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2020.06.17

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予防接種で安心な海外出張を! 覚えておきたい基礎知識

海外出張では、日本であまり馴染みのない狂犬病や黄熱病などの感染リスクが高い場所へ行くこともあります。出張先で深刻な感染症にかかる危険を避け、自分の命を守るためにも、予防接種をするのが賢明です。
ここでは、安全な海外出張のために必要な、予防接種について解説します。

1.滞在先別・予防接種の種類

予防接種は、行き先によって必要な種類が異なります。インフルエンザや麻しん、風しんなど多くの種類があるので、どれを受けるかは渡航先に合わせて計画すると良いでしょう。

滞在先の状況によりますが、短期出張や先進国へ出張する方も、破傷風やA型肝炎などの予防接種を受けておくと安心できます。また、長期滞在の方は必ず予防接種を受けておきましょう。
ここでは、推奨されている主な予防接種を地域ごとにご紹介します。

全世界共通:
破傷風、A型肝炎、麻しん、風しん、インフルエンザ、水痘

アジア・オーストラリア:
B型肝炎、狂犬病、ポリオ、腸チフス、日本脳炎

中央・南アメリカ:
B型肝炎、狂犬病、ポリオ、腸チフス、黄熱病

アフリカ:
B型肝炎、狂犬病、ポリオ、腸チフス、黄熱病

参考:厚生労働省検疫所HP「海外渡航のためのワクチン」
https://www.forth.go.jp/useful/vaccination.html

【コラム】命に関わることもある危険な感染症
感染症の中には、死亡率が高いものがあります。一体どんな感染症なのか、簡単にご紹介しましょう。

《黄熱病》
蚊が媒介して発症する感染症。高熱・頭痛などの症状が出始め、進行すると黄疸や出血、タンパク尿なども併発する病気です。致死率は20%と、感染症の中でも高めです。

《狂犬病》
狂犬病ウィルスを持つ動物(コウモリ、野犬など)に咬まれたり引っかかれたりしたときに、傷口を通じて感染します。発熱や頭痛の症状から始まり、脳炎など深刻な症状に進行していきます。発症後は致死率100%の病気です。

参考:
NIID 国立感染症研究所「黄熱とは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/365-yellow-fever-intro.html
NIID 国立感染症研究所「狂犬病とは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/394-rabies-intro.html

2.いくらくらいかかる?費用の目安

海外出張時の予防接種は、すべて任意接種です。
摂取のための費用は全額自己負担となります。予防接種の種類や医療施設によって費用は異なります。
例えば、かかる費用の内訳は、大体次の通りです。

・ワクチン代
・初診料
・接種証明書料金

ほとんどの施設では接種時に予約が必要なので、予約時にどれくらいかかるか聞いておくとよいでしょう。
複数のワクチンを接種する場合は出費がかなり高額となります。出張費用として会社に負担してもらえるか、事前に出張規定を確認しておきましょう。
都内の医療センターで予防接種を受ける場合の費用目安を、例を挙げてご紹介します。

1: 上海へ1ヶ月間、現地研修出張
破傷風(3,400円、接種回数3回)、A型肝炎(7,000円、接種回数3回)
初診料(2,880円)+診察料(740円、初回を除く来院回数2回として1,480円)
=合計14,760円

2: フィリピンへ半年間、工場建設の視察出張
破傷風(3,400円、接種回数3回)、A型肝炎(7,000円、接種回数3回)
B型肝炎(5,700円、接種回数3回)、狂犬病(15,000円、接種回数3回)
初診料(2,880円)+診察料(740円/来院1回あたり。初回を除く来院回数7回として5,180円)
=合計39,160円

3:ガーナへ1年間、調査出張
破傷風(3,400円、接種回数3回)、A型肝炎(7,000円、接種回数3回)
B型肝炎(5,700円、接種回数3回)、狂犬病(15,000円、接種回数3回)
腸チフス(8,800円)黄熱病(17,000円、接種回数2回、証明書作成込)
初診料(2,880円)+診察料(740円/来院1回あたり。初回を除く来院回数7回として5,180円)
=合計68,360円

参考:東京医科大学病院渡航者医療センター「各種料金表」
https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/cost.html

上記のように、予防接種費用は数万円単位になることがあります。業務のための海外渡航なので、会社に接種の必要性を説明し、費用負担を相談してみるのも良いでしょう。

3.スケジューリングは確実に!予防接種のタイミング

異なる予防接種を何種類か受けるときは、ワクチン種類によって同時接種が難しいことがあり、複数回受診する必要があることも。また、1種類のみ接種の場合でも、前回から次の回までの接種期間の間隔が長いワクチンでは、接種完了までに半年以上時間がかかることが大半です。
出張が決まり次第、医療機関を受診し、担当医と予防接種のスケジュールを立てておくと良いでしょう。

《スケジュール例》
・インドネシアへ鉱業開発協力のため半年間長期出張、出発は1年後
接種種類:破傷風、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病、麻しん

2回目 3回目(1回目から数えた週数)
A型肝炎 2〜4週 24週
B型肝炎 4週 20〜24週
破傷風 3〜8週 初回後6ヶ月以降
狂犬病 4週 6〜12ヶ月
麻しん(2回接種) 4週

参考:
東京医科大学病院渡航者医療センター「ワクチンの解説」
https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/vaccine.html
東京医科大学病院渡航者医療センター「ワクチン関係の参考資料」
https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/reference.html#r02
東京医科大学病院渡航者医療センター「ワクチンQ&A」
https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/qanda.html 
トラベルクリニック海外渡航者センター「麻しんワクチン」
https://japantravelclinic.com/vaccine/measles.html

4.事前にチェック!予防接種証明書が必要な国

感染症の中には黄熱病などのように、非常に死亡リスク高い病気もあります。そのため、滞在国によっては、ビザ申請時や入国時に、該当する病気の予防接種証明書の提示が必要なことも。ここでは、一例として、黄熱病予防接種証明書が必要な国をご紹介します。

《渡航時に黄熱病予防接種証明書提示義務を課している国》
仏領ギアナ、ギニアビサウ、マリ、ニジェール、シエラレオネ、リベリア、コートジボワール、ガーナ、トーゴ、カメルーン、中央アフリカ共和国、ガボン、コンゴ、コンゴ民主共和国、ブルンジ、アンゴラ
(2020年4月現在)

参考:世界保健機関「Yellow fever vaccination requirements」
https://who.maps.arcgis.com/apps/MapSeries/index.html?appid=ad0ff71cdd1b4c139cfad91daca886fb

上記の国に渡航を予定している方は、必ず予防接種をするようにしましょう。

5.予防接種をしなかった場合のリスク

海外出張では体力が勝負です。しっかりと予防接種をして、元気に活動するためにも「予防接種をしないで海外出張に行ってしまい、感染症にかかってしまった」というケースは避けたいもの。日本とは環境が大きく変わる出張先で、万一感染症にかかってしまったらどのようなリスクがあるのでしょうか。ここでは、仕事への影響と共に、例をご紹介します。

例1)半年間、ベトナムへ出張した場合
夕食後ホテルへ帰る途中で野犬に足を噛まれ、現地病院へ急行。
狂犬病ワクチン(暴露後)を接種。治療費は157,253円。

<仕事への影響>
次の日予定していた取引先との会議は欠席しなければならず、その結果プロジェクトの進行が1ヶ月遅れる見込みに。

例2)1週間、グアムへ出張した場合
急な雨で濡れたにもかかわらず、着替えずに仕事を続行。2日後インフルエンザになり、現地病院で治療。治療費は128,626円。

<仕事への影響>
予定していた取引先を回ることができず、新規店舗に揃える品が不足。帰国後仕切り直しとなり、新規店舗のオープン日は延期に。

参考:株式会社大学生協保険サービス「保険金支払い事例」
https://hoken.univcoop.or.jp/travel/about/case.html

6.予防接種したら保険は不要?

「予防接種しているから、病気にはかからないはず。だから、保険には入らなくても大丈夫だろう」ということにはなりません。
予防接種は、病気にかかったとき症状を軽く済ませたり、死亡率を下げたりする効果があるもの。予防接種をしても、決して病気になる可能性がゼロになるわけではありません。

また、海外旅行保険では予防接種の有無は関係なく、(補償額の範囲内で)実際にかかった治療費を上限とした金額が支払われます。
予防接種の有無で治療費にはどのくらい違いが生じるのか、また、保険に加入していなかった場合にどのくらい費用がかかるのか、事例を見てみましょう。

例1)インドネシアで腸チフスに感染した場合
インドネシアへ2ヶ月の出張中、体調不良に。
現地病院で治療を受け腸チフスと診断される。

>予防接種済みなら……。
1週間入院。治療費 約300,000円

>もしも予防接種をしていなかったら……。
2週間入院。容体が安定せず日本から家族が駆けつけた。
治療費 約850,000円、家族の交通費と現地滞在費用 約220,000円

例2)ブラジルで風しんに感染した場合
ブラジルへ1ヶ月出張中、体調不良に。現地病院で治療を受け麻しんと診断される。

>予防接種済みなら……。
3日入院。治療費 約500,000円

>もしも予防接種をしていなかったら……。
脳炎を併発し、3週間入院。日本で高度治療を受けるため、看護師付き添いのもとストレッチャーつきビジネスクラスで帰国。
治療費 約1,000,000円、帰国費用 約1,000万円(※)

※仮に補償上限1,000万円の保険に加入していても、帰国費用額=保険金額上限のため治療費は自己負担に。

このように海外出張で感染症にかかり、医療機関を受診した場合。高額の治療費が必要になってしまいます。保険は、こうしたリスクに備えるもの。
また、予防接種をしていたとしても感染症以外の事故や怪我のリスクも当然あります。保険はたとえ予防接種をしていたとしても加入したほうがよいのです。

【コラム】キャッシュレス治療サービスが便利!
保険を使って医療機関を受診したいときは、すぐに24時間受付の保険会社のコールセンターに相談するのがオススメです。
現地で提携している病院を紹介してくれ、手続きがスムーズになることも。また、キャッシュレスサービスなら、費用を自分で立て替える必要もありません。
キャッシュレスサービスを使わないときは、支払い時の領収書やレシートを全て保管し、日本に持ち帰りましょう。後から、費用を保険会社に請求するときに必要です。

参考:損保ジャパンHP「医療アシスタンスサービス」
https://www.sompo-japan.co.jp/kinsurance/leisure/off/support/assist/

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まとめ:予防接種で安全な海外出張を!

安全に海外出張をするためにも、予防接種は大切。
海外出張で訪れる場所の中には、気候も衛生環境も異なり、日本では馴染みのない感染症や病気にかかるリスクがある国も多くあります。
どんなに注意していても「いつ、どこで、どんな」病気にかかってしまうかは予測がつかないもの。「自分はかからないだろう」と自分の体力を過信するのが一番危険です。出発前にきちんと予防接種を済ませ、安全な海外出張を!

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