ヘルスケア

2020.05.27

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海外出張中の病院のかかり方 〜主要国の病院事情も解説〜

海外出張で国外に出ると、新型コロナウイルスの流行はもちろんのこと、デング熱、黄熱など日本では意識していない病気にかかるリスクも高くなります。また、医療事情も日本とは違うため、出張時にはできるだけ体調管理を心がけたいところ。
とは言え、もしも病気になったら……無理は禁物。病院に行くなど、大事に至る前にしっかりと対処することも大切です。
今回は、海外出張のために知っておきたい、海外での病院のかかり方や、病院事情を解説します。

1.海外出張時に病院に行くことになったら…

海外出張時、どんなに注意していても体調不良は起きてしまうもの。もし病院に行くことになったら、どうやって病院を探し、診察を受ければいいのでしょうか。
国によって医療事情などが異なりますが、共通する部分も多いので、まずは一般的な流れを確認しましょう。

1-1.病院はどう選ぶ?

海外で病院にかかる際には「どこを選ぶか」が大切! 日本のように医療水準が高い国ばかりではありませんから、基本的には最寄りの大きな病院を選ぶようにすると安心です。
どこが良いのかを知りたいという方は、外務省や日本大使館などのサイトをチェックしてみましょう。各国・都市別に、病院や日本語・英語が通じる病院が公開されています。

また、海外出張時に加入する海外旅行保険を使う際の利便性を重視するなら、保険会社各社の提携病院一覧をみるのもおすすめ。
キャッシュレス診療や日本語対応・予約対応の可否なども掲載されています。なによりも、提携病院というのが安心です。

【使える!病院情報がチェックできるサイト】

・外務省公式ウェブサイト「世界の医療事情」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/index.html

渡航先の国・都市リンクをクリックすると、日本大使館の問合わせ先や医務官が駐在している公館情報、衛生・医療事情やかかりやすい病気・怪我の情報がまとめられています。
現地の病院リストは、ページ最下部。住所や電話番号のほか、日本語対応の可否や在中している医師・スタッフ情報、診療科など知りたい情報がわかりやすくまとめられています。

・各種保険会社の提携病院一覧(順不同)

三井住友海上
https://www.ms-ins.com/contractor/emergency/kairyo/medical_service/

東京海上日動
https://www.i-hoken.jp/travel/hospital/images/pdf/tk_hospital.pdf

AIG損保
https://www-429.aig.co.jp/ota/hts/trouble/health/list.html?p=oKC1F601

損保ジャパン
http://www.sompo-japan.co.jp/kinsurance_d/leisure/off/support/assist/

ジェイアイ傷害火災
https://www.jihoken.co.jp/serve/hospital/se_ho_map.html

もしものときに備えて、滞在国や都市の病院リストをチェックしておいたり、すぐに見つけられるようスマホなどにリンクをメモしたりしておくと安心です。
また、海外で調べる時間がないときは、加入している海外旅行保険のコールセンターに問い合わせてみるのも良いでしょう。滞在先を伝えると、最寄りの病院を紹介してもらえます。

1-2.診察時の持ち物リスト

<診察時の持ち物リスト>
・パスポート
・現金、クレジットカード
・海外旅行保険証券や契約書など
・英語の診断書、常用している薬リスト

海外の病院にかかる際、持っていくものはパスポートとクレジットカード、加入している海外旅行保険のコピーです。支払い能力があることを証明するためにクレジットカードの提示を求められたり、デポジットとして前払金を求められたりすることもあるので確認を。
また、持病のある方は常用している薬のリストや英語の診断書を渡航前にかかりつけ医に書いてもらい、常備しておくと良いでしょう。

なお、日本で使っている健康保険証は、日本国内の病院(健康保険法で規定された保険医療機関)のみ使えます。海外の病院では、健康保険の適用外(※)となりますので、健康保険証の提示は必要ありません。

※帰国後申請により、医療費の一部払い戻しが受けられる「海外療養費制度」もありますが、現地では使えません。

参考:全国健康保険協会「海外で急な病気にかかって治療を受けたとき」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3120/r138/

1-3.入院することになった場合の手続き

<入院時の連絡先リストと優先順位>
1.保険会社
2.会社
3.家族

病院にかかり、症状が思いなどの理由から即入院となった場合、まずは保険会社に連絡をしましょう。滞在国やエリアのコールセンターがわからない場合や本人が連絡できない場合は、誰かに代理で連絡してもらうのも可。

次に忘れてはいけないのが会社への連絡。「感染症にかかってしまい1週間くらい入院が必要」など現在の状況、入院の期間、そして仕事の業務状況などをまずは報告しましょう。また、家族への連絡も忘れないようにしましょう。

また、タイミングによっては、入院中に滞在ビザが切れてしまうこともあるかもしれません。この際の対応は、各国の入国管理局や日本大使館に問い合わせるのが確実です。

タイの私立バンコク病院では、入院による滞在延長を申告できる入国管理局が病院の敷地内にあり、入院中に延長手続きが可能です。ただし、ほとんどの国や病院では、タイの私立バンコク病院のような環境が整っていない国も多いのが現実です。

参考:一般社団法人ロングステイ財団「バンコクでの突然の入院」
http://www.longstay.or.jp/lsadviser_advider_mail/entry-3123.html

【ベトナムの事例】
新型コロナウイルス感染によりビザ延長が必要となった場合

新型コロナウイルスの流行により、現地でウイルス感染やフライトキャンセルなど様々な事情でビザ期間を超えて滞在することになってしまったケースが発生しました。
こうした場合に入国管理局に状況説明をするとともに滞在延長の手続きが必要です。
たとえばベトナムでは、コロナ感染等の理由により隔離措置となった場合には、隔離が解除したのちに、速やかに入国管理局に状況説明・手続きをすることでビザ期間の延長が認められるという措置を講じています。

参考:在ベトナム日本国大使館ウェブサイト「よくある質問に対する答え(FAQ)」
https://www.vn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/corona_qa.html

2.海外の病院の医療費事情

日本の医療保険制度が使えない海外。病院にかかると、当然医療費もかなり高額になります。具体的にはどのくらいかかり、高額な医療費支払いを避けるためにはどんな対策があるのでしょうか?

2-1.海外の医療費は高い!?

医療費が全額自己負担となる海外。例えばアメリカでは救急車は有料。病院の部屋代も個室で1日あたり20万円、ICUで100万円以上と高額です。
また、外国人が受診するような医療設備やスタッフが充実している病院は割高になっていることも。

<米・ロサンゼルスの主な医療費>
・救急車:12万3,000円
・初診料:1万5400円〜1万6,400円
・入院部屋代:個室24万4,900円/日、ICU 102万4,700円/日

参考:ジェイアイ傷害火災保険株式会社 「アメリカ合衆国(ロサンゼルス)医療事情」
https://www.jihoken.co.jp/data/world/da_losangeles.html

JTB株式会社が毎年発表している『海外旅行保険事故データ』では、2018年度の海外旅行保険契約者の事故発生率は27人に1人となる3.70%。なかでも支払い保険金額が高かった上位5位をみてみると、ハワイで心筋梗塞を発症し、救急車で搬送。19日間の入院と手術を受けるなどしたケースでは、保険金支払いが3,052万円となっていました。

画像出典:株式会社JTB 「2018 年度 海外旅行保険事故データ(ジェイアイ傷害火災保険株式会社)」
https://press.jtbcorp.jp/jp/2019/07/2018.html

2-2. 医療費の支払いと保険の使い方

こんな風に、高額になることもある海外での医療費。
海外出張中に病院にかかった際、実際どんなふうに医療費を支払えばいいのか不安になった方も多いかもしれません。でも心配することなかれ。しっかりと海外旅行保険に加入し、大まかな流れを知っておけば、いざ海外で病院にかかった際も冷静に対処できるでしょう。

【Case.1】キャッシュレス診療のある保険に加入している場合

医療費キャッシュレスサービスのある海外旅行保険プランに加入していれば、提携医療機関を受診している場合、現地でのお金の支払いは不要です。

キャッシュレス診療が可能な場合、診察時に保険証券とパスポートを提示すれば、現地での支払いをせずに診察や治療を受けられます。

【Case.2】キャッシュレス診療のない保険に加入している場合

料金が安い海外旅行保険プランや、カート付帯の保険だと、前述のキャッシュレス診療ができない場合も。その場合は、現地で一旦医療費を支払い、後日保険会社に支払い明細書などを提出して医療費を受け取ります。
現地で「手持ちのお金がない!」と慌てないように、事前にプランを確認しましょう。

参考記事
海外出張中に病気に? 病院の探し方から保険の使い方まで徹底解説!
https://www.bthacks.com/2098/

【体験談】マレーシアでデング熱にかかったTさんの場合

マレーシア海外駐在中にデング熱にかかったTさん(40代)。
加入していた保険は、カード付帯の海外旅行保険と、ネットから加入していたものの2つだった。
突然の発熱と倦怠感を感じて現地の人に伝えると、近くの公立病院へ連れて行かれた。結局、6時間ほど待たされ(※1)入院。2週間後に退院した。
病院では初診時にパスポートの提示とデポジット金を求められ、保険会社との提携医療機関ではなかったため、現地精算。後日保険会社からお金が振り込まれた。

Tさんは当時を振り返り、次のように話す。
「現地の人は、なるべくお金がかからないほうがいいだろうと親切心から公立病院へ連れて行ってくれたようだが、最初からカード提携の私立病院に行けばよかった。
私立病院の方がキャッシュレス対応もしてもらえたし、公立病院より設備もかなり充実していたようです(※2)」

※1
海外の病院では、待ち時間がかなり長いケースも多く報告されています。

医療費が安い公立の病院や病院が少ないエリアなどは待ち時間が長くなるケースもあるので注意しましょう。

※2
マレーシアに限らず、私立病院は医療水準が高い一方で、医療費が高額なことがほとんど。事前に加入している海外旅行保険などが使えるかを確認しないと、請求額を見てびっくり……ということもあるのでご注意を。

3.主要5カ国で比べてみよう! 海外の病院事情

実際に、国によっても医療事情が大きく異なる世界。
海外出張の渡航者が多い主要5カ国(*)を例に、各地の病院事情を見てみましょう。渡航先の情報は渡航前にチェックしておくと安心ですよ。

参考:H.I.S 「出張(業務渡航)の傾向~利用実績データ~」
https://www.his-j.com/corp/contents/column/corp-usage-data/

3-1.中国

中国国内の病院は、設備などの状況によりレベルが分かれています。
最も医療レベルが高いのが「三級甲等」。大病院で、MRIやCTといった設備もしっかり整っています。海外出張時に利用するなら、できるだけ医療レベルが高い病院を選ぶとともに、外国人専用窓口がある病院を選ぶと安心。
中国語で外国人専用窓口は「特需問診」。外資系クリニックなら日本語が通じたり、日本人医師が常駐したりしている場合もあります。ただし、地方にはこうした病院も少なく、医療設備も乏しいところが多いため、渡航エリアによっては重篤な症状になる前に、早めに病院に行くなどの心がけが大切です。

参考:外務省「世界の医療事情/中国(北京)」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/asia/beigin.html
在中国日本国大使館「北京の医療機関リスト」
https://www.cn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/hospital.html

3-2.韓国

日本と病院制度の似ている韓国。個人病院やクリニックなら、予約なしでも診察が受けられます。総合病院や大学病院などにいく際には、紹介状を受け取っていけば初診料がかからないため、多くに人がまずは個人病院などに足を運んでいます。
出張中に診察を受ける際には「外国人登録証」や「パスポート」を見せて診察を受けます。基本的にカード社会の韓国。診察費やカード払いができます。

また、「1339」でつながるソウル応急医療センターのコールサービスは、外国人でも利用できる病院を相談できます。また、「120」、タサンコールセンター外国人専用番号。通訳者が病院紹介だけでなく、救急車なども手配してもらえるのでメモしておくといいでしょう。

参考:在韓国大使館「安全マニュアル」
https://www.kr.emb-japan.go.jp/people/safety/safety_manual.pdf

3-3.アメリカ

医療費が世界的にも高額な国として知られるアメリカ。特にNYのマンハッタンでは、NYの他の区よりも医療費が倍以上!
1日入院するだけで1〜2万ドルもの費用がかかるケースもあるため、海外旅行保険の加入は必須です。
医療水準に関しては、それほど心配ありませんが、ライム病やウェストナイル脳炎、トコジラミなど日本では馴染みのない病気などがあるので、注意が必要です。

参考:外務省「世界の医療事情/アメリカ(NY)」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/n_ame/ny.html

3-4.タイ

東南アジアの中では比較的医療レベルが高いと言われるタイ。ラオスなど近隣国で体調不良になった際も「タイの病院に行ったほうがいい」と話す現地駐在員や滞在者もいるくらい。日本語が通じるスタッフのいるような大きな病院であれば、設備も充実しており、万が一入院となった場合も快適に過ごせるでしょう。
ただし、私立病院はすべて自由診療なので、診察を受ける際には注意が必要。
また、タイの救急車は有料!金額はそれほど高くありませんが、手持ちの現金がないと、病院まで搬送してもらえない可能性も。前金制度なので手持ちのお金を常に用意しておきましょう。

参考:外務省「世界の医療事情/タイ」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/asia/thailand.html

3-5.台湾

日本と比べても医療設備が充実している台湾。インターネットで診療予約ができることが多いのが特徴。また、日本のように「まずはかかりつけ医や最寄りのクリニックにかかってから重篤な場合は大病院へ紹介状を書いてもらう」というようなシステムはなく、最初から大きな病院に行くことも可能です。
「長庚紀念醫院グループ」の病院(私立)や、国立台湾大学付属醫院、政府直営の「栄民総合病院グループ」などが大病院として代表的。
また、開業医の中にも日本語での診療を受け付けているところがあります。

参考:プレステージ・インターナショナル「台湾の医療事情」
http://www.hcpg.jp/medicalinfo/east-asia/648.html

4.新型コロナウイルス流行時の各国の病院事情

各国の医療体制の違いが浮き彫りになったのが、新型コロナウイルス流行時にそれぞれの国が講じた対策・対応かもしれません。最後に新型コロナウイルスに対する対策例をもとに、世界の病院・医療事情を比べてみましょう。

4-1.院内でクラスター感染が広がった地域も

最大の新型コロナウイルス感染者数を出した国のひとつとなったアメリカ。非常事態宣言を出し、入国制限や学校の休校など様々な措置を講じたにもかかわらず、感染者数が爆発的に増加してしまいました。
その要因として指摘されているのが、病院などの医療機関に検査を求めて多くの人が並ぶことで発生してしまったクラスター感染。
軽症患者と重症患者が同じ場所(救急外来)に集まった結果、感染が広がった可能性もあります。医療水準が高い国でも、受け入れ体制によって、リスク拡大の可能性もあるという点は、今後の行動の参考にもなるでしょう。

参考:ダイヤモンド・オンライン
「コロナ院内感染が止まらない日本の病院、海外と比べてわかる2つの死角」
https://diamond.jp/articles/-/235821?page=2

4-2.屋外病院の設置で医療崩壊を防ぐ

院内感染拡大を防止するため、また、医療システムのパンクを防ぐためなどの目的で、屋外に新型コロナ専用の病床・病院を作った国も多くみられました。日本でも、東京オリンピック用に整備された日本財団パラアリーナが軽症患者向けベッド10,000床設置のために提供されるなど、病床不足解消に向けた取り組みがなされています。
実際に、屋外施設の利用率の高い/低いは置いておいて、こうした対策により医療崩壊を防げた国や政府は、医療体制の維持という点でも、ガバナンスがしっかりと効いている国と言えるかもしれません。

参考:ダイアモンドオンライン
「コロナ院内感染が止まらない日本の病院、海外と比べてわかる2つの死角」
https://diamond.jp/articles/-/235821
PR TIMES
「『新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急支援』に関する日本財団パラアリーナの運用について」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000083.000023445.html

まとめ

海外出張時に病気やケガをしてしまった場合、具合が悪いなか、慣れない現地での情報収集や病院事情、そして医療事情に振り回される余裕はないかもしれません。
だからこそ、備えておきたいもしもの対応。海外出張先の病院事情や医療事情をチェックして、しっかり準備をしていきましょう!

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