シェンゲン協定を知って出張に備えよう!いまさら聞けない基礎知識

シェンゲン協定を知って出張に備えよう!いまさら聞けない基礎知識

ヨーロッパへ出張するときに知っておきたいのがシェンゲン協定です。ヨーロッパへ出張や旅行をする人にとって必須なのがパスポートのチェック。それを一元化し、シェンゲン協定加盟国間の往来を自由化させる狙いから、1985年より制定されています。
この文章では、シェンゲン協定についての基本的な知識をご紹介します。

1.シェンゲン協定の目的と影響

シェンゲン協定の目的は、国境を超えて自由に人が往来できるようにすることです。事実、この決まりができてから、ヨーロッパ内をとても移動しやすくなりました。
まずは、シェンゲン協定が成立したいきさつと、渡航者に与える影響についてお話ししましょう。

1-1.シェンゲン協定の背景と経緯

EUの前身であるEEC(ヨーロッパ経済共同体)の設立時、加盟国間でヒト・モノ・サービス・お金が自由に移動できる市場の創設が発案されました。しかし全ての加盟国の同意を得られず、市場作りは先送りに。
そこで国境検査を撤廃し人の移動を自由にするためのルールが、EEC加盟国のうち、まずはオランダ、西ドイツ、フランス、ベルギー、ルクセンブルクの5ヶ国間で策定されました。これが現在の、シェンゲン協定の始まりです。
ルクセンブルクのシェンゲン村で調印が行われたため、地名をとって「シェンゲン協定(The Schengen Agreement)」と呼ばれています。

もともとシェンゲン協定は、EECとは別に締結された協定です。
そのため、スイスやノルウェーなど「非EU加盟国ながらシェンゲン協定には加盟」している国が存在します。しかし後年のEC及びEUの設立にあたり、シェンゲン協定がEU法に取り入れられた関係で、お互いの内容が似ており、密接な関わりがあります。

参考:EU域内の「移動の自由」とは?
ヨーロッパの入国 | スイス政府観光局
EUにおける共通移民政策の現状と課題

【シェンゲン協定で自由に行き来できる国一覧】
シェンゲン協定は現在、ヨーロッパの26ヶ国が加盟しています。
EUと混同されがちですが、「EUとシェンゲン協定両方に加盟している国」「シェンゲン協定のみに加盟している国」の2つに分かれています。

シェンゲン協定とEU両方に加盟している国 シェンゲン協定のみ加盟している国
イタリア、エストニア、オーストリア、オランダ、ギリシャ、スウェーデン、スペイン、スロヴァキア、スロヴェニア、チェコ、デンマーク、ドイツ、ハンガリー、ベルギー、フィンランド、フランス、ポーランド、ポルトガル、マルタ、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク アイスランド、スイス、ノルウェー、リヒテンシュタイン

参考:オランダ大使館HP「EU, EEA, EFTA およびシェンゲン協定加盟国」

1-2.日本人渡航者に与える影響

シェンゲン協定加盟国間の移動には、日本から渡航する際に知っておきたい、次のような決まりがあります。

(1)加盟国間の移動:国境でのパスポート検査がない

シェンゲン協定以後、加盟国間への旅行は「パスポートチェックは最初に入国した国でのみ」。おかげで日本人と後者も、入出国手続きが簡単になりました。

例えば、スウェーデンで乗り継いでドイツへ向かう場合、最初に入国したスウェーデンのみでパスポートのチェックが行われます。

シェンゲン協定が調印される前は、各国それぞれで入出国の管理をしていました。そのため、出入国には毎回、必ず国境検査を受けなければいけませんでした。上記の例でいうと、スウェーデンとドイツ両方で入出国の手続きが必要だったのです。それが最初に入国した国のみで良いとなれば、国境を超えた移動もしやすくなります。

(2)ビザの発給:加盟国間で共通のビザを利用できる

就労や留学など、長期滞在にはビザが必要です。また、複数の国に滞在する場合、滞在国ごとにビザを申請しなくてはなりません。
シェンゲン協定以後、加盟国内で長期滞在するときは「最も長く滞在するシェンゲン協定加盟国」「最初に入国するシェンゲン協定加盟国」どちらかの大使館へ、ビザを申請するだけで良くなりました。

例えば、1年6ヶ月はベルギー、6ヶ月はフランスへ長期出張するようなときは、ビザの申請先はベルギー大使館だけに申請すれば良いことになります。

参考:欧州市民は移民・難民をどう見ているか──EU最大の失敗 『欧州ポピュリズム』より
EU の「4 つの自由」と英国
シェンゲンビザ(短期訪問ビザ)とは?

2.シェンゲン協定加盟国への渡航ルール

ェンゲン協定では、加盟国の国民または加盟国を旅行する外国人に対して、渡航と移動に関するルールを定めています。
ここでは、日本から加盟国へ渡航する際に知っておきたいルールをご紹介します。

2-1.入出国時のパスポートチェックに関するルール

日本とシェンゲン協定加盟国の間には、ビザ免除協定が締結されています。
そのため、渡航目的が「観光・家族訪問・出張・国際会議出席・その他報酬を伴わない活動」に当てはまれば、最大90日を限度にビザなしで協定加盟国へ入国できます。国境検査は、入国時の加盟国で行います。

(例1)見本市視察のためドイツを経由してイタリアへ10日間出張。帰りもドイツを経由して帰国

・シェンゲン圏入国:パスポートチェック(国境検査)はドイツ入国時の1回のみ。
・シェンゲン圏出国:パスポートチェック(国境検査)はドイツ出国時の1回のみ。

(例2)取引先訪問のため直行便でフランスへ4日間、次にイギリスへ5日間出張。その後、フランス経由で日本へ帰国

・フランス入国:パスポートチェック(国境検査)
・フランスからイギリスへ移動:フランス出国/イギリス入国時にパスポートチェック(国境検査)
・イギリスからフランスを経由して帰国:イギリス出国/フランス入国/フランス出国の3回、パスポートチェック(国境検査)。

参考:EUにおける共通移民政策の現状と課題

2-2.最大90日間の滞在期間に関するルール

ビザなしでシェンゲン圏に滞在するときは、連続した180日間のうち最大90日が滞在期間の上限です。シェンゲン圏への出張を複数回予定しているときは、上限を超えないよう注意しましょう。

(例)3月1日から1ヶ月、ドイツへ出張。一時帰国し、5月10日から20日までポーランドへ11日間出張

ドイツ、ポーランドへの滞在が連続した180日間と見なされます。

・滞在期間:3月1日から5月20日まで
 ※ドイツ入国の3月1日がスタート。
  一時帰国を経て、最終日はポーランドを出国し日本へ帰国する5月20日
・滞在日合計:3月1日〜3月31日の31日間、5月10日〜5月20日の11日間、計42日
・残り滞在可能日:48日
・ルール適用期間:7月7日まで

すぐ計算できるオンラインツールもあるので、ヨーロッパへよく出張する方は活用してみてはいかがでしょうか。
参考:シェンゲン計算機

2-3.パスポートの有効期間に関するルール

ノービザで滞在するときのルールは下記の通りです。

・有効期間:シェンゲン圏から出国する日より起算し、3ヶ月以上残っていること
・査証余白欄(各加盟国で規定が異なる):2ページ以上残っていること

(例)6月1日から6月17日まで、オランダへ出張。ベルギーの空港を経由し6月17日に帰国便に搭乗

パスポート有効期限:シェンゲン圏からの出国は6月17日。3ヶ月後が9月16日となるので、有効期限が2022年9月16日以降のパスポートならOK
査証余白欄:オランダは2ページ、ベルギーは3ページ以上余白が必要。したがって余白は最低3ページ必要

【ビザが必要になるのはどんなとき?】

画像:筆者撮影。長期滞在用にはDタイプのビザが発行される

滞在目的が就労や就学など、ノービザの要件を満たさない滞在目的の場合には、主に滞在する国の大使館で発給する、長期滞在ビザの申請が必要です。

例)
・90日を超える長期出張や海外赴任
・留学
・就労

参考:シェンゲンビザの査証種類や申請方法や取得方法 – ETIAS EU VISA

3.ヨーロッパを周遊するときのポイント

ヨーロッパは地続きなので、移動が簡単です。しかし、シェンゲン圏とそうでない国を行き来するときには、従うべきルールが異なることも。知らないと損をする場合があるので、事前にチェックしておきましょう。
この章では、おさえておきたいヨーロッパ周遊のポイントをご紹介します。

3-1.シェンゲン協定加盟/EU非加盟国での買い物に気をつける

シェンゲン協定には加盟しているけれどEUには加盟していない、スイスのような国で買い物をする場合は、注意が必要です。
通貨がユーロではないことがほとんどのため、ユーロ圏との行き来があるときは複数の通貨が必要です。当然、為替相場も異なるのでカード支払いの際にもレート換算を間違えないようにしましょう。

例)オーストリア経由でノルウェーへ3日出張、ノルウェーからオーストリアへ5日出張後帰国。ノルウェーで高級時計、オーストリアでブランド物のバッグを買った場合

ノルウェーの通貨はクローネ、オーストリアの通貨はユーロと異なります。そのため免税手続きは必ず、それぞれの国の空港で行います。時計はノルウェーの空港、バッグはノルウェーの空港で手続きが必要です。

また、入国時にも税関検査により物品、現金の持ち込みを制限しています。例えばスイスだと、300スイスフラン相当までを非課税とし、それ以上は課税されます。肉や酒などには、別途規定がありますが、日本からお土産を持っていくときなどに、あまり高価なものは選ばない方が無難です。

参考:スイス公共放送協会「税関」

3-2.EUだけに加盟する国への渡航は時間に余裕を持つ

同じEU加盟国でも、ドイツとクロアチア、ベルギーとアイルランドなど、シェンゲン圏と非シェンゲン圏間の移動が必要な場合は、一度の旅程でパスポートのチェックが複数回行われます。
空港などでの出入国手続きにかかる時間は読みにくいため、移動時間には余裕を見ておきましょう。

3-3.オーストリアはノービザで90日以上滞在できる

日本国籍の渡航者の場合、シェンゲン加盟国でもビザなしで長期滞在ができる国があります。それはどこかというと、オーストリア。オーストリアと日本は、独自の二国間協定を結んでいます。これにより、最大180日を限度にビザなしの滞在が認められています。

シェンゲン協定よりも優先適用されるため、オーストリアだけに滞在(ホテルなどの宿泊施設を利用することが条件)する場合は、90日までの上限が適用されません。

参考:オーストリアへの渡航・滞在にあたって - 無査証での滞在について

3-4.シェンゲン協定に違反した場合罰則がある

複雑なルールが多いシェンゲン協定。昨今の国際情勢で、急にルールの変更が行われることもありえます。万一意図しないルールの見落としで違反することになったら……と、不安になる方もいることでしょう。
シェンゲン協定自体には罰則が明記されておらず、違反者への対応は加盟国ごとの裁量に任せられています。違反が発覚した場合は、罰金や量刑及び事後のシェンゲン圏への再入国拒否が科せられることがほとんどです。

【2022年末からETIASがいよいよスタート】
2022年末より、シェンゲン協定加盟国へのノービザ旅行者に対する電子渡航認証制度「ETIAS」が始まります。「ETIAS」とは、アメリカの「ESTA」やカナダの「eTA」と同様に、シェンゲン協定加盟国への入国を希望する旅行者を事前に審査する制度です。
2022年末以降にシェンゲン協定加盟国への渡航が決まったら、忘れずに取得しておきましょう。

【ETIAS取得の利用について(2022年1月現在)】

利用要件 内容詳細
シェンゲン協定加盟国へ渡航する全ての旅行者 ・渡航目的が観光・短期ビジネス(出張など)
・トランジットのいずれかに当てはまる人
・乳幼児、未成年も取得必須
費用 7ユーロ(18歳以下及び70歳以上は無料)
有効期間 3年(パスポート残存期間が3年以下の場合ETIASも同時に期限切れとなる)
取得にかかる時間 最大4週間

参考:ETIAS(エティアス)申請

4.シェンゲン協定加盟国圏とEU圏の違い

同じヨーロッパにあるので混同されがちですが、EU=シェンゲン協定加盟国圏、ではないことに注意が必要です。なぜなら、それぞれ、ルールの対象とするものが異なっているからです。
シェンゲン協定がヒトの移動を自由化したのに対し、EU法で自由化されているのはモノ・サービス・資本の移動です。

【自由化の対象の違い】

シェンゲン協定 EU
ヒトの移動:
国境検査の廃止
加盟国間でのビザの統一
モノの移動:加盟国間での無関税
サービスの移動:加盟国間での自由労働の許可
資本の移動:加盟国間での資金持ち出し、送金、投資の自由化

参考:EUを知るための12章

シェンゲン協定を知って移動を快適に!

たくさんのルールがある、シェンゲン協定。
行き先の急な変更で予定していた国に入国できなかったり、仕事の都合で急に他国へ移動する必要があったりと、シェンゲン圏への出張では「ルールを知らないと困る状況」に遭遇する場合もあります。そんなときに素早く対応できるよう、少しでもシェンゲン協定を知っておけば、安心して移動できることでしょう。
出発前に、事前チェックをお忘れなく!

文:山﨑 梨惠
編集:松本 有為子(リベルタ)

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