2025年度在日米国商工会議(ACCJ)会頭/
株式会社西武・プリンスホテルズワールドワイド
エグゼクティブ・リージョナル・ヴァイス・プレジデント・アメリカ 大隅ヴィクター氏
多くの成功するリーダーには、その人だけの「勝利の方程式」がある——
今回BTHacksが注目したのは、現在、株式会社西武・プリンスホテルズワールドワイドで活躍する大隅ヴィクター氏。
彼は幼少期からの夢を追い、日本人でありながらアメリカ空軍のパイロットとして活躍。
かつて音速の世界で命をかけていた人が、なぜ今、ホスピタリティの世界でトップを走っているのでしょうか。
しかし、その道のりは順風満帆ではありませんでした。
退役後に目指した航空会社への道は閉ざされ、「マイノリティ」「挫折」「異文化」といった壁に直面。
今回は、その輝かしい経歴の裏にある秘話を探ります。
すべてを武器に変えてきた彼の思考法は、次世代のビジネスパーソンがキャリアを見つめ直すきっかけとなるでしょう。
1.覚悟の強さが道を拓く

Q.アメリカ空軍のパイロットを目指した理由を教えてください。
ーー大隅さん
原点は日本の小学生時代に見たドラマ「白い滑走路」ですね。「パイロットになりたい!」という純粋な憧れでした。
軍隊に入隊しようと決めたのは、アメリカで通っていた高校の先生が海軍に所属していて、パイロットに関する話を聞いたことがきっかけです。
軍隊に入隊することで日本と異なる文化を持つアメリカを知り、その経験が航空会社にパイロットとして就職するにあたって役に立つのではないかと考え、入隊を決意しました。
Q.日本人でもアメリカの軍隊に入隊できるのでしょうか?
ーー大隅さん
中学3年生のときに父親の仕事の関係で日本からアメリカへ引っ越して、フロリダにある Admiral Farragut Academy(アドミラル・ファラガット・アカデミー)という、海軍が援助している高校に通っていたのですが、アメリカの軍隊に入隊するには、アメリカ国籍か永住権を取得していなければなりません。
なので、高校卒業後にアメリカ国籍を取得しました 。
Q.そこまでの覚悟を持って……!その後はどのように操縦を学ばれたのですか?
ーー大隅さん
フロリダ工科大学に入学し、パイロットを目指す人が学ぶ航空学部を専攻しました。
大学ではパイロットとして必要な知識や技術を身につけられるほか、在学中にライセンス取得も可能です。
在学中に、
大学1年で、自家用操縦士(無償であれば家族や友人を飛行機に乗せて操縦できるライセンス)
大学2年で、事業用操縦士(航空会社でパイロットとして勤務するために必要なライセンス)
大学3年で、定期運送用操縦士(パイロットとして最高位の資格。定期航空便の機長になるために必要なライセンス)
大学4年のときには、フライトインストラクターも務めました。
ちなみに士官学校への入学を希望していたのですが、入学申し込みをしたものの入れなかったんです。
大隅氏が挑戦した士官学校は、学力・身体能力・人格のすべてが最高水準であることを求められるエリート養成機関で限りなく狭き門です。卒業すれば即「少尉」として任官されます。
1.空軍士官学校(エアフォースアカデミー):空軍将校を育成する大学
2.アメリカ合衆国海軍兵学校(通称:アナポリス):海軍将校を育成する学校
3.アメリカ合衆国陸軍士官学校(通称:ウェストポイント):陸軍将校を育成する学校
・夢の実現のためなら、「国籍」という枠さえも越える覚悟を持つ。
・王道が閉ざされても、別の道を切り拓き、実績を積み上げる柔軟さと行動力。
・「なりたい自分」から逆算し、今この瞬間に必要な選択と努力を惜しまない。
2.極限状態で学んだ「個を捨てる」勇気
Q.空軍に入ると、どのような訓練が待っているのですか?
ーー大隅さん
空軍に入隊してからは、将校を養成するオフィサーズトレーニングスクールで訓練を受けました。
この訓練では効率よく動くことや、チームワークを学びましたね。
これが本当に厳しい。
特に強烈に覚えているのがシャワーです。
シャワーヘッドが6個か8個しかないのに、「12人全員、3分以内に浴びろ!」と命令されるんです。
最初はみんな必死で、「俺が先だ!」「邪魔だ!」と怒鳴り合いです。
当然、時間切れで全員罰則を受けます。
そこで気づくんです。「個人の欲を捨てて、システムを作らないと全滅する」と。
誰が体を洗い、誰が流し、どう交代するか。チームで戦略を立てて初めてクリアできる。
この極限状態でのチームワークこそ、空軍が私に教えてくれた最初の教訓でした。
・危機の時こそ感情に流されず、「仕組み」で状況を打開する冷静さ。
・個人の成果よりも、全体の成功を追求するリーダーの視点。
・自己犠牲をいとわず仲間を支えることで、強固な信頼関係が生まれる。
3.挫折を「転機」に変える力
Q.湾岸戦争の時期、実戦にも参加されたのですか?
ーー大隅さん
はい。1990年、サウジアラビアを守る「デザートシールド(砂漠の盾)作戦」に参加しました。
当時はまだ若くて、仲間と「ドバイは砂漠だからゴルフのサンドウェッジ(ゴルフクラブ。砂地からボールを脱出する際につかわれる)を持っていくか」なんて冗談を言い合っていました。
でも、残念ながらその後「デザートストーム(砂漠の嵐)」、つまり本格的な戦闘が始まり、仲間の何人かが命を落としました。
私は運良く生き残った。本当に、ただ運が良かっただけ。
その時感じた「生かされている」という感覚は、今の仕事観にも繋がっている気がします。
Q.退役後は、念願の航空会社の機長に…ならなかったのですか?
ーー大隅さん
空軍の経歴がありますから、どこかの航空会社に就職できるだろうと考えていたのですが、どの航空会社にも採用されなかったんです。
航空会社の機長になるには飛行時間が5,000時間ほど欲しかった。でも、私が配属されたのは戦闘機。
1回のフライトが45分と短く、6年間の軍歴を経ても目標時間に届きませんでした。
しかも、喘息持ちだったうえに戦闘機の強烈なG(重力加速度)で肺を損傷し、肋骨も折ったり。
大型旅客機のパイロットとして、どの航空会社にも採用されなかったんです。
なので、空軍時代にライセンスを取得していたヘリコプターの操縦を活かし、ハワイで遊覧ヘリコプターの操縦をしていました。
Q.そこからどのようなきっかけでホテル業界へ転身したのでしょうか?
ーー大隅さん
ハワイで遊覧ヘリコプターのパイロットをしていた時、ハイアットリージェンシーワイキキのオーナーと総支配人を乗せて飛ぶことになりました。
通訳が乗れなかったので、私が操縦しながら通訳とガイドを兼務して、彼らを楽しませたんです。
するとその一週間後、「一緒に働いてくれないか?」とオファーされて。
気づけばそこから30年、ホテル業界です。
「空軍にいたはずなのに、こんな遠くまで来ちゃった」という心境です。
・失敗や逆境の中でも、今できることに全力投球し、目の前の人に価値を届ける。
・予期せぬチャンスを柔軟に受け入れるしなやかさ。キャリアは計画通りに進まないことを知る。
・「与えられた場所」でベストを尽くすことで、思いがけない扉が開く。
4. 「宇宙人」扱いされたアウェイな環境での生存戦略

Q. 当時は差別や偏見もあったのではないでしょうか。
ーー大隅さん
ありましたよ。黒人差別も根深かったですし、アジア人なんて「宇宙人(エイリアン)」扱いでした。
でも、空の上では信頼関係が命です。
アメリカ空軍のパイロットが、航空ショーなどでアクロバット飛行を行うサンダーバーズ(The United States Air Force Air Demonstration Squadron)をショーの中でサポートするチームに参加したことがあります。
航空機でさまざまなフォーメーションを組み、アクロバティックな飛行をするのですが、これが怖いんです。
ほかのパイロットとの信頼がなければ、到底できません。
Q.どうやってその壁を壊したのですか?
ーー大隅さん
「とにかく一緒に飯を食う」これに尽きます。
朝も昼も夜も、あえて彼らの輪に入って食事をし、話をする。
コミュニケーションをするなかで、自分を見つめるだけでなく、相手も見つめ理解することが大事だとわかりました。
言葉が流暢である必要はないんです。「こいつは信頼できる」と思わせるには、泥臭いコミュニケーションしかありませんでした。
5.世界で戦う日本人へ。「Motion to Emotion」の魔法

Q.日本人がグローバル社会で生き抜くコツを教えてください。
ーー大隅さん
相手の懐、つまり「感情」に入り込むことですかね。
私はよく「Motion to Emotion(モーション・トゥ・エモーション)」と言っています。
言葉が通じないなら、身振り手振り(Motion)で伝える。
そして、相手を笑わせることで感情(Emotion)を動かすんです。
親父ギャグでも何でもいい。
笑いは「私は敵ではない」という最強のサインになりますから。
Q. 日本人に足りないもの、逆に日本人の武器は何だと思いますか?
ーー大隅さん
足りないのは「アピール力」と「討論のスキル」じゃないでしょうか。
意見を戦わせることを恐れず、自分の考えを主張する。これはアメリカでは必須の作法です。
日本人が討論できるようなアピール力を培えば、外国人との商談も成功できると思います。
逆に、日本人の最大の武器は「人に寄り添う力」です。
相手の立場を思いやり、察する能力。
これは多様性が求められる今のグローバル社会で、実は最も必要とされているリーダーの資質です。
「アピール力」という剣を持ちながら、「寄り添う心」という盾を持つ。
そうなれば、日本人は世界で活躍できると信じています。
・語学力以上に大切なのは、「伝えたい」という情熱(Motion)。その熱量が人の心を動かす。
・ユーモアは最強のコミュニケーションツール。笑いは「私は味方だ」というメッセージになる。
・日本人の強みである「寄り添う力」に、自分を表現する「アピール力」を掛け合わせれば、世界で通用する
編集後記:カリスマの横顔
元戦闘機パイロットという異色の経歴を持つ大隅ヴィクター氏。
彼の話を聞いて痛感するのは、「強さ」とは「硬さ」ではなく、「しなやかさ」だということです。
国籍を変えるほどの硬い決意を持ちながら、予期せぬキャリアチェンジを受け入れる柔軟さ。
生死をかけた緊張感を知りながら、ギャグで場を和ませる緩急。
この「しなやかな強靭さ(レジリエンス)」こそが、グローバル社会を生き抜く最強の武器なのかもしれない。
彼の真の魅力は、その輝かしい肩書だけではなく、幾多のアウェイを乗り越えてきた強さと、誰に対してもオープンなユーモアにあった。
「3分間のシャワー」で学んだチームワーク、「宇宙人」扱いから勝ち取った信頼、そしてハワイの空で掴んだチャンス。
すべての点が線となり、今の彼を形作っています。
「人生、どこで何が役に立つかわからない」と笑う大隅氏の言葉は、不確実な時代を生きる私たちに、大きな勇気を与えてくれました。
次回【後編】では、西武・プリンスホテルズワールドワイドが仕掛ける世界戦略と、大隅氏が描く「日本のホテルの未来図」について、さらに深く切り込んでいきます。
中学3年生のときに、家族とともにアメリカへ移住。
フロリダ工科大学航空経営学部操縦科にて理学士号を取得。
卒業後にアメリカ空軍に入隊。
戦闘機パイロットとして活躍した後除隊し、遊覧ヘリコプター操縦士として勤務。
大手グローバルホテルにて要職を歴任(ハイアット ホテル アンド リゾーツ、インターコンチネンタルホテルズグループ、マリオット・インターナショナル)
2019年にデルタ航空日本地区社長に就任、2025年6月に定年退職。
現在、西武・プリンスホテルズワールドワイド(エグゼクティブ・リージョナル・ヴァイス・プレジデント・アメリカ)
保有資格:アメリカ連邦航空局(FAA)認定事業用操縦士/認定飛行計器インストラクター((CFII)。
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