「パート」と「アルバイト」という働き方に違いがあるのでしょうか?
どちらも時給制や日給制など条件は似ていても、求人広告では「パート募集」「アルバイト求む」などと区別されていると、どちらにするか迷うこともあるかもしれませんね。
本記事ではパートとアルバイトの違いについて解説すると共に、家族の扶養に入っている時に気になる社会保険の加入条件や「103万円の壁」といった年収の壁について紹介します。
利点や注意点もチェックして、理想の働き方を見つけましょう。
1.パートとアルバイトに違いはある?
求人募集広告を見ると、雇用形態は「パート・アルバイト」と一括りにされることが多いですが、一般的なイメージは異なるようです。
最初に、パートとアルバイト、それぞれの言葉の語源や一般的に持たれているイメージを見てみましょう。
1-1.パートとは?語源と一般的なイメージ
パートの語源は英語で短時間労働を意味する「part time」。
パートといえば、主婦・主夫が家事などの空き時間に働くことを想像する人が多いのではないでしょうか。
日・週・月の労働時間は正社員などより少ないものの、比較的長期間働くというイメージが一般的かもしれません。
そのため、雇用者が長く働ける人を探す時に、正社員登用の可能性やシフトの柔軟性など、労働者側の好条件を出してアプローチするパート募集広告が目立つようです。
1-2.アルバイトとは?語源と一般的なイメージ
アルバイトの語源はドイツ語の仕事を意味する「arbeit」。
戦前の学生の間で使われていたことから広まったと言われています。
学生などの若者が一時的な収入を得るために働くイメージが一般的ですが、既卒者がアルバイトで生計を立てる「フリーター」という言葉も定着しています。
アルバイト募集時には、日中や夜間など短時間だけ雇いたい時、力仕事などのために若者を探しているときのほか、人手が足りないときなど、雇用者側の都合に合わせられる労働力を探している場合にまとめて「アルバイト募集」としているところがあるようです。
1-3.パートとアルバイトに法律上の違いはない
紹介したように、一般的に持たれているパートとアルバイトのイメージは異なり、パートとアルバイトで時給や仕事を区別するケースも見られます。
しかし、法律を見ると、その二つに違いはありません。
次の条件に当てはまれば、どちらも「パートタイム・有期雇用労働法」の対象となり、法的に同じ雇用形態とされています。
・通常の労働者(正社員・正職員)と比較して1週間の所定労働時間が短い労働者
・事業主と3ヶ月や1年など有期の労働契約を締結している労働者
次からはパート・アルバイトと正社員の違いに焦点を当てて、パート・アルバイトという働き方にどんな利点と注意点があるかチェックしましょう。
2.パート・アルバイトで働くときの利点3つ
はじめに紹介するのは、パート・アルバイトとして働くときの利点です。
時間の融通がきいて、自分の生活リズムに合わせた働き方ができるのが特徴です。
2-1.勤務日や勤務時間を調整できる仕事が多い
パート・アルバイトは働く時間や日数など、シフトを自分で選べる仕事が多数あります。
そのため、「小さい子供がいるから平日午前中だけ働きたい」「学校が夏休みの間だけ働きたい」など、フレキシブルな働き方を実現できます。
子育て中や介護中などの場合、突然仕事を休まなければいけないことが頻繁にあるかもしれません。
仕事を始める際に、勤務時間が調整しやすいことを条件にして仕事を探すのもいいでしょう。
2-2.未経験歓迎の仕事が多い
パート・アルバイトは未経験歓迎の求人情報が多く、初心者でも仕事を始めたい時に探しやすい環境にあります。
社会的なマナーを身につける、新しい仕事にチャレンジしてみるといった機会にもぴったり。
離職後から時間が経っている場合でも、受け入れてくれる仕事先を見つけやすいでしょう。
まずはパート・アルバイトで試してみて、職場や仕事に慣れてきたら正社員への登用を希望するという方法もあります。
2-3.求人の数が多い
パート・アルバイトの場合、長期はもちろん、短期・単発の仕事もあるため、正社員と比べて求人の数が豊富です。
職種や業種にもよりますが、求人数が多いだけに幅広い選択肢から希望に近い仕事を探せる、不採用になっても他に仕事を探しやすい、自宅や学校の近くなど働く場所を選びやすいという利点もあります。
しかし、パート・アルバイトの求人数が多いということは、その裏側に人件費がかかる正社員を雇えない、必要な時だけ働く労働者が欲しいといった雇用者側の事情が隠れているとも言えます。
3.パート・アルバイトで働く前に知っておきたい注意点3つ
パート・アルバイトは、時間的に融通がきく反面、時給制や日給制のことが多く、収入の面で不安定になりやすいという懸念点もあります。
次のような注意点もあることを知った上で働き方を選びましょう。
3-1.昇進やステップアップが難しい場合が多い
非正規雇用労働者に当たるパート・アルバイトは、正規雇用労働者である正社員と異なり、責任の少ない仕事を与えられる傾向にあります。
補佐的な仕事など、正社員と職務内容に差がある場合、昇進やステップアップは正社員より困難なことが多いです。
長く働いても仕事内容が変わらず、仕事の幅が広がらない可能性があります。
仕事が単調になると、長く続けるにしたがって、やりがいやモチベーションの維持が難しくなるかもしれません。
ステップアップを目指すという人は、応募先を正社員への登用制度がある企業に絞っておくと安心です。
3-2.収入が不安定な場合が多い
パート・アルバイトの契約は時給制や日給制のことが多いため、月給制である正社員と比べて収入が不安定。
祝日の日数やシフトなどによって収入が上下します。
例え正社員と同じ時間働いても、ボーナス・賞与は支給されないことが多く、賃金に差が出ることも往々にしてあります。
パート・アルバイトなどの非正規雇用者は有期労働契約であるため、職場の業績が下がると人件費削減の対象になりやすいことも忘れてはいけません。
労働契約終了の場合、多くのケースでは30日以上前に予告され、条件を満たせば手続きを経て失業手当を受給できますが、契約終了によって収入減となるのは避けたいものです。
機会を見て契約期間の延長を交渉する、正社員への登用を希望するなど、早めに対策を打っておきましょう。
3-3.社会保険や福利厚生を受けられない場合が多い
働き方や勤務先の規定によっても変わるので一概には言えませんが、パート・アルバイトの場合、社会保険に加入できないケースがあります。
住宅手当や育児介護手当といった福利厚生も、パート・アルバイトは正社員と同様に受けられないことが多く、不合理に感じることもあるでしょう。
福利厚生は企業によって異なるため、福利厚生の内容を公表している企業を探すか、面接時に確認しておくことをおすすめします。
社会保険の加入条件については次に詳しく解説するので、自分のケースに当てはめて考えてみてください。
4.パート・アルバイトで働くときの社会保険加入条件
配偶者や親の扶養に入っている人は、パート・アルバイトの仕事を選ぶ時に扶養の範囲内と範囲外で働く時の違いも知っておくと安心です。
次に、社会保険加入の対象と雇用保険加入の条件について解説します。
4-1.社会保険加入の対象
社会保険は、会社員や公務員などが対象となる保険です。
広い意味では健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険で構成されていますが、ここでは健康保険と厚生年金保険について解説します。
次の基準を満たした場合、家族の扶養に入っているパート・アルバイトであっても扶養から外れ、社会保険に加入する必要があります。
・従業員数(社会保険の被保険者数)51人以上の事業所に勤めている
・週の労働時間が20時間以上
・月額賃金が8.8万円以上(残業代、賞与、通勤手当等は含まれない)
・2ヶ月を超えて働く予定がある
・学生ではない
※厚生年金の支払い期間は例外を除いて最長70歳まで
以前は従業員数101人以上の企業に勤める従業員が対象でしたが、2024年10月から従業員数51人以上に変更され、対象が広がりました。
また、従業員数50人以下の企業や団体でも、パート・アルバイトと事業者側が合意すれば、51人以上の企業・団体と同じ加入要件にできます。
社会保険に加入すると、家族の扶養に入っている場合と次の点が異なります。
・パート・アルバイトの労働者本人と事業者側で保険料を半分ずつ負担する
・健康保険が充実して、病気や怪我だけでなく、出産、死亡時などにも費用が補助される
・将来の年金額が増える
・障害厚生年金・遺族厚生年金が加入していない場合よりも手厚くなる
4-2.雇用保険の加入条件
雇用保険は広義の社会保険に入るものの、狭義の社会保険とは加入条件が異なります。
個人経営の農林水産業や季節的な雇用など特別な場合を除いて、次の条件のどちらにも該当すれば、雇用保険に加入する必要があります。
・ 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
・ 31日以上の雇用見込みがあること
雇用保険に加入すると、家族の扶養に入っていたときと次の点が異なります。
・保険料は事業内容によって差があるものの、賃金の約0.6%とされる
・失業手当や育児休業給付金を受けられるようになる
社会保険は加入する前と後で手取り年収に差を感じる人が多いですが、雇用保険の場合、労働者の負担割合が低いため、社会保険ほど年収への影響は感じられないでしょう。
5.パート・アルバイトで働く時の「年収の壁」5つ
家族の扶養に入っている人がパートやアルバイトで働いて一定額を超えた年収を得ると、税金や社会保険料などの負担が発生します。
そのため、結果として手取り収入が減少する可能性があるのです。
年収減少になり得る金額のボーダーラインは「年収の壁」と呼ばれ、年収減少で働き損とならないように働く時間をセーブする人が少なくありません。
働く時間をセーブする働き控えは、労働者は意欲があっても働き損と思うと働けない、社会的には人手不足が深刻化するといった問題につながっています。
年収の壁には、有名な「103万円の壁」をはじめ、税金や社会保険料などの種類によっていくつかあると言われています。
・100万円の壁〜住民税〜
・103万円の壁〜所得税〜
・106万円の壁〜社会保険料〜
・130万円〜国民年金と国民健康保険料〜
・150万円の壁〜配偶者特別控除〜
ここからは、上に挙げた5つの年収の壁について解説します。
5-1.100万円の壁〜住民税〜
住民税は、所得にかかわらず定額を負担する「均等割」と、所得金額に応じて納める「所得割」で構成されています。
年収が100万円以下の場合、所得にかかわらず均等割がかかる地域を除き、住民税は負担しません。
しかし、100万円を超えると、超えた分に10%の所得割を支払わなくてはいけません。
5-2.103万円の壁〜所得税〜
年収が103万円を超えると、基礎控除と最低ラインの給与所得控除を合わせた金額を超えるので、所得税が発生します。
所得税は103万円を超えた分に所得税がかかるため、その金額は働き損となるほど多くありません。
例えば年収105万円の場合、単純計算すると所得税は1,000円ほど。
105万円 − (基礎控除 48万円 + 給与所得控除最低額 55万円) = 所得税がかかる額 2万円
2万円 x 所得税率5% = 所得税1,000円
配偶者の扶養に入っている場合は、年収150万円までは配偶者特別控除を満額受けられます。
ただし、配偶者控除や配偶者特別控除の額は配偶者の合計所得金額によって変動します。
また、親の扶養に入っている人が103万円以上の年収を得ると、19歳以上23歳未満の「特定扶養親族」の控除を受けられなくなるという問題もありますが、学生の子供には「勤労学生控除」があり、103万円の壁は存在しません。
5-3.106万円の壁〜社会保険料〜
社会保険加入の条件の一つである「月額の賃金8.8万円」は、年収に換算すると約106万円。
社会保険加入の他の条件にも当てはまれば、社会保険料を支払わなくてはいけません。
年収約106万円の場合、社会保険料は年間約16万円。
103万円までの壁と比べて労働者の負担額が大きいですが、将来的に年金額が増えるなどのメリットもあります。
控除などによって金額は多少異なりますが、現在のところ、年収約125万円以上になると手取り収入が働き損ではなくなる計算になります。
年収の「103万円の壁」の議論が進むなか、「106万円の壁」の見直しに向け、政府の動きが活発になっています。
すでに、年収が106万円を超えて社会保険に加入した労働者に対して「社会保険適用促進手当」の支給を認めるなど、年収の壁対策が少しずつ実施されている状況。
2024年11月15日、厚生労働省はパート労働者などが社会保険に加入する要件の見直し案を正式に提示し、同年12月10日に了承されました。
1)「月収8.8万円以上、年収106万円以上の賃金」を撤廃
2)「従業員51人以上の企業」を撤廃
厚生労働省の方針が全て実現すれば、週に20時間以上働くと、学生以外は年収にかかわらず社会保険へ加入しなくてはいけません。
将来の年金給付額が増える一方で、社会保険に加入すれば保険料の負担が大きくなり、現在の手取り収入が減るという問題は解決しないままです。
現在の社会保険制度は「結婚後は女性が専業主婦になり家庭を支える」という社会構造が当たり前だった時代に制定されたもの。
現在は、ビジネス環境や社会構造の変化によって、制度を根本的に見直すべき転換期が到来しているといえます。
今後の動向も注意深く見ていく必要があるでしょう。
5-4.130万円〜国民年金と国民健康保険料〜
従業員が50人以下の企業などで働く人でも、年収が130万円を超えると扶養を外れ、社会保険料の支払いが生じます。
職場の社会保険に加入しなければ、国民年金(20歳から60歳まで)や国民健康保険の保険料の支払いが義務となります。
この場合、残業代や交通費、休日手当、不動産収入など、年間の全収入を基準に計算されることにも要注意です。
年収130万円の場合、社会保険料などの負担額は約30万円。
ただし、130万円を超えても一時的な増収であれば、連続して2年までは扶養に入れます。
5-5.150万円の壁〜配偶者特別控除〜
パート・アルバイトの年収が150万円を超えた場合、税金の控除である「配偶者特別控除」を満額で受けられなくなります。
配偶者特別控除は扶養者となる配偶者の合計所得金額によって異なり、満額受けられるのは扶養者の年収1,095万円以下。
それ以上になると段階的に控除額が減り、合計所得金額1,195万円を超えると対象外となるため、世帯によってはこの壁は存在しません。
配偶者特別控除の金額は年収150万円以上から段階的に減額され、被扶養者の年収が201.6万円を超えるとゼロとなります。
ここまで紹介した年収の壁は扶養者の収入などによって異なります。
「年収の壁」が気になったら、自分の年収が増えることで手取りがどれだけ変わるのか、次のサイトなどを参考に、パート・アルバイトの手取り収入や世帯収入の概算を計算してみてはいかがでしょうか?
参考サイト:
厚生労働省「社会保険加入による手取りかんたんシミュレーター」
国税庁「年末調整で配偶者控除または配偶者特別控除の適用を受けるとき」
実際に計算してみると、給料から差し引かれる額は案外少ないと思うかもしれません。
世帯収入の増加や社会保険に入るメリットとも照らし合わせて、自分に最適な働き方を考えてみましょう。
パートとアルバイトに法的な違いはない!多様な働き方から最適な仕事を探そう
パートとアルバイトは、一般的に持たれているイメージは違っても、法的に違いがあるわけではありません。
両者とも自分の生活スタイルに合わせて勤務時間を調整しやすく、未経験の仕事を始めるチャンスが豊富です。
一方で、収入が不安定、昇進やステップアップが難しいという注意点もあります。
最近では、勤務地、職務内容、労働時間などを限定した正社員という働き方もあり、場合によってはパート・アルバイトと正社員の利点を活かした仕事探しが可能です。
今回紹介した利点や注意点のほか、「103万円の壁」などの年収の壁も参考に、自分が一番大切にするものは何なのかを見極めて、ご自分に合った仕事を探すと良いでしょう。