ビジネス基礎知識

2025.07.23

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スタートアップの資金調達トップ企業10社から見るトレンドと展望

国内におけるスタートアップ企業の資金調達の動向を知ることは、これからのビジネスの展望を考える大きなヒントになります。
世界的にみてスタートアップの数が少ないと言われてきた日本ですが、近年政府も本腰を入れてスタートアップ支援に乗り出しています。
2022年には日本政府がスタートアップ育成5ヵ年計画を策定し、2027年にはスタートアップへの投資額を10兆円規模にすることを目標とするなど、その勢いは今後ますます増していくことが期待されます。
そこで今回は、2025年4月のスタートアップ資金調達企業トップ10社を見ながら、その傾向やトレンドを探ってみましょう。
 

1.スタートアップ資金調達の現状


 
経済情報プラットフォームとして、スタートアップ企業の情報やレポートを発信している「スピーダ」によれば、日本国内における2024年のスタートアップ調達資金総額は7,793億円。
 
2023年と比べるとほぼ横ばいとなっている一方で、AIソリューション開発を手掛けるSakana AIが創業の翌年に資金調達額300億円を突破し、評価額が2,000億円を超えることが話題になっています。
また、2025年に入ってからも、3月には製造業のAIデータプラットフォーム「CADDi」の開発や提供により製造業のDX化を進めるキャディが91億円を調達するなどAI関連スタートアップ企業の存在感が高まっています。
 

2.2025年4月度資金調達額がTOP10企業はAI関連が存在感

 
フォースタートアップス株式会社が『STARTUP DB』で発表している調査レポートによれば2025年4月の資金調達ランキングTOP10の企業と調達額は以下のようになっています。
 

画像出典:STARTUP DB
 
2025年4月の国内スタートアップ資金調達ランキング上位企業を見てみると、ファンプラットフォームをブロックチェーンで提供する「Gaudiy」や、機械学習やディープラーニングを実用化させるPreferred Networks、教育事業者向けのDXサービスを提供するManabieなど、トップ10中7社がAI技術などを活用した事業やDX普及サービスを展開する企業が占めています。
 
また、トップ10に入っている企業のなかには「シェア」をキーワードにした事業を展開するスタートアップ企業が2社ランクイン。
トップ10に入っていないものの上位20位に入っている企業をチェックしてみると、医療系スタートアップ企業の活躍も目覚ましいものがあります。
 
こうしたAI技術やDXといったテック系企業や医療系スタートアップ企業が資金調達に成功する傾向は2025年1月から続いており、今後もしばらくはその傾向が続くのではないかと予想されます。
 
具体的に各企業の事業内容や特色をさらに詳しく見てみましょう。
 

2-1.【1位】調達額トップはエンタメとテクノロジーの融合でグローバル展開を狙うGaudiy


画像出典:PR TIMES
 
NFTやDIDといったブロックチェーン技術により、エンタメ業界を革新するファンプラットフォームを運営しているGaudiy。
2025年4月には91.5億円の資金調達となっていましたが、翌月の5月8日には、ソニーグループやバンダイナムコホールディングスを引受先にした第三者割当増資を実施。
総額100億円の資金調達に成功したことを発表しています。
 
ソニーグループ、バンダイナムコホールディングスの資本参画は、3社の強みを生かした戦略的なパートナーシップ連携。
日本発の知的財産コンテンツを海外市場へと広げていく勢いには今後も注目が集まります。
 
また、バンダイナムコホールディングスとGaudiyの両社は、生成AIを活用したエンタメ体験の創出に向けた取り組みもスタートしており、今後の日本のコンテンツ産業を力強く牽引することが期待されます。
 
<調達金額>
91.5億円(2025年4月時点)
 
<資金調達の目的>
M&Aや海外拠点の拡充に加えて、技術者採用などを積極的に行う試金石に
 

2-2.【2位】最先端技術を開発するAI開発企業Preferred Networks

 
2024年末に、総額190億円の資金調達を実現した株式会社Preferred Networks。
東京大学発のスタートアップ企業です。
この資金調達ラウンドのエクステンションとして2025年4月に、さらに50億円の資金調達を金融機関や第三者割当増資により実現しました。
 
第三者割当増資引受先となった企業は、講談社やTBSイノベーション・パートナーズ3号投資事業組合、東映アニメーションなど出版・映像業界の存在感が目立ちます。
その背景には、コンテンツ制作現場におけるDX化の推進や、AI技術の活用などに期待が集まっていることが伺えます。
 
<調達金額>
50億円(2024年末から合わせると累積240億円)
 
<資金調達の目的>
人材採用強化に加えて、低消費電力で動くAIプロセッサーの開発や製造販売への投資拡大、さらに生成AI向けの推論プロセッサー開発の加速が目的。
 

2-3.【3位】太陽光発電の「シェアでんき」を提供するシェアリングエネルギー


画像出典:シェアリングエナジー プレスリリース
 
「シェア」は近年様々な業界で注目が集まるキーワードです。
3位にランクインしたシェアリングエネルギーは、太陽光発電をシェアというキーワードで普及させている立役者。
 
契約者の住居に太陽光発電を初期費用無料で設置。
家庭内で使う電気を契約者に安く提供しながら、余った電気はシェアリングエネルギーが売電して収益化する「シェアでんき」を提供しています。
太陽光を自己負担金なく搭載できて電気代が安くなるというメリットに共感したユーザーからの契約数も順調に増えていることから、今回の資金調達につながっています。
 
東芝テック株式会社や三菱UFJ信託銀行など金融機関をはじめとした企業から、総額40億円を調達した同社。
資金調達額は累計で209億円に到達し、エネルギー関連企業への注目の高さが伺えます。
 
<調達金額>
40億円
 
<資金調達の目的>
提供エリアの拡充や設備投資のために資金調達を実施
 

2-4.【4位】教育機関向けDXサービスのManabieも33億円の資金調達を実現


画像出典:Manabie コーポレートサイト
 
教育のデジタル化推進に向けて2019年に設立されたManabieは、教育系ベンチャーとしては今注目の企業です。
今回の資金調達では、政府系ファンドからの資金調達を実現しました。
日本のみならず東南アジアでの事業拡大や、生成AIを活用したサービス・プロダクトの開発に向けて大きく動いています。
 
国内では生成AIによる「AIチューター」サービスにより、教師不足に対応するサービスやシステム拡充に力を入れています。
また、東南アジアでは、デジタル技術を駆使した学習塾展開に力を入れていくと発表しています。
 
<調達金額>
33億円
 
<資金調達の目的>
日本でのプロダクト開発の強化や、東南アジアでの事業拡大に向けた展開での活用を発表する。
 

2-5.【5位】企業の脱酸素経営を加速させるクリーンエナジーコネクト

 
脱炭素ソリューションを手がけるクリーンエナジーコネクト。
2025年3月にはスギ薬局グループへの再エネ100%店舗の拡大に向けたオフサイトコーポレートPPAサービスの提供を発表するなど、企業の再エネ施策を推進する牽引力となっています。
 
2024年4月には、KDDI Green Partners Fundからの資金調達により、シリーズCセカンドクローズにおいて累計資金調達額が409億円に到達。
2025年4月の資金調達27.8億円に関する詳細は発表されていませんが、資金調達ラウンドとしてはレイター期に差し掛かっていることから、今後の動きに注目です。
 
<調達金額>
27.8億円
 
<資金調達の目的>
未公開
 

2-6.【6位】家具のサブスクを展開するCLASが設立7周年で25.3億円を調達


画像出典:株式会社クラス プレスリリース
 
家具や家電をサブスクで提供するシェアリングサービスを提供するCLASは、循環経済型ビジネスの先駆者的存在です。
個人向け家具レンタル・サブスクサービスのみならず、法人向けオフィス構築サービスや、家具付き賃貸サービスなど家具や家電をシェアするという視点からサービスの幅を広げています。
 
資金調達では、合同会社Spotlight、SBIインベストメントから出資により2.5億円の調達を実現。
さらに資産を担保にしたアセットファイナンスで4.6億円をリース会社から調達しました。
銀行・投資会社からのデットファイナンスの18.2億円を合わせて合計25.3億円の資金調達となっています。
 
自己資金をできるだけ使わずに、また株主を増やしすぎないようコントロールしながら資金を調達したハイブリッド・レバレッジは注目の手法。
 
営業利益の黒字化や、前年同期比と比べて売り上げ35%アップなど業績も好調なことから、資金調達がさらなる拡大の後押しとなることが期待されています。
同社は今後の展望として、サービス提供エリアの拡充や新サービスの提供などを予定していると発表しています。
 
<調達金額>
25.3億円
 
<資金調達の目的>
商品基盤の拡大に向けた家具調達やなどの加速
 

2-7.【7位】タクシー配車システムを提供する電脳交通は25億円の資金調達


画像出典:電脳交通 コーポレートサイト
 
インバウンド需要や地方の人口減少などを受けて、スムーズなタクシー配車へのニーズが高まっている昨今。
ニーズに対応するサービスで存在感を示しているスタートアップ企業が、電脳交通です。
 
タクシー業界のDX化を推進してきた同社は、2025年12月で創業10周年を迎えます。
クラウド型タクシー配車システムを全国で提供するほか、配車業務委託サービスとなる「タクシーCC」など、全国のタクシー業者の効率的な経営を支えています。
 
電話受付サービスでは、毎月20万件以上のタクシー予約受付も実現するなど実績は確か。
資金調達ではUberや三菱商事、タクシー会社各社、銀行などが出資しました。
今回の総額25億円の資金調達契約により、同社の累計資金調達額は約52億円となっています。
 
<調達金額>
25億円
 
<資金調達の目的>
既存事業の強化、M&Aの推進や新規事業開発など
 

2-8.【8位】ネットスーパー支援による経営改善を進める10Xが21億円の資金調達を実現


画像出典:10Xコーポレートサイト
 
10Xは、スーパーやドラッグストア向けネットスーパー立ち上げサービス「Stailer」を提供する会社です。
アプリによる商品の注文や管理・在庫チェックなどを簡単にできるようにするサービスにより、地方スーパーの経営改善にも貢献したことが大きな話題となっています。
 
今回の資金調達では、GMOや三菱UFJ、KDDIに加えて投資会社も資金を提供。
合計21億円の資金調達を実現しています。
 
少子高齢化により、地方ではスーパーマーケットなど小売店の人材難や経営難が課題です。
そんな地域の小売業を支えるサービスの拡充には期待が集まっています。
 
<調達金額>
21億円
 
<資金調達の目的>
既存サービスのStailerの拡充に加えて、スーパーが抱える人材不足などの課題をデジタル化で解決するサービス提供に向けた資金として活用予定
 

2-9.【9位】AI搭載医療機器開発のアイリスは資本業務提携で20億円を調達


画像出典:アイリス コーポレートサイト
 
AI搭載の感染症検査機器「nodoca®️」の開発・提供を行っているアイリス。
2025年4月に感染症迅速診断キットの開発から販売まで手がけるタウンズと資本業務提携を発表しました。
 
近年、同社のみならず医療ビジネスを展開するスタートアップ企業による資金調達が活発です。
今後もアイリスのようなAI技術と医療分野を繋げる事業には注目が集まっていくことでしょう。
 
<調達金額>
20億円
 
<資金調達の目的>
資本業務提携により、タウンズの検査技術や体制を活用した、データ拡充や開発など
 

2-10.【10位】AIでパーソナルコーチング!mentoは16億円を調達


画像出典:PT TIMES
 
AIを活用したスタートアップ企業として、コーチング分野で事業を拡大しているのがmentoです。
同社は企業の中間管理職向けのコーチングサービスを提供。
プロのコーチに加えてAIの力を掛け合わせた「マネジメントサクセスプラットフォーム」によりテクノロジーの力を最大限活用したサービス提供を目指しています。
 
今回は、株主であるWiLに加えて、三井住友海上キャピタルやAGキャピタルが引受先となった第三者割当増資、商工中金による融資で16億円の資金調達が実現しました。
 
<調達金額>
16億円
 
<資金調達の目的>
既存のコーチングサービスに加えて、中間管理職向け「マネジメントサクセス」のプラットフォーム開発や採用強化
 

3.資金調達における今後の展望と注目ポイント


 
スタートアップの資金調達ランキングで調達額上位にランクインした企業を見てみると、ディープテックやAI関連の企業の好調さが伺えます。
 
加えて、AI技術の活用やDX化推進に関する事業は、コーチングや教育、医療など様々な分野で活用が広がっています。
特定分野向けのAI(Vertical AI)は、今後も大きく伸びていくことが予想されます。
毎月、毎週というくらい目覚ましいスピードで新たなAI関連サービスが登場している今、いかにこの流れを活用して自身のビジネスに繋げていくかという視点が、時代に求められるビジネスを展開していく上で必要になるでしょう。
 
もう一つ、注目したいのが脱炭素や人材難、少子高齢化などの社会的な課題を解決するビジネスモデルです。
たとえば今回のランキングでも登場していた「mento」は、管理職につくことを敬遠されがちだと言われている中で、中間管理職を大きく支援するサービスです。

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加えて、資金調達ランキングにランクインしているアイリスのような医療分野は、日本に限らず世界でも求められる技術やサービスを提供していることから、海外への進出も期待できるスタートアップ事業分野です。
マーケットが限られている国内だけでなく、世界で勝負するビジネスの成長にも今後注目していきたいところではないでしょうか。
  

スタートアップの資金調達動向からビジネスのヒントを見つけよう!

 
スタートアップ資金調達ランキングからも伺える通り、ビジネスの現場ではAIやDXといった先端技術分野の存在感が一層高まっています。
教育・医療・エネルギーなど多様な業界でイノベーションが進んでいる昨今、イノベーションや技術開発はビジネスを発展させる上で欠かせない要素となっています。
 
だからこそ、今後のスタートアップ支援や事業構想においては、これまでできなかった課題をテクノロジーによって解決できないか?という視点が、ますます重要になってくるはずです。
変化のスピードが速い時代だからこそ、スタートアップ企業の資金調達動向をこまめにチェックし、自社の挑戦へのヒントとして活かしていきましょう。
 
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