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2026.02.20

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スペインの働き方は大らか?仕事への姿勢や価値観を在住者が紹介

スペインの働き方は日本とどのように違うのか、スペインに興味を持つ人にとって、関心事の一つではないでしょうか。
スペインには、ほかのヨーロッパ諸国とも異なる仕事への姿勢や価値観があります。
本記事では、スペイン人の仕事への姿勢や勤務時間、休暇、リモートワークの現状などについて、スペイン在住の筆者が経験を元にまとめました。
ケース別に4人のスペイン人の仕事に対する姿勢も紹介するので、スペインにも色々な働き方や考え方があることを知っていただけたら幸いです。

目次

1. 日本と違うスペインの働き方~勤務時間や休暇~

スペインの会社で十数年間働いてきた筆者は、毎日のように日本との働き方の違いを感じています。
最初に、筆者が感じた、スペインと日本の働き方の違いを紹介します。

1-1. 労働時間と勤務時間~大らかな時間感覚~

スペインでは、現在のところ法律で定められている労働時間は最高週40時間。
週に5日間、1日8時間と日本の労働時間と変わりません。

しかし、スペイン人の多くは勤務時間に対して大らかです。
たとえば、筆者が勤務している会社では、当初あったタイムカードはいつのまにか用を足さなくなり、各々が勤務時間を自己申告しています。
また、筆者は通勤時に電車やバスの遅延が発生すると、遅れた分は残業して仕事をしますが、スペイン人の同僚は、遅れた分を取り戻さず、定時に帰宅します。

筆者の友人たちのケースを見ると、リモートワークでありフレックスで働く友人は、仕事を始める時間も昼休みも比較的自由。
公務員の場合、8時頃から働き始め、昼休みを取らず、15時半頃に働き終える集中勤務をする人が多いです。
公務員は、1日7時間半勤務の人が多いですが、昼休みを取らない代わりに30分ほどの休憩を1〜2回挟む場合、実質的な勤務時間は6時間半から7時間程度となります。
営業職の友人は、勤務時間を好きなように決められるため、昼は家に帰ってとり、シエスタの後に仕事に戻るという、スペインで伝統的な働き方をしています。

スペインでも、デパートやチェーン店など営業時間の決まっているお店では、始業時刻や終業時刻に厳しいといわれています。
しかし、スペインの個人経営のお店は、開店が10時と書かれていても、オーナーの都合によって予告なしに10時にオープンしないというケースはしばしば。
営業日であるにもかかわらず、お店が閉まっていることもあります。
この点は日本と異なるでしょう。

コラム:金曜日と夏期は営業時間に要注意

スペインでは、週末に少しでも長く家族や友人と過ごしたいと考え、金曜日の終業時間を早めて、金曜日以外に足りない分長く働くという人は少なくありません。

また、企業が昼休憩の時間を設けていても、6月頃から9月頃までは7時半など早い時間から働き始め、昼休憩を挟まずに15時前に終えるケースも多いです。
その期間は銀行や官公庁などでも早く切り上げる可能性が高いため、移住や長期出張などで銀行や官公庁を利用する予定のある人は、金曜日や夏期は、銀行や官公庁の利用時間に注意してください。

1-2. 食事と軽食の時間~スペインの食習慣を反映~

スペインでは、朝食の時間は日本と同様ですが、昼食や夕食の時間は日本より遅く、昼食を14時頃、夕食を21時頃にとるのが一般的です。
オフィスなどではそれに合わせた働き方をしており、昼休みは14時頃から16時頃までの間に取ります。

また、朝食から昼食までの時間が長いため、午前中の休憩時間に軽食を取る人は多いです。
夕食の時間も遅めなので、会社帰りにはバルなどでビールを一杯飲みながらタパスをつまむ人がよく見られます。

このように1日3食のほかに、午前中と午後、2回ほど軽食を取る人が多いため、「スペインでは1日5食」と言われるようになったのでしょう。

なお、スペインの習慣である昼食後のシエスタ(昼寝)はよく知られていますが、いわゆる「9時5時」などフルタイムで働く人は、シエスタをとらない人も増えています。
シエスタをとるにしても、少し目を休める程度のようです。

筆者の職場では昼の休憩時間を1時間程度とっていますが、スペインでは昼食に時間をかける習慣があるため、昼休憩に2時間ほど当てる職場もあります。
職場と家が近ければ帰宅して休めるものの、都市部では通勤に時間がかかる人が増えており、帰宅しない人がほとんど。
長時間の昼休みは時間を持て余すうえ、就業時間が後ろ倒しになり帰宅時間が遅くなるため、多くの人に不評です。
そのため、最近では、昼休みを2時間から1時間に短縮する傾向にあります。

コラム:スペインでランチミーティングや社食はある?

スペインでは、職場や取引先の人たちとのランチミーティングをすることがあります。
筆者は上司や取引先の人とランチミーティングを行うと、彼らは当然のようにビールやワインを頼み、ゆったりと2時間以上時間をかけて食事をします。
食事中に仕事について話しても、結論には至らず、別の日に改めて確認する必要があるため、ビジネスランチは仕事よりも関係性の向上に効果があるでしょう。
スペインでは筆者が経験したようなランチミーティングでは非効率と考える人が多いのか、最近では、コーヒーと軽食をとりながらのブランチミーティングが人気のようです。

スペインの大企業や官公庁では食堂を設けているようですが、筆者の周りでは社内の食堂を利用する人がほとんど見られず、オフィスに弁当の販売や軽食を常備する日本のようなサービスも聞いたことがありません。
多くの会社が採用するのは、提携店で好みの食事を選べる食事補助サービス「チケットレストラン」です。
提携店の多くは飲食店であり、外食は量を調整しづらく、食べすぎると午後の眠気を招く、ヘルシーなメニューが少ないといった理由から、自分で弁当を用意する人も増えています。

1-3. 上司や同僚との接し方~距離感は近いが時間外の交流は稀~

スペインの会社で筆者が戸惑ったことの一つに、上司や同僚との接し方があります。
スペイン語には日本語のように敬語は多くないですが、二人称の「あなた」は2種類あり、上司や目上の人など敬意を示す相手を呼ぶ「usted(ウステ)」、同僚や友人など親しい相手への「tú(トゥ)」を使い分けます。
しかし実際のところ、スペインでは年配や目上の相手でも「tú」を使う機会が多いです。

筆者は、最初に上司と話したときに親しい相手のように話すことに抵抗を感じ、敬語を使いましたが、周囲を見て、すぐに親しい相手のように「tú」を使うようになりました。
これによって、上司との距離感が縮まった気分になり、気軽に話しかけるようになったのを覚えています。
話し方だけで関係が変わるわけではありませんが、働きやすさに繋がると思います。

上司や同僚との交流は、仕事中のカフェやランチなどが一般的でしょう。
仲が良くなれば時間外に食事に行くこともありますが、そうでなければ、年に一度、クリスマス前に会食をするのが、数少ない時間外の交流の機会となります。

日本の職場では、休みを取って旅行すると、職場の人たちにお土産を配る人が多いですが、スペインでお土産を配る人は少ないです。
しかし、自分の誕生日のときには、お菓子やケーキ、サンドイッチなどを持って行き、同僚などに振る舞います。
スペインでは、誕生日を迎える当事者が主催して、家でパーティを開く、お店でご馳走するといった習慣があるため、職場でも同様に祝ってもらいます。

1-4. 休暇~30日間の年次休暇は不可侵~

スペイン人に「休暇は神聖であり不可侵」と言われたことがあります。
この国では最低でも30日間の年次休暇が保証されており、休暇は金銭報酬には換えられません。
筆者は頓着せずに休暇を消化しきれなかったことが何度かありますが、周囲の人たちは、日本人でもほとんどが有給休暇を100%消化しています。

休暇の取り方は職場や仕事によって異なり、同僚と相談して自由に取れる場合もあれば、30日間や15日間まとめて取るように言われる職場もあります。
いずれにしても、年に一度は1週間以上休暇をとるのが一般的です。

スペインで働き始めたとき、筆者の日本の職場と比較して、休暇の取りやすさにカルチャーショックを受けました。
同僚や上司のみならず、会社の取引先など、関わる全ての人から同意や協力が得られ、心置きなく休暇を取れたからです。
逆に、上司、同僚、取引先の人が休暇を取るときも寛容になります。
取引先の担当者に急いで対応してほしいことがあっても、担当者が休暇中であれば、休みが明けるまで待つしかないことが多いです。
職場の誰かが長い休暇をとると仕事に影響が出ますが、お互い様の精神で対応するしかありません。

休暇中の人の代わりに業務を引き受ける同僚がいなければ、その間、仕事は溜まっていく一方です。
官公庁を含め、多くの職場で仕事が溜まり、休暇から戻れば溜まった仕事をこなすことに時間がかかるため、休暇をとる人が多い7〜8月は業務が滞りがちです。
通常営業に戻るのは、9月下旬か10月頃からと思った方がいいでしょう。

飲食店の場合、観光地では夏や大型連休、年末年始以外、観光地以外では7〜8月などに同僚と交代で休暇を取ることが多いです。
お店によっては1ヶ月間お店を閉めて、従業員が一斉に休暇を取ります。

2. スペイン人の働き方〜4人のケース〜

スペインでは時間感覚が大らかな傾向にあり、時間外は同僚との交流は少ないと説明しましたが、実際、仕事に対しどのような考え方を持ち、働き方をしているのでしょうか。
スペイン人の考え方を知るために、次に、具体例として、筆者の友人4人のケースを紹介します。

2-1. グスターボの場合〜仕事は生活を守る手段〜

最初に紹介するのは、友人たちから「最近少なくなってきた昔ながらのスペイン人」と言われる50代のグスターボです。
昔ながらのスペイン人といえば、仕事以外はサッカー観戦や家族と過ごすことに費やし、休暇は別荘に行くのが一般的。
グスターボは、まさにそれを地で行くように、サッカー観戦と家族中心の生活で、長期休暇には地中海沿いの別荘で過ごします。

スペインでは夫婦共稼ぎで家事の分担が一般的ですが、数十年前までは、専業主婦として家事を担う女性が大部分でした。
グスターボの妻は専業主婦であり、家事は100%妻の役目。
グスターボが妻に家事を任せていることも、「最近少なくなってきた」といわれる所以でしょう。

彼は数年前まで自身の会社を持って仕事に打ち込んでいましたが、今は公務員となり、仕事は生活のためと割り切っています。
グスターボが公務員として働き始めたとき、「公務員は仕事をしないというイメージは間違っていなかった」と言ったように、筆者の周囲では「公務員は仕事をせずに休憩ばかりしている」というイメージを持つ人が多いです。
グスターボの大学生の娘は、「公務員として働きながら楽に生きたい」という父や叔父たちを見ては情けないと嘆き、「私は絶対自分の会社を作ってせっせと働く」と宣言しています。

コラム:スペインで人気の公務員と官公庁職員

公務員はスペインで人気の高い職業の一つです。
失業率が約11%と常に高いスペインでは、安定した働き方ができる公務員のポストは魅力的に映ります。
日本と異なり、応募に年齢制限がないため、50代や60代でも条件を満たせば公務員になれます。
初任給は一般企業より低い場合が多いですが、多くが週37.5時間勤務で、年次休暇とは別に6日間の休みが与えられるなど、勤務条件に恵まれています。

多くの場合、スペイン国籍やヨーロッパ(EU)国籍を持つ人、その配偶者であることが公務員の条件の一つであり、その条件に当てはまらなければ、日本人が公務員を目指すのは難しいです。
しかし、「empleo fijo(エンプレオ・フィホ)」と呼ばれる官公庁の正規雇用職員は、スペインやヨーロッパの労働ビザがあれば応募可能。
職を得るにはスペイン憲法などの試験で高得点を取らなければならず、スペイン人でもハードルは高いですが、実際に条件や試験をクリアした日本人もいます。

興味のあるポスト募集が見つかったら、スペイン官公庁の職員採用試験にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

2-2. ガブリエルの場合〜やりがいよりも安定性重視〜

グスターボの弟であるガブリエルは、仕事以外は飲食店のテラスに座って過ごすことが多く、「宝くじに当たったら仕事を辞めたい」と言うのが口癖です。
火事や怪我などの緊急時通報機関のシステムエンジニアとして働いていたガブリエルは、責任ある仕事に誇りを持っていたものの、派遣社員として働いていたため、将来に不安を感じていました。

お気に入りのテラスで勉強しながら、何度か公務員試験にチャレンジした結果、官公庁のシステムエンジニアアシスタント職に合格。
「まさか受かると思わなかった」と言い、これまでの仕事が気に入っていたことや、受かったアシスタント職に不満であること、公務員になると給与が下がることもあって悩んだものの、結局、公務員の安定性を選びました。

公務員として働き始めると、これまでの仕事内容と比較して、現在の仕事には「やりがいが感じられない」「毎日すべき仕事が少なくて飽きる」と少し不満気。
しかし、公務員の安定性や、前職と比べて労働時間が少ない働き方には満足しており、元の仕事に戻る意思はありません。
転職した今も好きなようにテラスに座って過ごして、「毎日が休暇のようだ」と幸せそうです。

2-3. マリアの場合〜仕事より旅行が生きがい〜

次に紹介するのは、仕事は生きるために必要と考えていても、趣味が仕事以上に生きがいとなっているマリアです。
彼女の趣味は旅行で、友達と必ず年に一度は2〜3週間の長期旅行をするほか、年2〜3回、数日間のヨーロッパや国内旅行を楽しみます。

彼女はスペイン大手スーパーマーケットのシステムエンジニアとして長年働いてきましたが、上司との軋轢により、職場に不満を抱えていました。
数年前、友人と数週間の旅行を計画し、休暇を申請したものの、同時期に申請していた同僚が優先され、計画していた旅行に行けなくなったことで不満を募らせ、退職を決意。

数年に及ぶ交渉の末、満足のいく退職金を得て退職にこぎつけました。
退職前は、ストレスで心療内科に通っていたと聞きます。
次の仕事は決まっていませんでしたが、持ち家のローンは払い終えており、失業給付を受けていたため、失業中はジムやプールに通うなど、傍目には余裕のある失業生活を送っていました。

1年ほどの求職活動の末、現在の仕事である、システム開発会社のシステムエンジニアの職を獲得。
前職より給与は下がったものの、リモートワークという働き方が気に入っているうえ、比較的自由に休暇を取って旅行に行けることにも満足しているようです。

2-4. ホセの場合〜教師の仕事が天職〜

最後に紹介するのは、教師の仕事にやりがいを感じているホセです。
私立中学校の教員として働いていましたが、彼が働いていた学校では、夏の休暇時に教職員を解雇し、新学期が始まる頃に改めて契約を結ぶという働き方を採用していました。
毎年休暇中の約2ヶ月間、従業員に失業手続きを取らせていた学校のやり方に不満を持っていたため、数年前に公立学校の教職員採用試験を受けて合格。

時間外に仕事をしなければいけないこともあるものの、教員の仕事にはやりがいを感じているようです。
時間外に同僚と仕事の話をするスペイン人は少ないですが、ホセには気の合う同僚がおり、同僚に会うと、仕事の改善点などについて議論するなど、仕事に対して情熱が感じられます。
ホセは、機会を見つけては昇進試験にチャレンジし、将来的には校長を目指しているようです。

3. スペイン人の労働に対する典型的な考え方4つ


スペインのクリスマス国営宝くじ(筆者提供)

スペインで働いていると、自分とは違う、スペイン人たちの働く姿勢や考え方に目を引くことがあります。
筆者の印象をスペイン人に話すと、当然だという顔をする人もいれば、ネガティブな印象を受けるのか、顔をしかめる人もおり、その反応はさまざま。
これらの考え方は、上に紹介した友人でも当てはまる人とそうでない人がいます。
ここでは、筆者の考えるスペイン人の典型的な傾向として4つの考え方を紹介します。

3-1. 生きるために仕事をする

知り合いのスペイン人たちは、何かというと「仕事は生きるために必要だからするもので、仕事のために生きるものではない」と口にします。
この考え方がスペイン人の働き方に反映されていると思える場面は多く、次に紹介する「オンとオフの切り替えが早い」「明日やれることは今日やらない」といった姿勢も、この考えが元になっているのではないでしょうか。

上で紹介した公務員のグスターボやシステムエンジニアのマリアの場合、仕事は好きではないものの、生活のためには必要だと割り切っています。
先生のホセは仕事が気に入っていますが、働く者の権利は守られるべきであり、生活と仕事は分けるべきと考えるスペイン人の一人。
スペインの学校は休みが長いことから、ホセはよく友人にうらやましがられていますが「時間外にも働くことがあるから教員は2ヶ月間夏休みがあって当然」と考えているようです。

スペインでは仕事を生活の中心に置く人が少なく、プライベートを重視するからか、退職しても、「仕事人生が終わったら何をしていいかわからない」という人はあまり見かけません。

3-2. オンとオフの切り替えが早い

スペイン人のオンとオフの切り替えの早さにはよく脱帽します。
仕事の後も仲の良い同僚と働き方について議論を続けるホセなどは例外として、仕事の後は、多くの人が同僚と別れ、ジムに行ったり、家族や地元の友達と過ごして頭を切り替える傾向にあります。

筆者は取引先の人と夕食をとったことがありますが、仕事の話がほとんど出ず、メリハリのつけ方に感心しました。

休暇の長さもオンとオフの切り替えに一役買っているでしょう。
2週間以上取ることは当たり前で、筆者でも2〜3週間ほど休暇を取ると、休暇前に仕事にストレスを感じていても、休暇から戻る頃には「また仕事を頑張ろう」と思えるようになります。

コラム:スペイン人はオフの気分が働き方にも影響を与える?

スペインのお店へ行ったり行政サービスを受けたりするとき、スタッフによってサービスの質にムラがあると感じるときがあります。
驚くほど親身に対応してくれる人に当たって、思いつく限りの情報が与えられることもあれば、あきれるほど無愛想な人が担当に当たり、必要最小限の情報さえもらえないこともあります。

行政サービスはともかく、デパートや飲食店でも無愛想な店員が少なからずいるため、接客の仕方は個人の裁量に任されているのだろうと思っています。
同じスタッフでも、機嫌が良い日と悪い日の違いが明らかなことも稀ではありません。
機嫌が悪い日は「きっと同僚と言い合いしたんだ」「家族に何かあったんだろう」と友人と話しています。
このようにスペインではオンとオフの切り替えがうまい人ばかりではないのが実情で、オフの気分を仕事に持ち込む人は少なくありません。

3-3. 明日やれることは今日やらない

スペインで数年前まで放映されていた番組名であり、有名芸人のギャグにもなっているフレーズに「Hoy no, Mañana(今日はやらない、明日ね)」というものがあります。
このフレーズは、物事を後回しにしがちなスペイン人の特徴を端的に表していると思います。

基本的に、筆者の知るスペイン人たちは、自分に興味のないサービス残業などはもってのほか。
筆者はキリの良いところまで仕事を終えようと時間外も仕事をしていると、上司から「明日で良いなら明日やりなさい」と帰宅を促されたことがありました。

もちろん、スペイン人も仕事には真摯に向き合い、必要だと思えば残業を受け入れます。
先生のホセはときに時間外にも学校で事務作業して、企画職の友人は休日に家でプロジェクトの準備、営業職の友人は顧客と時間を合わせるために朝から晩まで仕事をすることもあると言います。

その働き方は職場のためのようにも見えますが、「休暇前に仕事を片付けておきたい」「ステップアップしたい」「コミッションが増える」と思う自分のため。
筆者の周りで職場のために残業すべきと考える人は、あまりいないようです。

3-4. 宝くじに当たったら仕事を辞める

前述のガブリエルは現在の働き方に不満を持っていなくても「宝くじに当選したら仕事を辞める」と言い、宝くじに何百ユーロも費やします。
スペインでは、彼のように考える人が多いのか、毎週宝くじを買う人は珍しくありません。

なかでもクリスマスの国営宝くじは特別で、普段宝くじを買わない人も職場の人たちと共通の番号を入手するのが通例です。
部署ごとに異なる番号を買うこともあり、違う部署の同僚と宝くじを分けあったり、交換したり、全部署の宝くじを揃えたりと、次々に宝くじが増えていきます。
毎年12月22日の抽選会の日、筆者の職場ではラジオで抽選会の中継を流します。
一等当選した会社があれば、社員が一体となって喜ぶ姿がテレビに映し出されます。

ガブリエルは宝くじに当選しても生活に必要なお金にはならないため、本当に辞めるとは思いません。
しかし、「仕事はしないに越したことはない」と思っているのは事実です。

ガブリエルのように考える人の話を聞くと、筆者は「まだ若くて健康であれば、仕事をしないのは居心地が悪い」と思います。
スペインに何年も住む日本人の友人も、彼らの考え方に違和感を感じるようです。

スペインでも「できるだけ長く働く」と考える人がいるので、国全体の考え方とすることはできません。
しかし、スペインでは、クリスマス宝くじ当選や「働かずに生活する」ことへの憧れを持っている人が多いことに驚かされます。

4. データで見るスペインの勤務条件〜賃金や育児との両立など〜

スペインの働き方にも影響する、賃金や仕事と育児事情、リモートワークの実態について、データを元に見てみましょう。
ご自分の働き方や条件と比較してみてください。
今後の働き方の参考になるかもしれません。

4-1. 賃金〜女性や若者の低賃金と家賃の高騰が課題〜

性別と年齢別によるスペインの平均賃金(単位:ユーロ)

筆者作成
統計データ引用:スペイン統計局 National Statistics Institute (INE)「Decil de salarios del empleo principal. Encuesta de Población Activa (EPA) Año 2024」

スペインでは、2025年の最低給与は額面1,184ユーロであり、12ヶ月と、さらに夏と冬の2ヶ月分のボーナスを含め、年16,576ユーロの計算となっています。

スペイン統計局(INE)によると、給与所得者の40%の人の月給は約1,582〜2,659ユーロ、残りの30%は2,659.8ユーロ以上、30%は1,582.2ユーロ以下。
職種で見ると、給与が低いのは家事代行や飲食店スタッフ、高いのは金融・保険会社勤務となっており、平均して2,500ユーロ以上の差があります。
性別、年齢別に見ると、給与額が低いのは女性や若者で、非正規雇用の働き方をしている人のほか、家事代行や飲食店スタッフの職に就いている人の多さが影響しているようです。

最近、問題となっているのは、賃金に対する家賃の高さ。
月1,500ユーロ程度の賃貸物件が多いため、家賃が賃金の90%以上になることも珍しくありません。
経済的な余裕がないと一人暮らしは難しく、シェアアパートを探すといった選択を迫られることになります。
スペインの賃金はほかのヨーロッパ諸国と比較すると低い傾向にあり、外国に職を求めて行く人も多く、人材の流出が課題となっています。

コラム:スペインで日本人が従事する職種は?

日本人がスペインで仕事を探す場合、求人サイトなどで最も多く見かけるのは、ウェイターや寿司職人、日本語の先生など。
マドリードやバルセロナなどでは、旅行代理店勤務や旅行ガイドの募集もあります。

数は少ないですが、ソムリエや芸術作品の修復師などとして活躍する人のほか、日本に関するイベント企画、和菓子店、ラーメン店、マッサージなどで起業するなど、さまざまな働き方をする日本人が増えています。

4-2. 育児と仕事の両立〜出産後の女性の退職が課題〜

25歳から49歳までの子供ありと子供なしの就業率 ースペインとEU諸国を比較ー

筆者作成
統計データ引用:スペイン統計局 National Statistics Institute (INE)「Incidencia en el empleo por la existencia de hijos. Excedencias para el cuidado de hijos」

スペインでは妊娠中の女性の解雇は違法とされており、筆者の周りでも、出産や育児で仕事を断念したというケースは聞いたことがありません。
転職直後に妊娠した人が、上司や同僚に対して肩身の狭い思いをしたと聞いたことはありますが、職場も本人も職場復帰を当然として捉えているようです。

出産時には、母親は出産予定日の4週間前から出産休暇を取れるほか、父母共に子供が8歳になるまでに数週間の育児休暇が与えられます。
夫婦で働き方を調整しつつ、協力しながら育児ができるように、年々、法律が整備されてきています。

しかし、スペイン統計局(INE)による統計データを見ると、子供を持つ女性は子供がいない場合より就業率が低いという結果になっています。
この理由の一つに、公共の託児所が少なく、私立の託児所の利用料金が平均賃金の1/3にまで達することが挙げられます。
平均すると、女性より男性の方が賃金が高く、育児のために女性が仕事を辞めざるを得ないというケースが多いのでしょう。

育児休暇の条件や職場文化が異なるといえ、解決すべき課題は日本と似ているようです。

4-3. リモートワーク〜コロナ禍から減少傾向〜

スペインでは、コロナ禍から数年経ち、少しずつではあるものの、リモートワークをする人が減少しているように見えます。
16歳から74歳へ行ったスペイン統計局(INE)のアンケートによると、働き方として、リモートワークができる環境にある労働者がリモートワークをしたのは週約3日。

筆者の周囲を見てみると、上記のマリアは前職で上司や同僚とうまく意思疎通ができないという理由でリモートワークを避けていましたが、100%リモートワークの現職では意思疎通や仕事に問題がなく、満足しています。

システムエンジニアアシスタントをするガブリエルは、週1度リモートワークが許されているようですが、家に仕事を持ち込みたくないと、毎日職場に通っています。

学校の先生であるホセはリモートワークの可能性はないものの、人と直接接したい、仕事の合間に同僚とコーヒーを飲んで雑談する時間が必要だと考えており、リモートワークには興味がないようです。

4-4. 仕事によるストレス〜仕事が原因の精神障害が増加〜

働くスペイン人のストレスレベル

筆者作成
画像出典/統計データ引用:ランスタッド「Estudio de Randstad sobre el bienestar de los trabajadores en España」

スペインでは、夏季休暇から戻る9月頃になると、仕事へのストレスや不安、うつ病などの発症が増加すると言われています。
オンとオフの切り替えが早いように見えても、現実は、オフの時間も仕事のことが頭から抜けない人もいるのでしょう。

人材サービス企業「ランスタッド」は4,300人以上を対象に、幸福度を分析するアンケート調査を実施。
その結果、回答者の79%が、ワークライフバランスの欠如が自身の健康や幸福感に直接的な影響を与えていると考えていることが明らかになりました。
調査対象者の10人に1人が「ストレスを感じたことがない」と回答したのに対し、21.2%が「頻繁に、あるいは常に仕事のストレスを感じている」と回答。
男女別に見ると、「頻繁に、あるいは繰り返しストレスを感じている」と回答した男性が48.9%であったのに対し、女性は63.6%と、男性より高い割合になりました。

スペインでは、仕事に関連する精神障害が著しく増加しているという報告もあります。
労働安全衛生研究所(INSST)の発表によると、2018年と2024年を比較した結果、重度のストレスを訴える人は230%、不安障害は120%増加、メンタルの不調による欠勤は約490%増加したという結果になりました。

前述のマリアは、前職で職場のコミュニケーションの欠如や上司の軋轢などが原因で、心療内科に通うほど精神的に追い詰められていましたが、転職して、現在、仕事に関してはストレスフリー。
先生のホセは、子供たちの親からのプレッシャーが一番のストレスだといいますが、ある程度慣れており、軽度のストレスで落ち着いているようです。

筆者の周囲で最もストレスを感じているのは、日本人とスペイン人と一緒に働いており、両者の働き方の違いに悩む日本人の友人です。
彼女はスパやジム、旅行などに行って、適度にストレスを発散しています。

コラム:スペインの会社に送る履歴書に年齢や生年月日は不要

スペインの会社に履歴書を送る場合、特に決まったフォームはありません。
年齢や生年月日に関しては、以前は必要とされていましたが、最近では年齢差別を避けるため、書かなくて良いと言われています。
会社に年齢や生年月日を求められるケースもありますが、面接官をした経験のある友人に聞くと、面接で年齢を聞くのはタブーとなっているといいます。
年齢差別を避けるという考え方からか、40〜50代でも転職する人は珍しくなく、60代で転職に成功した知り合いもいます。

セビージャ大学によると、履歴書には住所のある町までは書いても詳しい住所は必要なく、婚姻の有無なども書かなくて良いようです。
顔写真添付も個人の判断に委ねられており、添付する場合は情報漏洩に注意すべきだと書かれています。

5. スペイン人の仕事外の過ごし方2つ

これまでスペインの働き方を見てきましたが、仕事の後や休日などオフの時間には、誰とどんな過ごし方をしているのでしょうか?
筆者の周辺を見ると、家族や友人と過ごす、スポーツをする、旅行するという人が多いです。

次に例として2通りの過ごし方を紹介します。

5-1. 家族や友人と過ごすのが優先

社会学研究所(CIS)のアンケートによると、「仕事外の余暇にどんな過ごし方をするか」という質問に対し、半数が「家族と過ごす」と答えました。
これは数年前のデータになりますが、筆者の周辺でも、週末や休暇には家族と過ごす人が圧倒的。
筆者の職場で同僚の話といえばパートナーや子供、親のことであり、彼らの生活の中心は仕事ではなく、家族なのだと感じられることが多いです。
オンとオフの切り替えをして、リラックスできるのは家族との団らんなのでしょう。

筆者がスペインの職場で感じた日本との違いといえば、同僚の家族構成を知ること。
筆者は日本では、よほど仲良くならない限り、同僚の家族構成を知ることはありませんでした。
スペインでは、入社して数ヶ月もすれば、同僚が自ら話してくるため、彼らの家族構成が自然と把握できるようになりました。

また、スペインでは、同僚や友人と仲良くなると、その家族とも知り合う機会が増えます。
先生のホセのように同僚と仲が良くなると、同僚がパートナーや家族、友人を連れてくるため、結果的に、ホセの友人たちは、筆者を含め、ホセの同僚のパートナーや友人とも仲良くなりました。
同僚と家族、友人が一緒になって食事や旅行をすることは筆者には珍しく、異文化を感じる機会になっています。

5-2. 体を動かしてリラックス

スペイン文化・スポーツ省の調査によると、50%近くの人が何らかのスポーツをしていると答えました。
スポーツをする理由として、健康や体力維持という答えの次に多かったのが、リラックスするためという回答でした。

週2〜3回ジムに通うホセは、オンとオフを切り替え、リラックスするためにスポーツをする一人。
学校の問題を抱えていても、ジムに行くと頭がスッキリすると言い、ジムが病みつきになっているようです。
仕事の後、行けるときにマシンピラテスに通っているという友人も、仕事とのメリハリがつき、働き方にも良い影響を与えていると言っています。

何年もスポーツをしていないと答えた人も30%近くおり、スポーツをしない人のうち、約3分の1の人が時間がないことを理由に挙げています。
マリアは失業中にジムに通っていたものの、仕事や親の介護に時間が取られていることを理由に、現在運動を休止中です。

スペインの働く人たちが仕事の後にスポーツをする理由やスポーツをしなくなった理由は、日本人の私たちと大差ないように感じられます。

まとめ:スペイン人の生活重視の働き方を参考にオンもオフも充実させよう

スペインでは仕事よりもプライベートを重視する傾向にあり、それが働き方にも反映されています。
「明日やれることは今日やらない」という姿勢で、終業時刻になれば同僚と別れ、家族と過ごしたり、スポーツで汗を流したりして、仕事のストレスを発散するのが一般的です。
日本では、スペインのような長期休暇は難しいですが、メリハリのつけ方は学べる点かもしれません。
スペインの働き方の良い部分を学んで、仕事もプライベートも充実させましょう。

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働く親のリアル・トークVol.2(前編)

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働く親のリアル・トークVol.2(前編)
ー完璧主義を手放す勇気ー



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にこちゃん編集長と、3人のゲストが本音で語り合いました。