さまざまな社会課題や環境問題の解決が叫ばれる中で、スマートシティへの注目度が高まっています。
人々の生活に多くの恩恵を与えてくれるスマートシティ。
取り組みを進めるためには注意しなければならないこともありますが、多くのメリットがあります。
ここでは、スマートシティの概要について解説。
国内外の事例もみながら、スマートシティに秘められた可能性や懸念点などもご紹介していきます。
スマートシティをより深く理解し、ビジネスアイデアのヒントとしてみてはいかがでしょうか。
1.スマートシティとは
そもそもスマートシティとは何でしょうか。
ここでは言葉の意味と、ニーズが高まった背景について解説します。
1-1.新技術を活用した都市「スマートシティ」
国土交通省によると、スマートシティとは「都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、
マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」です。
つまり、人々がより暮らしやすくなるために、ICTやIoTなどの新しい技術を活用して作られる都市のことを、スマートシティと呼びます。
スマートシティ実現のために使われる技術としては、通信技術や自動化技術、データ収集・活用技術、センシング技術などが挙げられます。
センシング技術とは、センサーを使ってその場にある環境を測定、数値化する技術のことです。
センシング技術などを活用して住人や気候といったデータを収集し、そのデータを通信技術で送受信し、
これまで人が担っていた分野の自動化を目指していくことがスマートシティの大まかな形となっています。
1-2.社会問題解決のニーズが高まったため注目されることに
スマートシティが注目されることになった背景としては、人口減やエネルギー消費などの社会問題、
気候変動などの環境問題が浮き彫りとなり、危機や変化に対応していく必要が出てきたことが挙げられます。
従来の都市づくりは道路の敷設や建築物の建立、ライフラインの設置などハードの部分の整備が中心となってきました。
そのため、時代を経ても都市の大きな構造は変わりません。
ハードが整ってくることで人々の生活は安定してきましたが、変化の早さに対応することが難しくなってきました。
経済や生活を脅かす非常事態に素早く対応していくため、新技術を活用したスマートシティを進めていき、
柔軟に変化に対応できる都市づくりを進めていかなければならないのです。
2.スマートシティの種類とフェーズ
スマートシティには2つの種類とフェーズがあります。
それぞれについて見ていきましょう。
2-1.スマートシティの2つの種類
スマートシティには「ブラウンフィールド型」「グリーンフィールド型」の2種類があります。
・ブラウンフィールド型
ブラウンフィールド型は、既存の街をスマートシティ化することを指しています。
スマートシティ化される都市を上空から俯瞰で見た場合、街の様子が褐色に見えることが名前の由来です。
2010年ごろから始まったスマートシティの取り組みで、現在のスマートシティ化の主流となっています。
既存都市の諸課題を解決するために進められる取り組みです。
・グリーンフィールド型
グリーンフィールドの方は新たに一からスマートシティを作っていくことを意味しています。
名前の由来は、未開拓地に広がる緑から来ています。
ブラウンフィールド型と異なり、まだ住人がいない地をスマートシティ化していくことになるため、
住人の同意が必要ないという点がグリーンフィールド型の大きな特徴といえるでしょう。
ドバイなどの新興国でみられるスマートシティの取り組みです。
2-2.スマートシティの2つのフェーズ
スマートシティには「スマートシティ1.0」「スマートシティ2.0」という2つのフェーズがあります。
スマートシティ1.0は、どの新技術を導入するか事業者側が考え、
事業者が主導となってスマートシティを進めていくことを指しています。
一方、スマートシティ2.0は都市に住む市民の幸福を実現するために、
市民の目線を取り入れた市民ファーストでスマートシティを進めていくことを意味しています。
現在のスマートシティは1.0を経て、2.0へ移行しつつあるのです。
スマートシティ1.0から2.0への移行について、
三井不動産が主導で2014年に実行された千葉県柏の葉のスマートシティ化が例えとして挙げられます。
約1万人の住人が新しく移り住む柏の葉では、当初は事業者主導でスマートシティ化が進められました。
そのため、地域住民の視点が置き去りにされたままスマートシティ化が進み、
住人の視点を生かした街づくりができていなかったといいます。
当初はスマートシティ1.0の形で進められていた柏の葉のスマートシティ化ですが、スマートシティ2.0に舵を切る必要が出てきました。
そこで、2020年に始められた取り組みが「みんなのまちづくりスタジオ」です。
定期的に地域住民が集まって、街の課題について議論する場を設けました。
事業者側はあくまで進行に徹したとのことです。
議論は7カ月にもおよび、今後の街づくりの方向性が定められていきました。
3.スマートシティの3つのメリット
スマートシティによって人々はさまざまなメリットを得られます。
ここでは、3つのメリットをご紹介します。
3-1.持続可能な社会を実現できる
スマートシティが実現することで、持続可能な社会の実現につながります。
例えば、エネルギーの効率化もスマートシティの一つの形です。
スマートシティの各家庭に太陽光パネルを設置することで、それぞれの家庭でエネルギーを自給自足することができるかもしれません。
また、AIを活用してエネルギーの使用状況を分析することで、エネルギーを効率的に使用できます。
各家庭で余ったエネルギーを別の家庭に共有できるシステムを構築すれば、
都市全体でエネルギーを自給自足することも可能となるでしょう。
スマートシティは社会問題を解決する可能性を秘めているのです。
3-2.新たなビジネスチャンスが生まれる
スマートシティでは新しい技術が活用されます。新技術を活用する場があることでさらに技術が発展していく可能性もあります。
結果的に、スマートシティは新たなビジネスチャンスのきっかけを作ることができるのです。
また、一般的にスマートシティ化は官民連携で進められます。
民間の力だけではうまくいかない新ビジネスも、自治体の協力によってスムーズに進むこともあるでしょう。
スマートシティは都心部だけでなく、地方でも開発可能なため、地方の企業にもビジネスチャンスが生まれるのです。
3-3.人々の生活の質を向上させる
新技術を活用したスマートシティは、地域住民や官公庁とうまく連携できれば、人々の生活の質を向上させます。
新技術の活用例は以下の通りです。
【防犯カメラやAI】
・防犯体制の強化
・高齢者の見守り
【ドローン】
・ドローンを活用した宅配サービスの展開で物流業界の人手不足や交通渋滞を解消できる
【センサー】
・センサーによる河川の状況の検知で、適切な防災対策を取ることができる
このように、災害や高齢化など人々が長年向き合ってきた課題を解決する力が、スマートシティに秘められています。
4.スマートシティの3つの懸念点
メリットがある一方、スマートシティには懸念点もあります。
ここでは、懸念される3つのポイントについて見ていきましょう。
4-1.プライバシーが侵害される恐れがある
スマートシティでは防犯カメラが活用されることになりますが、
カメラから必要以上の情報を集めることで人々のプライバシーを侵害する恐れがあります。
犯罪者を監視するという観点で効果的な防犯カメラですが、
一般の人々の移動状況や日常生活のデータ収集に結びつく場合もあるでしょう。
また、さまざまなデータを収集することが前提のスマートシティでは、個人情報に関わるデータの取り扱いについても注意が必要です。
適切な個人情報の管理体制を整えていない場合、悪意ある第三者に市民のデータが渡ってしまう恐れもあります。
4-2.ネットワークトラブルによって都市機能が停止するリスクがある
スマートシティは広いネットワーク網とさまざまな機器によって成り立つものです。
そのため、ネットワーク障害や機器のトラブルなどがあった場合は、一気に都市機能が停止する恐れもあります。
大都市であればあるほど復旧にも時間を要し、住人の生活基盤が揺らいでしまう場合もあるでしょう。
スマートシティを実現する上ではトラブルが起こることを想定し、
必要最低限の生活が送れるよう対策を強固にしておかなければなりません。
4-3.収益化に時間がかる
スマートシティは大きなビジネスチャンスを秘めている一方、新技術への莫大な投資が必要となってきます。
インフラの維持にもコストがかかるため、収益化させるための仕組みを構築しておく必要があります。
また、スマートシティ化を進めるうえでは、変化を懸念する住人の同意を得ていく必要があります。
先述の通り個人情報や都市機能停止のリスクについて丁寧に説明したうえで住人が納得し、
住人も参加した上で都市づくりを進めていく必要があるのです。
もしスマートシティに住む住人に負担を求める提案をする場合、同意を得ることが難しいケースもあるでしょう。
以上のことからも、スマートシティは収益化までに時間がかかる可能性があるのです。
5.スマートシティの国内事例4選
スマートシティの4つの国内事例をご紹介します。
5-1.健康増進をテーマにスマートシティ化を進める【北海道札幌市】
画像出典:さっぽろ圏ポイントアプリ
北海道札幌市は健康寿命の延伸を目指しスマートシティ化を進めています。
なかでも代表的な取り組みが「健康ポイント事業」です。
独自のスマートフォンアプリ「さっぽろ圏ポイントアプリ」を展開しており、市民の街歩きを促しています。
アプリの仕組みは、街を歩いたり動画を視聴したりすることで、ポイントが当たる抽選会に参加できるというもの。
たまったポイントは電子マネーのポイントと交換できます。
アプリをインストールした市民が街歩きをすることで、札幌市は市民の移動データを集めることができます。
札幌市は、集めたデータを街づくりや新しい市民サービスの開発に生かしていくとしています。
5-2.都市インフラ課題解決を目指す【埼玉県さいたま市】
埼玉県さいたま市が進めているのは、駅を中心としたスマートシティ構想
「スマート・ターミナル・シティさいたま実行計画(さいたま市スマートシティ推進コンソーシアム)」です。
事業にはNTTドコモやヤフー、ソフトバンクなど多くの企業が関わっています。
事業計画期間は2020~2024年度です。
さいたま市はスマートシティ化によって、以下の4つの課題を解決したいとしています。
・慢性的な渋滞といった都市インフラ
・災害時のエネルギーの安全確保といった環境・エネルギー
・地域経済の活性化といった経済
・健康寿命の延伸といった健康
特に、車依存型生活からの脱却を目指し、シェア型マルチモビリティを導入したり、
AIがリアルタイムで最適な配車を行うオンデマンド交通サービスを取り入れています。
5-3.地域活性化のため産官学で取り組む【福島県会津若松市】
画像出典:スマートシティAiCT
福島県の会津若松市は地域活性化の手段として、街をあげてスマートシティ化に取り組んでいます。
スマートシティ化を目指す地元企業80社による「一般社団法人 AiCTコンソーシアム」と市、
会津大学が連携しながら、インフラの課題解決、市民への情報提供プラットフォームの運営などを推進しているのです。
同市をはじめとした地方の課題として、人口の流出が挙げられるでしょう。
同市はスマートシティ化によってデジタルサービスを地域に根付かせ、
生活の利便性を高めながら雇用を創出することで住み続けられる街にしたいとしています。
首都圏のIT企業が入居するICTオフィス「スマートシティAiCT」を立ち上げるほか、
センサーや水田の水管理システム、ドローンなどを活用した農業「スマートアグリ」を推進するなど、
地域の資源を生かしながらスマートシティ化を進めています。
5-4.超高齢化社会でも住みやすい都市作りを目指す【トヨタ自動車】
画像出典:Toyota Woven City
トヨタはスマートシティ実現のための実証都市「Woven City(ウーブンシティ)」の構想を2020年に発表し、取り組みを進めています。
活用するのは、静岡県裾野市の工場跡地の約70.8万㎡の土地です。
構想では、約2,000人が暮らすスマートシティになるとされています。
完全自動運転が実現できる専用道路を敷設するほか、
水素エネルギーの利活用を進めていく方針です。2025年には居住が始まる予定です。
6.スマートシティの海外事例3選
ここからは、スマートシティの海外事例について3つご紹介します。
6-1.国を挙げてスマートシティ実現を目指している【シンガポール】
シンガポールは2014年に「Smart Nation(スマートネーション)」構想を発表し、国を上げてスマートシティ化を進めています。
スマートネーションの重点分野として挙げているのは
「都市生活(Urban Living)」「交通(Transport)」「健康(Health)」
「電子政府(Digital Government Services)」「企業・ビジネス支援(Startups And Businesses)」です。
5つの重点分野を達成するため、シンガポールは行政サービスのデジタル化を進めています。
その一例が、子育て世代をサポートするためのサービス「Moments of Life」です。
Moments of Lifeでは、モバイルデバイスで出生記録を提出できます。
出生記録を提出することで、子どもが誕生したことによって発生するボーナスを受け取れるのです。
サービスが普及する以前は、これらの手続きは役所に行かなければ進められませんでしたが、
インターネット上で完結できるようにしたのです。
また、2018年には「LifeSG」というアプリをリリース。
アプリには70以上の行政サービスが集約されており、
アプリ内で世帯収入や家族規模を入力することでその世帯が受けられる行政サービスがわかる、などの機能を備えています。
6-2.ワールド・スマートシティ・アワードを受賞した【デンマーク・コペンハーゲン】
EUをはじめとした欧米諸国はスマートシティへの取り組みが進んでおり、
なかでもデンマーク・コペンハーゲンは2014年に「ワールド・スマートシティ・アワード」を受賞しています。
コペンハーゲンのスマートシティ化の特徴は、持続可能性や人々の幸福実現を目的として進められている点にあります。
ドローンが飛び交うなど、目に見えるような形でスマートシティが進んでいるわけではありませんが、
都市のデジタル化により市民生活の利便性が向上しています。
例えば、シンガポールの事例と同様、転居や婚姻届けといった行政的な手続きはインターネット上で完結できます。
また、街中にダストシュートが設けられており、ダストシュートに捨てられたゴミは空気圧により郊外にある集積所に運ばれます。
ゴミ収集車が街中を走る必要もなくなり、交通渋滞の緩和に結び付いているのです。
6-3.環境問題解決型のスマートシティを目指す【アメリカ・シカゴ】
IoTを活用したスマートシティの取り組みを、アメリカで初めて実施したのがシカゴです。
シカゴのスマートシティ化の特徴は、環境問題解決型の取り組みを展開していること。
オゾンなどを収集する「大気センサ群」のほか「光・赤外線センサ群」といったセンサーを街中に設置しています。
センサーによって集められたデータはオープンデータとして企業や市民に公開されており、
新しいビジネスへ活用されることが期待されています。
また、街にはエネルギー効率の高いLEDを使用したスマート電灯が27万基設置されており、
センサーなどを活用して明るさを調整するため、適切な量の電力を使用できます。
リアルタイムで駐車場の空き状況を知らせてくれるアプリもリリースされており、
最安値の駐車場を案内してくれるため、大気汚染や交通渋滞を防ぐことにつながっているのです。
2017年、Googleの親会社であるアルファベット社の傘下「Sidewalk Labs」は
デトロイト市と提携して、スマートシティ「IDEA」の構想を発表しました。
歩行者用の道路が時間帯によって自動走行車のために切り替わる、発熱機能のある歩道など、
Googleの技術を活用した未来都市の姿に、多くの人々が注目したのです。
しかし、2020年に同社は開発への参画を中止することを発表。
表向きの理由としてはコロナ禍によって進行が難しくなったことが上げられていますが、
本当の理由はデータ収集や管理の方法について市民から懸念の声が挙がったとされています。
自治体や企業の力だけではスマートシティは実現しないということを物語っている事例だといえるでしょう。
まとめ:スマートシティ実現のためにはビジョンと懸念点の解消が欠かせない
事例でも見てきたように、スマートシティを実現するためには「どんな課題を解決したいのか」というビジョンを描く必要があります。
また、住民の納得のためにもメリットを示すだけでなく、スマートシティによって発生しうる懸念点にどう向き合っていくのか、
示していく必要があるでしょう。
高齢化や環境問題など、人々が抱えるさまざまな課題を解決しうるスマートシティ。
新しいビジネスを生むヒントが詰まっています。今後の動向が注目されるでしょう。
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