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2020.07.10

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ロックダウンや緊急事態宣言で帰国の危機!非常時の帰国に関する基礎知識

海外出張先で非常事態が起こったとき、どういう場合に出国もしくは帰国できなくなるのでしょうか。
新型コロナウィルスの流行に伴い、海外では各国でロックダウン措置が講じられ、人の移動が大幅に制限されました。その他にも、戦争や紛争などの有事や、当事国間での国交断絶によって、出国および帰国が制限されることがあります。
帰国の危機に直面したとき、どう行動すれば良いのか困る方も多いことでしょう。この記事では、非常時の帰国に備えるための基本的知識をご紹介します。

1.日本でロックダウンが始まったときの帰国方法

有事が発生したとき、法令に基づく特別な権限や行動を発動させるために政府が発令するのが緊急事態宣言です。この発令に伴い、人の移動を制限して被害を最小限にするための手段がロックダウン(※)です。

ロックダウンの規模によっては、自宅や宿泊場所から動けない状況に移行することがあります。すぐに行動を起こさなければ、帰国はおろか命の危機に直面する可能性も。そのような場合に、何を優先して行うべきでしょうか。

法制度の違いにより、世界各国で行われたロックダウンと日本のロックダウンは少し様相が異なります。日本では、ロックダウンが行われたとしても、外出禁止はあくまでも「お願い/要請ベース」となり、違反した場合でも罪に問われることはありません。
本記事では、世界各国で行われた「政府や国による、法的拘束力を行使した都市・国の封鎖」をロックダウンと定義して説明します。

参考:
特選街web「【更新:緊急事態宣言とは】実際どうなる?ロックダウンの意味や違いを解説」
https://tokusengai.com/_ct/17351902

1-1.まずは航空券を確保する

政府の緊急事態宣言発表後、航空各社の対応が決まることが多い傾向にあります。予約しておいた帰国便のフライトが、緊急事態宣言発令によって突然キャンセルされる場合もあります。そのときは、航空会社に連絡し、日程変更を希望しておくことを忘れずに。

また、帰国便を決めていない長期出張の場合では、緊急事態宣言が発令されたあとすぐに、帰りの航空券を確保しておいた方が良いでしょう。

緊急事態宣言後の状況次第では、母国への直行便が順次欠航となる場合も。直行便の手配が難しそうなら、第三国経由で帰国する飛行機を探すと良いでしょう。この際、注意したいのが、経由国の中には「自国民以外は入国拒否、トランジットも認めず」と厳しい体制を敷いている国も出る可能性があること。
例えば、新型コロナウィルス感染症拡大時には、台湾や香港では外国人の入国を全て拒否されました。
航空券を探すときは、トランジット入国可としている国での乗り継ぎを計画しましょう。

参考:アシアナ航空「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)関連国家別入国制限現況」
https://flyasiana.com/C/JP/JA/customer/notice/detail?id=CM202002030001195030

1-2.空港から自宅への足を確保も忘れずに!

緊急事態宣言発令中だと、日本に帰国後、空港から公共交通機関を利用して自宅に戻れない場合があります。何も準備しておかないと、帰宅難民になる可能性が高くなるので、滞在国にいる間に前もって国内の移動手段を確保しておきましょう。

こちらもオススメ:
空港の検疫に関する基礎知識【新型コロナへの各国対応から学ぶ】
https://www.bthacks.com/4574/

2.海外出張先でロックダウンが始まった場合の帰国方法

先ほどもお話しした通り、ロックダウン措置が取られると、空の便にも影響が出ます。出張先でロックダウンが始まりそうなら、予約した飛行機が飛ぶかどうか、すぐに確認しておきましょう。

運よく帰国便が予定通り運行するなら、次は「どうやって空港まで行くか」を考える必要があります。
都市によっては、電車やバス、タクシーなどの公共交通機関が、運行を停止することもあります。そういうときはレンタカーやハイヤーサービスの利用を検討しましょう。

ロックダウン時は、政府及び自治体から、自宅及び滞在場所からの移動を禁じられることがほとんどです。しかし、外国人旅行者及び出張者が、ロックダウン中に帰国するため、宿泊先から空港へ直行することを認める国は多いです。

滞在国の法令によっては、帰国のための国内移動申告書を印刷し、サインした上で携帯する必要があります。違反すると高額の罰金を科せられることがあるので、滞在場所から空港へ移動する場合は、各国のルールを確認し、準備しましょう。

「帰国したくても飛行機が飛ばない……」という場合でも、空港自体が閉鎖されていなければ、日本政府などが用意するチャーター機で帰国するチャンスをつかめることがあります。もし自分で帰国便を確保できない状況なら、ロックダウン開始後すぐに、滞在国の日本大使館に相談してみるのも良いでしょう。

参考:JETRO「ビジネス短信 ベンガルールの在留邦人、JALの臨時便で帰国」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/04/f580b928ada6d5b2.html

3.有事の帰国方法

滞在国で戦争や暴動が勃発し、戒厳令や緊急事態宣言が発令されることがあります。こうした有事には、身の安全を確保するためにも一刻も早く帰国することが必要です。次からは、有事の帰国の方法についてご紹介します。

3-1.滞在国の日本大使館へ救援を求める

1991年に起こった湾岸戦争では、脱出に失敗した外国人をイラク当局が強制連行し、人質として利用した例があります。このように、戦争や内戦やなどで滞在地の治安が急激に悪化し、外出もままならない事態に陥ると、個人で帰国する手配をするのはほぼ不可能です。
有事のときほど、個人レベルで行動するのは限界があります。できる限り、滞在国の日本大使館に助けを求めてみましょう。それが難しい場合、アメリカやトルコなど、日本と友好関係にある国の大使館に掛け合ってみるのも一つの手段です。

3-2.飛行機以外の交通手段を利用する

有事には、空港が閉鎖されることがほとんど。飛行機で帰国する手段は限られます。政府によるチャーター機の用意など、特別なチャンスがあれば別ですが、民間の通常便で帰国することは難しくなります。
大使館への救援を求めつつ、個人でも出国できる方法をできる限り探してみましょう。

まだ国境が完全に閉鎖されていなければ、陸路や海路を利用して第三国へ脱出することを検討するのが良いでしょう。
陸路では国際列車や国際長距離バスを利用する方法があります。国際路線の場合、ほとんどは電話やインターネットで予約することが可能なので、早いうちに押さえておきましょう。
海路なら国際航路を使い、第三国へ渡航することが可能です。到着までに時間はかかりますが、陸路を使うより楽に移動できるメリットがあります。国際航路は規模の大きな会社が運行していることが多く、インターネットや電話で予約可能なので、空きがあるうち確保しておきましょう。

いずれの手段も、最短で渡航可能な第三国へ入ることが最優先です。飛行機で日本へ帰国する段取りをつけるのは、安全な場所に避難したあとからでも遅くありません。

参考:(財)日本国際交流センター
「海外紛争での邦人救出問題にいかに対処するか 邦人・外国人非戦闘員の救出と難民救援に関する政策提言」
http://www.jcie.or.jp/japan/gt_ins/gti9709/ah3.htm
乗り物ニュース
「海外で緊急事態、日本人どう保護? 自衛隊の重要任務『邦人救出』訓練にC-2初参加」
https://trafficnews.jp/post/81569/2

4.国交断絶したときの帰国方法

ロックダウンや戦争や紛争以外にも、政治的要因や経済封鎖などの理由で、当事国の国交が断絶することがあります。国同士の交流はもちろん、民間航空路線のストップや貿易停止など、民間レベルでの交流も途絶えてしまいがちです。
国交断絶下では、どうやって帰国すればよいのでしょうか。

4-1.国交断絶するとどうなる?

国交断絶が当事国同士で宣言されると、大使及び外交使節団の引き上げや大使館の閉鎖が行われます。同時に、滞在中の相手国国民には、滞在国政府から退去命令が出され、期限までに自国へ戻る義務が科せられることが大半です。
とは言え、国交断絶発表後から国外へ退去する期限までは、ある程度時間の猶予があります。すぐに大使館が閉鎖されたり、民間機の運航が止まったりしてしまうわけではないので、大使館と連絡を取りつつ、退去期限までに母国へ戻る手配を整えましょう。

しかし、日本と台湾の関係のように、国交が断絶されていても民間レベルでの交流が広く行われている稀な例もあります。

参考:NHK BS1「国際報道2020 台湾ってどうして国じゃないの?」
https://www.nhk.or.jp/kokusaihoudou/bs22/special/2019/12/1225.html

【コラム】カタールの国交断絶事例
近年、周辺国と国交断絶した国といえば、中東のカタールが挙げられます。
2017年に、サウジアラビアを始めとする中東の数カ国が、カタールとの国交を断絶しました。カタールに駐在する当事国の大使館の閉鎖、カタールにいる自国民の帰還要請、自国内のカタール国民に対する退去命令が下されたことは、国際ニュースとして世界中に広がりました。

参考: 日経ビジネス「全方位外交の罠、国交断絶に陥ったカタール」
https://business.nikkei.com/atcl/report/16/022700114/062300007/?P=4&mds&yclid=YJAD.1590791723.uQazv3idcq19TxO6Xx_5.2VC7Ji5orr09p4NCov49c8RwVgeXtQd4uSuAfnZMDE4QE5xGwLeualzinw-
ニューズウィーク日本版「国交断絶、小国カタールがここまで目の敵にされる真の理由」
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/06/post-7754.php

4-2.帰国手段を確保する方法

国交断絶時の帰国手段を確保する方法としては、民間航空機での帰国や陸路・水路で第三国へ退去する方法があります。

戦争が始まってしまった……などの理由で、すぐに身の危険がある場合には、帰国にこだわらず、まずは安全を確保できる第三国へ脱出することを優先しましょう。母国の外務省に連絡するなど、困ったときに頼れる連絡先を確保しておくことも忘れずに。

5. ロックダウンや有事に備えるリスクマネージメント3つ

ロックダウン措置や有事はいつ起こるかわからず、対応が難しいもの。それだけに、事前の備えの有無が生死を分けることもあります。海外出張中、有事に遭遇した場合に備えてどのような準備をしておくと安心なのでしょうか。

5-1.現地の情報を収集する

ロックダウンで政府はどんな措置を講じるのか、現在の状況はどうなっているのかを知らないと、どう行動すべきなのか計画を立てるのは難しくなります。インターネットやテレビ、ラジオなどを使い、現地の情報を入手しておきましょう。

外務省の「たびレジ」サービスに登録しておくと、出発前から現地の情報を収集でき、ロックダウンや有事に巻き込まれた際も滞在国日本大使館からのサポートを得られるので、便利です。

参考:外務省「たびレジ 海外安全情報配信サービス」
https://www.ezairyu.mofa.go.jp/tabireg/index.html

5-2.会社とこまめに連絡を取る

出張中にロックダウンがスタートしたり、有事に巻き込まれたりした場合、企業人として背負っているビジネスについても気がかりになることでしょう。状況報告だけでなく、今後の方針、行動を相談するためにも、海外出張中はいつも以上に会社と連絡を取り合うことが重要です。

スマートフォンだけでなく、現地で使える携帯電話やパソコンなど、万一に備え複数の連絡手段を確保しておくと安心です。

参考:一般社団法人 海外邦人安全協会
「海外安全マニュアル 緊急事態対策」
http://www.josa.or.jp/travel/manual/emergency.html

5-3.海外旅行保険をかけておく

戦争や動乱、内戦などが理由で海外出張中にケガをしたり、出張自体を取りやめたり、途中で帰国したりした場合は、それに伴う追加の費用を保険でカバーすることができません。

しかし、テロ行為(政治的、社会的もしくは宗教的な主義・主張を有する個人または団体がその主義・主張に関して行う暴力行為)に関して被害を被った場合は、海外旅行保険でカバーできることもあります。
また、ロックダウンで空港閉鎖や移動制限が発令され、現地滞在を延長せざるを得ないとき、実際の帰国日に合わせて補償期間が延長される保険があります。出発前に各社の補償内容をチェックし、短期や近場の海外出張でも、必ず保険をかけておきましょう。

参考:
東京海上日動「よくあるご質問」
https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/inquiry/faq/overseas/faq_09014.html
弁護士ドットコムニュース
「パリ同時テロ もし海外で『テロ』に遭ったら『旅行保険』は補償してくれるのか?」
https://www.bengo4.com/c_18/n_3954/
三井住友海上「新型コロナウィルス感染症に関するご案内」
https://www.ms-ins.com/information/2019/information_0228_1.html

まとめ:非常時に備えて行動しよう

新型コロナウィルス感染症流行時のように、ロックダウン措置が出張中に発令され、身動きが取れなくなることもあるでしょう。
また、2001年のアメリカ同時多発テロ、また2015年のパリ同時多発テロのように、戦争、内乱などのリスクがない国でも、有事は起こり得ます。
安心して海外出張をするためにも、「まさかの事態」に備えた知識を頭に入れておきましょう。

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