ビジネス基礎知識

2023.10.20

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ウェルビーイングとワークライフバランスの違いは?仕事目線で解説

働き方や、人生設計、キャリアの選び方などを考える上で、よく使われている「ウェルビーイング」や「ワークライフバランス」という言葉。
ビジネスにおいても、ウェルビーイング経営という視点から注目を集めています。
とくにウェルビーイングは、ワークライフバランスのさらに先を見据えた在り方として注目を集めています。

耳にすることは多いけれど「なんとなく知っているようで、2つの言葉の違いは何かよく分からない」という方に向けて、
違いを整理しながら深掘り。人事労務や企業経営などビジネス的な視点からも注目されている2つの考え方の違いや基本、
そしてなぜウェルビーイングな視点が求められるようになっているのかを、改めて解説します。

1.ウェルビーイングとワークライフバランスの定義

似たような文脈で使われることが多いウェルビーイングとワークライフバランスですが、
厳密にはそれぞれ違った意味合いを持っています。
まずは2つの言葉の定義と、どんな違いがあるのかを整理してみましょう。

1-1.ウェルビーイングは「よく生きる」ことを指す言葉

ウェルビーイング(Well-Being)という概念は、1946年にWHO憲章の前文で、
健康とは何かを表す言葉として初めて登場したと言われています。

公益社団法人日本WHO協会のホームページに掲載されているWHOの前文と日本WHO協会仮訳には次のように記されています。

“Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、
肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。”

引用:
公益社団法人日本WHO協会HP

日本でいつ頃からウェルビーイングという言葉が使われ始めたかは定かではありませんが、
2021年に政府から発表された『成長戦略実行計画』にはWell-beingという言葉が次のように使われています。

“成長戦略による成長と分配の好循環の拡大などを通じて、
格差是正を図りつつ、一人一人の国民が結果的にWell-beingを実感できる社会の実現を目指す。”

参考:
首相官邸 成長戦略ポータルサイト「成長戦略実行計画 閣議決定文」

国家的な成長戦略にもウェルビーイングという言葉が取り入れられていることからも、
日本でも少しずつ考え方が浸透しつつあることがわかります。

直訳すると「幸福」となるwell-being。ビジネスの世界でもウェルビーイング経営という言葉と共に語られることが多くなっています。
ビジネスでウェルビーイングを考える視点としては、次の5つの切り口があります。

・ソーシャルウェルビーイング:上司や同僚、部下との関係に対するウェルビーイング
・フィナンシャルウェルビーイング:給与など経済的な視点から見たウェルビーイング
・フィジカルウェルビーイング:心身の健康という視点から見たウェルビーイング
・コミュニティウェルビーイング:会社や地域社会などコミュニティから得られるウェルビーイング
・キャリアウェルビーイング:キャリアや仕事、ライフプランなどに関するウェルビーイング

最後のキャリアウェルビーイングとは、キャリア展望や仕事だけでなく長い目で見た人生における幸福度を指す言葉。
キャリアウェルビーイングを実現するための手段の一つとして、次に解説するワークライフバランスが大切になってきます。

参考記事:
元スクウェア・エニックス米国社長が語る!ワクワクする社会創造のプロセス

1-2.ワークライフバランスは「仕事とプライベートのバランス」

一方で、ワークライフバランスとは、仕事とプライベート(生活)のバランスを指す言葉です。
日本でワークライフバランスが注目され始めたのは、ウェルビーイングよりも少し早い2007年ころのこと。
2007年に内閣官房長官を議長とした「ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議」を経て、
「仕事と生活の調和(ワークライフバランス)憲章」が制定されました。

これをきっかけに、各企業で従業員が仕事と生活の調和ができるよう「働き方の見直し」をしようという動きが広がりました。

ワークライフバランスの取り組み事例

ワークライフバランスの実現のために企業はノー残業やテレワーク、フレックスタイム制などの働く環境整備を始めました。
内閣府がまとめた『ポイント・好事例集』には次のような企業の取り組みが紹介されています。

<企業の取り組み例>
・社会福祉法人 寿栄会…「ファミリーサービスデー(ノー残業デー)」の導入や、
男性の育児休業取得促進のための育児休業5日間の有給化など
・第一生命保険株式会社…マタニティ休暇の導入、孫誕生休暇の導入、在宅勤務制度の導入など

参考:
内閣府『社内におけるワーク・ライフ・バランス浸透・定着に向けたポイント・好事例集』

コロナ禍をきっかけに急速に広がったテレワークも、最初はワークライフバランスを実現するために
導入した企業も少なくありませんでした。こうしたワークライフバランスの実現に向けた取り組みは、
ウェルビーイングな状態を叶えるための一つの手段として捉えられつつあります。

2.ウェルビーイングがビジネスでも注目されている理由

仕事と生活とが調和した状態を目指すワークライフバランスはもちろんのこと、
ウェルビーイングもビジネス的な観点から注目されています。
ワークライフバランスは、直接働き方に影響する言葉ということで、
ビジネスや仕事を語る文脈で取り上げられるのは納得できるところですが、
ウェルビーイングがビジネスでも注目されているのは一体なぜなのでしょうか?

2-1.日本のウェルビーイングは発展途上!だからこそチャンスが

ウェルビーイングの日本における現状を、いくつかの統計データをもとに見てみましょう。

例えば、福利厚生パッケージサービス「WELBOX」などを提供する株式会社イーウェルが行った、
「ウェルビーイングに関する定期アンケート」によれば、「ウェルビーイング(総合的な幸福度)」の総合スコアは、
2019年から2023年までの計4回の調査で、毎年減っています。

仕事・プライベート・生活環境・健康・経済状況の5つの視点から充実度や健全度を問う設問では、
4年連続健康に関する指数が低下。
経済状況も低下していることから、ウェルビーイング指数は、健康や経済状況にも大きく左右されることが推測されます。

画像出典:
イーウェル社「ウェルビーイングに関する定期アンケート結果」

また、国連の持続可能開発ソリューションネットワーク(SDSN)が毎年発表している
「世界幸福度ランキング」では日本の国別ランキングは137カ国中47位。
G7では最下位という結果ですが、前年よりも順位を上げてきています。

参考:
World Happiness Report 2023

こうした調査結果を見てみると、日本におけるウェルビーイング指数は、
世界と比べるとまだまだ高水準とは言えない現状が見えてきます。

実際に、株式会社月刊総務が実施している「企業のウェルビーイングに関するアンケート調査」では、
調査に回答した企業の約6割がウェルビーイングとは何かを知っている一方で、実際に取り組みを始めている企業は半数ほどにとどまっています。

画像出典:株式会社月刊総務「企業のウェルビーイングに関するアンケート調査」

各種調査結果を見てみると、ウェルビーイングに取り組む必要性を感じている企業が増えつつある反面、
実際に働き手がウェルビーイングが向上したことを感じているとは言えないのが現在の状況です。

こうして見てみると、まだまだ発展途上とも言える日本のウェルビーイング。
だからこそ、ビジネスにおいてもウェルビーイングな視点を取り入れることで大きなチャンスや効果が期待できると言えるかもしれませんね!

2-2.経営にもメリットが大きいウェルビーイング

人事や総務担当者なら、一度は耳にしたことがある「ウェルビーイング経営」。
なぜウェルビーイングがビジネスでも注目されているのか、その答えは経営にも大きなメリットがあるからです。

一般的に、企業が社員のウェルビーイング実現に取り組むメリットとして挙げられるのが

・離職率の低下
・採用戦略として企業の魅力を高める
・生産性の向上
・SDGsの実現

などが挙げられます。

例えば、社員がウェルビーイングな状態で働くことができれば、その企業で働く現状に満足し離職率の低下が期待できます。
また、社員のウェルビーイング実現のための取り組みを外部にも発信することで、
人材採用時にも企業の魅力を高め、優れた人材の獲得や採用にかかるコストの削減など効果を発揮するでしょう。

生産性の向上も、ウェルビーイングに取り組む大きなメリットの一つです。
株式会社アドバンテッジリスクマネジメントが272社の顧客企業で28.8万人のメンタルデータを分析した結果
、従業員のウェルビーイングが高い企業では生産性が高いという相関性が見られたそうです。


画像出典:株式会社アドバンテッジリスクマネジメント プレスリリース「顧客企業 272 社、28.8 万人のメンタルデータを分析 従業員のウェルビーイングと生産性の相関が明らかに」

このように、企業がウェルビーイングに取り組むメリットは大きいと言えます。

2-3.働き手の視点から考えられているウェルビーイング

企業がウェルビーイングに取り組むことが大切だとわかっても、
実際に何から手をつければ良いのか迷ってしまう人事・労務担当者の方も少なくないことでしょう。
そんな際には、まず働き手の視点から「幸福(well-being)」な状態は何かを考えてみることが大切です。

例えば、米・Google社が始めたと言われているピアボーナス制度は、働き手の視点からウェルビーイングを考えた良い例です。
ピアボーナス制度とは、従業員の評価制度のひとつで、従業員同士がボーナスを贈り合える仕組みです。
上司や会社からの評価で決定されるボーナスとは異なり、「サポートしてくれてありがとう」など
従業員同士が評価しあうことで、コミュニティにおけるウェルビーイング度が高まります。

このように、トップダウンではなく、ボトムアップで会社の制度や働き方を整えていくことは、
ウェルビーイングで大切になる考え方。
働き手一人ひとりが幸福でいるための状態とは何かを軸に、自社の取り組みを検討してみると良いでしょう。

3.ウェルビーイングな視点で考える働き方

ワークライフバランスだけでなく、多角的な視点から幸福な状態を追究するウェルビーイングという考え方。
最後に、ウェルビーイングな状態を叶えるために、どんな働き方があるのか、その可能性を考えてみましょう。

3-1.ワークライフバランスの先にある「ワークライフインテグレーション」

仕事とプライベートの両立を意味するワークライフバランスと似た言葉に、
ワークライフインテグレーションという考え方があります。
ワークライフインテグレーションは仕事とプライベートをはっきりと区分せず、統合して捉える考え方です。

ワークライフバランスでは、仕事とプライベートを別々に捉えてしまっていますが、
必ずしもワークとライフははっきりと切り離せるものではありませんよね。

仕事もプライベートも生活の一部として捉えたワークライフインテグレーションでは、
仕事がプライベートに、プライベートが仕事に良い影響を与え合います。
具体的な例として、世界的アウトドアブランド・パタゴニア社の事例を見てみましょう。

【「社員をサーフィンに行かせよう」というパタゴニア社のカルチャー】

パタゴニア社の創業者イヴォン・シュイナード氏の、「社員をサーフィンに行かせよう」という経営哲学もその一つです。
パタゴニア社では、就業時間に関係なくいい波があるならサーフィンに行ってもいいというカルチャーがあります。
同社ではただ単に、日中サーフィンに行くだけでなく「いい波が来たときにサーフィンに行くために、
やるべき仕事は効率的にする」という企業カルチャーが浸透しています。

また、アウトドアブランドの社員として働くにあたっては、
自分自身がアウトドアを思う存分楽しむことは仕事にもきっといい影響を及ぼすだろう、
というのはイメージしやすいところですよね。
仕事が人生に、そしてプライベートが仕事にいい影響を及ぼし合っている好事例ではないでしょうか。

3-2.出張もブレジャーでウェルビーイングを実現

また、仕事に楽しみを見出す行動や考え方も、ウェルビーイングな在り方につながっていくでしょう。
例えば、欧米を中心に出張の日程に休暇を組み込み、出張とレジャーを楽しむブレジャーもその一つ。
ブレジャー(BLEISURE)とは、BusinessとLeisureを組み合わせた言葉です。

出張先で仕事の合間にブレジャーで休暇を楽しんだり、いつもとは違った場所に身を置いて知見を広げることは、
心の充足につながります。
また、仕事に対するモチベーションアップなども期待できるでしょう。

日本ではまだまだ一般的にはなっていないものの、ウェルビーイングを実現するための手段として、
ブレジャーは一つのヒントになるかもしれません。

関連記事:
新しい海外出張の形「ブレジャー(BLEISURE)」の基礎知識
海外出張でブレジャーを成功させるポイント

3-3.ワーケーションで叶えるウェルビーイング

また、好きな場所で旅をしながら働くワーケーションも、ウェルビーイングを実現するアプローチとして注目されています。

長野県の野沢温泉村では、2022年に地元観光協会と東日本旅客鉄道株式会社長野支社、
株式会社日本総合研究所で「野沢温泉村のウェルビーイングビレッジ推進における連携協定」を締結。
ウィンタースポーツを楽しみながら仕事ができるワーケーション環境の整備に力を入れています。

実際、連携協定を締結する前に行った実証実験では、スポーツワーケーションをした人のウェルビーイングが高まったという結果も出ているそうです。

参考:
Forbes JAPAN「ウェルビーイング効果が実証。野沢温泉村「スポーツワーケーション」の魅力」
日本総研「スポーツによるフロー状態の実現と創造性の向上~2021野沢温泉スノーワーケーション実証結果を踏まえて~」

関連記事:
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ワーケーション導入事例で見えた!地方との交流で活性化するビジネス
ワーケーションで海外出張のパフォーマンスもUP!?新しい働き方とは

まとめ:ウェルビーイングとワークライフバランスの違いを理解してより良い働き方を実現しよう

仕事と生活との調和を考えるワークライフバランスとウェルビーイング。2つの違いは、
ウェルビーイング(幸福)な状態を叶えるための一つの手段が、
ワークライフバランスの実現であると考えるとわかりやすいかもしれません。

ウェルビーイングな状態を叶えるアプローチは、ワークライフバランスの実現だけでなく
ワーケーションやブレジャーなど様々な方法があります。
経営にも、そして働き手にとっても大きなメリットのあるウェルビーイングの実現。
ぜひ、ワークライフバランスの枠だけではなく、幅広い視点で改めて考えてみてはいかがでしょうか?

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