近年、ストレスを抱えており、自分でケアしたいと考える人が増加中。
なぜなら、ストレスによる心身の不調で、仕事に悪影響を及ぼす可能性があるためです。
そのため、「ストレスマネジメント」が注目されています。ストレスマネジメントとは、ストレスとうまく付き合い、適切に対処すること。
ストレスマネジメントができるようになると、ストレスによる精神的な不調や体調不良を予防でき、仕事に影響を及ぼすことを防げるでしょう。
この記事では、ストレスの正体や解消法など、ストレスマネジメントの方法を詳しく解説します。
ストレスマネジメントについて知りたい方や、ストレスをセルフケアしたい方は、ぜひご一読ください。
1.ストレスマネジメントとは
ストレスマネジメントとは、ストレスに上手に向き合い、対応することです。
やみくもにストレスを解消しようとするのではなく、
・何がストレスの原因なのか
・ストレスを受けたとき、どのような感情や考えを持ち、行動をしているか
・どのような症状があるか
……など、ストレスの要因や生じている症状を分析し対処します。
1-1.ストレスマネジメントの必要性
ストレスを解消できずにいると、呼吸や消化など生命維持に必要な機能を調整する自律神経の乱れを引き起こします。
自律神経の乱れは心身の不調を招き、場合によっては仕事を続けることが困難なことも。
厚生労働省による令和3年「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、
仕事で何らかのストレスを感じている人の割合は、約53%。
仕事を持つ人の半数がストレスや不安を抱えていることがわかります。
そのため、ストレスマネジメントはすべてのビジネスパーソンにとって、必要なスキルだと言えるでしょう。
次の章からは、具体的なストレスマネジメントの方法を、順を追って紹介します。
参考:
厚生労働省 令和3年「Press Realease 労働安全衛生調査(実態調査)」
厚生労働省 令和3年 「労働安全衛生調査(実態調査)調査の概要」
2.ストレスマネジメント準備編・ストレスの要因と反応
ストレスマネジメントの実施で、最初にすべきはストレスの正体を知ることです。
何がストレスかわからないまま、やみくもに解消しようとすると、適切に対処できないかもしれません。
ストレスの正体を把握すれば、適した対処法が見つかる可能性が高くなります。
なぜ、ストレスを受けているのか、ストレスによってどのような症状が生じているのかを把握しましょう。
ストレスの原因となる要因や心身に生じている症状を分析すれば、適切な対処法が見えてきます。
2-1.ストレスの要因・5つのストレッサー
ストレスの原因となる要素を「ストレッサー」と呼び、主に5つの種類に分類されます。
ストレスマネジメントでは、ストレッサーが何であるかを突き止めることがポイントです。
2-1-1.身体的(生理的)ストレッサー
空腹、疲労、虫歯、病気など痛みや不快感などによる身体の不調が原因でストレスとなっているものです。
【職場で起こり得る身体的ストレッサー】
・過密スケジュールによる疲労
・仕事の都合などで食事を摂れなかったことによる空腹
2-1-2.心理・社会的ストレッサー
仕事や人間関係など、社会生活からの刺激によるものです。
現代のストレスの多くは心理・社会的ストレッサーによるものだと言われており、精神的な不調を引き起こしやすいストレッサーです。
【職場で起こり得る心理・社会的ストレッサー】
・大きなプロジェクトの責任者に抜擢され、プレッシャーに感じている
・パワハラを受けて自尊心を傷つけられた
2-1-3.物理的ストレッサー
物理的な環境刺激で、温度や音、光などがストレスの原因となることがあります。
【職場で起こり得る物理的ストレッサー】
・長時間パソコン画面を見つめていたため、眼精疲労に陥っている
・工場に勤務しており、工場内の騒音が苦痛
2-1-4.化学的ストレッサー
薬品、有機溶剤、金属、食品添加物など、化学的な刺激のことです。
化学物質によっては、目や鼻、喉などに刺激を与える可能性があるためです。
【職場で起こり得る化学的ストレッサー】
・職場のリフレッシュルームが分煙化されておらず、受動喫煙の恐れがある
2-1-5.生物的ストレッサー
身体の免疫反応を引き起こす刺激のことです。
例えば、花粉やペットの毛などによるアレルギー反応や、咳や痰などの原因となるウイルスの刺激が生物的ストレッサーに該当します。
【職場で起こり得る生物的ストレッサー】
・インフルエンザや感冒など、職場での集団感染
2-2.ストレッサーが引き起こす3つの反応
強いストレッサーや長時間にわたってストレッサーの刺激を受け続けると、何らかの反応があらわれます。
これは「ストレス反応」と呼ばれ、大まかに3つに分類されます。
1.身体的反応
ストレッサーの刺激により、以下のような、身体の不調としてあらわれる反応です。
・疲労感
・不眠
・頭痛、肩こり、腰痛
・めまい
・目の疲れ
・食欲低下
・便秘・下痢
・肌荒れ(吹き出物、かさつきなど)
2.心理的反応
精神面の不調としてあらわれるケースです。
・不安
・気分の落ち込み
・興味や関心の低下
・イライラ
・集中力低下
・意欲の低下
3.行動的反応
次のような行動となってストレス反応があらわれることもあります。
・飲酒・喫煙量の増加
・過食
・欠勤・遅刻の増加
・仕事中のミスの増加
これらのストレス反応が長期的に続く場合は、注意が必要です。
身体的反応は病気の原因になり得ますし、心理的・行動的反応は仕事で大きなミスにつながる可能性があります。
ストレッサーへの対処がなされていれば、ストレス反応は改善します。
日常を振り返り、ストレスの要因となるものを排除したり、軽減できるよう務めたりしましょう。
厚生労働省・労働安全衛生調査では、雇用形態別にストレスの要因となっている事柄を調査したところ、以下の結果となりました。
出典:令和3年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概況 関連資料
雇用形態によって、バラつきはあるものの、主に以下がストレスの原因だと回答する人が多く見られました。
・仕事の量
・仕事の質
・仕事の失敗、責任の発生等
・対人関係
派遣労働者の場合は、「雇用の安定性」が大きなストレス要因となっています。
「仕事によるストレス」といっても、雇用形態によって若干異なる結果となりました。
現在の仕事の雇用形態も、自分自身のストレスの正体を知る手がかりになるかもしれません。
3.ストレスマネジメント実践編-1セルフモニタリング
ストレスの原因となるストレッサーがわかったら、ストレスマネジメントを行ってみましょう。ストレスマネジメントは、以下の順番で実施します。
1.セルフモニタリング
2.ストレスコーピング
まず、セルフモニタリングの方法を見てみましょう。
3-1.セルフモニタリングの目的
セルフモニタリングとは、自分の感情や考え、行動を客観的に観察することです。
セルフモニタリングを実施することで、ストレッサーが明確になります。自分では気づかない些細なストレッサーがストレス反応を引き起こしているかもしれません。そのため、自分が直面しているストレッサーやストレス反応を理解することが大切です。
また、セルフモニタリングを実施することで、ストレス反応のパターンを把握でき、対処しやすくなります。
3-2.セルフモニタリングの具体例
どのような小さな出来事でも良いので、ストレスが生じたときに浮かんだ考えや気分、行動などを書き出しましょう。
・頭に浮かんだ考え
・気分・感情
・身体反応
・行動
以下は、「同僚Aさんのミスをあなたがフォローすることになった」ときの例です。
状況 | 同僚Aが見積書を作成したが、上司が金額にミスがあることを発見した。 偶然、同僚Aが席を立っていたため、上司から私に見積書を作り直すよう指示された。 |
頭に浮かんだ考え | なぜ私が、同僚のミスをフォローしなければならないのだろう |
気分・感情 | 驚き、怒り |
身体反応 | 怒りで頭に血が上ったように感じた。感情が昂った |
行動 | 上司に言われるがままに、見積書を作成し直した。 |
このようにセルフモニタリングを実施することで、自分が何に対してストレスを感じるか、また、どのようなストレス反応が生じるかを把握できます。
ストレスの原因を知ることで、不安が軽減するでしょう。
また、ストレスを回避する方法が見つかるかもしれません。
4.ストレスマネジメント実践編-2ストレスコーピング
次に、ストレスコーピングに移ります。
ストレスコーピングとは、ストレッサーに対して適切に対処し、ストレス反応を軽減すること。
ストレスコーピングを実施すれば、ストレス反応による苦痛がやわらぎますし、場合によってはストレスの原因を排除できるでしょう。
ストレスコーピングは3つの種類があります。
1.問題焦点型コーピング
2.情動焦点型コーピング
3.ストレス解消(発散)型コーピング
以下のシチュエーションを仮定して、3つのストレスコーピングでは、それぞれどのように対処をするのか見てみましょう。
ケース:
上司のBさんは、部下の自分に対して遂行不可能な量の業務を指示する
ストレス反応:
・膨大な量の仕事にプレッシャーを感じ、食欲が落ちている
・残業が続くため、常に疲労感がある
4-1.問題焦点型コーピング
ストレスとなる問題や課題に働きかけて変化させ、解決を図ろうとすることです。
対処法:課長Bさんに自分の現状を伝え、業務量を減らせないか話し合う
他の企業に転職する
4-2.情動焦点型コーピング
ストレッサーとなる問題を解決するのではなく、ストレスを感じたときの自分の気持ちや考え方を調整するものです。
対処法:友人や家族、カウンセラーなどにBさんに関する話や現状を聞いてもらい、感情を出す
4-3.ストレス解消(発散)型コーピング
いわゆるストレス発散のことです。
ストレス反応に対処する方法で、気晴らし型コーピングとも言われます。
気持ちを切り替えることで、心身の疲れを癒せるでしょう。
対処法:趣味に没頭する、買い物する、運動する、睡眠をとる
セルフモニタリングの結果をもとに、自分に適したストレスコーピングを見つけると良いでしょう。
5.ストレスマネジメントにおすすめの方法3つ
ここからは、一人でもできるストレスマネジメントのヒントを紹介します。
職場や自宅で気軽に取り入れられるものをピックアップしました。
5-1.自律神経を整えるヨガ
ヨガは、ストレスマネジメントに有効です。
ヨガを実施すると、ストレスによって過剰分泌されたホルモンの一種である、コルチゾール値を下げることが研究でわかっています。
コルチゾールは生命維持に欠かせないものですが、過剰に分泌されると、
自律神経を乱す原因となりますから、ヨガによって身体の不調を予防できるでしょう。
ヨガは精神と身体の両方へ働きかけ、精神から身体、またその逆方向への神経系の調整が促進されます。
その結果、行動と感情をコントロールできる自己調整能力とストレスから
立ち直る能力(レジリエンス)が高まるという仕組みです。
また、ポーズを行うときには、深い呼吸を行います。
呼吸は、交感神経と副交感神経のバランスを整え、自律神経を調整してくれる効果があります。
5-1-1.椅子に座ったままできる胸を開くポーズ
仕事の合間にできるポーズです。
ストレスなどを感じていると呼吸が浅くなりがちですが、このポーズで胸を開くことで呼吸が深まり、
不安やストレスを軽減できます。肩や胸を刺激して交感神経を活発にするので、モチベーションアップにも効果的です。
【やり方】
画像出典:LIFE INSIDER 「座りっぱなしはダメ! 専門家が教える、からだと心をほぐす5つのシンプルな『デスクヨガ』」
1.椅子に浅めに腰掛ける
2.椅子の背を持ち、肩を後ろで寄せて胸を開く
3.深呼吸を3~5回
【ポイント】
・腰に負担がかかるのを避けるため、腰をそらさない
・肩が上に上がらないようにする
・肋骨を上に引き上げ、胸を斜め上に突き上げる
・目線は斜め上へ向ける
5-1-2.就寝前におすすめのポーズ
ストレッサーの刺激により、不安やイライラ、怒りといったストレス反応があると、良く眠れず、次の日の仕事に影響を及ぼすかもしれません。
次に紹介するヨガは、自律神経が集まる骨盤を整え、精神を落ち着かせる効果があります。
就寝前に実施すれば、寝つきも良くなるでしょう。
【やり方】
画像出典:ヨガジャーナル「西側を強く伸ばすポーズ(パスチモッターナーサナ)の効果とやり方を解説」
1.脚をまっすぐ揃えて座り、.つま先を天井に向ける
2.背筋をまっすぐに伸ばす
画像出典:ヨガジャーナル「西側を強く伸ばすポーズ(パスチモッターナーサナ)の効果とやり方を解説」
3.足の甲を掴むか、手を脛または太ももに添えて、息を吐きながら前屈する
4.深い呼吸を5~8回ほど繰り返す
(可能であれば、呼吸の回数を増やしても良い)
【ポイント】
・鼠径部から上半身を折りたたみ、お腹と太ももを近づけるイメージで前屈する
・前屈は浅くて良いので、腰を丸めない
・腕や肩の力を抜く
5-1-3.心身を落ち着かせる片鼻呼吸
ヨガのポーズが難しいと感じるときは、ヨガで実践している呼吸法を行うだけでも効果的です。
仕事の合間にデスクでできるので、覚えておくと良いでしょう。
ヨガにはさまざまな呼吸法がありますが、ここで紹介するのは「片鼻呼吸」というもの。
交感神経に働きかける右鼻と副交感神経を刺激する左鼻を交互に呼吸するので、自律神経のバランスが整います。
ストレス反応による不調を軽減できるでしょう。
【やり方】
画像出典:ヨガジェネレーション「ナディショーダナ・プラーナヤーマの実践方法 YukaNagai-1021-2」
1.楽な姿勢で座る
2.右手の親指で右の鼻孔を押さえて、左の鼻孔から息を吸う
3.右手の薬指で左の鼻孔を押さえて、1~3秒ほど息を止める
4.右手の親指を外して、右の鼻孔を開き、ゆっくり息を吐く
5.右から息を吸い、親指で右の鼻孔をふさいで、1~3秒ほど息を止める
6.薬指を外して左の鼻孔からゆっくり息を吐く
2~6を繰り返す
5-2.集中力も身につくマインドフルネス(瞑想)
マインドフルネスもストレスマネジメントに有効な手段です。
マインドフルネスとは、シンプルな瞑想法。
過去でも未来でもなく、今現在の自分の状態に集中し、現実を受け入れることです。
さまざまな企業でマインドフルネスが実践されており、トレーニングに取り入れているアスリートも少なくありません。
研究では、短期間であってもマインドフルネスを行うことで、不安や疲労を軽減することが判明しています。
「集中力が上がり、仕事のパフォーマンスが向上した」という実践者の声が多いので、
ストレスマネジメントに限らず、日常的に取り入れると良いでしょう。
【やり方】
・椅子または床の上に座る
・手は太ももの上に置き、背筋を伸ばし、目を閉じる
・意識を呼吸へと向ける
最初は1分、慣れてきたら5分……と少しずつ時間を長くし、最終的に20~30分の瞑想を目指すと良いでしょう。
【ポイント】
・感情や思考が浮かんだら、それを追わずに、再び意識を呼吸に戻す
瞑想では感情・思考にとらわれてしまうが、気が付いたら意識を呼吸に戻すことを繰り返すことで、「現在の自分」に集中できるようになる。
瞑想とは、そもそも一つの物事に集中すること。
自分の好きな事に集中して取り組むことも、ストレスマネジメントに有効です。
例えば、楽器演奏中など、何かに集中している状態のことを「フロー」と呼び、瞑想状態に近いと言われています。
瞑想中もフロー中も、脳波はリラックス状態のときに発生するアルファ波に変化しています。
時間を忘れて没頭できる趣味を見つけてみましょう。
5-3.モチベーションがアップする筋トレ
筋トレはボディメイクだけでなく、ストレスを軽減する効果があるため、ストレスマネジメントに有効です。
なぜなら、筋トレを行うと、心が前向きになり、やる気を促すアドレナリンや
ドーパミンというホルモンや精神を安定させる神経伝達物質のセロトニンが分泌されるため。
なかでも、身体の筋肉の中でも大きな筋肉を鍛えるのがおすすめです。
大きな筋肉を鍛えることで、血流が促進されます。
血流が良いと、体温が上昇しやる気が向上する上、酸素や栄養素が身体全体に行き渡り、健康維持にも役立ちます。
5-3-1.スクワットのやり方
スクワットは、身体の中でも最も大きいと言われている大腿四頭筋と大臀筋を鍛えられます。
お尻のラインを綺麗に整えられる、代謝がアップしダイエットに効果的……など、ストレスマネジメント以外にも嬉しい効果が期待できます。
1.足を腰幅に開き、膝とつま先の方向を揃えて立つ
2.お尻を後ろへ突き出しながら、膝を曲げる
3.太ももと床が並行になるところまで腰を下げたら、ゆっくりと元の姿勢に戻る
20回を1セットとして、3セットを目標に行いましょう。
画像出典:MELOS「筋トレの王道『スクワット』の効果とやり方、正しいフォーム、種類と回数 (1/6)」
画像出典:MELOS「筋トレの王道『スクワット』の効果とやり方、正しいフォーム、種類と回数 (1/6)」
【ポイント】
・膝がつま先より前に出ないようにする
5-3-2.プランク
腹部や背中、二の腕など全身の筋肉を鍛えられるプランクもストレスマネジメントにおすすめの筋トレです。
また、内臓を支える機能も高まるため、ぽっこりお腹の解消も可能。
お腹がへこんで見た目が良くなれば、自信がついて、ストレスを感じにくくなるかもしれません。
【やり方】
1.両肘と膝を床に付けたうつ伏せの状態になる
2.両肘は肩幅に開く
3.つま先を床に立て、お尻を持ち上げる
4.最低10秒キープ
画像出典:MELOS「体幹トレーニング『プランク』の効果とやり方。初心者はまず30秒から! (1/6)」
【ポイント】
・つま先からお尻、背中、頭が一直線になるようにする
・お尻が上に上がったり、下に下がったりしないよう注意
・キープする時間は、少しずつ増やし、最終的に2分を目標に
まとめ:ストレスマネジメントはビジネスパーソンなら身に付けたいスキル
ストレスマネジメントとは、ストレスの要因や症状を把握し、それに対して適切な対処方法を探して実践することです。
ストレスによる症状が悪化すると、仕事でミスをするだけでなく、
心身の不調により、会社を休まなければならないといった事態になりかねません。
仕事のクオリティを維持するために、ストレスマネジメントの方法を知っておくと良いでしょう。
ストレスを感じていないという人でも、思わぬストレッサーが存在し、知らず知らずにストレスを溜め込んでいる可能性があります。
ストレスマネジメントは、特別なスキルがなくても自分一人で可能ですから、実践してみてはいかがでしょうか。