入れて対応していることはありますか?
例えばお土産ですね。現地のスタッフの女の子たちに、「日本の化粧品を買ってきてほしい」と言われるんですよ。質の良い日本の化粧品は本当に喜ばれます。また、お菓子を持って行くときには、細かく装飾された箱などだと「かわいい!」とはしゃいでくれるので、嬉しいですね。お菓子の箱を見てテンションが上がっている女の子たちを見ると、かわいいものが好きなのは万国共通だと思います。
――ご自身が使う持ち物には、こだわりはありますか?
日本で使っていた化粧品、例えば資生堂の美容液は日本に帰ってきた時に必ず購入して、ケニアに持っていきます。あと、生理用品も同じですね。化粧品や生理用品は、日本で使い慣れているものだと落ち着きます。
6.危険と隣り合わせの現地でのリスク管理
松﨑さんが現地で持ち歩いている止血帯と包帯
——現地での生活を楽しまれているようですが、リスク管理はどうしていますか?
現地では自分に何が起きるか分からないというリスクが、現状としてあります。
ケニアには信号がない場所もあるので交通事故も高頻度で見かけますし、先日はオフィスの近くでテロが起きました。万が一、自分や周りの人に何かあった時のために最低限のことができるよう、軍隊の人が使うようなバンドで留めるタイプの止血帯をカバンの中に常備するようになりました。日本では化粧道具を持ち歩いていたのが、ケニアでは止血帯に変わりました。
——移動の時は、どうしていますか?
基本的には歩きません。移動は全て配車アプリ「UBER(ウーバー)」を使っています。必要であれば歩くこともありますが、日常生活の9.5割は「UBER」で移動します。仕事上どうしても歩いて移動しなければならない時は、必ず現地のスタッフと一緒に行動するようにしています。
7.日本人としての誇りを次世代へ繋げる
松﨑さんはケニアでの経験を通して日本人としての誇りを次世代へ繋げたいと考えている
——松﨑さんにとって、海外とは何でしょうか?
「日本は素敵な国だな」と気付かせてくれた場所です。日本人は先代から海外に出て行き、さまざまな文化を作り上げてきたと感じています。
——なぜ、そのように感じたのですか?
ケニアの人から、「ここは日本人が作った道路なんだよ」と聞く機会がありました。そこには日本とケニアの国旗があって、モニュメントが建てられているんです。ケニアの人からその情景を聞くと、日本人として誇りに思いますし、前の世代の人たちと繋がっている気持ちになります。その思いを、今度は私たちが次の世代に引き継ぎたいなと思います。
——前の世代の方々が築き上げた「誇り」を、次世代に繋げていくということですね。
そうですね。ケニアと日本は1万キロ離れていますが、前の世代の方たちが作り上げてきたものを通して繋がっていると考えています。ケニアには、日本人が約800人住んでいます。私自身、そういう人たちに助けられながら日本人の絆を感じています。
繋がっているものはたくさんあるので、「アフリカは遠いから関係ない」ということは全くないんです。誇りを持ってどんどん飛び込んでチャレンジして欲しい。アフリカでビジネスをする日本人が増えて欲しいですね。
合同会社DMM.com 国際事業部副マネージャー DMM.Kenya業務執行取締役。2017年2月に大手広告代理店から転職し、DMM.comに入社。同年7月よりDMM.Africa・ケニア支社の責任者として、美容商品や中古携帯の輸入販売、ケニアワインの輸出販売に携わる。普段はケニアに常駐し、日本と行き来する生活を丸2年送っている。何が起きても常に学びを得て糧にし、現地の文化や価値観を受け入れて、前向きに生きるキャリアウーマンである。https://dmm-corp.com/