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2023.09.08

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日本のフードロスの現状とは?課題と施策や今後の展開について解説

コンビニエンスストアや24時間営業のスーパーなど、日本ではいつでも、どこでも食料を手に入れられる環境が整っています。
豊富な食料を時間を問わず手に入れられることで発生する問題が、フードロス(食品ロス)です。
フードロスを解決するためには、「廃棄されてしまう食品の隠れた需要を掘り起こし、需要と供給をマッチさせる」ことが重要になってきます。

この記事では、日本におけるフードロスの現状と原因について解説。
フードロスビジネスの事例についても見ていきます。
日本におけるフードロスの状況について理解を深め、ビジネスのヒントにしてみてはいかがでしょうか。

1.フードロス(食品ロス)とは

フードロス(食品ロス)の定義について解説します。
フードロスと似ている言葉は、「食品廃棄」です。
それぞれ食品を捨てることでは共通していますが、意味は異なります。
違いについて見ていきましょう。

1-1.フードロスは本来食べられるものを捨ててしまうこと

フードロスとは、本来食べられるものを捨ててしまうことです。
フードロスは主に「事業系フードロス」「家庭系フードロス」の2種類に分かれます。

事業系フードロスとは、事業活動の過程で生まれるフードロスのことです。
外食産業だけでなく、食品製造、卸、小売で発生するフードロスも事業系フードロスに含まれます。

家庭系フードロスは、家庭で発生するフードロスのことです。
「食べ残し」のほか、食べられる部分が過剰に捨てられるなどの「直接廃棄」、
未開封にも関わらず賞味期限が切れているために廃棄される「過剰廃棄」によって、家庭でもフードロスが発生してしまいます。

参考:食品ロスとは:農林水産省

1-2.フードロスと食品廃棄は意味が異なる

フードロスが「本来食べられるものを捨てる」ことを指す一方、食品廃棄は「食べられないものを捨てる」ことを意味します。

例えば、果物の種や鶏肉の骨、卵の殻、茶殻などは、一般的には食べられないでしょう。
食品廃棄物についてはフードロスと同じく課題に挙がりがちですが、削減に向けて食品廃棄物をリサイクルする動きも見られます。

「おーいお茶」などの清涼飲料水メーカー「株式会社伊藤園」では、食品廃棄物である茶殻をリサイクルする「茶殻リサイクルシステム」を構築。
「茶殻抗菌シール」など、茶殻の抗菌・消臭効果を生かした製品を作っています。


画像出典:株式会社伊藤園公式HP

2.日本と世界ではフードロスの考え方が違う

日本と海外でのフードロスの考え方には、食品の流通(生産・加工・流通・販売・消費)においてどこまでを範囲とするか、に違いがあります。

日本におけるフードロスは、流通の全ての範囲で発生するフードロスを指します。
一方で、海外でのフードロス(Food Loss)は生産・加工・流通までの、消費者が目にする前の段階で発生する食品の廃棄に限定されるのです。
海外では、販売・消費の段階で発生する食品の廃棄は、「Food Waste」と呼ばれます。

3.フードロスが引き起こす2つの問題

フードロスは主に2つの問題を抱えています。

まずは、環境問題です。多くの食料が廃棄されることで、可燃ごみが大量に発生してしまいます。
焼却されるごみが増えることで、地球温暖化の原因の一つであるCO2が排出されることになるのです。

ごみの処理は焼却だけでなく、埋め立て処理という方法もあります。
しかし、埋め立て処理をするとメタンガスというガスが発生します。
メダンガスは二酸化炭素と比較して約25倍の温室効果があると言われており、大量の食品ごみは焼却処理でも埋め立て処理でも問題となるのです。

また、食品ごみは紙ごみよりも多量の水分を含んでいます。
紙ごみを焼却するよりも多量の石炭や石油などのエネルギーを必要とします。

フードロスのもう1つの問題は、食料供給の格差という社会問題です。
農林水産省によると、世界には9人に1人が栄養不足の状態にあるということです。
世界で食料不足が発生しているのにも関わらず、日本は多くの食料を輸入しています。
同省によると、日本の食料自給率は38%。6割ほどの食料を輸入に頼っています。
栄養不足の状態にある途上国の人々に届くことなく、日本では多くの食料が廃棄されているのです。

「持続可能な社会を作る」というのは、日本のみならず世界中で共有している目標です。
しかし、以上の2つの問題は、持続可能な社会作りと逆行するものです。
以上のことから、フードロスは日本や世界で解決が急がれる課題だといえるのです。

参考:食品ロスの現状を知る:農林水産省

4.日本と世界のフードロス解決施策


ここからは、日本と世界のフードロスの現状について見ていきましょう。
どれだけの量のフードロスが出て、どのような対策がなされているのでしょうか。

4-1.日本のフードロスは年間523万トン

農林水産省によると、2021年のフードロスの量は、年間523万トンだということです。
日本人1人あたりに換算すると、1年で約42キロ。これは、日本人1人あたりが毎日茶碗一杯分のご飯を捨てている、ということになるそうです。

さらに細かく見ていくと、家庭系フードロスは244万トン、事業系フードロスは279万トンです。
事業系フードロスのうち最も多くフードロスが発生しているのは食品製造業の125万トンで、
外食産業(80万トン)、食品小売業(62万トン)、食品卸売業(13万トン)と続きます。

フードロスを減らそうと、日本ではさまざまな法整備が進められています。
2012年4月にはフードロスの発生抑制を目指す食品リサイクル法によって、フードロス発生抑制の目標値が定められました。
食品製造業や食品卸業など、業種ごとでの目標値が設定されています。

また、2019年10月に「食品ロスの削減の推進に関する法律」が施行されました。
2020年3月には同法に基づくフードロス削減推進のための基本方針が定められました。
フードロス抑制に対する意識を高めた結果、フードロスについて推計を始めた2012年の642万トンと比較し、
現在ではフードロスを100万トン以上減らせています。

参考:
食品ロスとは:農林水産省
食品ロス量の推移(平成24~令和2年度)

4-2.世界で生産されている約40%の食料が廃棄されている

世界自然保護基金(WWF)とイギリスの大手小売りチェーン「テスコ」によると、
世界で栽培、生産された食料のうち、約40%の25億トンが年間で廃棄されているとのことです。
内訳を見てみると、農場での廃棄が約半数を占め(12億トン)、小売・消費(9億トン)、貯蔵・加工・製造・流通(4億トン)と続きます。

世界中の人々が十分に食べられる量の食料を生産していながら、
飢餓状態にある人が発生している現状を受け、世界各国でフードロス削減に向けた取り組みが進んでいます。
アメリカでは環境保護庁(EPA)と農務省(USDA)が共同で「2030年までにフードロス・食品廃棄を半分にする」という目標を打ち出しました。
目標に賛同した企業がフードロス削減プログラムに削減しているほか、
幼稚園~高校の給食で生徒が苦手な食べ物をほかの生徒にシェアできる「シェアテーブル」という取り組みが始まっています。

また、フードロスについて罰金を設けている国もあります。
フランスでは2016年に「食品廃棄禁止法」を制定。
店舗面積400平方メートル以上のスーパーについて、売れ残りの食品を捨てることを禁じました。
違反した場合は、廃棄量に応じて罰金が科されます。

5.フードロス削減のために解決すべき課題

フードロスを解決するために課題となっている事情は、日本と世界で異なります。
日本のフードロスを解決するにあたって課題の一つとなっているのは、独自の商習慣である「3分の1ルール」です。
また、世界に目を向けてみると、先進国と途上国それぞれで事情は異なります。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

5-1.日本のフードロス解決の障壁になっている「3分の1ルール」

日本のフードロス解決の障壁となっているのが、「3分の1ルール」です。
3分の1ルールとは、食品の製造から賞味期限までの期間を食品メーカー、小売店、消費者の3者が
均等に分け合うという考えから生まれた日本独自のルールです。

出典:消費者庁 食品ロス削減に向けた取り組み

このルールが適用されることで、賞味期限の3分の1が過ぎてしまうと食品メーカーは
商品をスーパーやコンビニなどの小売店に卸すことができなくなってしまいます。
また、小売店も賞味期限が残りの3分の1を経過してしまうと、商品棚から商品を撤去してしまう場合がほとんどです。

賞味期限は「食品をおいしく食べられる期間」であり、期限が切れてしまっても食べられないというわけではありません。
しかし、3分の1ルールがあることで、食べられる食品が製造から早い段階で捨てられてしまうのです。

5-2.先進国と途上国ではフードロス解決の課題が違う

世界中で発生しているフードロスですが、先進国と途上国ではフードロスを解決するための課題が異なります。

先進国でフードロスを解決するにあたって課題となっているのは、商品の外観品質基準の高さです。
外観品質基準とは、商品の色や形といった見た目の規格を指します。
品質に問題がなかったとしても、商品の見た目が規格を満たしていなかった場合、廃棄されてしまうのです。
加工品ではない農産物でも、見た目が悪いと消費者に手に取ってもらいにくくなるため、廃棄されてしまうことがあります。

途上国について見てみると、交通インフラの未整備による流通の未発達が課題として挙げられます。
遠くの地域まで食品を運べない、多くの食品を一度に運べないという理由で、
豊富な食品を作れたとしても余って廃棄してしまう場合があります。
また、電気が通っていない地域は、食品の保存や加工が難しいでしょう。
農産物を収穫できたとしても市場で売れ残ってしまった場合は、そのまま廃棄するしかありません。

6.今後の日本のフードロスを解決するポイント

食品の多くを輸入に頼っていることや、独特の商習慣によって発生している日本のフードロス。
解決するためにはどのような観点が必要になってくるのでしょうか。ここでは、日本のフードロスを解決するポイントについて見ていきます。

6-1.フードロス解決で求められる「サプライチェーン」「日常備蓄」

日本のフードロスを解決するにあたっては「サプライチェーン」「日常備蓄」が課題となってきます。

先述の通り、食品の製造から販売までのサプライチェーンでは、どうしても食品が廃棄されてしまいます。
3分の1ルールや見た目の悪さで食品を捨てるほかにも、
売れ残りが発生してしまうことで多くの食べられる食品を捨てている現状があるのです。
売れ残りを防止するため、売上を予測するシステムを導入している店舗もあります。
システムは日々進化していますが、予測と需要を完全に一致させることは難しいでしょう。

サプライチェーンは事業系フードロスの問題とされますが、家庭で発生する家庭系フードロスも大きな課題です。
日本では、食品を日常的に蓄えておく「日常備蓄」が推奨されています。
地震や台風など、日本は他国と比較しても災害が頻発している国で、食料が手に入りにくい環境になりやすいためです。
農林水産省は、最低でも「3日~1週間×人数分」の食料を備蓄するよう推奨しています。
災害に備えることは重要ですが、一定レベルの備蓄食品の適切な管理が各家庭に求められるでしょう。

6-2.フードロス解決のため行政と民間それぞれで取り組む必要がある

日本のフードロスを解決するため、行政と民間がそれぞれで解決策に取り組む必要があります。

国や地方行政に求められるのは、フードロスの量を適切にコントロールすることでしょう。
前述の食品リサイクル法によるフードロス発生抑制の目標値について、企業が達成できているか管理する必要があります。
また、フードロスの問題に関する市民への啓蒙活動も有効な手段となりえます。
東京都は2017年、賞味期限切れ間近の防災備蓄品のクラッカー約10万食を、都内のイベント会場などで配布しました。
防災意識の向上や、フードロスについて考えてもらうための取り組みとのことです。

行政だけでなく、民間の個人レベルでもフードロス解決に向けて行動できます。
「食べられる分だけ購入する」「外食の際は食べきれない量をオーダーしない」
「飲食店が認めている場合は、食べきれない分は持ち帰りする」など、
普段からフードロス削減に向けた行動を意識すると良いでしょう。

6-3.ビジネスの力でフードロスを解決する「フードロスビジネス」

行政や個人だけでなく、企業もフードロス解決に向けた行動を取れます。
フードロス削減につながるビジネスは「フードロスビジネス」と呼ばれ、取り組みを進める企業が増えています。

フードロスビジネスは食品メーカーや飲食店以外の業種でも展開できます。
例えば、食品廃棄物を何かに生かしたり、廃棄されそうな食品をECサイトなどで販売したりという手法は、
食品に関する業種以外の企業でも展開できるでしょう。
フードロスビジネスは、新しいビジネスを生み出したり、
食品に関する業種以外が飲食業界に参入したりできるチャンスを秘めているのです。

7.日本のフードロスビジネスの事例

新しいビジネスチャンスを生み出す可能性を秘めているフードロスビジネスについて、事例を3つご紹介します。

7-1.フードロスになりそうな食べ物とユーザーをつなぐ「TABETE」


画像出展:TABETE公式ページ

「TABETE」は、フードロスになりそうな食品とユーザーをつなぐアプリです。
フードシェアリング事業を展開している株式会社コークッキングが運営しています。

TABETEのアプリでは、スマートフォンの現在位置情報に基づいた飲食店の情報が表示されます。
表示されている飲食店は、もうすぐ廃棄されそうな食品を扱っているお店です。
正規の販売価格から割引された価格で、廃棄されそうな食品が表示されています。
アプリのユーザーは食品を購入し、お店まで取りに行くという仕組みです。

同社によると、現在2500店舗以上がTABETEを導入しているとのことです。
店舗からすると廃棄間近の食品が売れることで原価回収に結びつき、ユーザーはお手ごろな値段で食品を購入できます。
2022年に行われた「クリスマスレスキュー大作戦」という取り組みでは、
クリスマス後に発生したケーキなどの食品ロス約1300食、約650キロを削減できたそうです。

参考:
TABETE

7-2.フードロスを削減するスーパー「ecoeat」


画像出典:NPO法人「日本もったいない食品センター」公式ページ

NPO法人「日本もったいない食品センター」が運営するスーパー「ecoeat」は、
買取または無償で引き取った廃棄予定の飲料・食品について販売しています。
賞味期限が切れているものもありますが、販売している食品は全て安全に食べられるものです。
「賞味期限全般に関する理解」を深めてもらうために店舗を運営しているといいます。

現在、関西や関東を中心に複数店舗が出店されているecoeat。
売り上げは食品ロス削減に関する活動費や、生活困窮者への寄贈にかかる費用に用いられています。

参考:
食品ロス削減ショップ ecoeat(エコイート)- NPO法人日本もったいない食品センター

7-3.余った食品原料の売買プラットフォームを提供している「シェアシマ」


画像出典:シェアシマ公式ページ

原料検索サービスのシェアシマは、余った食品原料を原料メーカー、食品メーカー間で売買するサービスを展開しています。
シェアシマで原料を販売したい企業は余剰在庫や可食部端材について相談し、シェアシマと売買契約を結ぶことで商品を掲載できます。

販売されているのはカットされているカボチャや乾燥わかめなどさまざまです。
2022年12月現在で会員は2600人、商品数は500件となっています。

参考:
シェアシマ

まとめ.日本のフードロス(食品ロス)の課題はビジネスの力で解決できる

日本では数百万トンのフードロスが毎年発生しています。
フードロスを解決するためには個人や行政だけでなく、ビジネスの力が欠かせません。
フードロスは行政や個人だけでなく、ビジネスの力でも解決できます。
今回ご紹介したフードロスビジネスは、廃棄食品に価値を見出し、需要に応えたものだと言えるでしょう。

フードロスの定義や、フードロス解決に当たっての課題は日本と世界で違います。
しかし、フードロスを起因とする環境問題や社会問題は、
日本であっても世界であっても解決しなければならないことに変わりはありません。

ビジネスの現場にいる私たちも、フードロス解決に動いていくべきでしょう。

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