日本のインバウンド市場では、近年から子連れのファミリー層の存在感が高まっています。
以前の団体ツアーに代表される物見遊山要素の強い観光スタイルから、個人旅行かつ家族全員で楽しめるコト消費を重視する旅へと主流が変化する中、なぜ海外の多くの親が日本を旅行先に選ぶのでしょうか。
この記事では、子連れのインバウンド層が今どのように日本へ着目しているのかを解説。
隠れたニーズや今後の課題についても、合わせて紐解きます。
インバウンド関連の仕事をしている人や、インバウンドに興味がある人はぜひ、ビジネスの参考にしてみてくださいね。
1.日本は子連れインバウンドから注目されている

子供を連れて海外を旅行する子連れインバウンドから、日本が熱い注目を浴びています。
子連れインバウンドとは、子供を連れて日本を訪れる外国人観光客層のことです。
宿泊人数と日数が多く客単価が高いことが特徴で、観光分野での消費拡大やリピーター獲得による安定した観光収益源となることが期待される客層です。
2024年の訪日外国人旅行者数は3,687万人、2025年には4,268万人と、インバウンド数は子供を連れて来日する人も含めて増加傾向にあります。
さらに、世界経済フォーラムが毎年発表する世界各国の観光産業の競争力や発展可能性をランク付けした「2024年度旅行・観光開発ランキング」では、日本はアメリカ、スペインに次ぐ3位にランクイン。
日本は、魅力的な旅行スポットとして世界から認知されているのがわかる結果となりました。
この高い評価の背景には、日本の治安の良さや公共交通機関の利便性、清潔な環境などプラスの要素があります。
これらは、小さな子供を連れて旅をするインバウンドのファミリー層が旅行先を選ぶ上で重視する条件と一致しており、全体のインバウンド増加に伴って子連れ層の流入も自然と加速していると言えるのです。
また、子連れインバウンドが日本を旅行先に選ぶ理由の一つとして、インフルエンサーがインターネットやSNSで発信する日本旅行の情報が、簡単に入手できることが挙げられます。
彼らのページは、実際に現地で撮られた写真や楽しく快適に日本を旅行するためのハウツーなどが詳細にアップされ、多くの「いいね!」がつくほど注目されています。
2.子連れインバウンドが日本を目指す理由5つ

なぜ、子連れインバウンは旅行先に日本を選ぶのでしょうか。
ここからは、子連れでの旅行先に日本を選ぶインバウンド客が年々増えている理由を、具体的に掘り下げてみましょう。
2-1.小さな子供連れでも安心して街を歩ける
家族の安全と旅行の快適さを重視する子連れインバウンドにとって、子供の一人歩きが可能なほど治安が良い日本は、親が旅行中のストレスを感じることが少なめと言えます。
筆者が住むイタリアは、日本と比較すると治安が良いとは言えない国の一つ。
14歳未満の未成年を一人で外に出したり、留守番させたりすることが保護者の保護義務違反とみなされ、発覚した場合は罰せられることがあるほどです。
他にもアメリカやフランスなど、未成年の単独行動には親が同伴することが前提となっている国が世界には少なくない一方で、日本ではそのようなルールが存在しないほど治安が良いのです。
子供が自ら行動し楽しめる冒険のような旅行を実現させてあげたい、そして親であることの責任の重さから少し解放され、子供と一緒に心から旅を満喫したいと考える親は少なくありません。
このような理由から、日本を旅行先に選ぶ子連れインバウンドが増加していると言えるでしょう。
2-2.子供が楽しめる移動インフラの充実度が高い
子供を連れて旅行へ行くときに親が気にするポイントの一つに「なるべく時間をかけず親子共に快適に利用できる交通機関を利用可能か」があります。
例えば、ゴミも落書きもない清潔な車内と、特急などでは座って用をたせる快適なトイレを利用できる日本の公共交通機関は、子供連れの親にとてもありがたい存在と言えます。
特に注目されているのは、海外でも知られているANAのポケモンジェットのようなラッピングされている公共交通機関です。
ポケモンやサンリオキャラクターなど、海外でもよく知られている人気キャラクターの電車に乗ることは、インバウンドの子供たちにとって夢のような体験になるでしょう。
また、日本が旅行先として高い評価を得る理由の一つとして、確実に移動が可能なことも挙げられます。
家族で移動するのに多用されるのが、GoogleマップやJapan Travelなどのナビアプリです。都市部や有名観光地であれば、鉄道・地下鉄、路線バスなどの公共交通機関が、時刻表通りに発着する日本では、ナビアプリの精度が非常に高いです。
また、到着時間が最も早いルート、座って移動できるルートなどニーズ別に検索できるのも子連れインバウンドにとっては見逃せないポイント。
ちなみに筆者が在住するイタリアでは、電車やバスなどの公共交通機関が時刻表通りに運行することはほとんどありません。
したがってナビアプリはあてにならないことが多いです。
つまり、移動手段に詳しくないインバウンドでも、スマホのアプリのルート通り行動すれば個人での日本周遊が可能なことは、旅行の楽しみを増やす理由になり得るのです。
イタリア人も乗りたがるハローキティ新幹線

画像出典:https://www.jr-hellokittyshinkansen.jp/memory_album/
日本が世界に誇るキャラクター、ハローキティは筆者が住むイタリアでも大人気。
そこで、日本行きを計画する子連れインバウンドから注目されたのが、JR西日本のハローキティ新幹線(2026年5月17日運行終了)です。
子供向けのガイドブックを出版している会社のブログで、JR西日本が運行しているハローキティ新幹線についてのトピックが掲載されたり、イタリアで著名なトラベルインフルエンサーのインスタにキティ新幹線の写真がアップされたりと、単なる移動手段というだけでなくテーマパークのアトラクション同様に取り上げられているほどの人気ぶりでした。
イタリアのインバウンドにとって、日本の公共交通機関は楽しい体験としてとらえられていることがわかります。
2-3.公共設備の利用が簡単
イタリア人の知人が、幼稚園児を連れて家族で東京に旅行した話を聞いたとき、まず最初に「トイレがどこにでもあってとても清潔だった!」と興奮気味に語ってくれたことがあります。
このように、子連れインバウンドにとって、日本の公共設備の充実度は感動的な体験になりうるのかもしれません。
子供が小さいうちの旅行では、トイレや授乳スペースなどの頻繁に利用する設備の把握が欠かせません。
多機能トイレやベビーケアルームなど、施設の場所がピクトグラムで施設のあちこちに表示され、言葉が理解できなくてもどこにあるのかすぐわかります。
しかも無料で利用できる日本の公共設備は、子連れインバウンドにとって大きなポイントなのです。
2-4.質の高い食事がリーズナブルに味わえる
低価格で楽しめ、味のクオリティが高い食事の種類が充実しているのも、日本ならではと言えるでしょう。
牛丼やカレー専門店、回転寿司など日本ではファストフードにカテゴライズされることもある食事スポットも、子連れインバウンドにとってはリーズナブルに食事を食べられるレストランの一つ、としてとらえられています。
テーマパークに行って遊び疲れたときの夕食はコンビニの弁当で簡単に済ませたり、昼食は手頃で美味しい和食のファミリーレストランを訪れたりなど、状況に合わせた食事の選択肢が幅広いのも、子連れの旅行先として日本が選ばれる理由の一つです。
2-5.都市部では伝統的観光スポットと最新アニメコンテンツを両方楽しめる
世界遺産に代表されるような、歴史がありその国の文化を感じることができる観光スポットは、誰もが行きたがるもの。
しかし、子連れの場合は行き先を吟味しないと、現地で楽しめなくなってしまいます。
子供の年齢によっては、興味をもってもらえず時間を持て余してしまうことがあるからです。
ぐずる子供をかかえて観光を中断し宿泊先に戻るのは、親も子供も精神的負担が大きいでしょう。
その点から考えると、日本は子供と一緒に楽しめるスポットが非常に充実しているのが強みです。
代表的なものというと、サンリオ・ピューロランドやジブリパークなど日本にしかなく、海外でも高い評価を得ている、アニメやキャラクターのコンテンツスポットが挙げられます。
アニメの世界観が完璧に近いレベルで再現され、親子で時間を忘れて没入できる場所がこれほど多い国は、世界でも他に例がありません。
朝のうちに浅草寺を見学し、お昼前にジブリ美術館へ子供を連れて行ってランチと館内の見学を満喫する、というスケジュールを組むこともでき、大人も子供も満足できる観光を楽しめるのは、日本ならではと言えるでしょう。
3.子連れインバウンドから見えてくるおさえておきたいニーズ3つ

日本のサービスを利用するのに、言葉の壁や情報の不足からハードルの高さを感じる子連れのインバウンドは決して少なくありません。
彼らの不安を払拭し日本のサービスにさらなる好印象を得るには、今後何が必要なのでしょうか。
ここでは、イタリアで小さな子供の子育てをしている筆者自身が、日本への子連れインバウンドの目線で考察したニーズについて解説していきます。
3-1.ベビー用品のサービス
子供のために何をどこで買えるのか、を詳細に解説した日本旅行のYouTube動画が、海外ではたくさん発信されています。
ここからわかるのは、子供用のアイテムは親がすべて持ち運ぶのが基本なので、負担を軽くするために現地調達したい、と感じるインバウンドが多いことでしょう。
特に長期滞在が多い欧米からのインバウンドにとっては、切実な課題となり得ます。
ホテルや旅館などの宿泊施設でベビーカーのレンタルを行ったり、乳幼児向けにおむつやおしりふき、離乳食をセットしたベビーグッズのセットを子連れインバウンドの客室に置いたりなど、子供用アイテムのサービスは今後需要が高まるジャンルになりそうです。
短期滞在が多いアジア圏の子連れインバウンドにも、高いニーズがあるでしょう。
3-2.医療サービスへのアクセス
転んだはずみで骨折する、ホテルで原因不明の高熱を出すなど、子連れのインバウンドには医療サービスが必要な状況に直面することがあります。
そのような場合日本に知り合いがいなければ、ホテルのスタッフなどにまず相談する客がほとんどかもしれません。
ホテルに宿泊しているなら良いですが、近年利用者が多い民泊などに滞在している場合は誰かに相談することが難しくなりがちです。
子供の安全と治療、そして同時に親へ安心感を与えることは緊急時の重要な課題となります。
救急はどの国でも電話での対応が最も早い手段であるため、自国にいるときと同様に救急に電話したいと考えるインバウンドは少なくないでしょう。
そのため、119番同様にインバウンド向けの多言語対応電話救急サービスや、夜間対応や救急がある多言語対応の医療施設に直接連絡するためのアプリやポータルサイトなどには、今後ニーズが高まるでしょう。
一方で、救急を呼ぶほどではないものの体調がすぐれなかったり、ケガの止血のために救急キットが欲しかったりという場合に備え、多言語対応の薬剤師相談サービスアプリやポータルサイトの提供も今後検討する余地がありそうです。
インバウンド自身がドラッグストアで必要なものを購入したくても、日本語がわからないため目的のものが買えないケースもあり得るからです。
「アプリで薬剤師に相談し、アドバイスされた物品の写真や名前をダウンロードして店舗で直接画面を見せれば購入できる」というサービスなどは、子連れインバウンドに高い価値を見出してもらえるでしょう。
インバウンド自身がアクセスできる緊急時の仕組みづくりが、今後必要になることが予想されます。
3-3.子連れ向け席のファストパス
インバウンド利用者が近年急増しているのが、飲食店で導入されているファストパス制度です。
多言語対応のアプリから手軽にパスを購入し並ばずに入店できるため、時間が限られているインバウンド客の利用率は非常に高いと言われています。
一方、優先入場ができる権利だけを購入するのがファストパスなため、席予約のように座る場所を指定できるわけではありません。
子連れの場合、ベビーカーごと利用できる広めの席が必要だったり、子供の荷物を置きやすい座敷席を希望したりのニーズがあっても、ファストパスだけでは利用できず結局待つことになってしまうケースは起こり得るでしょう。
そのため、子連れ向けに利用できる席をファストパスつきで購入できる仕組みがあると、子連れインバウンドに刺さる可能性は高いです。
4.子連れインバウンドへの今後の課題

日本は、子連れインバウンドから旅行先としてのニーズが高い一方で、クリアすべき課題も抱えています。
ここでは、どのような課題があるのかを考えていきましょう。
4-1.LTVを重視した次世代インバウンドへのアプローチ
子連れインバウンドが日本を旅行先に選ぶ理由の大きな理由として、近年続く円安の影響が挙げられます。
今後、外貨市場の動向に関係なく日本へ彼らを呼び込むには、LTV(ライフタイムバリュー、一人の顧客が企業にどれくらい収益を払うかの指標)を重視したサービスの提供がさらに重要になるでしょう。
近年のインバウンド動向では特に、経済成長による世帯の可処分所得が増加した韓国、台湾、タイなど東・東南アジア各国からの観光客が、週末や連休などのショートステイ先として日本を選ぶことが増えています。
また、欧米でも同様に、日本への旅行人気が急上昇しています。
しかし、この状況は円安終了と同時にインバウンド数が急降下するリスクを常にはらんでいます。
国内での人口減少や物価の高騰など、国内需要の低下に伴いCPA(新規顧客獲得コスト)の上昇が止まらない中、注力が必要になりそうなのは子連れインバウンドへのアプローチ、と言えるでしょう。
中でも主力にすべきターゲットは、ミレニアル世代の子連れインバウンドです。
小さい頃からジャパニメーションを見て育ち、日本文化に一定の関心があり高い親近感を持っている人が多いと言われているこの世代は、子供を連れて日本へ行きたがる傾向があると言われているからです。
彼らは、爆買いなどに代表される現地での購買行動ではなく、地元の人々との交流や文化体験など、現地でしかできない経験を重視します。
陶芸体験や地方のお祭り参加など、モノよりも経験を通して高い好感度を持たせることができれば、ミレニアル世代の親とその子供両方に日本の楽しさや魅力が伝わるでしょう。
親子2代にわたり、一見の観光客ではなくリピーターとして日本へ来させることができれば、業界全体で安定したLTVが見込めることに間違いはなさそうです。
かつてない日本ブーム
筆者の住むイタリアでは、家族で行きたい海外旅行先のトップ10に必ずあがる、と言えるほど、日本は注目されています。
かつて、ピーク時は最低価格が2,000ユーロ以上だった航空券の値段を筆頭に、宿泊費や食事など高い旅費がネックとなり、多くのイタリア人家庭にとっては「行きにくいけれど憧れの国」が日本でした。
それが今では、円安の恩恵により「ぜひ行っておくべき旅行先」として日本が選ばれるようになっているのです。
国営放送の著名な旅行番組でも頻繁に日本が取り上げられていることから、イタリア人の日本に対する関心の高さが伺えます。

画像出典:https://www.rai.it/ufficiostampa/assets/template/us-articolo.html?ssiPath=/articoli/2026/05/Ulisse-il-piacere-della-scoperta-racconta-il-Giappone-ae76a85d-7f48-4671-9391-9f3cd8a7c7a9-ssi.html
国営放送Raiの『ULISSE』は人気旅番組として知られ、日本が頻繁に取り上げられている
その背景にあるのは、現在も続くイタリアの物価高騰かもしれません。
例えば、レストランへ行き家族で夕食を食べるだけで、地方なら一人当たり35ユーロ(約6,453円、2026年5月現在)以上、都市部の場合45ユーロ(約8,349円)以上の費用がかかります。
一方、日本の回転寿司では、一人当たりの消費額が3,000円(約17ユーロ)前後で済むという調査結果があります。
SNSやインターネットなどでの情報から、日本では質が良くて安く利用できるサービスが多数あり、回転寿司もその一つであることは、イタリアでも有名です。
なお筆者の周りでも「スシをいやっていうほど食べに行く!」という理由で、バカンス先を日本にした人がいるほどです。
今後どのくらい円安が続くかは不透明ですが、この機会に日本を訪れる多くのインバウンドが「お金がかかってもやはり日本へ行きたい」と思うほどのリピーターに変貌できるでしょうか。
日本の観光業界がどのように今後の課題をクリアするか、にかかるウェイトが大きいことは想像に難くないでしょう。
4-2.親を解放する仕掛けづくり
旅行中、子供から目が離せないあまり親が疲れ切ってしまい、旅行が楽しめなくなることはあり得ます。
ストレスフルな日本旅行になってしまう場合嫌な記憶だけ残り、もう二度と行きたいと思わなくなることは、リピーター喪失につながってしまうでしょう。
一度離脱したあとのインバウンドを、再訪にこぎつけることは不可能です。
したがって、旅行中に親が息抜きできる仕掛けづくりも、治安が高い日本でしかできない新たなビジネスとして掘り起こせるジャンルと言えます。
日本にある一部のリゾートホテルでは、日本人客向けですがすでに託児サービスの対応をしていたり、東京都内で英語による子連れインバウンド向けの保育サービス例があったりなど、ビジネスとしての可能性は低くないことがわかります。
この仕掛け作りは特に、長時間のフライトで日本についた瞬間から疲れが溜まり始める欧米からのインバウンドが、主要なターゲット層として想定できます。
親が楽しめる時間帯なら、特に18時〜23時の夜の時間帯や、6時〜11時までの早朝を含む午前中の時間帯には高いニーズがありそうです。
多言語対応の未就学児・子供一時預かりの施設や子供限定のイベント参加などのサービスを利用できれば、治安への不安や子供の安全を確保しつつ親は居酒屋やショークラブ、名所めぐりを楽しむなど、子連れでは行きにくい観光スポットを楽しむことで息抜きができるでしょう。
ストレスフリーな旅こそ、子連れインバウンドへの日本独自のおもてなしであることが伝われば、リピーターを獲得し継続した収益を上げるのもそう難しいことではありません。
多言語対応の人員確保という課題はありますが、インバウンド数の上昇傾向からみても子連れインバウンドに対する仕掛けづくりは、新しいビジネスとして十分なポテンシャルがあるでしょう。
子連れインバウンドがこれからの観光ビジネスに新たな可能性をもたらす
子連れインバウンドの動向は、観光ビジネスの将来を考える上で非常に大きなヒントになりそうです。
安心してアクセスできるスポットから家族一緒に食事を楽しめるレストランをはじめ、大人気のアニメコンテンツを思いっきり楽しめるエンタメ施設まで、全ての世代を楽しませるための観光資源が今の日本には揃っています。
この強みを最大限に活かし、リピーターと次世代の新規顧客として有望なリソースを確保する意味でも、子連れファミリー向けのアプローチは、これからの観光ビジネスで重要な要素になるでしょう。
家族で共有する素敵な旅を仕掛ける場所として、日本のインバウンドビジネスにはまだ大きな可能性がありそうです。











